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その夜の侍

ボクは映画は頻繁に観に行くのですが、演劇はほとんど観に行ったことがありません。
興味はあるのですが料金が数千円するのが当たり前で、
それなら概ね千円で観れる映画を数本観た方がお得な気がします。
それに演劇は生モノなので、その上演回によって出来不出来がありますよね。
もし自分の観た回が不出来な回だったら嫌だなぁと思ってしまい、
上映回に関係なく一定の内容の映画の方が安心して観れます。
まぁ全く別物の映画と演劇を比べることは無意味ですが、
最近は演劇が映画化されることも多くなり、そんな映画を見るにつけ、
原作の演劇はどんな感じだったのだろうと思うことも増えました。
何にしても、話題の演劇を映画化してくれるのは有難いことです。
演劇発の映画は面白い作品が多いですよね。
何度も上演されることで、内容が洗練されているからなのかな?

ということで、今日は演劇を映画化した作品の感想です。

その夜の侍

2012年2012年11月17日公開。
劇団「THE SHAMPOO HAT」の戯曲を映画化したヒューマンドラマ。

小さな鉄工所を経営する中年男の中村(堺雅人)は、5年前に木島(山田孝之)が起こしたひき逃げ事件で最愛の妻を失ってしまい、抜け殻のようになりながらも復讐(ふくしゅう)することだけを考えて日々を生きていた。やがて、刑期を終えて出所した木島のもとに、復讐(ふくしゅう)を遂げる日までのカウントダウンを告げる差出人不明の脅迫状が届くようになる。そして妻の命日の夜が訪れ、ついに中村と木島は対面を果たすが……。(シネマトゥデイより)



本作の赤堀雅秋監督は本作で、現役プロデューサーが選ぶ映画監督の新人賞である、
新藤兼人賞の金賞を受賞したそうです。
本作はもともと戯曲だったわけですが、それの脚本・演出したのが赤堀雅秋監督で、
自ら自分の戯曲を映画化したわけですね。
そのせいか本作は会話が主体で展開する演劇的な演出になっています。
クライマックスのアクションシーン(取っ組み合いのシーン)では、
カット割りをしない長回しをしていますが、これも生である戯曲っぽい演出です。
反面、映画デビュー作にもかかわらず、あえてフィルムを使って撮られており、
銀幕らしい味わいの映像になっていて、ある意味映画っぽい作品とも思えます。
多少畑違いとはいえ、長く演劇を手掛けてきた人に、今更新人賞もない気がしますが、
確かに映画監督として、ちょっと変わった面白い人かもしれません。

物語は5年前に妻をひき逃げされた主人公・中村が、
出所したひき逃げ犯・木島へ復讐を果たそうと葛藤するというシリアスな話です。
普通なら重すぎて観ているだけでしんどくなるような内容ですが、
登場人物のセリフがウィットに富んでいて、もしかするとブラック・コメディなのかも?
と思えるほど笑えるところもあり、意外とあっさり観れたような気がします。
特にひき逃げ犯・木島の言動は無茶苦茶で、行動の極悪さとは裏腹に、
セリフの緊張感のなさに思わず笑ってしまいます。
それが彼の異常さでもあるので、笑えるのと同時に怖さも感じますが…。

本作はそんな木島と、被害者の夫・中村の物語が交互に展開されるのですが、
人身事故を全く反省していない木島のエピソードに比べると、
苦悩し葛藤し続ける中村の方の物語はやっぱり暗いですね。
中村を演じるのはボクの好きな俳優でもある堺雅人ですが、
こんな堺雅人見たことない、いや見たくないと思えるほど、陰に入った演技で、
外見もいつもは知性派なイケメンなのに、本作の垢ぬけ無い小汚さは、
見ていて辛くなるほどです。(体型もだらしない。)
かなり挙動不審で、木島とは違うタイプの社会不適合者って感じでした。
糖尿病の彼は生前の妻から「プリンを食べないで」と留守電で注意されますが、
妻の死後、その留守電を5年間もエンドレスで聴き続けています。
いつも妻のブラジャーをポケットに入れて持ち運んでいて、完全にヤバい人です。
糖尿病で医者にかかっていたらしいけど、精神科にも診てもらった方がよさそうです。
彼は妻の命日からちょうど5年後の8月10日に、木島を殺して自殺する計画をして、
1カ月前から木島宛てに「お前を殺して俺も死ぬ。決行まで後○日」という内容の
脅迫状を送り続け、決行日まで木島をストーキングし続けます。

