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ヒミズ

本日、日本アカデミー賞の受賞作(優秀賞)が発表になりましたが、
「ホントに映画観て選んでんのか?」と思うような偏ったチョイスで、
やっぱり日本アカデミー賞はロクな映画賞じゃないなと再認識しました。
日本で一番の映画賞は、やっぱりキネマ旬報ベストテンですね。
キネ旬ベストテンも納得できない結果になることはあるものの、
少なくとも作品を沢山観た人が選んでいるというのは伝わるからね。
日本アカデミー賞なんて、各配給会社の社員や関係者の組織票でしょ。
そいつらが自社の配給作品すら観てるか怪しいよ。

そんな無価値な映画賞はどうでもいいとして、本家アカデミー賞の前哨戦である、
ゴールデングローブ賞の受賞作も決まりました。
こちらはまだ日本公開されてない作品が多いため、妥当な結果かはわかりませんが、
最優秀映画賞は『ファミリー・ツリー』と『アーティスト』で、
俳優賞の方はかなり分散した波乱の展開だったみたいです。
去年度のオスカーは全く波乱がなかったけど、本年度は激しい争いが期待できそうです。
とりあえず懸念していた反日映画『ザ・フラワー・オブ・ウォー』(中国)が、
最優秀外国語作品賞を受賞しなくてホッとしました。

ということで、今日は海外の映画祭で絶賛された日本映画の感想です。
来年度の日本アカデミー賞の対象だけど、本作の配給会社のギャガは、
アカデミー会員ではないので、世界的に評価の高いのに無視される『奇跡』同様、
いくら評判が良くても優秀賞にすら選ばれないでしょう。

ヒミズ

2012年1月14日公開。
園子温監督が古谷実原作のマンガを実写映画化した衝撃作。

どこにでもいる中学3年生の祐一(染谷将太)の夢は、成長してごく当たり前のまっとうな大人になること。一方、同い年の景子(二階堂ふみ)の夢は、自分が愛する人と支え合いながら人生を歩んでいくことだった。しかしある日、2人の人生を狂わせる大事件が起き……。(シネマトゥデイより)



ギャグ漫画『行け!稲中卓球部』の古谷実がギャグを封印して描いた漫画を原作に、
バイオレンス映画『冷たい熱帯魚』の園子温監督がエログロを封印して映像化した本作。
第68回ヴェネツィア国際映画祭のコンペ部門に出品され、
主演2人が最優秀新人賞を受賞したりと、国際的な評価も高いようです。
たしかに監督お得意のエログロを封印した割には退屈しないものになってるし、
評論家や映画通から高い評価を受けるのもなんとなく頷けますが、
ボクにはどうも「卑怯」な作品に感じられて、まともな評価は難しいです。
なんというか、本作の高評価には作品の出来以外のものが加味されているように感じます。
それが何かと言えば、「東日本大震災」です。

古谷実の原作漫画を園子温が実写映画化するという企画は前々からあったようですが、
いざクランクインしようという直前の去年3月11日に東日本大震災が発生。
それを受けて大幅に脚本を変更し、津波で死の街(鉢呂)と化した被災地でロケを敢行、
舞台を茨城県とし、震災ネタを盛り込んだ内容に仕上げました。
ボクは被災したわけでもないし、被災者の気持ちがわかるわけでもないので、
それが不謹慎だとは言いませんが、それをネタにするのは時期尚早だと思います。
東日本大震災は日本のみならず世界を震撼させた未曾有の大災害なので、
クリエイターにとってはおいしいネタだと思います。
津波の被災地なんて、どんな予算があっても絶対に作れないようなロケーションだし、
これを使わない手はないと考えても不思議はないです。
(撮影クルーが被災地に嬉々として乗り込んでいく様子が目に浮かびます。)
震災の衝撃が冷めやらぬうちに、そんなネタや映像を使って映画を作れば、
衝撃的な内容になって当然ですが、それって作品から受ける衝撃とは言えませんよね。
だからそんなことで衝撃作として評価されている本作は「卑怯」だと感じるのです。
もし東日本大震災が起きていなければ、或いは本作から震災ネタを排除したら、
後に残るのは少年犯罪を描いたありきたりなクライム・サスペンスでしかなく、
ヴェネツィア国際映画祭のコンペ部門に出品できたかも疑問です。

とはいえ、園子温監督の行動力たるや半端ではないと感服もします。
震災直後は多くのクリエイターが創作意欲を失ったと聞きますが、
逆に彼の場合は最大の好機とばかりに震災をネタにしてしまうんですからね。
しかも原作ものなのに、違和感なく内容に落とし込んでしまう柔軟性はスゴイです。
3月11日に大震災があって、それ以降に脚本を書き直して、撮影もして、編集もして、
少なくともヴェネツィア国際映画祭の開催された8月には完成していたんだから、
ほぼ一から5か月足らずでこれだけのも作り上げたってことですよね。
ここ一年で『冷たい熱帯魚』、『恋の罪』、本作と3本も監督作を公開したりしてるし、
彼のバイタリティは計り知れません。

