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マダム・フローレンス! 夢見るふたり

今日も映画の感想です。

マダム・フローレンス! 夢見るふたり
Florence Foster Jenkins

2016年12月1日日本公開。

大女優メリル・ストリープ主演最新作の本作ですが、
全米ボックスオフィス初登場8位という微妙な成績でした。
ハリウッド映画ではなくイギリス映画だからなのかもしれないけど、
このキャストでこの出来なら、もっとヒットしてもよさそうなのに不思議です。
本作は歌手フローレンス・フォスター・ジェンキンスの伝記映画ですが、
彼女に興味がある人が少なかったのかもしれませんね。
私は「音痴なソプラノ歌手」なんて、とても興味をそそられましたが、
やはりその役をストリープが演じることの方に強い興味を持ったかも。
演技派で知られる彼女ですが、初のミュージカル映画『マンマ・ミーア!』の時に、
歌が下手だの音痴だのとけっこう叩かれていたこともあったので…。
まぁ実際は抜群の演技力に比べて歌唱力が普通すぎるので、
相対的に歌が下手に感じるだけなんですけどね。
『イントゥ・ザ・ウッズ』ではミュージカル映画に再挑戦してたし、
前主演作『幸せをつかむ歌』でも歌手役だし、たぶん普通よりも上手い方です。
でも今回あえて音痴役に挑むというのは、彼女のパブリックイメージを活かし、
キャスティングされたんじゃないかという気がします。

自分が音痴だと気付いていないソプラノ歌手が主人公の物語なんて、
完全にコメディだろうと思っていたのですが、もちろん笑える内容でもあるけど、
けっこう感動的なヒューマン・ドラマだったと思います。
さすがに単なるコメディだったら名優ストリープを起用したりしないか。
伝記映画ですが、私はフローレンス・フォスター・ジェンキンスを知らないので、
どこまで脚色されているのかわかりませんが、俄かには実話とは信じがたい
あり得ないような内容で興味深かったです。
以下、ネタバレ注意です。

1944年、オペラ愛好家を集めたヴェルディ・クラブを主催する富豪フローレンスは、
音楽愛が高じすぎて自分のリサイタルを開きたいと思い立ちます。
夫シンクレア・ベイフィールドも賛同してくれ、
有名なオペラの指揮者カルロ・エドワーズから歌唱レッスンを受けることになり、
レッスンのために若くて優秀な伴奏者を雇うため、オーディションも行います。
そのオーディションで見事合格した若手ピアニスト、コズメ・マクムーンでしたが、
最初のレッスンでフローレンスの歌声を聞いて、あまりの音痴さに唖然とします。
しかし指導する名指揮者カルロも、同席する夫シンクレアも平然としており…。
カルロもシンクレアもフルーレンスが酷い音痴なのはわかっていますが、
彼女の気分を害さぬように気付かないフリをしているのです。
…いや、むしろ逆にめちゃめちゃ上手いかのように煽てています。
伴奏者コズメも空気を読んで、笑いをこらえて彼らに調子を合わせます。
彼が初めてフローレンスの歌声を聞いた時のリアクションが笑いを誘いますね。
コズメ演じるサイモン・ヘルバークのキョトン顔は右に出る者なしです。
指揮者カルロは高額なギャラ目当てで指導しているのは間違いないが、
そんな有名指揮者なら、どんな音痴でも矯正できそうな気もするけどね。
下手に煽てないで、厳しく指導すれば、ある程度マシに出来たんじゃないかな?
やはりイエスマンは、煽てられる本人のためにもならない気がします。