そんな強烈なストーキングをされたら、普通は精神的に参りそうなものですが、
木島の図太さは人間の域を超えていて、全く意に介しません。
それどころか、その脅迫状を警察に持っていくと中村の義兄を逆に脅迫し、
精神的苦痛を受けたとして100万円の慰謝料と詫び状を用意するように迫ります。
中村の義兄と言えば自分が殺した女性の兄ですからね。
その図々しさは測り知れません。
彼は友達であってもすぐに暴力を振るい半殺しにしたり、
ムラムラしたら女性警備員に因縁を付けて、体を要求します。
とにかく血も涙もない無茶苦茶な男で、絶対関わり合いたくない危険人物ですが、
なぜか周りの友達は彼から離れられず、その警備員も彼に惚れてしまうんですよね。
ボクには木島の周りの連中の心境が理解できませんが、あり得ない話とは思いません。
たぶん最近話題になった尼崎事件によく似た、個人カルト的な人間関係が作られ、
まとも判断が出来なくなっているのだと思います。
おそらく木島はそんな周りへの洗脳を無意識にやっているのです。
被害者の身内でさえ、彼の前では自分に非があると思ってしまうんだから怖いですね。

そして8月10日の決行日になり、木島の前に包丁を持った中村が現れます。
しかし中村は、彼に「他愛のない話がしたい」と告げ、包丁を捨ててしまうのです。
その心理状態はよくわかりませんが、木島が開口一番「こんにちは」と挨拶したことで、
殺意が揺らいだのだとしたら、彼も木島の洗脳の術中にかかったということなのかも?
ただ彼は結構前日に、デリヘルを呼んで、サービスを受けるでもなく、
ただ他愛ない会話をしたりしていたので、本当に寂しいだけなのかも?
包丁を捨てた中村に対して、逆に木島が包丁を突き付けます。
しかし中村は動じることなく「俺を殺してお前も死刑になれ」と言い放ち、
包丁を突き付けた木島の手を掴んで放しません。
中村曰く「日本の法律では2人殺せば死刑」ということですが、
実際この状況では殺人どころか正当防衛で罪は問われない可能性が高いですよね。
だけど血も涙もない鬼畜の木島ですが、半殺しは平気でも殺人には抵抗があるようで、
中村を刺すことはなく二人は取っ組み合いの大喧嘩になります。
このシーンが件の長回しのアクションシーンですが、
豪雨の中での泥まみれの掴み合いは迫力満点で、ほぼアドリブじゃないかな?
あれはたぶん段取り決めて出来るような演技ではないです。
フィルムで撮ってるから、一か八か一発勝負でやったんじゃないかな?

そんな死闘を繰り広げた2人ですが、中村は端から決着をつけるつもりもなかったようで、
「この物語は最初からキミには関係ない話だった」と告げます。
たぶん1カ月前は本当に復讐するつもりだったのでしょうが、
ストーカーをして木島の「なんとなく生きてる」だけのつまらない生活を垣間見て、
こんなやつを殺しても仕方がない、と思ったんでしょうね。
復讐ってのは死んで償わせるのが目的ですが、何も考えていない木島には、
死んで後悔するような真摯さすらなく、復讐も意味がありません。
当事者なのに「キミには関係ない」なんて言われたら、動揺しそうなものですが、
木島はその後すぐにカラオケに遊びに行くため、何事もなかったように立ち去ります。
その後もきっと、なんとなく生きていくんでしょうね。
たぶん中村は木島を殺さないだろうとは思っていましたが、
本当に何ひとつ木島に償わせることなく終わってしまったのは、少々鬱積を感じます。
でもまぁ、中村の方はそのことである程度気が晴れたみたいで、
例の留守電を消し、プリンも食べるのもやめたので、
その後はある程度ポジティブに生きていけそうな感じです。
しかし、プリンを絶ったのはいいけど、あんなプリンの使い方はないです。
食べ物を粗末にしているというか、暫らくプリンが食べたくなくなるような演出でした。

それにしても、本作のタイトルってどういう意味なんですかね?
(公開カレンダーか何かで)初めて目にした時は、時代劇かと思いましたよ。
そういえば、『鍵泥棒のメソッド』から主演作が立て続けに公開されている堺雅人ですが、
次は来月公開の時代劇『大奥 永遠』ですね。
このプリクエルのテレビドラマ『大奥 誕生』が現在放送されていて、
ボクも毎週楽しみに見ているのですが、本作とは全然違うイメージの役です。
まぁ本作の役柄が、ある意味彼の新境地だったのですが、
う~ん、ボクとしてはいつもの彼の方がよかったかな…?
一方の木島を演じた山田孝之ですが、彼もかなり好きな俳優で注目しているのですが、
『闇金ウシジマくん』や『悪の教典』など、最近ハードな役が続いています。
彼も本領発揮できるのはコメディだと思っているので、
せっかく好きな俳優がW主演している本作なのに、双方とも好みじゃない役柄で少し残念。
次に控えている山田孝之の主演作『ミロクローゼ』はおそらくナンセンスコメディなので、
久しぶりに彼の本領が見れるような気がします。
どんな役かわかりませんが、なにしろ一人三役なので、一役くらいはハマりそうです。

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