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最強のふたり

先月末に右手首が腱鞘炎になり、動かすと痛いので固定しているのですが、
タイピングすらままならず、ウチにしては珍しく4日間もブログ更新できませんでした。
今もまだ少し痛いので、左手だけで記事を書いています。(右手はエンターにのみ使用。)
たかが右手首が動かせないだけで、日常生活が絶望的に不自由になります。
それを考えれば、今開催中のパラリンピックの選手なんてのはすごいですね。
たまたま100メートル平泳ぎだけ見たけど、銀メダルを受賞した日本人選手、
両腕がないのに並の健常者より断然速いです。
そこまでになるには想像を絶する苦労があったんだと思いますが、
それに比べればパソコンが打ちにくいなんて苦労は、苦労の内にも入らないかな。

ということで、今日は全身麻痺の障害者の実話を基にした映画の感想です。
彼なんかにしてみたら、パラリンピックの選手でも恵まれてる方なのかも?

最強のふたり

2012年9月1日日本公開。
ヨーロッパ各国で記録的大ヒットを記録したフランス映画。

不慮の事故で全身麻痺(まひ)になってしまった大富豪のフィリップ(フランソワ・クリュゼ)は、新しい介護者を探していた。スラム出身の黒人青年ドリス(オマール・シー)は生活保護の申請に必要な不採用通知を目当てに面接にきた不届き者だったが、フィリップは彼を採用することに。すべてが異なる二人はぶつかり合いながらも、次第に友情をはぐくんでいき……。(シネマトゥデイより)



フランスでは興行収入歴代第3位のスマッシュ・ヒットを記録し、
ヨーロッパを中心にフランス映画史上ナンバー1の大ヒットとなった本作。
日本でもフランス公開を前に第24回東京国際映画祭のコンペ部門で上映され、
最優秀作品賞(東京サクラグランプリ)と最優秀男優賞を受賞したそうです。
東京国際映画祭の賞なんて、世界的には大して権威があるものでもありませんが、
ポピュラリティの薄い作品を選出してきた映画祭なのに、
本作のような娯楽性の作品が選出されるのはとても珍しいことで、
それだけに本作が如何に魅力的な作品なのかがわかると思います。
試写会では本年度ナンバー1に推す声が81%もあったそうですが、
ボクとしてもそこまでではないにせよ、現時点で本年度の五指に入るのは間違いなく、
前年度のオスカーである『アーティスト』は軽く抜いて、
フランス映画としては生涯1~2位じゃないかと思える傑作でした。
ロクな映画祭じゃないと思っていた東京国際映画祭も、
世界に先んじて本作を評価したことで、少しだけ見直しました。

パラグライダーの事故で首から下が麻痺したフランスの大富豪フィリップは、
自分の介護者を選ぶ面接をしますが、志望動機が「障害者の役に立ちたい」というような
綺麗事を表明する志望者ばかりでウンザリしていたところに、
「失業手当がほしいだけだから不採用にしろ」と言う青年ドリスが現れます。
身障者として他人からの同情に辟易としていたフィリップは、
そんな様子を微塵も見せないドリスを採用してしまいます。
ドリスはセネガルからの移民でスラム育ちの黒人であり、階級意識の強いフランスでは、
本来なら上流階級のフィリップとは接する機会もない人間です。
生活レベルも趣味も全く正反対で何の共通点もなさそうな二人ですが、
彼らは衝突しながらも雇主と介護者を超えた友情を育んでいくことになります。
彼らを結ぶ唯一の共通点は、偽善を嫌い本音で話すということでしょう。

フィリップの態度を見て、『五体不満足』の乙武洋匡さんが
先日ツイッターに書き込んだ内容を思いだしました。
彼は日本テレビのチャリティ番組「24時間テレビ」の出演を断ったそうなのですが、
その理由が「そこに登場する障害者は、あきらかに憐憫の情で見られている気がした。」と
番組が障害者を「かわいそうな人」扱いしていることに違和感を覚えたからだそうです。
彼のように「同情されたくない」と考えている身障者は多いんだろうなと思います。
フィリップもきっとそうで、自分に全く同情せず、本音でズバズバ発言するドリスは、
どんな優秀な介護経験者よりも、得難い相手だったのだろうと思います。
でも本音ならば何を言ってもいいわけではなく、ドリスは障害者に憐れんでいないのに、
自然な思いやりや優しさを持った男だったからよかったのでしょうね。
タブー視されている障害者の性の話や、障害をネタにしたジョークも、
そこに全く悪意がないからフィリップも受け入れられるのでしょう。
ドリスは移動でも車椅子用の便利なワンボックスカーではなくフェラーリを使いますが、
それもドリスがただ自分が高級車を運転したいってのが動機だけど、
フィリップにとっても荷物のようにワンボックスに積み込まれるよりも、
助手席に座らされて普通の人と同じように扱われる方が嬉しいはずです。
それもドリスの場合はお情けや偽善で助手席に座らせてくれるのではないのが
ちゃんとわかるのがいいのでしょうね。

