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アルゴ

第25回東京国際映画祭が閉幕しました。
最高賞(東京サクラグランプリ)はフランス映画の『もうひとりの息子』って作品で、
去年の『最強のふたり』に続き、フランス映画が2年連続受賞です。
でも『もうひとりの息子』はイスラエルとパレスチナをテーマに描いた物語らしいけど、
中東問題に馴染みの薄い日本人には難しそうで、集客も難しそうなので、
日本で一般公開される見込みは薄いんじゃないかな?
まぁ去年の『最強のふたり』が例外的だっただけで、
東京国際映画祭の受賞作品はそんなのが多いけど…。

ということで、今日は日本人にはちょっとわかり難いかもしれない中東問題、
イラン革命を背景に描かれた作品の感想です。

アルゴ

2012年10月26日日本公開。
『ザ・タウン』などのベン・アフレックが、監督・製作・主演を努めたサスペンス。

1979年11月4日、テヘラン。イラン革命が激しさを募らせ、その果てにアメリカ大使館を過激派グループが占拠し、52人もの人質を取るという事件が起きる。パニックの中、アメリカ人6名が大使館から逃げ出してカナダ大使の自宅に潜伏。救出作戦のエキスパートとして名をはせるCIAエージェントのトニー・メンデス(ベン・アフレック)は、6名が過激派たちに発見され、殺害されるのも時間の問題だと判断。彼らを混乱するテヘランから救出する作戦を立案する。しかし、それは前代未聞で大胆不敵、そして無数の危険が伴うものだった……。(シネマトゥデイより)



これはかなり興味深い作品ですね。
実話と映画を題材にしており、アカデミー会員好みの内容で、
来年のオスカーにノミネートされるのはほぼ間違いないのではないかと思います。

本作はイランで実際に起こったアメリカ大使館人質事件の救出作戦を描いた物語ですが、
実話がベースになっているとは俄かに信じられないような内容です。
1979年11月4日、イランの過激派が在イラン米国大使館を占拠し、52人が人質に…。
その混乱の中、6人の大使館員が自力で脱出し、カナダ大使の私邸に逃げ込むも、
捕まれば彼らが公開処刑されるのは間違いなく残された人質の身も危ないため、
彼らは私邸から一歩も出ることができず、国外脱出は不可能な状況。
そこでアメリカ国務省はCIAに応援を要請し、人質救出のエキスパートである、
CIA捜査官トニー・メンデスが呼ばれる。
トニーが立てた前代未聞の作戦は、偽のSF映画『アルゴ』を企画し、
6人をロケハンに来たカナダ人映画クルーに仕立てあげ、出国させるというもので…。
…という、出来の悪いコメディ映画のような荒唐無稽な話ですが、
これが実際にあった話と言うのだから驚きです。
何が最も驚いたかって、かなり切迫した事態にも関わらず、
偽の映画製作なんていうフザケた作戦を実行したCIAに、です。
しかも成功する確率もかなり低い無茶な作戦で、もっと堅実ないい手がある気がするし、
CIAって恐ろしく狡猾な諜報機関だと思っていたけど、実はそうでもなかった感じです。
この件は奇跡的に成功したからよかったものの、こんな作戦を実行する組織なら、
この成功例の裏には凄まじい数の救出失敗例もあったのではないかと思えます。
この脱出劇にCIAが関わっていたことや、この偽映画作戦のことは、
当時のカーター政権により機密扱いとなりますが、事件発生から18年経って、
クリントン政権の時にやっと機密解除となりました。
もし作戦が失敗していたら、真相は永遠に闇に葬り去られていたかもしれませんね。

