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セールスマン

前回の更新から少し間が空いてしまいました。
映画は観に行ってたのですが、感想記事を書く時間がなくて…。
というのも、仕事が忙しかった、というわけでもなく、
テレビゲームに熱中しちゃってたんですよね。
前回の記事で書いたように、9月にプレステ4を買うことにしたのですが、
部屋に二台の据え置き機を置く余裕がなく、今あるプレステ3は封印します。
だけど未開封で放置してあるプレステ3のソフトが2本ほどあったので、
プレステ4購入までにプレイしないと勿体ないと思ってやりはじめたら、
ついつい熱中してしまって、睡眠時間を削るほどプレイしてました。
これだからテレビゲームは恐ろしいですが、1週間ほどプレイして
なんとか1本クリアできたので、もう1本は8月にでもすることにして、
今日から元の生活に戻して、ブログの更新も再開します。
そろそろサマームービーのシーズン到来なので、観る本数も増えそうです。
今日の感想書く作品は1週間ほど前に観た映画になりますが…。

セールスマン
The Salesman

2017年6月10日日本公開。

本作はイラン人、アスガル・ファルハーディ監督・脚本によるイラン映画で、
前回の第89回アカデミー賞でイラン代表として外国語映画部門に出品され、
見事アカデミー外国語映画賞を受賞した作品です。
ただ私はこの受賞に対し、出来とは関係ない不当な力が働いていた気がして、
素直に認められませんでした。
というのも、ノミネート前(1月)に就任直後のトランプ大統領が署名した
イランを含む中東7カ国からの入国を一時禁止する大統領令に対し、
抗議の意味を込めてファルハーディ監督は授賞式をボイコットしました。
その決断は概ね称賛されましたが、特にハリウッド関係者は反トランプが多く、
(というかレイシストと思われたくない偽善者が多い。)
前回の授賞式は反トランプ集会さながらでしたが、それが投票行動に影響し、
出来とは関係なく、トランプへのアンチ票が本作に投じられた可能性があると。
なので公平な選考の上で受賞したとは思えなかったのです。
私もファルハーディ監督のボイコットは支持したいと思いますが、
それと映画の出来は別の話だと思うので、なんだかモヤモヤする受賞でした。

本当に受賞に値するのか、他の外国語映画賞候補と比べたいと思いましたが、
対抗馬4本中3本は日本未公開で、残る1本『ヒトラーの忘れもの』は
昨年末にひっそり劇場公開されていたものの見逃していて…。
(『ヒトラーの忘れもの』は来月4日にビデオリリースされるみたいです。)
これでは比較できず、受賞が正当なものか判断できないと思いましたが、
よく考えたら、これ以上ない打って付けの比較対象が存在していました。
それはファルハーディ監督の前々作『別離』です。
『別離』も第84回アカデミー賞で外国語映画賞を受賞してるんですよね。
当時『別離』は観ましたが、受賞するに相応しい作品だと思いました。
(外国語映画なのに脚本賞候補になるほどの傑作です。)
なので本作が『別離』に迫る出来であれば受賞にも納得できるというものです。
そしていざ本作を観てみると、かなり『別離』に迫る出来。
いや、個人的には『別離』よりも楽しめたかもしれません。
これなら受賞に文句の付けようもないですが、逆に残念な気も…。
この出来であれば正々堂々戦っても十分に受賞できた作品だろうに、
反トランプ票が投じられたのは否めず、政治的に選ばれた印象を与えます。
作品賞『ムーンライト』が政治的に選ばれてるだけにね。

本作はアカデミー外国語映画賞以前にカンヌ映画祭脚本賞も受賞してますが、
実際ファルハーディ監督作であれば、受賞歴なんて関係なく観に行きます。
『別離』も傑作でしたが前作の『ある過去の行方』もかなり佳作で、
彼の書く脚本は期待を裏切らず、信頼できます。
『ある過去の行方』はフランス映画でしたが、監督はイラン人だけに
やはり地元イラン映画の方が面白く撮れてますね。
自国の情勢に対する風刺や問題提起なども織り込まれていて、
私たち外国人が観ると、イランのいろんなことを知れて興味深いです。
例えばイランではドイツ車「BMW」のことを何故か「BMV」と呼ぶ、とかね。
(理由不明ですが、たぶんドイツ語の発音の聞き間違いじゃないかな?)
それにイスラム社会でしか生まれないドラマが描かれるので、
欧米映画では観ることが出来ない、新鮮味があります。
以下、ネタバレ注意です。