フィリップにとってドリスは得難い存在ですが、それはドリスにとっても同じで、
フィリップはスラム出身の黒人である自分を差別しない珍しい白人です。
上流階級であるフィリップの親戚はドリスのことを「スラムのゴロツキ」呼ばわりし、
彼を介護者にしたことに懸念を示しますが、フィリップは全く意に介さず、
「彼の素性や過去など、今の私にはどうでもいい事だ」と一蹴します。
でも、その親戚の反応が一般的なフランス人の反応だと思います。
ドリスもフィリップのような白人に出会ったのは初めてなんじゃないかな?
はじめはフィリップのことを、指ひとつ動かさなくても何不自由なく暮らしている
至れり尽くせりの大富豪くらいに思っていたでしょうが、
ある夜、幻想病(薬の副作用?)で魘(うな)されている彼を見て、
本心から彼の助けになりたいと思うようになったのでしょう。
全身麻痺の障害者の介護なんて、かなり大変なことだと思います。
その大変さは本作ではそれほど描かれていませんが、毎朝三時間の全身マッサージや、
ゴム手袋をしての排便の支援など、かなりの重労働のようです。
大富豪フィリップの介護となれば、給料もかなりのものでしょうが、
「2週間続いた者はいない」というくらいのことなので、
偽善はもちろん、金のためや単なる同情心からは続かない仕事でしょう。
それでもドリスが続けられたのは、やっぱり自分を差別しないフィリップに
強い親しみを感じていたからでしょうね。

本作の素晴らしいところは、身体障害者やフランスの移民問題という
重そうなテーマを扱いながらも、娯楽性の強いコメディに仕上げてあることです。
あまりお涙頂戴には走らず、涙よりも笑いの方が多いのに、
結果的に心に温かい感動が残る、ちょっと不思議な作品です。
劇中歌も素晴らしく、テーマ曲であるEarth, Wind & Fireの「September」などが、
粋なタイミングで使用され、気分を盛り上げます。
なにより主演二人の演技が素晴らしかったと思います。
東京国際映画祭では二人で最優秀主演男優賞をダブル受賞しましたが、
セザール賞ではドリス役のオマール・シーが、『アーティスト』でオスカーを受賞した
ジャン・デュジャルダンを抑えて最優秀主演男優賞に輝いています。
彼はコメディアンらしいですが、たしかにドリスの愛すべきキャラを見事に演じて、
沢山の笑いを生みだす素晴らしい演技だったと思います。
でもボクはフィリップ役のフランソワ・クリュゼもそれに勝るとも劣らない好演で、
ある意味単純な性格のドリスよりも難しいと思われるフィリップの微妙な心境を、
首から上の演技だけで見事に演じていると感心しました。
ドリスといる時はいつも楽しそうなフィリップですが、時折儚げな表情を浮かべます。
特に彼の誕生会で、ドリスがEarth, Wind & Fireの「Boogie Wonderland」で
ダンスを披露して会場を盛り上げるというとても楽しいシーンで、
フィリップはその様子を見て笑いながらも、その笑顔にどこか寂しげな印象を受けました。
すごく楽しいのに自分も一緒に踊れない残念さという背反する気持ちが、
その表情から汲み取れて、とても盛り上がるシーンなのになんだか目頭が熱くなりました。
本当に全身麻痺の障害者かと見紛うような、繊細な演技だったと思います。

実際、中盤までは本年度ナンバー1じゃないかと思うくらいの作品でしたが、
終盤でドリスの弟が訪ねて来たあたりから、ちょっと得心できない個所が増え、
ラストのモラトリアム的な終わり方も、若干イマイチな印象を受けました。
まぁラストについては、実話が基になっている話だし、
主人公二人のモデルとなった人物も、今でも交流があるみたいなので、
まだ物語の途中のような幕引きは仕方ないことかもしれませんが、
もう少し劇的な展開で終わってもよかった気がします。
しかしそれも些細な不満点なので、本作が名作であることに変わりはありません。
すでにハリウッドでリメイクされることが決まっているようですが、
わざわざリメイクしなくても、このまま観た方がいいんじゃないかって気がします。
ヨーロッパ各国で空前の大ヒットを記録したにも関わらず、
アメリカでは20位前後をウロウロする地味な成績のようで、
アメリカ人はホントに外国(語)映画が苦手なんだなと思いました。
ハリウッド・リメイクしたらアメリカでも大ヒットするのかな?
ホントに観るべき作品だと思うので、日本でも大ヒットして、
それをキッカケにヨーロッパ映画への関心も高まってほしいです。

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