機密が解除されたこの救出作戦に目を付けたのがジョージ・クルーニーで、
彼はこの作戦をいつか映画化しようと企画を温めていたところに、
ベン・アフレックが「是非撮りたい」と声を挙げ、本作が製作されました。
少し残念なのは、機密機関のこともあるけど、機密解除から企画温存期間もけっこう長く、
本作で描かれている実際の事件発生から30年以上も経ってしまっていることです。
さすがにタイムリーとは言えないし、そんな昔の話では覚えている人も少ないでしょう。
ボクなんかは事件発生時には生まれてもいなかったので、
事件の背景となる当時のイラン情勢については全く知識もなく、
このあたりのことを詳しく知っておけば、もっと楽しめたのではないかと悔やまれます。
一応、冒頭で在イラン米国大使館が占拠されるに至る経緯について説明がありますが、
遡ることペルシャ帝国時代からの歴史を、ほんの数分で振り返るので、
ある程度予備知識がないと、それだけで理解するのは無理があると思います。
まぁ普通に脱出劇として楽しむ分には、そんなことまで理解する必要もないけど、
せっかく実際の話が基になっているんだし、今後ハリウッド映画を見続ける上でも、
中東情勢は知っておいて損はないと思ったので、帰宅後ちょっとだけ調べてみました。

1951年、イラクの首相になったモサデクは、アメリカが支配していた油田を国有化。
それが気に入らないアメリカは、陰からモサデク政権を転覆させ、
親米路線の独裁者パーレビを国王に据え、イランの西欧化を進めます。
それに怒ったホメイニ師率いるイスラム教シーア派によりイラン革命が勃発し、
パーレビ国王は追放されますが、アメリカはパーレビをがん治療の名目で自国に入国させ、
それに反発したイランの学生を中心とする反米の民間人たちが、
パーレビの引き渡しを要求して、在イラン米国大使館を占拠したわけです。
ちょっと調べただけなので、間違っているかもしれませんが、
ザックリ説明するとこんな感じのことだと思います。
これでわかるのは、なんだかアメリカの方が悪いような気がするってことですよね。
自分たちの石油利権のために、強引な内政干渉を行うというお決まりのパターンで、
その報復を受けるという自業自得な事件だなと。
鑑賞中はアメリカに非があるのかは明確にはわからなかったものの、
脱出した6人の態度など(現地人など他の人質を残し自分たちだけ脱出する等)から、
当初は彼らに好感を持つことができず、「こんな奴ら、救い出す価値あるのか?」と、
いまいちアメリカ側の肩を持つ気にはなれませんでした。
ただ、大使館占拠や、見境ないアメリカ人に対する攻撃など、
反米イラン人の非文明的な行動が、昨今の日本人に対する中国人と重なり、
イラン側に対しても不愉快な印象を持ったことも確かです。
(日本の場合はアメリカと違って全く非がないわけですが…。)

何にしても脱出した6人の大使館員のことは気に入りませんが、
救出を請け負ったCIAのトニー・メンデスは別です。
自分の身を危険にさらしてまで、他人を救出しようという英雄的な人物だし、
なにより彼を演じている俳優ベン・アフレックのことはけっこう好きだしね。
6人のことはどうでもいいけど、トニーが無事帰国できるか、ハラハラしました。
彼がせっかく助けに来たのに、彼の偽映画作戦に異を唱える大使館員たち、
特にヒゲメガネのジョーにはイライラさせられ、ますます嫌いになりましたが、
まぁこんな荒唐無稽な作戦を告げられたら、その反応も当然かもしれませんね。
急に「カナダ人映画クルーのフリをしろ」なんて、絶対バレると思いますもんね。

