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ジャンゴ 繋がれざる者

『フライト』の感想記事に続いて、第85回アカデミー賞の諸部門の受賞結果についてです。
今回は助演男優賞の受賞結果の感想になりますが、
この部門は演技部門の中では最も予想が難しかったと思います。
ボクは『リンカーン』のトミー・リー・ジョーンズを予想しましたが、見事に外し、
オスカーは『ジャンゴ 繋がれざる者』のクリストフ・ヴァルツになりました。
予想した当時はノミネート5作品のうち4作が日本公開前で、ボクも未鑑賞だったので、
予想すること自体に無理がありましたが、消去法でジョーンズを選びました。
ヴァルツを消去したのは、ゴールデングローブ賞の受賞はオスカーで不利に働くと
ボクが思い込んでいたからですが、蓋を開けてみれば、
今年はほとんどの部門がゴールデングローブ賞からスライド受賞していますね。

助演男優賞の他、作品賞など5部門にノミネートされた『ジャンゴ』ですが、
娯楽大作だしガス抜き的な作品だと思っていたので、1部門も獲らないと踏んでました。
ちょうど『ジャンゴ』の監督、タランティーノの前作『イングロリアス・バスターズ』が、
8部門でノミネートされた時の第82回から、作品賞が10作品まで選べるようになり、
ガス抜き的な作品がノミネートし易くなりましたが、本作も前作同様その手の作品かと…。
しかし思い返してみれば、前作でもヴァルツがオスカー助演男優賞を獲っており、
今思えばこれ以上ない大本命でしたね。
それに実際に観てみると、全然ガス抜き的な作品ではなく、
一歩間違えば作品賞も狙えるほどの快作だったと思います。
内容的にちょうど作品賞本命だった『リンカーン』と裏表になるので、
票が割れて、双方ともオスカーに届かなかったのかも?

ということで、オスカー主演男優賞および脚本賞受賞作の感想です。

ジャンゴ 繋がれざる者
Django Unchained

2013年3月1日日本公開。
クエンティン・タランティーノが監督・脚本を手がけるウェスタン。

1858年、アメリカ南部。奴隷ジャンゴ(ジェイミー・フォックス)は、賞金稼ぎのキング・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)の手によって自由の身となる。やがて2人は協力し、次々とお尋ね者たちを取り押さえることに成功する。その後、奴隷市場で離れ離れとなってしまった妻を捜す目的のあったジャンゴは、農園の領主カルヴィン・キャンディ(レオナルド・ディカプリオ)のところに妻がいることを突き止め……。(シネマトゥデイより)



ただただ単純に面白かったです。
ジャンル映画フリークのタランティーノ監督らしい作品で、
マカロニ・ウェスタンとブラックスプロイテーションのオマージュで、
全編に亘り彼のコダワリが感じられ見どころ満載です。
ボクはジャンル映画に精通しているわけではないので、
そのシーンが何のオマージュかなんて語ることは出来ませんが、
そんなコダワリを汲み取れなくても、娯楽的なノンストップ・アクション・コメディで、
3時間を超える上映時間がアッという間に感じられる至福の時でした。

ただ本作についてよく語られるのは、そんな内容の楽しさではなく、
南北戦争2年前のミシシッピ州やテネシー州などアメリカ南部を舞台に選び、
アメリカ史の恥部、奴隷制度を題材にした西部劇(いや、南部劇?)ということでしょう。
劇中ではアフリカ系の蔑称であるNワードが連呼され、その回数は100を超えるとか…。
主人公ジャンゴも黒人奴隷であり、黒人奴隷は物のように白人に売り買いされ、
奴隷デスマッチ「マンディンゴ」や、犬に食わせる処刑、奴隷拷問用の灼熱地獄など、
黒人奴隷がおよそ人として扱われない過激な描写が満載です。
それについては黒人差別にうるさいアフリカ系の監督スパイク・リーも、
「我々の先祖に対する冒涜、奴隷制はホロコーストと同じだ!」と苦言を呈し、
ブラザーな観客にボイコットを呼びかけるなんて騒動も…。
白人の批評家からも「暴力的すぎる」との批判も少なからずあったようです。
(批判にはコネチカット州の小学校銃乱射事件の影響もあります。)

