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アントキノイノチ

今年も日本映画が元気だと言われてますが、今年は例年よりいいものが少ない気がします。
とはいえ本数も観れてないので、見逃した中に名作がゴロゴロしてるのかもしれませんが。
そこで今日は、客観的に観ておくべき映画映画を挙げてみます。
個人的に面白かった日本映画ではなく、国際的に評価された日本映画です。
(でも映画祭のチョイスはボクの好みです。)

第61回ベルリン国際映画祭…『白夜行』『ヘヴンズ ストーリー』(国際批評家連盟賞)
第64回カンヌ国際映画祭…『朱花の月』『一命』
第68回ベネチア国際映画祭…『ヒミズ』(マルチェロ・マストロヤンニ賞)
第33回モスクワ国際映画祭…『一枚のハガキ』(今年度アカデミー賞外国語部門日本代表)
第64回ロカルノ国際映画祭…『東京公園』(金豹賞審査員特別賞)
第35回モントリオール世界映画祭…『アントキノイノチ』(イノベーションアワード)
第36回トロント国際映画祭…『奇跡』『KOTOKO』

う~ん…、『ヒミズ』は来年公開だから仕方ないとして、ほぼ見逃してます…。

ということで、今日は国際的に高い評価を受けた日本映画の感想です。

アントキノイノチ -あの時の命-

2011年11月19日公開。
さだまさしによる原作小説を、岡田将生、榮倉奈々の主演で映画化。

高校時代、とある事件がきっかけで心を閉ざしてしまった永島杏平(岡田将生)は、遺品整理業を父親に紹介してもらい働き始める。そこで出会った久保田ゆき(榮倉奈々)や仕事仲間と共に過ごすうちに、杏平は少しずつ心を開き始める。そんなある日、ゆきは衝撃的な過去を杏平に告白し、彼の前から姿を消してしまう。(シネマトゥデイより)



第35回モントリオール世界映画祭でイノベーション・アワードなる賞に輝いた本作。
なんでも「最もインパクトを与えた、革新的で質の高い作品」に贈られる賞だそうです。
そんなふうに評価される作品だから、よほど斬新で衝撃的な作品にちがいないと、
かなりハードルを上げて観に行ってしまったのですが、残念ながらそれほど斬新でもなく…。
ちょっと期待しすぎてのか、かなり普通程度の作品のように感じました。
モントリオール世界映画祭といえば、けっこう日本映画を贔屓してくれる映画祭で、
『おくりびと』が3年前にグランプリを獲得したのはまだ記憶に新しいです。
『おくりびと』は葬儀屋を題材にした映画でしたが、本作は遺品整理業者が題材で、
亡くなった人の後始末をする仕事という意味では近い題材ですね。
しかし、グランプリと諸賞の差はやはり大きく、前者の方が断然面白かったです。
それにこれだけ似た題材なのに、イノベーション(新機軸)ってのもちょっと変な話です。

そんな経緯もあって、どうしても『おくりびと』と比較してしまうのですが、
『おくりびと』はけっこう泣けたのに、本作は感動すらできませんでした。
かなり観客を泣かそうとは頑張っているのですが、如何せんあざとく感じます。
本作はちょっと演出過剰というか、ドラマとして作りすぎ感があるからだと思います。
平たく言うと、リアリティがないんですよね…。
『おくりびと』はもちろん映画としての脚色もされてますが実話が基になっています。
本作は、登場する遺品整理業者にはモデルがありますが、
主人公やヒロインをはじめ、ほとんどの登場人物の設定などは創作されたもので、
ストーリーの完全にフィクションです。
だから自由度が高いのですが、ちょっと極端な設定や展開にしすぎの傾向があります。
それが実勢に即してないと思えるほど極端なため、全体的に嘘くさいんですよ。

たとえば、キャラクターの極端さ。
主人公の永島杏平(岡田将生)は、学生時代に友達が自殺したことに自責の念を感じ、
躁鬱になって高校を中退してしまったという過去のある若者ですが、
それだけでも十分なのに、自分もイジメられてたとか両親が母親の浮気で離婚しているとか、
不幸のデパートみたいに設定を盛りすぎで、可哀そうを通り越して逆に醒めます。
それ以前に、トラウマ抱えすぎで、テーマの焦点もぼやけている気がします。
ヒロインのユキ(榮倉奈々)も似たようなもので、学生の頃に流産したってだけで、
自殺未遂するには十分な理由なのに、レイプによる妊娠だったとか、
ケータイ小説みたいな何の工夫もないベタな不幸を盛られてます。
それだけでも極端で現実味のない設定ですが、
そんな鬱とか自殺未遂とか心に闇を抱えた人が、
遺品整理業なんて負のオーラ満載の職業に就きますか?
心がかなり不安定なのに、死と直面する仕事なんてしたら、更に深淵に落ち込んで、
最悪の事態になりかねませんよ。
どれだけ主人公やヒロインの境遇を追い詰めたいのか、
意外と原作者のさだまさしはかなりドSなタイプなんだろうと思います。
とにかく、彼らの過度な不幸は設定は、極端すぎて感情移入できません。
というか気持ちがしんどくなるのでしたくありません。

