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伏 鉄砲娘の捕物帳

老舗出版社の文藝春秋社が映画事業に本格参入したそうで、
その第一弾が先月公開の『夢売るふたり』、第二弾が先週末公開の『伏 鉄砲娘の捕物帳』、
そして第三弾が来月公開の『悪の教典』だそうです。
参入するや否や、三カ月連続公開とは、なかなか本気のようですね。
映画製作なんて、儲かるとは思えず、何のメリットがあるかわかりませんが、
映画自体よりもメディアミックスで儲けようと考えてるんですかね?
角川の「読んでから見るか、見てから読むか」という有名なキャッチコピーがあるけど、
原作読んだ人が、後発の映画化作品を観に行く気持ちはわかりますが、
映画を観てから、原作本を読もうという感覚はボクにはわかりません。
書店でも映画化作品コーナーはだいたい店頭付近にありますが、
やっぱり映画化された小説って急に売り上げが伸びるものなのかな?
洋邦問わず、原作を持たない映画オリジナル作品なんかでも、
公開前にノベライズが発刊されたりしますよね。
読書嫌いで映画好きのボクにすると、映画館に足を運んでもらうなら、
こんなネタバレ本は公開中に売らない方がいいように思うのですが…。

ということで、今日は文藝春秋映画第二弾の感想です。
目的はどうあれ、映画を製作しようとする企業が増えるのは喜ばしいことだと思います。

伏 鉄砲娘の捕物帳

2012年10月20日公開。
直木賞作家・桜庭一樹の小説を長編アニメーション映画化。

祖父の死を受けて山を下り、江戸へとやって来た猟銃使いで14歳の少女、浜路。そこで浜路は、人と犬の血を引きながら、人に化けて暮らす「伏」の話を耳にする。伏は人の生珠(いきだま)を食べ、凶悪事件を起こしているという。そんな中、浜路が出会った信乃と名乗る犬の面をつけた白髪の青年は、深川一座にて伏姫を演じる人気役者で……。(シネマトゥデイより)



本作は江戸後期の作家・滝沢馬琴の代表作『南総里見八犬伝』を基に、
直木賞作家・桜庭一樹が新しい解釈で書いた小説『伏 贋作・里見八犬伝』を、
長編アニメーション化したものです。
前述のように本作は文藝春秋社の映画事業進出第二弾であり、
文藝春秋創立90周年作品と位置づけ、メディアミックスなど大々的に展開しています。
しかしその甲斐虚しく、興行はイマイチ振るっていないようで客席もガラガラでしたが、
ボクは本作をけっこう面白いと思ったし、かなり気に入りました。
今年公開された邦画アニメの中では、屈指の出来だと思います。

本作は『南総里見八犬伝』の二次創作小説が原作となるわけですが、
ボクは原作も読んでないし、そのまた原作である『南総里見八犬伝』も読んではおらず、
大学受験のために日本史の必須用語として概要を覚えた程度の浅い知識です。
二次創作作品なのに元ネタを知らないのでは全然楽しめそうにもないですが、
本作は日本史の授業で習う程度の滝沢馬琴の知識があれば十分楽しめます。
一応説明すると、『南総里見八犬伝』とは滝沢馬琴が著した江戸後期の代表的読本で、
里見家の娘・伏姫と猛犬八房との間に生まれた八犬士が悪人と戦って、
里見家を再興するという伝奇作品です。
ボクもこの程度の説明が精一杯な程度しか知識がありませんが、
本作を楽しむのにはそれで十分でした。

尤も、終盤の「村雨丸」絡みの展開などは、確かにわかりずらいとも思ったので、
『南総里見八犬伝』を読破した人だと、もっと楽しめるのかもしれませんが…。
でも滝沢馬琴が四半世紀以上費やして書きあげたクソ長い物語を読破した人って、
今のご時勢なかなかいないと思うんですよね。
だから新解釈の『南総里見八犬伝』と謳っている本作は、敷居が上がり敬遠されてしまい、
あまり集客できずに、興行的にイマイチな結果になったのかも…。
実際には読破する必要はないし、アニメとして面白い作品なので、
もっと幅広い人に観てもらえるといいと思うのですが…。
むしろ『南総里見八犬伝』のファンにしてみれば、
新解釈による大胆すぎるアレンジに拒絶反応が出るかもしれません。
登場人物のほとんどが『南総里見八犬伝』の登場人物の流用ですが、
踏襲してあるのは名前だけで、設定が全く違うって話だし…。
主人公の14歳の少女・浜路も、こんな活発なタイプではなかったようです。
彼女の友達・冥土に至っては、二次創作である原作の方からもアレンジされ、
性別まで変わってしまったようです。(少年から少女に変更されました。)

