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聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア

つい先日、授賞式が行われた第90回アカデミー賞ですが、
『シェイプ・オブ・ウォーター』が作品賞オスカー受賞というまさかの結果で…。
いや、最多ノミネートだった同作の受賞は順当だったのかもしれませんが、
前記事でも書いたように、私としては鑑賞済み作品賞候補中で最下位だったし、
こんなものは無冠で終わればいいと願っていたので裏切られた感じです。
前年度のオスカー『ムーンライト』も候補中最も退屈だったと思ったけど、
いよいよ私とアカデミー会員との感性の乖離が限界まで来ましたね。
いや、アカデミー会員というか世間との乖離かもしれません。
ブログでも書いたけど、平昌オリンピックは日本で盛り上がらないと思ったら、
最多メダル更新してかなり盛り上がったみたいだし、
同じくブログでも書いたけど、先達て行われたR-1ぐらんぷりで
決勝進出すら出来すぎだと思ったハンディキャップ芸人がまさかの優勝…。
予想の裏を突かれることがやたら多いです。
でも自分の感性が絶対的に正しいとは思わないし、好き嫌いがあって当然。
いろんな意見があるからこそ、映画の感想を書くのは楽しいです。

ということで、今日は世間的には評価の高い映画の感想です。

聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア
The Killing of a Sacred Deer

2018年3月6日日本公開。

本作は作った英愛合作映画ですが、アイルランドって反英意識強そうなのに
イギリスが共同で映画作るなんてなんだか意外でした。
コリン・ファレルとニコール・キッドマンの共演作で、
ハリウッド映画っぽいキャスティングだと思いましたが、
コリン・ファレルがアイルランド人俳優だったことも、初めて知りました。
本作は第70回カンヌ国際映画祭のコンペで河瀬直美監督の『光』などと争い、
パルムドールは逃すも脚本賞を受賞しているみたいです。
(ついでにニコール・キッドマンは謎の「70周年賞」を受賞しています。)
でも、あまり注目度は高くなかったみたいで、全英ではそこそこヒットするも
全米ボックスオフィスでは最高22位止まりだったようです。
人気キャストとカンヌ脚本賞のお陰で日本ではなんとか公開されましたが、
かなり小規模で、実は私も観に行く予定はありませんでした。
ところが近々に使用期限を迎えるTCGの映画観賞券があり、
(年会費1000円のTCG会員になるともらえる券で、使用期限が1カ月。)
近隣の対象劇場4館で上映中の映画から観たいものを探したのですが、
運悪く全くなかったため、消去法で本作を選びました。
キャストは豪華だし、脚本賞受賞作なら少なくとも駄作ではないだろう、と。
…が、駄作とまでは言わないが、これで脚本賞かと呆れてしまう微妙な内容。
料金は払ってないけど交通費と時間の無駄にしてしまったと後悔しました。

放題の「聖なる鹿殺し」は原題の直訳ですが、なんだか暗示的なタイトルで、
それだけではどんな内容か全く想像できませんでした。
ただ「聖なる」ってところでクリスチャン映画なのかなと勝手に思ってましたが、
実際は宗教とか全く関係ない、サイコホラー映画です。
劇中にイピゲネイアについての論文の話題が出て来るので、
どうやらトロイア戦争の戯曲「アウリスのイピゲネイア」から付けられた
タイトルらしいのですが、私はギリシャ神話をけっこう勉強したので、
その戯曲もなんとなく知ってるけど、本作の内容とそれほど関係ないかな。
戯曲「アウリスのイピゲネイア」の内容をごく簡単に説明すると、
ギリシャ軍の総大将アガメムノンが女神アルテミスの大切な鹿を狩ってしまい
女神を怒らせて、娘のイピゲネイアを生贄に捧げることになるという物語です。
一方、本作の内容を簡単に説明すると、心臓外科医スティーブンが
ホロ酔いで手術した患者が死んでしまい、その患者の息子マーティンが、
父親の復讐のためにスティーブンに接近。
「妻子を一人殺さないと妻子三人全員死ぬことになる」と脅す、という話。
戯曲無理やりに関連付けると、アティーブンがアガメムノンとすれば、
聖なる鹿が死んだ患者でマーティンが女神アルテミス、
イピゲネイアである妻子を生贄に捧げるということになるのか。
まぁ全く関係ないとは言えないけど、大袈裟なタイトルです。

本作が微妙なのは、観客が最も気になることが有耶無耶に描かれていること。
気になることとは、マーティンがどのようにスティーブンの妻子を殺すかです。
最初に息子ボブが下半身不随になり、続いて娘キムも下半身不随に。
マーティンは第一段階が下半身不随で、第二段階が摂食障害、
第三段階で目から出血し、第四段階で死ぬ、とスティーブンに説明します。
実際にボブとキムは摂食障害になり、何も食べることが出来なくなって、
ボブにいたっては目から出血まで進むのですが、こんな呪いみたいなことを
単なる高校生のマーティンがどうやって引き起こしているのか全く謎です。
何か未知の薬品でも使ったのか、本当に呪いなのかもしれませんが、
その呪いが何を引き金にしているのかも全く描かれません。
そのため妻アナだけ発症しない理屈も全くわかりません。
だからこそマーティンの不気味さが際立つのかもしれませんが、
そもそも彼の仕業なのかも疑わしく思えます。
普通の少年にこんな超常的な怪現象を起こせるはずないですが、
マーティンは本当にアルテミスのような神的な存在だとでもいうのか。
不条理すぎて何でもアリなので面白くないです。

