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遺体 明日への十日間

先日、東西冷戦の象徴だった「ベルリンの壁」の一部を、
高級アパート建設のため撤去されることになりましたが、
反対する住民らが抗議活動を行い、作業が中断したそうです。
あんな世界的文化財を、たかが高級マンションのために壊すなんて、
ドイツ人じゃないけど許し難い所業だと思いました。

一方で、もうすぐ東日本大震災から丸2年となる日本では、
宮城県などの津波被災地を保存するかどうかで賛否が分かれているようです。
ボクは「ベルリンの壁」とは一転して、被災地の保存には反対です。
保存は震災の記憶を風化させないのが目的だそうだけど、
被災者の多くは反対しているそうなので、それを踏みにじる決定は許されません。
ボクは阪神大震災の被災者ですが、街が綺麗に復興しても当時の記憶は残ってます。
被災地を保存して定期的に見に行かないと記憶が風化するような人は、
端からその程度の関心しかないのだろうと思うし、いつか東海大震災でもあれば、
きっと東日本大震災のことなんて忘れるような人ですよ。
「ベルリンの壁」や「原爆ドーム」のような人為的な悲劇のシンボルなら、
反省のため残す価値もあるけど、自然災害は復興してこそ価値があると思います。
岩手県の「奇跡の一本松」の保存もバカバカしいと思ったけど、
復興のシンボルとか言いながら、結局は観光資源にしているだけでしょ?

ということで、今日は東日本大震災を風化させないという建前の作品の感想です。

遺体 明日への十日間
遺体

3013年2月23日公開。
石井光太氏のルポタージュをもとに描いた人間ドラマ。

東日本大震災の発生直後。定年まで葬儀関係の仕事に就いていた相葉常夫(西田敏行)は、仕事柄遺体に接する機会が多かったことから、遺体安置所でボランティアとして働くことになる。一人一人の遺体に優しく話し掛ける相葉の姿を見て、膨大な遺体に当初は戸惑っていた市職員たちも、一人でも多く遺族のもとに帰してあげたいと奮闘し続ける。(シネマトゥデイより)



東日本大震災で甚大な津波被害を受けた岩手県釜石市の遺体安置所を取材した
石井光太のルポタージュ「遺体 震災と津波の果てに」をもとにした本作。
死者・行方不明者が19,000人を超える実際の大規模地震災害を題材にしているので、
その遺族感情を思えば、あまり軽々しく感想を書けるものではないが、
正直なところ、かなりイマイチというか、違和感の強い作品でした。
なので酷評になってしまうと思うし、読んで不愉快に思われる人もいると思うけど、
先に逃げ口上させてもらえば、ボクは兵庫県南部に住んでいて、
阪神大震災をほぼ直下で被災しており、運よく家族は無事だったので遺族ではないものの、
自宅が半壊したり、学校の友達が亡くなる経験をしています。

2011年3月11日、宮城県沖で大地震が発生、東北地方の太平洋沿岸を巨大津波が襲います。
岩手県釜石市も甲子川を境に街の半分が壊滅的な津波被害を受けます。
翌12日、廃校の中学校に遺体安置所が設置され、引っ切り無しに遺体が運び込まれます。
運び込まれた遺体は検案され、身元確認のため歯型照合、DNA採取されますが、
その後は泥だらけのまま布に包まれ、水浸しの床に無造作に転がされています。
そこを訪れた民生委員・相葉は、遺体が杜撰に扱われるカオスな状況に心を痛め、
市長に直談判して遺体安置所の責任者にしてもらいます。
相葉は葬儀社で働いていたので、遺体の扱い方には精通しており、
その扱い方を安置所で働く市職員や消防団にも徹底します。
しかし、彼は遺体にまるで生きている人間のように接するのですが、
それは言わば遺族感情に過剰に配慮する葬儀屋としての遺体の扱い方です。
単なる殺人事件や死亡事故なら、そうするべきでしょうが、
何千人、何万人も死に、次々と身元不明の遺体が運び込まれる状況では、
そんな心遣いよりも、事務的に処理した方が効率的ですよね。

例えば、はじめ消防団は死後硬直した遺体をボキッと力尽くで伸ばしていましたが、
相葉は一体一体にマッサージをして硬直を解くように命じますが、
ただでさえ忙しい時に、余計な手間を追加するなんて、
死んだ人を気遣うのもいいけど、そこで働く生きている人の身にもなれと。
また、床を綺麗に掃除して、遺体をきっちり整列させるのは正しい判断だが、
「この遺体とこの遺体は夫婦だから並べよう」と、遺体に振られた番号を無視して、
勝手に並べ替えたりするのは、作業効率的にどうなのかなと思います。
「話しかけると、遺体は人としての尊厳を取り戻す」と、
市職員にも自分と同じように遺体と接するように求めますが、
何十、何百も運ばれてくる遺体に、いちいち人として尊厳を感じて、
いちいち悼んでいたのでは、職員の神経が参ってしまいます。
死を悼むのは遺族に任せて、遺体は物だと割り切らないと、
大事な人員が精神病になっちゃいますよ。
現に若い女性職員が小学生の遺体が運び込まれたのを見て動揺し、
「なぜ私なんかが生き残ったのか」と、生き残ったことに罪の意識を感じたりも…。
非常時だからこそ特に、死んだ人より生きている人の方が大切です。
なので、相葉のやり方を是とし、それを美談とする本作には全く共感できないし、
被災していない者が撮った、地震災害に対する認識の甘さが窺えます。