イエスマンに囲まれる大富豪フローレンスが自分の実力を勘違いして、
周りの迷惑にも気付かずに独善的なリサイタルを開くという話ですが、
まるで女ジャイアン状態ですよね。
ジャイアンは暴力ですが彼女は金の力で周りに煽てられるわけだけど、
その金も自分が稼いだわけではなく、ただ大富豪の親の遺産です。
言わば二世の道楽で、普通なら不愉快さも覚えそうな人物ですが、
あまり彼女に嫌悪感を抱けないのは、彼女の気の毒な身の上のせいかな。
なんと彼女は梅毒を患っており、いつ死んでもおかしくない体調なのです。
梅毒なんて遊び人のかかる性病という印象なので、同情し難い病気ですが、
彼女の場合は18歳の時に最初の夫が遊び人で感染されたみたいで…。
なので今の夫シンクレアとは夜の営みも控えざるを得ず、
それもあってか夫は夜になると愛人の家に帰ります。
シンクレア曰く、フローレンスも愛人のことを認めているみたいですが、
彼はめちゃめちゃ献身的な夫だけど、やはり愛人がいるのは引っかかるな…。
フローレンスは天才ピアニスト少女だったらしいけど、梅毒で左手が麻痺し、
それでも音楽が大好きで音楽活動を続けているみたいですが、
いつ死んでもおかしくないのに50年も生きながらえているのも、
音楽が生きる支えになっているからだろうと、医者も言ってました。
だから例え勘違いでも歌いたいと思う彼女を応援したくなります。

夫シンクレアは手頃な劇場を借り、そこでリサイタルを開催することに。
しかし客は妻主催のヴェルディ・クラブの会員だけに限定します。
身内なのでみんな空気読んでくれるから、音痴でも大喝采してくれます。
しかもチケット買って来てくれるんだから、優しいというか奇特な人たちです。
ところがある会員の新妻が、事情を知らずに歌を聴いて大爆笑。
慌ててつまみ出され事無きを得ますが、本当にフローレンスの歌は笑えます。
私はオペラなんてわからないので、正直上手い下手も判別しかねるけど、
なんだか彼女の歌は滑稽な印象を受けて笑えるんですよね。
音痴の人の歌は聴き苦しいはずだけど、彼女の歌はなぜか楽しいから不思議。
オペラ歌手のリサイタルとしてはアレだが、一種の見世物としてはアリかも。
翌日の新聞各社も彼女のリサイタルに絶賛評を載せますが、
どうも夫シンクレアが各社の記者を買収しているみたいですね。
ジャーナリズムとしてどうなのかと思うけど、映画の批評にしてもそうですが、
大手メディアの批評なんてのは、多かれ少なかれそんなものなのかもね。
NYポストの記者だけは賄賂を拒み、見に来なかったようですが…。

各新聞の絶賛評に気を良くしたフローレンスは、ますます勘違いし、
クリスマスに会員に配るプレゼント用に、自分の歌をレコーディングします。
音痴な歌のレコードを貰っても有難迷惑だけど、善意だから質が悪いです。
でもレコードで自分の歌を聴けば、嫌でも音痴だったことに気付きそうですが、
なぜか彼女は全く気付いてないみたいで、つまり彼女は他人の歌に対しても、
実は良し悪しなんてわかってないのかもしれませんね。
彼女が音痴なのは聴覚に異常があるのかもしれませんが、
もしかするとそれも梅毒の影響なのかなとも思えて気の毒になります。
私も歌唱力には自信がないけど、音を外せばちゃんと自覚できるし…。

その会員向けレコードがどういうわけか流出し、ラジオで放送されます。
(フローレンスが自分でラジオ局に送ったのかな?)
伴奏者コズメ作曲のオリジナル曲ですが、なんとその曲が大評判になるのです。
もちろんいい曲だからではなく、あまりに下手すぎるため、
イロモノ面白ソングとして笑いのネタになっているだけです。
特に陸軍病院で負傷兵に大ウケですが、あまりの滑稽な歌声に、
手足を失って落ち込む負傷兵でも思わず笑ってしまうのでしょう。
フローレンスは普通に大好評だと勘違いし、また気を良くして勘違いを加速させ、
なんとカーネギー・ホールを押さえてリサイタルを開こうと思い立ちます。
そんな大会場、さすがに身内だけで埋めることは出来ないので、
夫シンクレアも反対しますが、勘違いしたフローレンスの決意は固く、
1000人の帰還兵を招待することも勝手に決めてしまうのです。
伴奏者コズメも自分のキャリアに傷が付くと思い、
カーネギー・ホールでの伴奏を辞退したいと考えます。
正直名前くらいしか知らないけど、カーネギー・ホールというのは、
かなり伝統のある誉高い音楽の殿堂のようですね。
でもいくら積まれたか知らないが、音痴だとわかってるはずのフローレンスに
ホールを貸すくらいだから、それほど格式が高いわけではないのかも。