高校教師で劇団員の夫エマッドと劇団員の妻ラナのエテサミ夫婦ですが、
冒頭、訳もわからないうちに自宅アパートから強制避難させられます。
一体何事かと思ったら、アパートの隣で工事が始まったらしく、
その影響でアパートが傾き、倒壊寸前になってしまったようです。
工事で隣の建物にダメージを与えるなんて、イランの建築事情は凄いです。
夫婦は不動産屋の劇団員ババクに紹介されたアパートに引っ越しますが、
なぜか一室だけ鍵が掛かった開かずの間があり…。
どうやらクローゼットで、前の住人の女性の私物が詰まってるみたいです。
前の住人はたぶん家賃未払いか何かで追い出されたのでしょうが、
転居先が決まるまで私物をそのままにしておけと言ってるようです。
さすがにそんな我儘は日本でもイランでも通じず、ババクはドアを抉じ開け、
一応雨よけのビニールだけ掛けて私物を家の外に放り出します。
前の住人は「訴える!」とほざいているみたいですが当然無視です。
どうも前の住人は、如何わしい職業、つまり娼婦だったみたいですが、
性的な制限が著しいイスラムの国なのに売春なんてあるんですね。
劇団の舞台でも娼婦役がいますが、薄着は検閲に引っかかるらしく、
女優は裸の場面でもコートを着て裸の態(てい)で演じるくらい厳しいのに。
あとタクシーも乗り合いが一般的なようですが、後部座席の女性客が
夫以外の男性客と肩が触れるのも嫌がり、助手席に移るくらいの国民性なのに、
買春なんてしちゃうムスリム女性もいるんですね。
あ、イラン在住だからってムスリムとは限らないのかな?

ある夜、妻ラナが夫の帰りを待ちながら入浴中にチャイムが鳴り、
彼女は夫だと思って玄関のカギを開け、急いで浴室に戻るのですが、
入って来たのは見知らぬ男で、暴行されてしまい…。
彼女はガラスで頭を切り入院、浴室は血塗れになります。
逃げた犯人は部屋に現金とケータイと車のキーを忘れていき、
更にガラスで足を切ったようで、犯人の血痕も残っています。
証拠品残しまくりのマヌケな犯人で、捜査すればすぐに逮捕されそうですが、
警察に通報しようとする夫エマッドですがラナが止めるのです。
「暴行されたことを誰にも知られたくない」と…。
おそらくセカンドレイプ的な目に遭うことを恐れているのだと思いますが、
イスラム社会ではセカンドレイプが強そうな気がします。
特にイランはレイプされた被害者が死刑になったりする国ですからね。
男を欲情させる女が悪い、という考えがイスラムにはあるとか。
ラナには玄関を開けてしまった落ち度があるので、
「なぜ男を入れた?」とあらぬ誤解を受ける可能性も…。
こんな社会では明るみに出てない女性暴行事件が多そうです。

仕方なくエマッドはひとりで犯人捜しをすることにします。
犯人は娼婦だった前の住人の客で人違いで妻を襲ってしまったのか、
或は私物を放り出された前の住人が嫌がらせで送り込んだと考えます。
忘れ物から調べることにして、ケータイは解約されてましたが、
アパートの外の路上で車のキーと合うトラックを発見し、車庫に隠します。
ケーサツなら解約済みのケータイでも元の持ち主を調べられるし、
トラックの持ち主を見つけるのも簡単だろうに、自分でやるとなると大変です。
そんな大事な証拠品のトラックですが、なぜかラナが勝手に路上に戻し、
犯人に持ち去られてしまい、エマッドは愕然とします。

そんな勝手なことをするラナですが、止めるのも聞かずに舞台に出演し、
案の定演技が出来ずに劇を無茶苦茶にして降板したり、
ひとりになりたくないと職場の高校にまでついて来ようとしたり、
浴室に入りたがらずシャワーも浴びずに引き籠ったりしていて…。
事件を秘密にしたがるくせに被害者面して我儘放題の妻に対し、
エマッドはイライラし始め、教え子に当たってしまったりも…。
ラナの気持ちはわからないでもないが、振り回されるエマッドも辛いですね。
ある日、彼女はひとりになりたくないと劇団員の幼い息子を家に呼びます。
その時には劇団内にも事件の噂は広まっていたのに、
その子の母親の劇団員は、事件現場に遊びに行かせることをよく許可したな。
それ以前にその子もそんなところに遊びに行って楽しいとも思えないけど、
ラナは「『スポンジ・ボブ』買ってあげるから」と誘うんですよね。
アメリカのアニメ番組『スポンジ・ボブ』ってなかなか過激な内容だと思うけど、
イランでも放送されているとは意外でした。
結局『スポンジ・ボブ』は買わず、手料理のパスタをその子に作ってあげますが、
帰宅したエマッドは「そんなもの喰うな」とパスタを捨てるのです。
どうもラナは知らずに犯人の残した現金で材料を買っていたみたいで、
たしかに犯人の金で作られた料理なんて気持ち悪いかもね。