13日、火葬場も地震被害による停電で機能停止しており、
大量の遺体の埋葬をどうするのかという問題が浮上します。
棺桶の数も全く足りず、遺体の保存をどうするかが問われます。
死者数なんて報道で流される数字の上でしか認識しておらず、
一体一体の遺体がどう処理されていたのかというのは考えもしなかったので、
(表現に問題があるかもしれないけど)なかなか興味深い展開だと思いました。
翌14日には火葬場も復旧し、16日には秋田県、21日には青森県の火葬場でも
遺体の受け入れが開始され、この安置所の遺体は順次火葬されましたが、
それまであまり腐敗が始まった様子がなかったのは、極寒の東北だったからかな?
阪神大震災も真冬でしたが、夏に大規模地震災害が起きたら遺体は悲惨ですね。
いや、あんな水分を含んで重くなった死体を、ロクに処理もされないで置いておけば、
絶対に腐敗もしていたはずですが、その臭気感は全く描いていませんでした。
津波に流された割には遺体はどれも状態がよすぎる気がします。
別にホラー映画ではないので、グロい映像を求めているわけではないけど、
社会派を気取るなら忠実な再現を避けるべきではないです。
結局件の小学生の遺体も映されなかったのも、製作サイドの逃げだと思います。
話は戻りますが、火葬場が1日に処理できる遺体の数なんてたかが知れてます。
ボクは宗教観がないので特にそう思うのですが、わざわざ立派な棺を作ったり、
火葬場で火葬して骨を拾ったりするのは儀礼的な宗教儀式でしかなく、
あんな非常時にそこまでする必要あるのかと思います。
遺体を積み重ねて、野原で焼いちゃえとまでは言いませんが…。

この安置所の様子で興味深かったのは、遺体処理の問題だけではありません。
特に意外だったというか、思いもよらなかったのは、
救援物資は避難所のみで、遺体安置所には届かないということです。
死人よりも生き残った人優先というボクの考えには合致しますが、
過酷な安置所で働く人にすら、ロクな食糧の供給はなく、
お昼はピンポン玉みたいなオニギリ一個とか、あり得なさすぎます。
しかもそれすらボランティアは貰えず、自分で食糧調達するのが原則とは言え、
市長から責任者を仰せつかった相葉ですら供給されないなんて無茶苦茶ですね。
救援物資が過剰に持ち込まれた避難所もあったと聞く一方で、そんなことになってたとは、
そういうことはもっと発信して、報道するべきだったと思います。
そもそも相葉自身も釜石市在住の被災者なのに、
避難所生活じゃないってだけで物資が受け取れないのはやっぱり変です。
ボクも阪神大震災で大阪に一時避難しましたが、
救援物資も義援金も一切もらってないと思います。

興味深い内容ではあったものの、相葉の考え方や遺体の処理の描き方に、
イマイチ納得できない本作ですが、何よりも納得できないのは、
本作がフジテレビ製作で、亀山×君塚の『踊る』コンビで作られたことです。
ボクは邦画がダメになった元凶はこのコンビだと思ってるし、
昨今、批判されることが多いフジテレビだけに、
局および彼ら自身が殊勝な動機から本作が製作されたとはとても思えません。
そもそも、この作品に主演の西田敏行のほか、 緒形直人、勝地涼、國村隼、 酒井若菜、
佐藤浩市、佐野史郎、沢村一樹、志田未来、筒井道隆、柳葉敏郎なんて、
豪華俳優陣を揃える必要があると思いますか?
事実を描くのであれば、こんなドラマの劇場的なキャスティングは不可解です。
本作の収益は全て被災地に寄付されるそうですが、
収益というのは興行収入から劇場の取り分や製作費など経費を引いたもので、
亀山×君塚らスタッフの給料は含まれないし、俳優のギャラも含まれません。
豪華俳優にすればそれだけ収益は少なくなることは明白です。
募金額よりも製作費の方が何倍も大きい某24時間テレビと同じで、
本作も収益よりも製作費の方が大きいのは明白なので、
フジテレビにとって痛くも痒くもないボクら客が払う代金からではなく、
身銭を切って製作費分を寄付した方がよかったです。
まぁ公開規模も小さいし、宣伝もロクにされずヒットする見込みはないので、
収益を寄付するどころか、製作費を回収できるかすら疑問ですけどね。
本当に被災地のことを思っているのであれば、フジテレビおよび亀山プロデューサーは、
『ストロベリーナイト』の収益を寄付したらいいです。

最後まで件の小学生の遺体が両親に引き取られなかったのも、
なんだか寂しくて、鑑賞後感が重たくなりました。
豪華キャストでドラマ的に描くのであれば、そのくらいの予定調和はほしかったし、
もっと希望の感じられるラストの方がよかったと思います。

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