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草原の椅子

昨年の日本での映画全体の興行収入は約1952億円だったそうですが、
そのうち邦画が1282億円でシェア約66%、洋画は671億円で34%と、
全体の3分の2を邦画が稼ぐという、異常な邦高洋低となったようです。
逆にボクが見た映画は3分の2が洋画であり、洋画の方が圧倒的に面白いと思ってますが、
そんな話を知人にすると、知人は「今の洋画よりは邦画の方が面白い」と言い、
「典型的な白人コンプレックスだね」とまで言われました。
それに対しボクは「洋画もロクに観てないくせに!」とか、
「邦画だってお前の5倍の本数は観てるよ!」とか、言ってやろうと思いましたが、
年配のそんなに親しくない知人だったので、心の中で呟くだけにしました。
マジで失礼な発言で憤慨しましたが、たしかにボクの邦画離れは、
世間の洋画離れよりも深刻になってきているのも事実で、
正直、邦画が面白くないとか語れるほど、今の邦画を観ているわけではないです。
そこで2~3カ月の間、邦画も集中的に観てみようと考えました。
その結果、やっぱり邦画はダメだなと思うかもしれませんが、
もしかしたら邦画の良さにも気付くことができるかもしれません。
そうすれば、選べる映画の幅も広がって、映画ライフが更に楽しめるはずです。

ということで、邦画集中月間1本目の感想です。

草原の椅子
草原の椅子

2013年2月23日公開。
芥川賞作家・宮本輝の同名小説を成島出監督が映画化。

バツイチサラリーマン遠間憲太郎(佐藤浩市)は、50歳を過ぎて取引先の社長・富樫(西村雅彦)や骨董店オーナーの篠原貴志子(吉瀬美智子)と出会い、互いに友情を深めていく。そんな折、彼らは母親から虐待を受けて心に傷を負ってしまった幼い少年と出会い、その将来を案じる。やがて偶然見た写真に心を動かされた彼らは、世界最後の桃源郷と呼ばれるパキスタンのフンザへと旅立つ。(シネマトゥデイより)



『螢川』で芥川賞も受賞した小説家・宮本輝が、阪神大震災で被災したことをきっかけに、
シルクロード6700キロ、40日間に及ぶ旅を経て執筆した同名小説を映画化した本作。
ずっと阪神在住のボクも学生時代に阪神大震災で被災していたこともあって、
ちょっと気になる作品ではありました。
出版当時から映画化企画はあったそうですが、なかなか撮影まで進まなかったところ、
東日本大震災が起きて企画が本格始動したそうです。
なので震災が題材の作品かと言えばそんなこともなく、
登場人物の設定に若干東日本大震災が絡んだりもするけど、あまり湿っぽくもない、
ちょっと笑えたりもする、温かいヒューマンドラマに仕上がっていると思います。
そこはちょっと期待とは違ったけど、それはそれで楽しめたので問題ないです。
というか、邦画としては名作の部類に入るなかなか素晴らしい作品だったと思います。

本作の冒頭シーンは、佐藤浩市演じる主人公・遠間ら4人の日本人旅行者が、
どこかの異国を旅しているシーンで始まります。
原作者がシルクロードを旅した末に描かれた物語なので、
なるほど彼らがシルクロードを旅するロードムービーか、と思ったのですが、
冒頭の短いシーンの後は、彼らがなぜその国を旅しているのかの経緯を描いた、
日本が舞台のシーンが続き、本作の大部分は日本で撮影されています。
ちょっと予想は外れてしまったものの、ボクは外国で撮影された邦画で、
面白いものに当たった試しがないので、本作がロードムービーじゃなくてホッとしました。

カメラメーカーに勤める中間管理職の遠間は、離婚して大学生の娘と2人暮らしですが、
ある日、4歳の男の子・圭ちゃんを預かることになります。
圭ちゃんは娘のバイト先の主任の義理の息子(妻の連れ子)ですが、
実の母親から酷いDVやネグレクトを受けて、後天的な知的障害を負っており、
言葉もまともに話せず、他人から危害を加えられるという強迫観念を持っています。
母親は2年前に圭ちゃんを捨てて失踪しており、義理の父である主任が育てていますが、
主任が出張するので、遠間家でしばらく預かることになります。
結局、主任もかなりいい加減な男で、圭ちゃんの養育を放棄するため、
その後も遠間が世話をすることになるのですが…。
圭ちゃんは障害児な上に孤児という、かなり可哀想な身の上で、
そんな子を預かるなんて物語は悲壮感しかないシリアスなものになりそうですが、
本作は全くそうならなかったのが不思議なところです。
それは圭ちゃんがとても可愛らしくて優しい子で、遠間もとても優しい男で、
その他人2人の奇妙な交流が、親子というか友達同士というか、
何とも心温まる、いい関係性だったからだと思います。
圭ちゃんは可哀想な身の上ですが、少なくとも遠間といる間はとても幸せそうでした。
それにしても知的障害なんて難しい役を、本当にそれらしくやってのけたこの子役は、
かなりの逸材なのではないですかね?