救出の要請を受けるも、なかなかいい作戦が浮かばなかったトニーですが、
たまたま息子と映画『最後の猿の惑星』を見て、偽映画作戦を閃きます。
『猿の惑星』でオスカーを受賞した特殊メイクの専門家ジョン・チェンバースと、
ベテラン映画プロデューサーのレスター・シゲールの協力で、
ハリウッドに偽の製作事務所「スタジオ6」まで用意し、
映画雑誌『バラエティ』など大手マスコミを集めて製作発表までして、
本当に映画を撮るんだと思わせるように綿密に偽装工作します。
でも、そこまでする必要あったのかなって気もしますね。
イラン側は映画クルーをそれほど細かく身元調査するわけでもなかったので、
雑誌の記事はひとつの証拠として、なかなか効果的だったと思いますが、
大々的な記者会見とか、スタジオを借り切ってプロデューサーを電話番で待機させるとか、
かなり経費がかかってそうだけど、それほど効果はなかった感じで…。
脚本家にもわざわざ大金払って『アルゴ』の脚本を買いますが、
脚本家に作戦のことを明かせば協力してくれたんじゃないかと思います。
そこから絵コンテも作り始めるのですが、時間的にもかなり逼迫した状況なのに、
用意周到と言うよりも、なんとも悠長な作戦です。

そんな偽映画『アルゴ』ですが、当時は『スターウォーズ』や『エイリアン』がヒットし、
空前のSF映画ブームだったらしく、それに便乗しようとしたSF映画の脚本の一本です。
数々の候補の中からそれが選ばれたのは、舞台が中東に似た砂漠の惑星だからってだけで、
内容はかなりお粗末なSF映画のようです。
詳細はわかりませんが、記者会見の様子ではチューバッカやC-3POのパチモンの姿もあり、
『スターウォーズ』のパクリみたいな映画ではないかと予想されます。
その作中に、バザールで主人公が息子を悪者に拉致されるシーンがあり、
そのロケハンと称してイランに入国し、6人を連れて国外脱出しようという作戦です。
トニーはカナダ人の映画製作補ケヴィン・ハーキンスと名乗っているので、
反米のイスラム指導省もロケハンの許可を与えます。
でも不思議なのは、トニーはカナダ人を装っていても、映画自体はハリウッド映画なので、
イランにしてみれば敵国の映画に協力していることに変わりはない気がするんですよね。
カナダの映画に偽装するなら、普通はバンクーバーとかで製作するんじゃないのかな?
しかも自国を、未開の惑星の舞台にされるなんて、いい気はしないと思います。
映画製作なのに、ロケハンだけなのも、ちょっと物足りない気がしますね。
実際に俳優にも協力してもらって撮影もあれば、展開的にも盛り上がったでしょう。
せっかく特殊メイクの専門家の協力も得ているんだから、
6人の大使館員に特殊メイクして偽装するなんて展開もあればよかったかも。
まぁ実話が基になっているので、史実の不満点を言っても仕方がないです。

トニーと6人はロケハンを終え、飛行機で国外脱出するため、
革命防衛隊200人が見張る空港に向かいます。
ここでも何重もの厳重な出国審査がドキドキものです。
その脱出を前に、大統領首席補佐官により作戦の中止命令が出ていて、
搭乗予約など脱出の段取りも取り消されてしまっています。
ギリギリのところでトニーの上司であるCIA副長官補佐が、
カーター大統領から作戦決行の許可を取りますが、
常に間一髪の展開の連続で、ハラハラドキドキ、すごい緊張感です。
どうせ脱出できるってわかってるのに、よほど演出が上手いんでしょうね。
出国審査最終関門での例のヒゲメガネの予想外のガッツにも感動しました。
大嫌いなキャラだったけど、一気に好きになりました。
6人は無事帰国しましたが、この脱出劇はカナダの手柄ということで公表され、
トニーたちCIAおよびアメリカの関与は秘匿されます。
これによりカナダもイランから国交断絶されますが、アメリカ市民からは称賛されます。
でも事件発生から18年後に機密解禁になり、実はCIAの手柄だったと公表されたわけで、
それまで英雄だったカナダとしては、どんな心境だったでしょうね。
まぁ6人を私邸に匿ったカナダ大使が立派な人物であることは間違いないですが…。
カナダ大使邸のイラン人家政婦も、同胞を裏切って6人を助けたのだから、
イラクに亡命なんかじゃなくて、アメリカはもっと感謝すべきですよね。

この秋、最も面白い映画の1本だと思うので、多くの人に是非観てほしいです。

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