その一方で、主演のジェイミー・フォックスを筆頭に、
通常映画では忌避されがちな奴隷制時代の残酷な実態をよくぞ描いてくれたと、
本作を称賛するアフリカ系アメリカ人も多数います。
合法的に白人に虐げられる黒人奴隷が、賞金稼ぎとなり合法的に白人を次々殺す物語で、
KKK紛いの覆面集団を撃ち殺したり、黒人奴隷に鞭打ちする白人を逆に鞭で叩き殺したりと、
アフリカ系にとっては留飲の下がるブラックスプロイテーションな描写も満載で、
上映された劇場では彼らの歓声が上がったとか上がらないとか…。
あまり人種差別を受けた経験がない日本人からすると、
本作を観たアフリカ系の人の気持ちをちゃんと理解するのは難しいですが、
想像するに、この内容であればスパイク・リーが懸念するほどのことはないかと。
Nワードについても、歴史的文脈で使ってるんなら仕方ないし、
むしろこの内容で使われてないなら不自然極まりないです。
(まだ観てないけど『リンカーン』はどうなってるのかな?)
因縁付けるのは結構だが、観もしないで批判するのは問題外です。

黒人にとっての奴隷制はユダヤ人にとってのホロコーストというのも否定はしませんが、
タランティーノ監督の前作『イングロリアス・バスターズ』はまさにそれで、
ユダヤ系アメリカ人がナチをぶち殺しまくるという内容で、
黒人奴隷が白人を殺しまくる本作も、メンタル的には大差はないと思います。
彼はただ虐げられる者の復讐劇が好きなだけで、その題材に前回はナチズムを、
今回は南北戦争前の奴隷制を選んだだけで、彼自身は奴隷解放を描く意図はないかと。
まぁ彼は南部出身らしいので、奴隷制に全く興味がないわけはないでしょうが。
ただ、デリケートな事柄である奴隷制を描くにあたっては、
タランティーノ監督といえども配慮せざるを得なかったのか、
『イングロリアス~』に比べて、視覚的な描写は柔らかくなっていると思います。
それでも前作よりも論争が激しく思えるのは、やはりアメリカ人にとって、
黒人奴隷の歴史はナチの歴史よりも過敏に反応してしまうからでしょうね。

内容の配慮は、何もアフリカ系に対してだけではなく、
むしろ白人に対して行われているように思われます。
灼熱地獄もそうだけど、黒人奴隷に対する殺しの描写は、
奴隷同士戦わせて目玉を抉り取ったり、生きたまま猛犬に喰わせたりとエグいですが、
ジャンゴは白人を殺すも、ほぼピストルでズドンッで終わりです。
マンディンゴの愛好家で残虐非道な白人領主ムッシュ・キャンディは、
本作における白人の主要悪役ですが、彼は黒人のジャンゴには殺されず、
ドイツ人の賞金稼ぎシュルツに撃ち殺されます。
つまりどういうわけか、黒人奴隷として最も憎むべき敵役にも関わらず、
彼を殺したのは同じ白人だったということです。
そしてジャンゴにとっての本作最大のアンタゴニストは、
実は白人のキャンディなどではなく、同じ黒人奴隷のスティーブンでした。

スティーブンはキャンディによって特権を与えられた奴隷頭で、
黒人奴隷でありながら心は白人とでも言うべき、黒人奴隷差別主義者です。
奴隷制のもとに黒人を差別することが当たり前な白人が黒人差別することよりも、
同胞を売るに等しい黒人を差別する黒人の方が憎たらしいので、
スティーブンが本作のラスボス的存在なのは納得ですが、
結局は白人は白人を、黒人は黒人を殺すという構図になってるんですよね。
白人の観客にとっては黒人奴隷に殺されるのは気持ちいいものでもないだろうし、
白人がマジョリティである北米でヒットさせるならその配慮は必要ですし、
なによりオスカーを目指すなら、白人が大多数を占めるアカデミー会員に
気持ちよく観てもらう必要があるのでしょう。
タランティーノ監督がそんな姑息な計算をしているとは考えたくないけど…。

