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舟を編む

話題の村上春樹の新作小説『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』ですが、
かなり売れているみたいだけど、ボクは読書が嫌いなので読んでません。
なんだかライトノベルみたいなタイトルで、面白くなさそうだと思ってましたが、
発売後にその感想や断片的な内容を聞くと、ちょっと面白そうに思えます。
読書はしたくないので、是非映画化してしてほしいところですが、
村上春樹の小説は、映像化が難しいのか、あまり映画の原作になりませんよね。
そのハードルを乗り越えて映画化された『ノルウェイの森』もかなりイマイチだったし…。
やはり評価が高い原作小説が、評価が高い映画になるとは限らないってことかな。

ということで、今日は評価が高い小説を原作にした映画の感想です。

舟を編む
舟を編む

2013年4月13日公開。
2012年本屋大賞で第1位を獲得した三浦しをんの同名小説を映画化。

玄武書房に勤務する馬締光也(松田龍平)は職場の営業部では変人扱いされていたが、言葉に対する並外れた感性を見込まれ辞書編集部に配属される。新しい辞書「大渡海」の編さんに従事するのは、現代語に強いチャラ男・西岡正志(オダギリジョー)など個性の強いメンツばかり。仲間と共に20数万語に及ぶ言葉の海と格闘するある日、馬締は下宿の大家の孫娘・林香具矢(宮崎あおい)に一目ぼれし……。(シネマトゥデイより)



2012年の本屋大賞の第一位(大賞)を受賞した小説を原作とした作品です。
ボクは本を読む習慣がないので、映画賞なんかに比べると文芸賞は縁遠く感じますが、
本屋大賞はだけはノーベル文学賞並に注目しています。
2008年の『ゴールデンスランバー』、2009年の『告白』、2010年の『天地明察』と、
毎年大賞作品は映画化されているのですが、この映画がどれも素晴らしく、
その公開年の邦画ベスト5には確実に入る名作ばかりで、
映画ファンとしてもとても信頼できる文芸賞です。
(それに比べたら直木賞や芥川賞の映画化作品なんて…。)
ちなみに2011年の大賞は『謎解きはディナーのあとで』で、
もちろん映画になりますが、公開は8月とちょっと先になりそうです。
テレビドラマの劇場版としての映画化なので、少し懸念もあるけど楽しみにしています。

…で、2011年の大賞に先んじて映画化されたのが2012年の大賞が原作の本作です。
正直なところ、本屋大賞は信頼していると言いつつも、ちょっと不安な作品でした。
本屋大賞は全国の書店員さんの投票で決まるのですが、
本作は書籍を出版するという書店員さんが好きそうな内容なので…。
映画関係者が選ぶアカデミー賞では、映画製作絡みの物語が強く、
近年では『アーティスト』や『アルゴ』がオスカーを受賞していますが、
それと同じで、出版関係者や書店関係者にしかウケない内容ではないかと…。
しかも過去最高得点で、尋常ではない大差で2位を降しているのが懸念を煽ります。
予告編でもけっこう地味な印象を受けたので、本当は観に行くつもりはありませんでした。
でも本作が公開された先週末は、日曜日がTOHOシネマズデーという絶好の日程なのに、
他にロクな映画が公開されず、消去法で本作を観に行くことになりました。
なので全く期待しないで観たのですが、これがビックリ、
今年観た邦画の中では1、2を争う素晴らしい作品じゃないですか。
うーん、改めて本屋大賞おそるべしです。

ぶっちゃけ、人間ドラマとしては特筆すべきことはないというか、
むしろかなり弱く、特に感動したりもしませんでした。
でも出版社の辞書作りの現場という舞台での話は珍しく(むしろ史上初かも?)、
職業ものドラマとしてとても興味深く楽しむことができました。
以前から、特殊な書籍である辞書がどのように製作されているのか疑問に思ってました。
…というのは嘘で、そんな疑問も持たずに、ただ何となく使っていましたが、
その出版までの舞台裏には、他の書籍とは全く違う、興味深い事柄で溢れていました。
今思えば、今までなぜ辞書のことを疑問に思わなかったのか不思議なくらい、
辞書製作は珍妙かつ刺激的な題材です。

出版社・玄武書房の辞書編集部は新しい辞書を作ろうとしていましたが、
ベテラン編集者が定年することになり、その代わりとして営業部の馬締が異動してきます。
馬締は社交性が著しく低く、営業部のお荷物でしたが、
大学院で言語学を専攻しており、語彙力など言葉のセンスは光るものがあります。
はじめから彼が営業部にいるのは配属ミスも甚だしいですね。
観客はそんな辞書作り初心者の彼を通して、辞書がどのように作られていくのか、
企画段階から知ることができるように演出されており、とても勉強になります。

