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ヒッチコック

公開を待ち望むドリームワークスのアニメ映画『不思議の国のガーディアンズ』ですが、
やっぱり日本では劇場公開されないような雰囲気ですね…。
というのも、ドリームワークスは昨年までパラマウントと配給契約をしていましたが、
配給手数料で仲違いし、今年からは20世紀フォックスと5年間の配給契約を結んでいます。
ドリームワークスの最後のパラマウント配給作品が『不思議の国の…』だけど、
今更パラマウントが袂を分かったドリームワークスの作品を、
日本で律儀に配給してくれるとは思えません。
iTunes Storeでの配信のみだった『メガマインド』の例もあるし、
もしかしたらビデオスルーすらしてくれないんじゃないかと不安に思っています。
新しい配給先となった20世紀フォックスのドリームワークス第一弾は
『ザ・クルーズ(原題)』という作品で、現在全米公開中ですが、
20世紀フォックスはアニメやコメディ映画の日本での劇場公開に厳しい配給会社なので、
今後ドリームワークス作品が日本の映画館で観られる機会が減りそうな予感です。

ということで、今日はパラマウント映画を題材にした20世紀フォックス映画の感想です。
なぜパラマウントが配給しないのか不思議ですが、あまりよく描かれていないからかな?

ヒッチコック
Hitchcock.jpg

2013年4月5日日本公開。
アルフレッド・ヒッチコック監督の知られざる素顔に迫る伝記ドラマ。

1959年、作品の高評価とは裏腹に監督としてはアカデミー賞に縁遠かったアルフレッド・ヒッチコック(アンソニー・ホプキンス)は、後にサスペンス映画の金字塔と称される『サイコ』の製作に着手。しかし独創的かつ奇抜であるがゆえに資金繰りは難航し、数々の困難に見舞われてしまう。さらに、常に彼を支え続けてきた最大の理解者である妻アルマ(ヘレン・ミレン)との関係までほころびが生じてきて……。(シネマトゥデイより)



『サイコ』だけに最高!
…というつまらない洒落を言いたくなるほど、本作はかなり面白い作品です。
ヒッチコック監督の1960年の傑作サイコスリラー『サイコ』の製作秘話的な内容ですが、
『サイコ』を観たことがあり、映画に興味がある人ならとても楽しめるはず。
反面、『サイコ』を観たことがない人は、面白さ7割減なので観る価値ないです。
ボクはヒッチコック映画を2本しか観たことがないのですが、
そのうち一本が運良く『サイコ』だったので、本作を堪能することができました。
本作を観るのには『サイコ』の鑑賞はマストですが、
できれば『めまい』と『北北西に進路を取れ』も鑑賞しておいた方がいいかも。
ボクは『サイコ』と『鳥』しか観たことがなかったのですが、
その2本も知っていれば、本作をより楽しめたような気がしました。

作中で『サイコ』の前作『北北西に進路を取れ』が46本目だと言っていたし、
『サイコ』以後には6本の映画を撮ったそうなので、ヒッチコック映画は全53本かな。
その中には傑作と呼ばれるものも多いですが、2本しか知らないボクが、
ヒッチコック自身に興味があるかどうかは言わずもがなでしょう。
なので本作もアルフレッド・ヒッチコックという人物の伝記的な側面が強ければ、
たぶん楽しめなかったでしょうが、本作は『北北西に進路を取れ』の公開日で幕開けし、
『サイコ』の公開日で幕を閉じるという、完全に『サイコ』製作期間だけの物語です。
有名なシャワーシーンはどのように撮られたのか、どのようにキャスティングされたのか、
どのように配給され、どのように公開されたのかと、『サイコ』製作の舞台裏が描かれ、
映画の製作過程が見れて、映画ファンのボクとしては堪らない内容です。
もちろん、モノクロ映画である『サイコ』当時と現在の映画製作方法とは違うはずですが、
そんな違いを知ることで、今の映画についても顧みることが出来、とても興味深いです。