そんな遠間と圭ちゃんと、一緒に旅をすることになるのひとりが、
西村雅彦演じるカメラ店の社長・富樫です。
関西出身らしいのですが、似非関西弁丸出しのセリフ回しで、
ネイティブ関西人のボクとしては、初めかなり違和感が…。
不倫相手に灯油浴びせられたり、急に遠間に「親友になって下さい」と言い出したりと、
序盤はかなり痛いキャラだと思ったものですが、本当はとても味のある素敵なキャラです。
「どがいに理屈が通っていても人情の欠片もないものは正義じゃない」という彼の信念には
とても共感したし、彼はその信念にちゃんた従って行動する立派な男です。
過労による交通事故で会社をクビになった遠間の部下を雇用した情の厚さも素晴らしいが、
店に来た横柄で無礼な中国人団体客を「量販店に行け」と追い返したのも痛快でした。
富樫の父親は世界に二つとない身障者用の椅子を作る仕事をしており、
圭ちゃんの恐竜の人形「ザウルス」の座れる小さな椅子を手作りしてくれます。
その椅子を貰った圭ちゃんは、やっと遠間に対する警戒心を解いてくれ、
2人はとても仲良くなることができた重要なアイテムでした。
本作の題名の「草原の椅子」とは彼が作った身障者用椅子を富樫が撮った写真の題名です。

そして一緒に旅をする最後のひとりが、吉瀬美智子演じる骨董商の女将・貴志子。
街中で偶然見かけた彼女に遠間は一目惚れし、会うために店に通い詰め、
10万の皿や18万の壺など高い骨董品を買いますが、その想いを伝えることはできません。
若い時は不倫しまくりのイケイケだった遠間ですが、意外と億手で可愛いです。
4人が旅する異国は、パキスタンのフンザという村で、
ガンダーラの端、最後の桃源郷と呼ばれるその村の写真集を気に入った圭ちゃんを、
遠間が連れて行ってあげようと考えるのですが、
ついでにリストラした社員が自殺したことで苦悩する富樫社長と、
貴志子も一緒にフンザに行こうということになります。
ただ、貴志子が旅に同行する目的が、ボクには理解できませんでした。
彼女は写真集に映っていた106歳の老人が、人の瞳の中の星を見ることで、
どう生きればいいのか助言してくれるという話を聞き、行きたくなったみたいですが、
そんな迷信というか占いみたいなものを、大人のくせに間に受けすぎで、
大凡正気の沙汰とは思えないし、本気だとも思えませんでした。
しかも彼女は圭ちゃんの「初めての一人旅」である砂漠の砂取りにまで、
勝手に同行しちゃうので、圭ちゃんの一人旅も台無しです。

遠間は主任にも捨てられた圭ちゃんを、養子にしたいと言いますが、
貴志子に「そんなこと同情や思い付きで言ってはいけない」と説教され、
彼は考えを改め、圭ちゃんを施設に入れようと決めます。
これはちょっと冷たい判断のようにも思われそうですが、
特に障害者の圭ちゃんは、遠間に甘やかされながら幸せに育つより、
ちょっと辛いこともあるだろうけど、施設で適切な処置を受けた方が将来のためです。
貴志子のわりにはとても正しい忠告だったと思いました。
しかし、そんな彼女もフンザの雰囲気に飲まれてか、考えを変えてしまいます。
なんと自分が圭ちゃんの母親になると言い出すのです。
遠間は好きな人からプロポーズされたも同然で、舞い上がっているので、
誰か彼女に「そんなこと同情や思い付きで言ってはいけない」と言ってあげてください。

…とまぁそんな感じの物語でしたが、この主要登場人物4人の他に、
特筆すべきキャラは圭ちゃんの母親でしょうね。
泣きながら息子を返してくれるように頼みに来たと思ったら、
次に会った時はドライにやっぱり息子は引き取れないと言い放ち、
遠間が風疹だと知るや「人殺し!」と半狂乱で暴れまわる、かなりサイコな女です。
そんな母親を演じるのは小池栄子ですが、彼女はサイコ演じさせたら当代一ですね。
最初に登場した時は、風貌だけでは彼女だと気が付かなかったくらいです。
彼女の発言や存在自体が、東日本大震災後の非被災者に対する風刺でもあり、
なかなか興味深かったと思います。

邦画も捨てたものではないと思える作品でしたが、
こういういい邦画に限って、日本人はあまり観に行かないんですよね…。

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