ストーリーは、黒人奴隷制を背景にしていること以外は、
王道とも言えるマカロニ・ウェスタンだと思います。
3時間、「これでもか!」ってくらいに盛り沢山な内容で、
あまり詳細な感想を書いていると記事一枚では足りそうもないし、
ボク程度の知識では、オマージュ満載の本作の本質的な魅力なんて語れません。
なので特に気になったところを一点だけ書いて終わりたいと思います。

やはり一番気になったのは、シュルツが死ぬ前の一連の行動です。
元歯医者のシュルツは、黒人奴隷のジャンゴを相棒にして賞金稼ぎをしますが、
ジャンゴの妻である黒人奴隷ブルームヒルダ(ヒルディ)を救出するため一肌脱ぎます。
グリーンビルの奴隷市場でヒルディがキャンディ・ランドの農場に売られたと知り、
領主のキャンディに接触するため、彼の趣味であるマンディンゴの愛好家を装い、
彼が所有する格闘用奴隷を購入するフリをして、ヒルディを買い取ろうと考えます。
ジャンゴはマンディンゴの目利き、黒い奴隷商人としてシュルツに同行しますが、
キャンディの執事である黒人奴隷スティーブンは、何気ない仕草から、
ジャンゴとヒルディが知り合いと見抜き、キャンディに告げ口。
キャンディを騙してヒルディを安く買い取る計画はご破算となり、
傷物で300ドルの価値しかないヒルディを1万2000ドルで買わざるを得なくなります。
当時の貨幣価値なので、1万2000ドルが高いのかどうかよくわかりませんでしたが、
キャンディに会う前に殺した駅馬車強盗バコールは7000ドルの懸賞金だったけど、
彼らはそれを難なく手に入れたような印象を受けたので、
バコール2人分以下の金額なんてすぐに稼げそうな気がしました。
なのにシュルツは、ヒルディに1万2000ドルも払わされたのがよほど悔しいのか、
契約成立の握手を求めるキャンディに敵意むき出しで喰ってかかり、
敵中にも拘らず、仕込み拳銃で射殺してしまいます。
当然すぐにキャンディの仲間に撃ち殺されますが、どう考えても無駄死にです。
その後、銃撃戦になってジャンゴやヒルディまで死にかけることになるし…。
とにかく騙す計画は失敗したもののお金で解決したんだし、
彼くらい頭がよければ、違う方法で報復してもよかったはずなのに…。
まぁたぶんドンパチが始まるキッカケが欲しかっただけで、
必ずしも理屈通りにいかないところも、マカロニ・ウェスタンらしいと言えますが…。

最後にキャストについても少しだけ。
シュルツを演じたクリストフ・ヴァルツは確かにオスカーに相応しいと思ったけど、
ほとんどジャンゴを演じるジェイミー・フォックスとW主演みたいなものだし、
助演男優賞を競うのは土俵が違う気がしました。
本作で助演男優賞候補を立てるなら、キャンディ役のレオナルド・ディカプリオですよ。
彼はゴールデングローブ賞ではヴァルツと共に助演男優賞にノミネートされたものの、
アカデミー賞ではノミネートすらされませんでしたが、かなりいい演技だったと思います。
人生初の悪役だったみたいですが、骨相学の蘊蓄とかホント滅茶苦茶だし、
黒人奴隷を支配している気でいるが、実は黒人奴隷執事のスティーブンの傀儡状態という、
なんとも魅力的で興味深い敵役だったと思います。
下手するとすごく不愉快なキャラになりそうなのにね。
ジェイミー・フォックスも主演男優賞にノミネートされてもおかしくなかったです。
アフリカ系の主演男優賞受賞はかなりハードルが高いですが、
彼ならすでに一度受賞してるし、順当にいけばノミネートくらいされて当然でしたが…。
あと、タランティーノ監督もちょこっとだけ出演してましたね。
黒人奴隷を死ぬまで酷使する採掘現場にジャンゴを連行する男の役で、
その途中でジャンゴを逃がして彼と共に戦うのかなんて思いましたが、
ジャンゴに騙されてダイナマイトで壮絶に爆死しちゃいましたね。
残念というか、意外な最期に笑っちゃいました。
当然彼は助演男優賞候補にはならなかったけど、見事に脚本賞でオスカー受賞しました。

これで作品賞候補9作中6作鑑賞しましたが、なかなかレベルの高い年度な気がします。
とはいえ残る3本はちょっと心配な気がしますが…。

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