玄武書房が作る新しい辞書「大渡海」は、大辞林や広辞苑のような分厚い国語辞典です。
(あんなにデカイのに中型国語辞典というらしいですね。)
見出し語は24万語で、「今を生きる辞書」という編集方針で、
現代語など新しい言葉も収録するつもりです。
面白いのは「ら抜き言葉」や「憮然」の間違った意味など、
日本語の乱れも積極的に載せることでしょう。
ボクは関西弁を話すので、方言として「ら抜き言葉」は普通に使いますが、
それを間違いとされる風潮には不快感を覚えていました。
言葉は生き物なので、明治に整備された標準語から変化して当然だし、
それを誤用と明記しながらも積極的に辞書に載せるのはいいことです。
ただ一時の流行りである若者言葉まで載せるのはどうかと思いますね。
本作の物語は1995年から始めるので「チョベリグ」なんて俗語がピックアップされますが、
ゼロ年代にはすでに死語だったし、中型国語辞典は一度買ったら十数年は使うのに、
死語ばかり載っているような辞書はなんか嫌ですよね…。
(ボクは広辞苑を持っていますが、第三版なので30年以上前のものです。)
まぁ「大渡海」はそれから出版までに15年もかかっているので、
「チョベリグ」はおそらく見出し語から消されたはずです。

まず辞書作りで驚いたのは、語釈を全て書き換えるということです。
玄武書房でも辞書はすでにあり、辞書編集部はその改訂作業が主な仕事でしたが、
新しい辞書を作るのに、その古い辞書から内容を使いまわすことはしないみたいで、
20万を超える見出し語に全て新しい語釈を書き下ろすんですよね。
その多くは大学の教授や専門家に外注するみたいですが、
無駄とも思えるくらい経費と時間がかかりますね…。
そのわりに、見出し語の選定では大辞林と広辞苑を叩き台にします。
語釈はオリジナルに拘るのに、見出し語選びは他の出版社の辞書をパクるんですね。
まぁその両巨頭に勝つためには、その全ての見出し語を網羅するのが手っ取り早いかな?
と言っても、中型国語辞典の寡占市場に新規参入して勝てるとは思えませんが…。
両巨頭からパクる見出し語の他に、その辞書の特徴を出すために、
どちらにも載っていない新しい言葉も載せるのですが、それが現代語です。
それは監修者や編集者が自分で探すんですよね。
用例採集カードというものがあって、日常生活で初めて聞いた言葉をそこにメモします。
ボクも語彙力を付けようと思って、1年前から似たようなことをしていましたが、
ホントに世の中には知らない言葉が沢山あります。
「語釈」なんて言葉も、本作を観てはじめて知りました。
でも編集部には4~5人しかいないので、採集できる言葉ってかなり偏りそうですよね。
監修者の先生は、用例採集のためだけに場違いな合コンに参加したりと、
涙ぐましい努力をしているみたいでしたが…。

大辞林は企画から出版までに28年もかかったみたいです。
企画が持ち上がったのは1960年くらいのようだから、
パソコンも普及していないし、見出し語の管理とか想像を絶する大変さでしょうね。
(それ以前からある広辞苑は、一体どうやって作られたのか…?)
それに比べれば大渡海は大辞林を叩き台にもできるし、楽に作れそうですが、
それでも出版までに10年以上はかかる予定です。
玄武書房も「辞書は金を喰うばかりで生み出さない」と、
そんな気の長い辞書作りを中止する動きが…。
電子辞書も登場し、紙の辞書の存在意義も問われはじめる時期です。
ボクは電子辞書は持ってませんが、最近はネットで言葉の意味を調べることも多いです。
とはいえネットにアクセスするのも面倒な時は、紙の辞書の方が早いです。
でも重たい広辞苑をわざわざ引っ張り出してくることは滅多にないですね。
見出し語が多すぎるのも逆に調べにくいし、ボク程度が調べる言葉なんて、
学生時代から使っている小型辞書(新明解国語辞典)でも十分間に合います。
中止の噂を受け、辞書編集部は語釈の外注を前倒しし、辞書出版を既成事実化します。
それにより中止しにくくなった上層部は、2つの条件を出して続行を認めるのですが、
そのひとつが「辞典と名の付く出版物は全て辞書編集部で作れ」というものです。
ギャル向けファッション辞典から、子ども向け怪獣時点まで、
すべて3人しかいない辞書編集部に作るように命じるなんて無茶苦茶ですね。
「自分の給料分くらい稼げ」って理屈だけど、逆に大渡海の完成が遅れて、
無駄な経費がかかるだけのような気がします。
でも馬締さんが作った怪獣辞典なんて、ちょっと読んでみたいかも…。

