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声をかくす人

アメリカ大統領選は、民主党オバマ大統領の再選で終わりました。
結果としては予想通りでしたが、意外にも大接戦だったようで、
もっとあっさりと決まると思っていたので、そこは予想外でした。
でも得票数は接戦でも、激戦州の選挙人数はほぼオバマ大統領が獲ったようなので、
やっぱり予想通りの圧勝だったのかも。
まぁボクも別にオバマ大統領に再選してほしかったわけでもありません。
どんな結果でも日本がパッシングされる流れは変わらないでしょうから、
大統領が誰になっても構いませんが、共和党候補のロムニーは全米屈指の金持ちらしく、
貧乏人のボクとしては反感を覚えるので、オバマ大統領の方が比較的好感があるかな。
しかもロムニーは65歳って話だし、もし当選していても4年の任期は厳しいでしょう。
特に今のアメリカに期待することはありませんが、
中国に出し抜かれないように、せいぜい頑張ってもらいたいです。

ということで、今日はアメリカ大統領が暗殺された実話に基づく映画の感想です。
オバマ大統領も目立つ人物なので、暗殺には気を付けてほしいですね。

声をかくす人

2012年10月27日日本公開。
名優ロバート・レッドフォードがメガホンを取った実録ドラマ。

南北戦争終結から間もない1865年のワシントンで、アメリカ合衆国大統領リンカーンが暗殺される。すぐさま犯行グループは拘束され、その一人として下宿屋を営む南部出身のメアリー・サラット(ロビン・ライト)も捕らえられる。罪状は犯行グループへのアジト提供であったが、彼女は一貫して無実を主張。メアリーの担当弁護士を引き受けることになったフレデリック(ジェームズ・マカヴォイ)は、北軍の英雄であったこともあって彼女と向き合うことに抵抗を覚えるが、実際に無実で何かの事情から自身を捧げようとしているのではと考える。(シネマトゥデイより)



本作はリンカーン大統領暗殺の罪に問われ、
アメリカ合衆国政府によって処刑された初めての女性、
メアリー・ラサットの隠された真実を描いた作品です。
『リンカーン 秘密の書』と、立て続けにリンカーンを題材にした映画を観ましたが、
史上最も偉大なアメリカ大統領と言われることが多い彼だけど、
今となってはそんなに敬愛されてもいないんじゃないかなと思えます。
『リンカーン 秘密の書』はヴァンパイア映画として、彼の偉業を茶化したものだし、
本作は彼の偉業後の世界の弊害を描いたもので、どちらも彼を称える内容ではありません。
ボクも彼のことを漠然と偉大な人物だったのだろうと思っていたのですが、
これらの作品で彼の片鱗に触れるうちに、あまり偉大な人物でもなかったような…、
むしろあまり褒められたものではない人物だったような気がしてきました。

1865年4月、南北戦争の終結直後、リンカーン大統領が南軍の残党に暗殺されます。
有名な役者だった主犯のブースは逃亡中に射殺され、8人の共犯者が次々と逮捕されるが、
その中に下宿屋の女将メアリー・サラットいました。
彼女の息子ジョンは、ブースの友達であり、暗殺事件の共犯者で、
犯人たちは彼女の下宿屋を隠れ家にして暗殺計画を練っていたため、
彼女も共謀の疑いで逮捕されたのです。
メアリーは裁判でただ下宿屋として部屋を貸しただけだと無罪を主張します。
この裁判の争点は、彼女が暗殺計画を知っていて、犯人に部屋を貸したか否かです。
本作では彼女は犯人たちがリンカーンを誘拐する計画をしていたのは小耳に挟みましたが、
暗殺計画までは知らなかったということになっています。
それが真実だったかどうかは、今のなってはわからず、
ボクとしても彼女はかなり黒に近いグレーだと思うのですが、
そんなことよりも問題なのは、彼女が民間人であるにもかかわらず、
軍法会議による裁判を受けさせられていることです。

主人公のフレデリックは、元司法長官のジョンソン議員からメアリーの弁護を頼まれます。
ジョンソン議員は南部出身なので、自分が弁護するよりも、
元北軍大尉であるフレデリックの方が判事に対しての心象もいいと考えたのです。
それもそのはず、軍法会議なので判事たちも北軍の幹部ばかりです。
判事たちはスタントン陸軍長官によりメアリーを有罪にするように厳命されており、
もはや裁判なんて形だけの完全な出来レースです。
弁護を引き受けたフレデリックは、なんとか彼女を無罪を立証しようとしますが、
判事により証人尋問での弁護側の異議は全て却下され、逆に検察側の異議は認められたり、
弁護側の証人も検察の手回しにより、弁護側に不利な証言をしたりと、かなりの逆境です。
そんな逆境の中で、フレデリックがどう戦うのかが、法廷劇として興味深いですが、
前述のように本作は「処刑された初めての女性の隠された真実を描いた作品」です。
史実として彼女が有罪になり処刑される、つまり弁護側が負けることはわかっており、
法廷劇として逆境から勝利を得るような痛快さはないです。
ただ逆境から誰の目にも誤った判決だと思えるところまで形勢を持っていくので、
その過程にはそれなりに痛快さはあります。