極端なキャラといえば、主人公の同級生・松井(松坂桃李)が最高でしょう。
かなり陰湿ないじめっ子で、同級生・山木(染谷将太)を自殺させてしまうけど、
その後も次のターゲット(主人公)を見つけて、陰湿ないじめを続けます。
その全然懲りない彼の性格は、鬱病の主人公よりもっと病的で、もはや異常者です。
こんな奴、現実にいるとは思えません。
松井は恥をかかされたことで、主人公にカッターナイフで襲いかかりますが、
逆に主人公に抑え込まれ、殺されそうになります。
その時、二人の周りには多くの同級生たちがいましたが、
全員ただジィ~~~と二人の死闘を見ているだけ。
その無関心さを目の当たりにして、主人公は人間不信になり、鬱病になってしまうのですが、
人が目の前で殺されそうなのに誰も止めないってのは極端すぎるでしょ。
本作は孤独死・孤立死を問題提起する作品であるため、
無関心による無縁社会の縮図として、このエピソードを作ったのでしょうが、
無縁社会を拡大解釈しすぎ。
彼らは同級生という縁者であるため、近所の住人関係とはレベルが違います。
隣人が死んでもなんとも思わない人はいるだろうけど、
同級生が目の前で死んでも平気な人なんて滅多にいません。
全く実勢に沿わない、嘘くさい展開です。
この高校の教師もあり得ないくらいどうしようもない人ばかりですね。
生徒が自殺した後の対処もそうだけど、崖に生徒二人で行かすなよ…。

最もあざといと思ったのはラストの展開です。
主人公とヒロインが再開して、二人ともトラウマを克服して、
ハッピーエンドで終わればよかったのに、なぜそこでヒロインを殺すかな?
まださらに主人公を追い詰めたいなんて、どこまでドSなんですか?
なんにしても、人を殺すことで泣かせようとするなんて、最も安易な展開です。
あそこで無意味に死ななければ、もしハッピーエンドで終わっていたとしたら、
人間ドラマとしてはイマイチでも、ロマンスとしてはそれなりに観れる作品だったはずなのに。
とはいえロマンスとしても、あのラブホの展開は急すぎますよね。
レイプされて男性恐怖症のヒロインが、主人公なら怖くないからセックスしたいとか、
レイプや流産がその程度のトラウマでしかなかったのかと拍子抜けしました。
主人公も一緒にラブホに入っておいて急に拒むんじゃないよ。
このシーン以降、主人公はヒロインの名前を呼び捨てするようになりますが、
描かれてはいないけど、一応やったってことなのかな?
ヒロインが死んだので、主人公たち遺品整理業者は彼女の部屋に遺品整理に行くのですが、
ヒロインはまだ母親が健在だったはず。
なぜ業者が金もらって遺品整理するのか疑問です。
主人公は少なくともプライベートでしなさいよ。

結局はテーマありき、結論ありきで逆算して話を作っているから、
こんな現実的ではない展開を、平気で作れてしまうんですよ。
そもそも本作はタイトルありきの作品ですもんね。
『アントキノイノチ』はもちろん「アントニオ猪木」をもじった洒落ですが、
その洒落を思いついたところが企画のスタートで、"イノチ"というキーワードを基に、
原作者が問題意識を感じじていた「孤独死・無縁社会」という題材をねじ込んで書いたもの。
遺品整理業を舞台にしたのは『おくりびと』の影響もあるかもしれませんね。
タイトルありきで逆算して作られたものだから、展開にかなり無理があったとしても、
クライマックスの「元気ですか~!」に繋がれば他はどうでもいいのでしょう。
ただ、このタイトルって「アントニオ猪木」よりも「アントキの猪木」を思い出すよね。
もちろんこの原作が出版された時にはすでに「アントキの猪木」は活躍していたので、
正直それほどうまいと思えるタイトルでもないですよね…。

ストーリーは全くリアリティを感じない作品でしたが、
遺品整理業に関してはちゃんとモデルがいて、協力も受けているようで、
遺品整理業のハウツーものとしてはそれなりに興味深いと思います。
ただの遺品整理ならいいけど、そんな業者に頼むような状況なので、
亡くなった人の跡が残っていたりと、現場はかなり過酷な状況…。
死ぬときは布団の上で死にたいと思ってたけど、孤独死する可能性が高い今となっては、
屋外で死ねた方が意外と人の迷惑にならないような気がします。(病院がベスト。)
映画だからそんな過酷な状況ばかりチョイスしてあるだけかもだけど、
誰でもできるような仕事じゃないです。
死は不浄なるものとして忌避されたり、悪徳業者も多い業界らしく、
葬儀屋と同様に職業としても卑下されがちですが、今のご時世には無いと困る仕事ですよね。
本作もそんなキツイところばかりじゃなくて、遺品整理業のステキなところも描いて、
この業界の認識の向上に帰依してあげればいいのにと思います。
(『おくりびと』はそれが一定量できていました。)
本作の業者は比較的真っ当な会社でしょうが、遺品の手紙とか勝手に読むのはダメでしょ。
他人にそんなことされるなら、エロ本見つかってでも身内に遺品整理される方がマシです。
モデルとなった実在の業者の社長さんは、現場の様子などをブログにアップしたり、
執筆して出版しているそうですが、それも褒められたものではない気がします。
民間がやるべき仕事ではないんじゃないかな?

そういえば、公開前に本作のエピローグとなるテレビドラマが放映されてました。
深夜にこっそり放送されていたので見逃してしまいそうでしたが、
前日に気づいてなんとか録画できました。
本作の主人公の先輩社員にあたる佐相さん(ネプチューン原田泰造)が主人公の
スピンオフみたいな作品でしたが、佐相さんは他のキャラよりも極端ではないので、
このテレビドラマの方が見やすかったです。
ハウツーとしても本作よりも興味深い内容でした。
ただ、本作とはヒロイン・ユキの入社経緯が少し食い違っているように思えます。

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