時代は跳んで2008年、辞書編集部に新しく女性編集者が異動してきます。
彼女はもともと雑誌編集部でファッション誌を作っていたみたいですが、
こんな窓際部署に異動させられるなんて、何をやらかしたのやら…?
観客はベテランになった馬締主任ではなく、彼女の視点を通して、
辞書作り終盤の行程を知れるようになっており、とても上手い演出です。
終盤の行程で特に感心したのは、「紙選び」です。
大きな辞書なので、なるべく薄く、軽くなくてはいけませんが、
馬締主任が特に拘ったのは「滑(ぬめ)り感」です。
紙が指に吸いつき、一枚一枚が引っ付かずにめくれるような感覚だそうで、
帰宅してから試したら、たしかに辞書のページって独特の手触りで、気持ちいいですね。
ボクのウチには10年以上前の辞書しかないけど、
今の辞書は紙ももっと進化して、気持ちいいんでしょうね。
装丁(外箱)を選ぶのも仕事ですが、辞書の装丁って邪魔じゃないですか?
いちいち装丁に仕舞っていたら、ちょっと調べ物するにもひと手間かかるし、
ウチの広辞苑なんて、装丁に出し入れする時の摩擦で表紙がボロボロです。
もしかして、ラッピング感覚で買ったらすぐに処分するものなの?

2009年には来年3月に出版されることが決定し、校正作業が始まります。
新入りや嘱託が入ってもまだ5人しかいない辞書編集部は、
大学生アルバイトなどを大量に動員し、校正作業を進めます。
はじめからそんな大人数で作れば数年で出版できそうなのに…。
雑誌だと一稿しか校正しないそうですが、辞書は五稿まで行います。
辞書の性質上「間違いは絶対に許されない」からだそうですが、
間違いは無いに越したことはないけど、そこまで気にする人もいないんじゃないかな?
新明解国語辞典なんて、(間違いとは言えないけど)けっこう無茶苦茶な語釈でしたが、
それが話題になって、個性として認められ、人気が出たりしましたよね。
五稿校正中、アルバイトが「血潮」という言葉が見出し語から抜けているのを発見。
馬締主任は「穴の空いた辞書は世に送り出せない」と、
他に見出し語の抜けがないか、全員に泊り込みで24万語全ての照会するように命じます。
出版まで間がないのに、その程度の漏れは第二版で修正すればいいのに、マジメですね。
もともと全ての見出し語も編集部の独断と偏見で選定してるんだし、
「あの言葉がない」なんて起こる客はいないと思うんだけど…。
それに出版後もすぐに改訂作業が始まるみたいですしね。

と、辞書の製作工程は工場見学的な面白さがあったものの、
人間ドラマはかなりイマイチで、この程度ならない方がいいと思ったところも…。
まず、辞書編集部の先輩社員の西岡ですが、彼は馬締とは真逆の性格で、
このデコボココンビの絡みはなかなか面白く、けっこう笑えました。
そんな2人の友情をドラマの中心に据えていてくれたらもっと面白かったはずですが、
しかし中盤、件の辞書作り中止の交換条件で、西岡が宣伝部に異動になり、
そこから2人の絡みはめっきりなくなってしまい…。
終盤は馬締と監修者の松本先生との関係が中心になりますが、
序盤から中盤にかけて、松本先生との絡みはほとんど描かれていないので、
それをオチに持ってこられても、全くカタルシスがなく、感動もありません。
余談ですけど、作中で「右」という言葉の語釈が話題になりますが、
馬締の「西を向いた時、北に当たる方」というのは名語釈だと思ったけど、
実際に採用された松本先生の「数字の10のゼロの方」という語釈は、
馬締の語釈に比べてもイマイチじゃないですか?

一方で馬締の下宿先の大家の孫娘で、後に妻となる香具矢とのロマンスも描かれますが、
コメディ要素として真面目な馬締に好きな人が出来るという展開は必要だったものの、
ロマンスとして大きく扱う必要はなかったように思えます。
香具矢は女だてらに板前を目指しており、そのことを悩んだりもしますが、
特に壁にぶつかったりもせず、物語の本筋に絡むような設定でもないので、
そんな彼女の背景は別になくても不都合はないです。
上映時間が133分と少々長すぎるので、不必要なところは切って、
もっとテンポよくすると、もっと面白くなったように思います。
まぁこのままでも今年屈指の邦画であることは間違いないですが…。

先日発表されたばかりの最新の本屋大賞『海賊とよばれた男』も映画化されるのかな?
出光の創設者をモデルにした経済小説らしいですが、映画化してもヒットしそうにないし、
大手の映画会社が喰いつきそうな原作ではないですよね。
個人的にはそこそこ面白そうだとも思うのですが…。

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