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フライト

『世界にひとつのプレイブック』の記事では、
第85回アカデミー賞の作品賞・監督賞の受賞結果の感想を書きましたが、
他の部門の結果について思ったことも書きたいと思います。
今回は主演男優賞の結果についてです。

主演男優賞は『リンカーン』のダニエル・デイ=ルイスがオスカーに輝きましたが、
その結果には不満があるものの、最も容易に予想できた部門だと思いました。
なにしろ主演男優賞は、過去10回中6回、実在の人物を演じた俳優が受賞しています。
で、今回もバカのひとつ覚えでそのパターンでした。
もともと実在の人物の役がノミネートされやすい賞なので、
そんな役が複数ノミネートされると難しいですが、今回は1つだけ。
これはもう間違いないだろうと思いましたね。
でも実在の人物の役を演じるのはきっと難しいとは思いますが、
演じ切ってさえしまえば、あとは演技の評価だけではなく、
演じられた人物の魅力や人物評価も加味されることになります。
実は無から魅力的なキャラを作り出すことの方が難しいんじゃないかな?
ボクは『世界にひとつのプレイブック』のブラッドリー・クーパーが、
オスカーに相応しかったのではないかと思っています。

ということで、今日は第85回アカデミー主演男優賞ノミネート作の感想です。
デンゼル・ワシントンは過去6回オスカー候補(うち一回受賞)になりましたが、
そのうち4回は実在の人物役でした。

フライト
Flight.jpg

2013年3月1日日本公開。
ロバート・ゼメキス監督、デンゼル・ワシントン主演によるヒューマン・ドラマ。

ベテランのウィトカー機長(デンゼル・ワシントン)は、いつものようにフロリダ州オーランド発アトランタ行きの旅客機に搭乗。多少睡眠不足の状態でも一流の操縦テクニックを持つ彼の腕は確かで、その日もひどい乱気流を難なく乗り越えた。機長は機体が安定すると副操縦士に操縦を任せて睡眠を取るが、その後突然機体が急降下を始め……。(シネマトゥデイより)



予告編を観て面白そうだとは思ってましたが、期待を裏切らない出来でした。
旅客機の緊急着陸を成し遂げたものの、血液中から検出されたアルコールにより、
英雄から一転、訴訟を起こされることになる主人公の機長が、
不利な証拠をなんとか隠蔽しようとする物語ですが、
厳密には法廷は出てこないけれど、法廷劇的な展開というか、
なかなか娯楽性的なリーガル・サスペンスだったと思います。
昨今の日本でも空港や航空会社を描いたドラマが流行っているようですが、
あんなのは2010年に日本航空が会社更生法を申請したことで地に落ちた航空会社の信用を、
人気ドラマでなんとか回復させようとする業界の陰謀です。
それに乗じて、日本航空は再上場を画策していますが、全くふざけた話です。
本作は多くの乗客の命を預かる機長個人の失態を描のと並行して、
組織ぐるみで隠蔽を目論む航空会社の姿も描かれており、
綺麗事ばかりな日本の航空業界ドラマとは違って、大変興味深いです。
まぁ『沈まぬ太陽』のように航空業界を斬る社会派作品にする意図はなさそうですけど。

デンゼル・ワシントン演じる主人公ウィトカー機長や、
彼の勤めるサウスジェット航空には明確なモデルがあるわけでもないんですが、
事故に関しては、2001年のアラスカ航空261便墜落事故に着想を得たそうです。
本作では機長の咄嗟の判断で不時着に成功し、乗員乗客96人が助かります。
しかし実際の墜落事故では乗客乗員全員犠牲になったそうです。
なのでボクは2009年の航空事故「ハドソン川の奇跡」がモデルだと思ったのですが、
ウィトカー機長と違って本当に英雄的な機長でしたから、
それをこんな風に脚色するはずはないですよね。
とはいえ本作の企画が立ち上がった時期を鑑みれば、
「もしあの英雄的な機長が犯罪者だったら」という発想で作られないとも言い切れないし、
その天邪鬼な発想でスタートしたと考えた方がシックリくる内容だとも思います。
なお、本作では故障で急降下する旅客機のバランスを取り滑空させるため、
機長の機転で背面飛行するのですが、実際の墜落事故でも背面飛行になったものの、
それは機長の意思とは関係なく、制御できなくなって逆さまになっただけです。
背面飛行をすれば機体が安定するなんて、物理的におかしいとは思ったし、
作中でも本能的に背面飛行したと言及されるだけで、理屈は説明されませんでしたが、
やっぱり実際には考えにくいことなんだろうと思います。
まぁ画的に面白いので、娯楽映画としてはこれでいいですが。