教え子のひとりが交通局職員の息子だとわかり、
エマッドは彼にトラックのナンバーをこっそり照会してほしいと頼みます。
そしてトラックがあるパン屋の配達係マジッドのものだとわかり、
エマッドは彼に偶然を装って接触し、倒壊寸前の旧アパートから
トラックで荷物を運搬する手伝いをしてほしいと依頼します。
要は人目に付かない場所に彼を呼び出したかったわけでしょうが、
パン屋の配達係に運送屋の仕事を依頼するなんて、怪しいですよね。
マジッドも不審がりますが、結局報酬に釣られて依頼を受けます。
ところが旧アパートにやってきたのは、マジッドの代理を名乗る爺さんで…。
やっぱり怪しいと思ったから代理の者をよこしたのかな?
この爺さんはマジッドの婚約者の父親で、つまり将来の義父ですね。
年老いた義父を使い走りにするなんて、イスラムって年長者を敬いそうなのに、
やっぱりマジッドはロクでもない奴っぽいですね。

エマッドは爺さんに事件の顛末を説明し「マジッドと話させろ」と迫ります。
しかし爺さんは「電話番号を知らない」と…。
娘婿を庇ってるのかと思いましたが本当に知らないみたいで、
逆に娘婿の電話番号を知らないのは変で、最近ケータイを買い替えたのでは、
とエマッドは考え、忘れ物の解約されたケータイのことを思い出すのです。
そして今度は爺さんに「足の裏を見せろ」と迫り、無理やり靴を脱がせると、
ガラスで切ったと思われる怪我をしていて…。
どうやらマジッドではなく、このジジイが犯人だったみたいです。
前の住人の娼婦の客で、娼婦に会いに部屋に行ったら見知らぬ女がいて、
人違いとわかり去ろうとしたが、そそられて襲っちゃったと白状します。
いい歳したジジイが気持ち悪いのもほどがありますね。
ただ性的暴行だったかは微妙で、性的暴行が目的なのは間違いないが、
襲った際にガラスで怪我をさせてしまって慌てて逃げ帰った感じです。
レイプされてないならラナも警察に訴えればいいと思いますが、
レイプされてないと言っても信じてもらえるかわからないので、
セカンドレイプ状態になることに変わりはないのか。

エマッドはジジイを監禁し、妻ラナとジジイの家族も呼びます。
ジジイに自分の罪を家族に告白させるつもりですが、ジジイは頑なに拒否。
女房や娘には絶対に知られたくないようで、「早く帰りたい」の一点張りです。
気持ちはわかるがこの期に及んで往生際が悪すぎ、見苦しいです。
ジジイは、ラナにまで「気分が悪い、帰してくれ」と泣きつきます。
被害者に対して図々しいにもほどがあり、全く何考えてるのか理解できないが、
更に理解できないのはラナで「お帰りください」と言い出すのです。
加害者に情をかけるなんて、優しいとかお人好しとかいうことよりも、
彼女の受けた被害は彼女にとってその程度のことなのかと思ってしまい、
今までの被害者面は何だったのかという思いが強まります。
普通なら殺しても許せないくらいの相手だと思うのですが。
当然エマッドは納得せず「家族に話すまでは帰さない」と解放を拒否。
そんな夫にラナは「私たちは終わりよ」と告げるのです。
エマッドが誰のためにやってるのか、彼の苦労も知らずに身勝手な女ですね。
暴行受けて気の毒だなんて同情心も消え去ってしまいました。

ジジイの家族がやって来ますが、ジジイはダンマリを決め込み、
エマッドが黙って見てると、そのまま家族と一緒に帰ろうとします。
自分で告白しないと意味がないと思っているのか、
ジジイのしたことを家族にバラさないエマッドにもモヤモヤしますが、
それをいいことに誤魔化そうとするジジイの態度に腹が立ちますね。
帰り際、エマッドはジジイひとりを別の部屋に連れて行き、
忘れ物のケータイと車のキー、現金を返した後、一発だけビンタして解放します。
せめてそこはグーパンチしてほしかったですが、
どちらにしてもジジイが犯した罪の代償としては軽すぎるか。
結局黙秘を貫くジジイの逃げ得で終わるのかとガッカリしてしまいましたが、
帰り道、ジジイは発作で倒れ、そのまま押っ死にます。
もともとの持病もあったでしょうが、エマッドから受けたストレスも
ジジイの死を早めるのにある程度効果があったかもしれませんね。
そう考えた方がただ死んだよりも復讐を果たせた感じで痛快感があります。
あのまま元気に帰られたらモヤモヤした幕引きになってたでしょうが、
悪人は最後にちゃんと裁かれ、ハッピーエンドでよかったです。
でもこの一件でエマッドとラナの関係は終わってしまったようですが、
こんな身勝手な女と縁が切れたのもエマッドにとってはハッピーエンドかも。

アカデミー外国語映画賞受賞したことで逆に出来に不安を感じたけど、
案の定杞憂で、ファルハーディ監督らしい面白い作品でオススメです。

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別離
ある過去の行方

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