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必死剣 鳥刺し

7月になってから見た映画十数本はどれも期待通りか期待以上に面白いものばかりで、
"今年の下半期は歴史的な豊作かもしれない!"と思って、
調子に乗って映画を観に行きまくりましたが、やはり落とし穴はあります。
前評判の低すぎる『エアベンダー』まではこの好調が続くと思ってたけど、
その一歩手前で転んでしまいました。
しかもそれが佳作揃いの安心ブランド、藤沢周平映画だったんだからショックです。

ということで、今日はその落とし穴の感想です。

必死剣 鳥刺し

2010年7月10日公開。
藤沢周平の同名時代小説の映画化。

江戸時代、海坂藩の近習頭取・兼見三左ェ門(豊川悦司)は、藩主・右京太夫(村上淳)の失政の元凶である愛妾(あいしょう)・連子(関めぐみ)を3年前に城中で刺し殺すものの、寛大な処分によって再び藩主に仕えることに。亡妻・睦江(戸田菜穂)のめいであり、身の周りの世話をしてくれる里尾(池脇千鶴)との日々の中で生きる力を取り戻すが……。(シネマトゥデイより)



"…ラスト15分が、時代劇映画の歴史を変える。"という壮大なフレコミの本作。
なんともそそられる宣伝文句ですよね。
どんなラストで一体何が歴史を変えるほどスゴイのかといえば、
最後の殺陣シーンの力の入れ方がスゴイということのようです。
そのシーンだけで撮影に1週間も掛けたんだとか。
CGも一切使わずに、吹き出す血潮も血糊を使用してリアリティを追及したようです。
"歴史を変える"どころか、わざわざ時代に逆行する方法で撮影したことで、
手間隙掛かっているということを売りにしているわけで、
観客にしてみれば、CGだろうと血糊だろうと出来上がったものが素晴らしければ、
そんな過程はどうでもいいんじゃないかと思うんですが…。
なんだか制作側のエゴを感じずにはいられない宣伝文句です。

とはいえ、やはり制作側はそこを一番アピールしたいわけですよ。
だからそのラスト15分をとにかく際立たせるために、
それ以外の約100分の上映時間を使うわけです。
ラスト15分の壮絶な斬り合いを際立たせるためにどうするかといえば、
それまでのシーンを落ち着いた坦々とした感じで描くわけです。
この100分間が非常に冗長としていて、つまらないわけですよ。
それもそのはずで、原作は2時間の長編映画にするには短すぎる短編小説だし、
なにより製作者はラスト15分を観てほしいんであって、他はオマケみたいなもんです。

短い内容を100分も費やして描いているので、じっくり丁寧に描かれているような
錯覚を受けてしまうんですが、その実、内容はペラッペラです。
あんなに時間を掛けて描いているにもかかわらず、
主人公・三左ェ門(豊川悦司)の心情もイマイチ伝わってきません。
三左ェ門は藩主・右京太夫(村上淳)の側室・連子(関めぐみ)を
公然で刺殺してしまうんですが、その動機もイマイチ明確ではなくモヤモヤします。
なぜ三左ェ門は蓮子を殺さなければならなかったのか?
なぜ藩主は愛する蓮子を殺した三左ェ門に寛大な処分を与えたのか?
この2点のミステリーの真相が本作の肝なわけだけど、
後者はラストにわかるからいいとして、前者の真相はついぞ語られず…。
まぁ単純に考えれば、連子がいわゆる傾国の美女だったので、
三左ェ門がみんなのために誅殺したということなんだろうけども、
どうもそう単純じゃなくて、三左ェ門が自らを極刑に処してほしいがために、
その手段として連子を殺したということなのかも。
どちらにしても、どうにも疑問が残るんですよね。
たぶんこうだろうな、って感じで予想で補完はできるけど、
予想は予想、真意がわからないのでモヤモヤします。
これは製作者も原作者の意図をイマイチ理解してないがために、
ちゃんと描きようがなかったことが原因だと思われます。

で、そんな低空飛行が100分続いて、ついにラスト15分、クライマックスに突入です。
まずは剣の達人・帯屋隼人正(吉川晃司)とタイマン勝負、
その後は三左ェ門対大勢による斬り合いです。
たしかに手間隙掛けた自信作だけあってリアルなのは間違いないです。
ただリアルな殺陣がイコール面白い殺陣かというと、それはまた別の話で、
斬られ役の雑魚たちも積極的に打ち込んでこないし、
剣の達人の三左ェ門もザクザク斬られるんで、
剣客時代劇としての爽快感は全く得られません。
鬱屈した100分を漸く乗り切ったと思ったら、今度は悲壮感しかない殺陣…。
さすがに気分も沈みますよ。
さらに愕然とさせられたのは、タイトルにもなっている最終奥義"鳥刺し"です。
そこまでの壮絶で血みどろな斬り合いはリアルだけども、
"鳥刺し"は全く理を伴わない荒唐無稽な必殺技で、リアリティを見事ぶち壊します。
"鳥刺し"が発動した途端に、今までの上映時間はなんだったのか…?
って気分にさせられてしまいました。
これは"鳥刺し"がデタラメな技なのが悪いんではなくて、
この小説の実写化にリアリティを追求するのが間違いだったんだと思います。

ボクは藤沢周平の時代小説は読んだことがないんだけど、
映画化されているものを観るかぎりでは「必死剣鳥刺し」は異色な作品な気がします。
主人公が下級武士じゃないとか、いろいろ他とは違う感じがします。
一番違うのは、主人公に体制に対する反骨精神があまりないことかな?
だからどうも、庶民としてのシンパシーを感じないし、
戦いに勝っても爽快感が湧きません。
むしろ庶民の味方である別家・帯屋隼人正を討ち取ってしまうなんて、
ほとんど悪役じゃないですか。
誠実そうなふりして愛妻の姪(池脇千鶴)に手を出してしまうのも共感できないし…。
小説のバリエーションとしてこんな話もあってもいいけど、
わざわざ映画化するのにチョイスするべき作品じゃない気がしました。
今年上半期の藤沢周平原作映画『花のあと』はなかなか良かったのになぁ…。

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