尤も、冥土は『南総里見八犬伝』の登場人物ではなく、滝沢馬琴の娘という設定で、
本作の原作である『伏 贋作・里見八犬伝』の著者という設定のキャラクターです。
本作の舞台は江戸後期で、まだ『南総里見八犬伝』を執筆中の滝沢馬琴も登場します。
つまり本作は、「贋作」と銘打ってはいるものの、
滝沢馬琴が『南総里見八犬伝』を書く上で参考にした実話という体裁であり、
ちょっとしたメタ・フィクション的な物語となっています。
実在の人物としては、滝沢馬琴だけでなく当時の将軍・徳川家定も登場し、
ペリー来航により開国が迫られているという史実なども、物語に取り入れられ、
なかなか興味深いものになっていると思いました。
反面、江戸の町並みはちょっとエキセントリックな感じで、
実話という体裁とは逆に、かなりファンタジーな演出となっています。
家定の服装とか浜路の鉄砲とか、当時ではあり得ないレトロフューチャーなデザインです。
(冥土も江戸時代なのになぜか洋装しています。)
いわば『南総里見八犬伝』が劇中作であるという世界観だけど、
その世界観が伝奇な劇中作以上に伝奇染みているという面白い設定ですね。

『南総里見八犬伝』との最も大きな設定の違いと言えば「伏」の存在です。
「伏」は半人半獣の犬人間で、普段は人に化け、町で人を襲っては殺して魂を食べます。
伏は8人おり、『南総里見八犬伝』の八犬士をモデルに新解釈したもの。
(作中では逆に伏が八犬士のモデルになったという設定ですが。)
つまり里見家の娘・伏姫と猛犬八房の間に生まれた人間と犬のハーフです。
『南総里見八犬伝』では伏姫は八房と肉体関係はなく、犬の子も産んでいませんが、
本作では伏姫が産んだ八房の子どもたちの子孫ってことになるのかな?
そう考えるとちょっと気持ち悪いですが、実際に獣姦シーンを描いてしまった
『おおかみこどもの雨と雪』よりは幾分マシだし、ちょっと免疫が出来ていたかも…。
なので内容的には狼男ものなのかなとも思いますが、
人間の少女と、彼女の魂を吸いたい衝動に駆られる吸魂鬼のロマンスで、
どちらかといえば吸血鬼ものに近いような気がします。
まぁ『トワイライト』のように、ゴリゴリのロマンス仕立てにはなっていませんが。

突如、江戸の町にやってきて、町人を殺し始めた8人の伏に対し、
時の将軍・家定は「伏狩り令」を発令し、伏の首に莫大な懸賞金を掛けます。
腕利きの浪人などが伏狩りに集まり、その甲斐あって6人を狩ることに成功します。
当時の江戸幕府は、ペリーが来航しアメリカから開国を迫られているわけですが、
そのことで苦悩する家定は、よそ者を駆逐したいという強迫観念に駆られており、
人間の「まがい者」である伏せに対して、執拗に敵意を持っているようです。
あと、伏姫の父親である里見義実の霊的なものにも憑かれているみたいですが、
このあたりの設定はイマイチわかりにくかったです。

貧乏浪人の道節は、残りの伏を狩って、あわよくば江戸城に士官しようと、
故郷の陸奥の国から凄腕猟師である妹・浜路を上京させ、2人で伏狩りを始めます。
浜路は山育ちで、狩りのこと以外何も知らない純朴な田舎者の女の子です。
デザイン的には少年と間違われるという設定で、それほど女の子っぽくはないのですが、
表情豊かで少女らしい初々しい印象を受けるキャラで、とても魅力的だと思いました。
彼女に限らず、本作は親しみやすいキャラが多く、かなりよかったと思います。
昨今のアニメと違って、女性キャラを必要以上に萌え萌えに描かないことで、
外見からではないキャラの魅力を引き出していると思います。
その点では、浜路が恋する伏・信乃は、美形すぎて魅力に欠けるかな…。

伏の生き残りである信乃は、普段は芝居小屋の看板役者「黒白」と名乗り、身を隠します。
伏を見分けるポイントは、八犬士の同じく身体のどこかに牡丹の痣があることと、
近づくと獣の臭いがすることだそうです。
浜路は吉原の凍鶴大夫から獣の臭いを嗅ぎ取り、伏であると確信します。
凍鶴大夫は確かに伏だったのですが、獣臭い花魁ってなんか嫌ですね…。
それに肌を見せなければいけない仕事なので、牡丹の痣もすぐバレそうだし、
伏が身を隠す仕事として、吉原の遊女なんて最も向いてないような気がします。
浜路も初めて信乃に会った時に、彼から獣臭さを感じてないとおかしいですよね。
意外だったのは、彼女は人の魂を食べていないということです。
伏は魂を食料のために人を襲っていたのかと思っていたのに、
別に魂を食べないでも生きれるなら、単なる殺人鬼ってことになり、
哀れだと思っていた伏に対する印象がかなり変わってしまいました。
伏の存在が、本作の『南総里見八犬伝』と異なる最も重要な創作ポイントなのに、
その伏自体の設定の練り込みが少々甘いような気がしました。

物語的には自分で補完する必要があるわかり難いところや、納得できない設定もあるので、
これを小説などで読んでいたら、たぶん面白いとは思えなかったでしょうが、
豊富なアクションシーンや独創的な世界観、魅力的なキャラクターなど、
映像的にとても楽しい作品に仕上がっているので、
トータルの印象としてはかなり面白い映画だったように思います。
『南総里見八犬伝』に興味がなくても、ファンタジー活劇として十分楽しめるアニメです。

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