その『サイコ』製作秘話と並行して、その時のヒッチコックの私生活のこと、
倦怠期だった妻アルマとの屈折した関係が描かれているのですが、
これは正直、あまり興味深いものでもありませんでした。
どうもアルマの行動が納得できず、ドラマとして違和感を覚えます。
それについても後に書きますが、この私生活パートがフィクションなのは間違いなく、
ノン・フィクションがベースになっている製作秘話に比べても、興味が湧きにくいです。
まぁボクがヒッチコックの人物自体にさほど興味がないのも影響してますが…。

1959年、『北北西に進路を取れ』を公開したヒッチコックは、次の題材を探していました。
『アンネの日記』や『カジノ・ロワイヤル』の原作の映画化を勧められますが、
彼が目を付けたのはロバート・ブロックの小説『サイコ』でした。
ボクは映画『サイコ』は鑑賞しましたが、概要はよく知らなかったので、
てっきりオリジナルだと思ってましたが、原作があったことも意外でした。
公開前のネタバレを懸念したヒッチコックが原作小説を買い占めたそうなので、
その当時はそれほど売れている小説でもなかったのでしょうね。
それにその原作小説が実際の事件を基にしていたのも初めて知りました。
なんでも『サイコ』のサイコキラーであるノーマンは、
エド・ケヴィンという実在の連続殺人犯がモデルだそうです。
ヒッチコックは『サイコ』製作中、たびたびエドの悪夢や幻覚を見ます。
それだけ彼が原作に魅了されたということでしょうが、
このあたりの演出はちょっと中途半端で、彼の心境をいまいち理解しきれません。
エドがモデルであるノーマンは、極度のマザコンですが、
『キネマ旬報』によると、どうやらヒッチコックもそうだったみたいなので、
エドに奇妙なシンパシーを感じて幻覚を見るようになったのかもと推測できますが、
それならばヒッチコックがマザコンであるという描写は最低限必要でした。
それとも、そんなことは常識なので、今更描く必要もなかったということなのかな?

原作を読み、「これはいける!」と思ったヒッチコックですが、
次回作を製作・配給することになっていたパラマウントは、
「マザコンで女装癖の殺人鬼の話なんて誰が観たいんだ?」と懐疑的で、
「MGMが配給した『北北西に…』のような映画を撮ってくれ」と出資を拒みます。
妻アルマからも「安上がりで悪趣味なホラー映画にしかならない」と言われ、
事務員からも「ヒッチコック映画らしくない原作」と否定的な意見が続出です。
ボクは「サスペンスの帝王」という異名を持つヒッチコックだけに、
この手の映画が多い監督だと思ってたけど、意外にも違うんですね。
『サイコ』が傑作たる所以はやはり映像による演出方法にあると思うので、
ボクもこの原作だけではたぶん面白くないと感じるような気がしますが、
ヒッチコックくらいの天才だと、原作を読んだ時の想像力も凡人とは違うんでしょうね。
周りから反対されながらも、「リスクがあるから映画作りは楽しい」と言い張り、
ヒッチコックは自己資金で『サイコ』を撮りはじめてしまいます。
製作費は80万ドルの予定で、この程度だと当時でも低予算の部類に入るそうですが、
彼くらいの人気監督なら、それくらいの金額、ポケットマネーでポンと払えそうですが、
そうでもないようで、資金調達のため家まで売ってしまうんですよね。
パラマウントは配給のみをすることになり、利益の40%を監督に支払うようですが、
つまり配給手数料を60%も取るということなのでしょうか?
(ドリームワークスとは配給手数料8%で揉めて仲違いしたのに…。)
それならいくら人気監督でも、なかなか稼げないわけです。

撮影に入る前にまずはキャスティングですが、
主人公の殺人鬼ノーマン役は、二面性が必要だということで、
ゲイ疑惑のあるアンソニー・パーキンスを抜擢します。
彼はゲイ疑惑を否定しているのですが、何とも突飛なキャスティング方法ですね。
次にヒロインであるマリオンのキャスティングですが、
ヒッチコックはお気に入り女優のグレイス・ケリーを希望します。
彼女ならどんな役でも観客から受け入れられるだろうと考えたようです。
ヒッチコックも『サイコ』の内容に自信満々な割に、けっこうあざといことを考えますね。
しかし彼女はどこかの王族と結婚して女優業を引退していたようで…。
その後、妻アルマの鶴の一声で『黒い罠』の演技派女優ジャネット・リーに決まります。
ヒッチコックはブロンドの女優が好きなんだそうですね。
本作でリーを演じるのは、スカーレット・ヨハンソンですが、本物よりも美人です。
『サイコ』でリーが演じるマリオンは、物語中盤で殺されます。
ヒロインが中盤で死んでしまう展開が画期的だった映画ですが、
妻アルマは「中盤ではなく、開始30分までに殺せ」と夫にアドバイスしましたが、
実際にマリオンが殺されるシーンは、開始50分弱で、ちょうど中盤だったようです。