そもそも本当にマーティンが父親の復讐を謀っているのかも疑問で、
彼は自分の母親とスティーブンを付き合わそうとしたりするんですよね。
妻子のいるスティーブンが彼の母親をフッた途端に、
スティーブンの子供たちが下半身不随になるのですが、
この流れだと母親がフラれた腹癒せに嫌がらせをしているようにも思えます。
どうやって怪現象を引き起こしているのか曖昧なことに加えて、
そもそも彼の動機すら曖昧で、何もかも曖昧で有耶無耶な内容です。
説明不足というか、そもそも説明できない設定なのだと思いますが、
こんな有耶無耶な脚本でカンヌ脚本賞を受賞できるなんて…。

本作が「アウリスのイピゲネイア」を下敷きにしている以上、
アガメムノンであるスティーブンに神であるマーティンの祟りを避ける道はなく、
生贄を捧げる展開になるのは想像に難くないです。
現にその通りとなり、予想通りの展開にガッカリしてしまいますが、
愛する妻子3人の誰を生贄に捧げる、つまり殺すかも気になるところです。
妻アナが「子供はまた作ればいい」と色仕掛けしたり、
娘キムが「ママや弟を助けるために私が死ぬ」と同情を誘ったり、
息子ボブが急に言い付けを守り、いい子を演じるようになったりと、
保身のためにスティーブンにすり寄るようになります。
(もちろん元凶であるマーティンの御機嫌取りもします。)
スティーブンも2人の子供のどちらが有望かを学校の先生に聞いたりして、
誰を生贄にするか悩むのですが、これは究極の選択ですよね。
親心としては子供は殺せないし普通は妻を選ぶんじゃないかな、とか、
アガメムノンは娘を生贄にしたことを考えれば娘キムになりそうかな、とか、
症状の進行が早く、最初に死にそうな息子ボブにするのかな、とか、
いろいろ予想しつつ、スティーブンがどんな決断を下すのか興味深く観てました。
ところが彼の決断は、無作為にひとり殺すというもので…。
運否天賦に逃げるのは究極の選択に対する最も無粋な選択方法です。

その無作為な殺し方もかなり酷い方法で、妻子3人を円状に座らせ、
その中心でスティーブンが目隠しをしてグルグルバットのように回転し、
止まったところでライフルをぶっ放すというもの。
まさに恐怖のルーレットですが、そんなのシリアルキラーの遊びでしょ。
それをマーティンがやるならわかるが、わざわざ妻子に恐怖を与えることを
スティーブンがやるのはおかしいだろ。
仮にも医者なんだから、もっと楽に死なせてあげる方法は知ってるはず。
無作為に殺すなら毒を混ぜた飲み物をシャッフルして飲ませるとかね。
目隠ししてライフルを撃つ方法では必ずしも致命傷を与えられる保証もなく、
実際にはじめの2発は明後日の方向に飛んで行きましたからね。
結局、3発目で撃たれたボブは即死だったからよかったようなものの…。
すでに瀕死のボブを撃ったのは死期が早まっただけで正しい選択な気もするが、
自分が殺されかねなかったアナとキムにも遺恨が残りそうです。

そもそも子供たちの謎の難病は全く原因不明なんだから、
前述のようにそれがマーティンの仕業とは断言できないし、
ひとり殺せば他が治るなんて保証もないし、
本当に死に至る病気なのかもわからないのに、
なぜ生贄を捧げることを決断したのかも納得できません。
スティーブンは生贄を選ぶ前に、マーティンを拉致監禁し、
子供たちの呪いを解かせようと拷問しますが、その行動は理解できるけど、
私だったらマーティン本人よりも彼の母親を人質に取るかな。
スティーブンは実質家族を人質に取られているようなものだし、
目には目をというか、それが普通の流れだと思うんだけど。
(それにマーティンはマザコンっぽいし。)
妻アナが保身のためにマーティンを解放してしまいますが、
それで呪いが解かれることはなく、スティーブンは生贄を選ぶはめに。
結局、元凶である危険人物マーティンは生き残ります。
まぁ相当拷問されたので、無傷で生き残れたわけではないですが、
逆にそこまで痛めつけられても憎しみを更に募らせることはなく、
ボブが死んだらちゃんとキムの呪いを解くなんて律儀な奴です。

曖昧で筋が通らず、有耶無耶で後味の悪い映画でしたが、
これで脚本が絶賛されてカンヌ脚本賞をもらえちゃうんだね。
練りに練った精巧な脚本を頑張って書いている脚本家が気の毒だな。

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