やはり二の足を踏んでしまうのか、東日本大震災を直接題材にする作品は、
ドキュメンタリーくらいしかありませんが、どれも偽善的な印象です。
でも本作は、シニカルに大震災を風刺ネタにして娯楽的に描いており、偽善感は皆無です。
風刺と言っても、その矛先が東電や行政に向いているのではなく、
あろうことか被災者に向けられているところが衝撃的です。
家を失った被災者たちを路上生活者の如く描き、放射能を持ってるから風呂を貸すなとか、
補助金や義捐金頼みに生きるダメ人間と断定したりします。
登場人物個人の意見とはいえ、思ってないと書けないようなセリフだし、
思っていても絶対に表には出せないことなのに、何の臆面もなく映画にしてしまうなんて、
園子温はやはり並の監督ではないです。
…これは褒めているのではなく、節度のなさに呆れているのです。
偽善は嫌いだけど、弱者を嘲笑するような行為はもっと嫌い。
面白いかどうかは別として、ボクは本作は嫌いです。

ただ、園子温がいくら歪んだ性格だったとはいえ、やはり人の子だったようで、
最後の最後で帳尻を合わすかのように、美談でまとめようとしてきます。
ネガティブな終わり方が多い彼の監督作としては珍しいポジティブな終わり方です。
しかもこのラストは、デッドエンドの原作とは全く逆の展開。
原作の方が監督好みの決着だろうに、自ら逆に舵を切ったことには、
やはり東日本大震災の復興に対する人々の機運が影響しているそうです。
監督はこれを「希望に負けた」と表現しています。
いくらひねくれ者の監督でも、最終的に空気を読まざるを得ない風潮だったのでしょう。
結局そのラストが感動を呼び、大衆性も獲得しているので、
結果的にはいい方に転んだわけですが、ホントに大震災がなかったら、
全然違う作品になって、全然違う評価を受けたんだろうなと思うと興味深いです。

震災ネタはとりあえず置いておくとして、本筋だけを見れば、
夢も希望も持てない若者が日常の中でもがく、ゼロ年代的な青春映画です。
原作漫画がゼロ年代のものだから仕方ないけど、もう2012年だし、
この手の鬱屈した青春映画はもうそろそろいいかなって感じです。
主人公の中学生・住田(渋谷将太)は衝動的に父親を殺してしまい、
「普通の人生」を歩むことを諦めるが、自殺する気にも自首する気にもなれず、
そこからの人生を「オマケ人生」と称して、世間の悪人を殺すことに使おうと決め、
包丁一本持って殺すべき悪人を探して街を徘徊する、という物語。
そんな住田と、彼に好意を寄せ何かとお節介を焼く女子中学生・茶沢(二階堂ふみ)の
関係を軸に描いた青春ロマンスですが、茶沢も極端なヤンデレ少女で、
けっこうサイコな内容になっています。

園子温監督の作品の登場人物はまともな精神状態の人が少ないので、
なかなか感情移入しにくいのですが、本作もそうです。
せめて主人公2人のうち、どちらかだけでもまともならよかったけど…。
原作では茶沢はもっとまともな女の子だったみたいですが、
この監督がそのままにしておくはずもなく、かなり悲惨な家庭環境の設定を足されます。
住田は生まれた時から両親に「いらない」と言われ続けたことで、
精神的に歪んだ中学生に育ってしまうのですが、茶沢の家庭環境はもっと酷く、
自宅に彼女用の絞首台が設置されているような状況で、あきらかに彼女の方が不幸ですが、
ダークサイドに堕ちるのは住田の方で、茶沢はそんな彼を助ける立場なんですよね。
単純にその設定逆じゃないか?って思わずにはいられません。
結局、住田の精神状態は快方に向かうけど、茶沢の抱える問題は放置されたまま終わり、
ちゃんと回収できないなら無駄に極端な設定盛るなよ、と思います。
その毒がこの監督のセールスポイントでもあるので仕方ないのかもしれないけど、
エログロ映画なら極端な設定は活きるけど、青春映画では信憑性を失うだけです。
監督は「エログロ映画ばかり撮りたくない」って言ってたけど、
あなたの特性はエログロ映画向き、というか、普通のドラマ映画には向きません。
役者も園子温作品の出演経験者がそろっていますが、演技のケレン味が強すぎます。
ヴェネツィア国際映画祭の最優秀新人賞の主演2人も、男女で殴りあったりと、
強烈な芝居という印象はあるけど、巧いとは思えませんでした。
まぁケレン味なんてのは観ているうちに徐々に慣れてきて、気にならなくなるけど。

本作をポジティブな作品だと解釈し好意的に受け取る人は、
逆に園子温監督の作家性を全く理解できてないと思います。
作品によって好き嫌いはあれど、ボクは監督を高く評価していますが、
本当に被災地への応援や復興への祈りから本作を撮ったのだとしたら、
注目されたことで彼の作家性は死んだと幻滅するでしょう。
でも本作は、ラストは日和ったものの、全体的には悪意に満ちたサドい内容なので、
次回作にはまだ期待を持てます。

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