カーネギーでのリサイタル当日、コズメがなかなか会場入りせず焦りますが、
開場ギリギリにちゃんとやってきます。
コズメは自分のキャリアよりも、フローレンスとの友情を取ったみたいです。
でもこれでやっぱりキャリアが傷付いたのか、後に彼は音楽ではなく、
ボディービルダーの世界に飛び込むことになったみたいですが…。
客席には会員だけではなく、一般客もいれば招待された兵士もいます。
一般客はまだしも、兵士なんてのは無教養で無作法な輩なので、
必死に歌うフローレンスに「下手くそ」「帰れ」と心無い野次を投げかけます。
チケット買った客が野次るならわかるが、兵士たちは無料で招待されたくせに、
野次る権利なんてないと思うし、音痴なのはわかって来たくせに酷いです。
彼女の歌で元気になった負傷兵もいるんだから、いくら下手でも敬意を払うべき。
客席の兵士たちの中に負傷兵の姿はなかったように見受けられますが、
本当に彼女の歌が聴きたかった負傷兵は招待されなかったのかな?
そんな無礼な兵士たちに一喝して、野次をやめさせた客がいましたが、
なんとその客は、最初のリサイタルで大爆笑した会員の新妻で…。
最初は下品で無礼な女だと思ったけど、まさかの展開で彼女に惚れました。
彼女や会員たちの声援もあり、フローレンスは勘違いに気付くこともなく、
カーネギーでのリサイタルは大成功します。

翌日の新聞各紙もこのリサイタルを大絶賛しますが、
今回は一般客としてNYポストの記者も来ていて、NYポスト紙だけは酷評。
夫シンクレアは妻の目に触れないようにNYポスト紙を買い占めに走るが、
目を離した隙にフローレンスがその酷評を目にし、ショックのあまり卒倒します。
たしかに彼女を気の毒にも思いますが、兵士たちの野次とは違い、
NYポストの記者の率直な酷評は責めることは出来ないです。
私も他人の作品(映画)に対し、酷評することもありますが、
料金を払っている以上は批評するのも当然の権利だと思っているので。
ただ、NYポストの記者のいただけない所は、彼は一曲目で席を立っており、
最後まで観てないのに、最低だったと切り捨てるのはプロとしてどうなのかと。
それにプロならそんな表層批評ではなく、もっと深く取材して、
フローレンスが病気をおして兵士のために歌いたいと開催したことなど、
ちゃんとリサイタルの意味や意義を含めて批評するべきだと思います。
記者は夫シンクレアに対して「妻を笑いものにしている」と批判するが、
夫の妻に対する想いを知れば、それが誤解なのはわかるはずだし。

フローレンスは病院に担ぎ込まれ、夫シンクレアに看取られて亡くなります。
彼女は自分が音痴だったと気付き、ショックを受けたのは間違いないけど、
50年間生かしてくれた音楽を失ったことで死んでしまったのかな?
「私は歌うことが出来ないと言われても、歌わなかったとは言われない」と言い、
美しいオペラを歌い観客に大喝采を受ける夢を見ながら亡くなったので、
夫の愛を感じながら穏やかに死んでいったようにも思えます。
ずっと下手なオペラを歌っていたフローレンス演じるストリープですが、
この夢のシーンでは本来の歌唱力を発揮し、上手に歌っていると思いますが、
やっぱり下手に歌ってた時の方が面白くて楽しめた気がしますね。
本作ではフローレンスがリサイタル翌日に死んだ感じに描かれてますが、
実際はカーネギーの一カ月後に亡くなったそうです。
やはり念願のカーネギーでのリサイタルを終え、燃え尽きたのかもしれません。

知らない人物の伝記映画は、楽しめないことが多かったですが、
本作はコメディ・タッチでかなり笑え、ちょっと感動できるところもあって、
伝記映画としては楽しめた方だと思います。
ストリープの出演作としても、けっこう久々の当たりだったかも。

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