奇跡的に不時着させ、乗員乗客96名を救ったものの、
その衝撃で乗員2名、乗客4名が亡くなってしまいます。
墜落直後の薬物検査で、ウィトカー機長の血中からアルコールとコカインが検出され、
96人を救った英雄から一転、墜落事故で6人を殺した容疑者になります。
でも実際の墜落事故とほぼ同じで、ねじジャッキの摩耗で昇降舵が機能せず急降下する、
飛行機の機材の欠陥が原因で、機長の体調は関係なく、どう考えても不可抗力です。
余談ですが、機材トラブルといえば、全日空692便事故が原因で、
ボーイング787が世界中で運航停止になったのも記憶に新しいところですよね。
不時着はあっても墜落に至らなかったのは不幸中の幸いですが、
こんなことがあると、やっぱり空の旅って怖いなと思ってしまいます。

話は戻りますが、例え不可抗力だったとしても、
ウィトカー機長の体調管理の杜撰さは許されるものではありませんし、
彼が墜落の罪を背負うのはおかしいとは思うけど、
薬物の使用や飲酒運転は咎められて然るべきだし、
責任逃れしようと奔走する彼に共感することは難しいです。
今回はシラフであれ避けられなかった事故ですが、
そのまま勤務を続けていれば、いずれ重大な事故になります。
これは彼自身の責任能力の無さもさることながら、
操縦士を管理できていない航空会社の責任はもっと重いですよね。
例の電車の脱線事故や長距離バスの居眠り事故にも通じるものがありますが、
ウィトカー機長の場合は体調不良が常態化していて、一目でわかるほどなのに、
副機長もCAも彼を制止しないのは大問題です。
彼は単なる不道徳な人間ではなく、アル中でありヤク中なので、言わば病気です。
自分で止められないからこそ依存症なわけで、周りが何とかするべきでしょう。
この航空会社は飲み物の提供を取りやめていたりと、なんとなくLCC臭がしますが、
やっぱり格安な航空会社は、人員の質も低いのかなと思っちゃいます。
でも、やっぱり一番責任を負うべきは欠陥飛行機を製造したメーカーでしょうね。
その辺りの責任の取らせ方も、もうちょっと描いてあるとよかったです。

そんな航空事故の責任を問う物語と並行して、ウィトカー機長のロマンスも描かれます。
不時着の衝撃で脳震盪を起こし、病院に担ぎ込まれた彼は、
そこで薬物の過剰摂取で入院しているアル中女性ニコールに出会い、親密になります。
不時着事故で恋人のCA、トリーナを死なせたばかりなのに、お盛んなことです。
2人が初めて出会った非常階段では、もう1人、ある癌患者とも出会うのですが、
かなり個性的なキャラで、物語のキーマンかもしれないと思ったけど、
その患者はそれ以降全く登場せず、ちょっと残念でした。
ウィトカー機長はマスコミを避けて、父の実家でニコールと生活を始めます。
もし実刑判決を受けたら、終身刑もありえるので、彼は国外逃亡を目論みます。
一般人に国外逃亡なんてそう簡単に出来ることではないですが、
彼は当然飛行機も運転できるし、セスナも持っているので簡単そうですね。
彼はニコールに「一緒にジャマイカに逃亡しよう」と誘いますが、
彼女は聞き入れず、彼に禁酒会やリハビリを勧めたことで、2人は破局します。
意外だったのはそこで本当にロマンスが終わってしまったことです。

ウィトカー機長は運輸安全委員会の公聴会で、いろいろあった挙句、
最終的に自分の罪を認め、服役することになります。
結局どういう経緯なのか、5~6年で仮釈放される程度の刑で済んだようです。
まぁ不時着事故に責任はないけど、重度の飲酒運転の罪なら妥当なところかな。
そして本作のラストで、ある人物が彼に面会に来るのですが、
それはきっとニコールが会いに来たのだろうと思いました。
しかし会いに来たのは、意外にも彼の前妻の息子で…。
前妻とはアル中が原因で離婚しており、息子も彼を憎んでいたので、
そんな息子と和解したのは、感動的なラストだとも取れますが、
それまでに息子と絡んだのはワンシーンだけで、父子の物語は描かれていないため、
全然カタルシスがなかったというか、いまいち感動できませんでした。
それよりも面会者がニコールじゃなかったことで、ちょっと釈然としない気分に…。
彼が公聴会で罪を認めたのは、乗客の子どもを助けた恋人のCAトリーナが、
自分の罪を被る形で飲酒乗務の疑いを掛けられたからでしたが、
本作のヒロインはニコールではなく、ずっとトリーナだったのかもしれませんね。
「お盛んなことです。」なんて思ったけど、彼のトリーナに対する一途な判断には、
ちょっと感動してしまいました。

なかなか面白い作品だとは思いましたが、本作のデンゼル・ワシントンの演技は、
『世界にひとつのプレイブック』のブラッドリー・クーパーや、
『レ・ミゼラブル』のヒュー・ジャックマンほどの魅力は感じなかったので、
アカデミー主演男優賞の受賞を逃したのは妥当なところかな。
まだ日本公開されてない『リンカーン』と『ザ・マスター』も観てみないことには、
結果云々を語る資格はないとは思いますが…。

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