しかし、人権無視も甚だしい本当に酷い裁判です。
メアリーに全く非がないとは言えないけど、死刑に相当するものではないのは確かです。
それは判事たちもわかっていたはずなのに、陸軍長官の意向だけで死刑にします。
彼女は南部出身者だったので、不当に差別されていたのは明らかです。
南北戦争で黒人奴隷解放のために戦ったリンカーン率いる北軍ですが、実はそれも建前で、
リンカーンが奴隷解放を叫んだのは、当時は南部の奴隷権力が国政を握っていたので、
ただ単に南部に対する対抗心からだと思います。
奴隷制廃止を謳ったのは、南部が嫌いな北部の人々から支持を得るためであり、
南部選出の大統領候補に勝つための、言わば選挙対策でしかありません。
リンカーン磁心は、黒人奴隷は解放したものの、依然白人が優位であると考えていたし、
ネイティブ・アメリカンに対しては生涯差別を続けたレイシストだったのは有名な話です。
そんな彼が作った政府だから、南部出身者の人権を無視する裁判を平気でするのでしょう。
軍法会議で民間人を裁くのは条約違反、権力分立に背く憲法違反ですが、
そんな違憲行為になることよりも、南部出身者を差別することの方が重要と考える、
とんでもない政府だと思います。
まぁリンカーン自身は被害者であり、この裁判には関与していませんが、
こんな政府を作り遺した彼を偉人だとは到底思えなくなりました。
ブースが犯行時に叫んだ南部のスローガン「専制君主に滅びあれ」も、
あながち間違っておらず、意外と確信を付いてるかもしれません。

その裁き方や量刑の不当さは置いとくとして、
限りなく黒に近いグレーのメアリーが裁かれるのはある程度仕方ないけど、
息子ジョンの同室だったワイズマンや、凶器を隠していた居酒屋店主ロイドなど、
確実に黒なのにもかかわらず、検察側の証人なのでお咎めなしになったのも酷すぎます。
もう判事や検察は、暗殺事件の真相なんてどうでもよく、
ただただメアリーを死刑にしたいだけであり、そこに何の正義もありません。
共犯者の中には終身刑の者もいるのに、陸軍長官が彼女の死刑にそこまで固執する理由が
イマイチよくわかりませんが、おそらく主犯格である息子ジョンを捕り逃がしたので、
母親である彼女をスケープゴートにして裁くことで、面子を保とうとしたのでしょうね。
ジョンも母親が自分の濡れ衣で絞首刑になるのに逃走を続けるなんて酷い息子です。
彼が自首し「ブースを下宿屋に招き入れたのは自分だ」と証言すれば、
母メアリ-は死刑にならずに済んだかもしれないのに…。
…いや、それだと誤認逮捕で政府の面子が潰れるから、どのみち死刑を強行したかな?
ジョンは後に捕まりますが、通常の陪審員裁判で裁かれ、釈放されています。
彼が釈放なら、メアリーも軍法会議ではなく陪審員裁判だったら確実に無罪でしたね。

冤罪の可能性があるのに絞首刑になったメアリーは気の毒ですが、
弁護をする破目になったフレデリックもかなり気の毒です。
英雄的な北軍大尉だった彼ですが、南軍の残党を弁護することになったことで、
裁判に負けたら弁護士として評価を下げるし、もし裁判に勝っても裏切りもの扱いで、
どちらにしても負け戦であることは目に見えています。
いや、判決が出る前からすでに裏切りもの扱いで、社交界の会員資格を剥奪されたり、
恋人から理解されずフラれてしまったりと散々な目に遭います。
ジョンソン議員も仲間ハズレにされたりしますが、まるで学校のイジメのようで陰湿です。
その後、フレデリックはワシントンポストの初代編集長になりますが、
政府から不当な扱いを受けた彼が、権力に物申すジャーナリストになるのは当然ですね。

すごく理不尽な物語なので、とても苦々しい気持ちで鑑賞しましたが、
史実に対するひとつの視点としてはとても興味深い作品で、観てよかったと思いました。
『リンカーン 秘密の書』よりも10倍は面白いです。
来年公開されるスピルバーグ監督の映画『リンカーン』は、
素直にリンカーン大統領の偉業を称える伝記映画になっているでしょうが、
その映画を観ることでボクの中で地に墜ちたリンカーンの評価が少しでも回復するのか、
ちょっと期待しています。

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