それはそうと、マリオンの後を引き継いで中盤以降のヒロインになるのが、
マリオンの妹ライラで、これもかなり重要な役どころのはずですが、
ヒッチコックは「契約があと一回残っている」という安易な理由で、
ヴェラ・マイルズをキャスティングしてしまいます。
しかも彼女は『めまい』の主演に大抜擢されながら、妊娠して降板した因縁があり、
彼女はヒッチコックに対していい感情を持っていないようです。
彼にとって勝負の作品なのに、そんな女優を起用するなんてリスクが高すぎですよね。
でも低予算だから、キャスティングにあまり拘れなかったのかもしれませんね。
本作では触れられませんが、なんでもマリオンの同僚役はヒッチコックの娘だそうです。
単なる縁故起用なのか、金がないから身内を使うしかなかったのか…。
ヒッチコックは、マリオンの恋人サム役も、「大根で不安だ」と言っているし、
キャスティングに関しては、ノーマン役以外思うようにはいかなかったみたいですね。

スッタフ、演者に内容を口外しないと宣誓させるなど、
厳戒態勢の中、撮影をスタートさせたヒッチコック。
その頃、妻のアルマは男友達の脚本家ウィットの脚本の手伝いをします。
ウィットの海辺の別荘で二人きりで脚本を書いたりするのですが、
当然ヒッチコックは妻がウィットと不倫しているのではないかと疑います。
前述のどうしても納得できないアルマの行動がコレです。
ヒッチコックのこれまでの作品も、編集技師で脚本家でもあるアルマの助力により、
傑作になったものも少なくないようですが、自己出資で家を失うかもしれない大博打で、
他の仕事に手を貸すなんて絶対におかしいです。
彼女曰く「いつも夫の陰に隠れてしまう、ヒッチコック映画以外の仕事もしたい」
とのことですが、それをするべきはこのタイミングではないだろうと…。
それに彼女は、ウィットが別荘に他の女を連れ込んでいると知り、手伝うのをやめますが、
やっぱり「ヒッチコック映画以外の仕事もしたい」なんてのは口実で、
あわよくばウィットと浮気したいと思っていたのかと、軽蔑します。

ヒッチコックも妻の動向が気になって撮影に気が入りません。
逆にその苛立ちが功を奏してシャワーシーンでは狂気に満ちた演技指導が出来ましたが…。
まぁ『サイコ』の仕事を全く手伝っていないわけでもなく、
ノークレジットですが脚本は彼女がかなり手直ししているようだし、
シャワーシーンの後、ヒッチコックが高熱で倒れたら、代わりに彼女がメガホンを取り、
ノーマンによる探偵殺害シーンを撮ったりもしました。
あの探偵殺害シーンは、当時としては画期的な撮影方法が使われていることで有名ですが、
まさかそのシーンが妻アルマの手によるものだったとは驚きですね。
とはいえ、そのシーンはシャワーシーンなどに比べても特に印象に残ってないですが…。

私生活の問題に苦しみながらも、なんとか『サイコ』を形にしたヒッチコックですが、
パラマウントの関係者試写会での評価は最悪で…。
「ヒッチコック劇場(テレビ番組)で2週に分けて放送すれば?」とまで言われ…。
『サイコ』を前後編に分けてしまったら、ヒロインが中盤で死ぬ展開も活かされないし、
どうしようもない凡作に成り下がるでしょうね。
しかし、ウィットの脚本の手伝いを降りた妻アルマが、再編集を申し出て、
彼女の手腕で駄作だった内容が、みるみる面白いものに変わっていきます。
特にあのシャワーシーンに、あのお馴染みのスコアを付けたのは大きな変化です。
とはいえ、はじめから彼女が『サイコ』に専念していれば、再編集なんて手間も必要なく、
ヒッチコックも映画製作に集中して取り組めていたはずなので、
『サイコ』における彼女の功罪は、罪の方が大きいように思えます。
もちろん本作の私生活シーンはフィクションなので、あくまで作中の彼女のことですけど。

アルマの手腕により、傑作に生まれ変わった『サイコ』ですが、
公開されるまでにはもうひとつ大きな壁があります。
それが映画倫理委員会の検閲です。
当時の映倫の検閲はかなり厳しかったみたいで、やれ裸が映っちゃダメだとか、
肌に包丁が刺さっちゃダメだとか、注文が多いです。
面白いのは便器が映るのもアメリカ映画史上前例がないので問題視されたことです。
映画なんて食事しながら観るわけじゃないのに、笑っちゃいますね。
ヒッチコックは「便器のシーンは絶対必要だ」と譲りませんが、
たしかに『サイコ』の劇中では、ノーマンのモーテルを訪れた妹ライラと恋人サムが、
便器の中から行方不明のマリオンの手掛かりを見つけるシーンがありますが、
絶対必要かと言われたら、そんなこともないシーンだったような気がします。
ヒッチコックも必要かどうかは問題ではなく、史上初ということが重要なのでしょうね。

映倫も厳しいが、女優も厳しいです。
現在のように「作品のためなら脱ぐ」という風潮でもなかったみたいで、
マリオン演じるリーも「夫と子どもがいるので…」と裸NGのようです。
映倫や女優の都合で、かなり制約のある中で映画を撮らなければなりませんが、
制約があるとそれを克服するための知恵が出るものです。
エロくもグロくもないのに、『サイコ』のシャワーシーンが未だに名シーンなのは、
そんな制約を掻い潜るための知恵による、素晴らしい演出があったからでしょう。
今はレイティングが高くなることを我慢すれば、大抵のエログロは撮れるし、
その点では知恵を使って工夫しなくなったのは、あまりいいことではないですね。
とはいえ、包丁が空振りしてるのは明らかだし、体に全く傷が付かないのも不自然で、
グロになれた現代人が観たら、当時の客ほど衝撃は受けることが出来ません。
ボクも数年前に鑑賞しているので、音楽やカット割りなど印象的ではあったものの、
全然怖いシーンだとは思いませんでしたから。
作中では公開初日に観に来た紳士淑女が、件のシーンで大絶叫していますが、
ボクではもうそんな衝撃を味わうことが出来ないと思うと、その無垢さが羨ましくも…。

映倫も検閲をおだててパスさせたヒッチコックですが、
パラマウントはとりあえず2館でしか配給しないと言ってきます。
クチコミで何とかヒットさせ、拡大公開を狙うヒッチコックは、
客がより楽しめるように、上映マニュアルを作り、上映館に徹底させます。
主に「内容の口外無用」と「途中入場の禁止」のアナウンスです。
特に入場規制の方は、入替制が一般的ではなかった当時としては革新的だったでしょうね。
入替制が当たり前の今でも、途中入場の禁止までする映画館はほとんどないです。
こんな制約は、客が楽しめるためでもあるけど、客の興味を煽る効果もありますよね。
「結末は誰にも喋らないでください」なんて煽られると、観てみたくなりますもんね。
もうひとつ興味深かったマニュアルは、上映終了後、30秒間明りを付けないことです。
それにより、作品が客に強く印象付けられるそうなのですが、
それが本当ならば、映画館は全ての映画で是非やるべきだと思います。
まぁ最近はエンドロールが始まった途端に席を立つ民度の低い奴が多いので、
あまり効果は期待できないかもしれませんが…。
ちなみに本作には、そんな民度の低い奴は観れないシーンがエンドロール後にあります。
まぁたいしたシーンでもありませんが…。

4月5日(金)に公開されたのは映画は本作だけなので、
本作が新年度の公開第一号作品だと思いますが、
かなりの佳作で、本年度は何だか幸先がいい気がします。

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