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トランボ ハリウッドに最も嫌われた男

先々週末、全米ボックスオフィスではイルミネーションの『ペット』が
オリジナルアニメーション映画史上最高のオープニング成績を記録しましたが、
日本でも先週末、週末興行成績で『ONE PIECE FILM GOLD』が動員約47万人、
興収約6億7000万円を記録し、今年最高の初日成績になったみたいです。
『名探偵コナン 純黒の悪夢』を抜いての暫定1位になりました。
しかしオープニング成績(公開2日間の記録)は、動員約82万人、興収11億円で、
『名探偵コナン』の動員約93万人、興収約12億円には届いていません。

このことからわかるのは、『ONE PIECE FILM GOLD』は
公開2日目の日曜日に大幅(前日比70%)に落ち込んでいることです。
普通は土曜日と日曜日なら横ばいか日曜日が高いものなのにね。
これはやはり先着入場者特典狙いの客が初日に集中したためでしょうね。
先着500万冊限定の「コミックス七七七巻」(設定資料集)に加え、
先着200万個限定の「オールスターゴールドトランプ」が貰えますが、
ちゃんと使えるトランプが貰えるなんてかなりお得な特典ですよね。
是が非でも最高のスタートダッシュを切りたい東映の意気込みが伝わります。

しかし結果は東宝の『名探偵コナン』のオープニング成績を越えられず…。
『名探偵コナン』の348スクリーンで公開されたのに対し、
『ONE PIECE FILM GOLD』は2倍以上の739スクリーンで公開されたのに。
更に超豪華入場者特典も用意したのにこの結果では、東映も不満でしょう。
しかもこれだけ頑張って前作『ONE PIECE FILM Z』のオープニング成績の
8割程度の興収というのだからガッカリでしょうね。
肝心の出来も良くないし、公開2日目から右肩下がりでしたが、
このまま転がり落ち続け、最終興収は50億円に届かないと予想されます。
もう『ONE PIECE』の人気もピークを越えたのは間違いないので、
いつまでも人気頼みではなく、ちゃんと脚本で勝負しないとダメですね。

ということで、今日は脚本で勝負する男の物語の感想です。

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男
Trumbo.jpg

2016年7月22日日本公開。

全米ボックスオフィス初登場37位、最高13位だった本作。
私は毎週10位までしかチェックしていないので、
本来ならその存在にも気付かない可能性があった本作ですが、
第88回アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたことで気付きました。
ノミネートされた主演のブライアン・クランストンは、
海外ドラマ『ブレイキング・バッド』で大注目された主演俳優です。
私もそのドラマの大ファンだったのですが、
『GODZILLA』でのチョイ役以来、彼の姿を見かけなくなったと思っていたら、
急にオスカーにノミネートされていたもので驚きました。
話題となったディカプリオ念願のオスカー受賞の裏で、
彼はノミネート止まりになってしまいましたが…。

私の目には彼の演技がオスカー候補になるほど素晴らしいのかどうかは
ちょっとわかりかねましたが、実在の人物を演じているので、
観る人が観れば本人にソックリだったりしたのかも。
彼が演じる人物ダルトン・トランボは、1950年代に活躍した脚本家ですが、
80年代生まれの私は名前も聞いたことがなくて…。
全く知らない人物の伝記映画なので、楽しめるか不安はありましたが、
彼が書いた作品には知っているものもあったし、その製作秘話でもあり、
脚本家のお仕事もの映画でもあるので、映画ファンとして楽しめました。

ただ、トランボの言動には理解できないところが多く、
彼の行動を正しいとも立派だとも思えないので、
本作を偉人の偉業を描いた伝記だとは感じられません。
そもそもそんな意図で作られているわけではないでしょうが、
あまり共感できない人物の伝記というのは、
どういう視点で観るべきなのかちょっと困りますね。
米ソ冷戦時代に共産主義者のトランボが、赤狩りに遭いながらも信念を貫き、
弾圧されながらも名作映画の脚本を書くという物語ですが、
共産主義は間違っているとまでは言わないまでも、穴だらけの理想論で、
家族や仕事を賭けてまで貫くべき思想とは思えません。
ソ連のスパイでもないのに、共産党員というだけでスパイ扱いされ、
弾圧を受けたことは同情する余地はあるけども、劇中でも言及される
ローゼンバーグ夫妻のように実際にスパイの共産党員もいたんだから、
疑わしい行動を取って弾圧されるのは自業自得です。
それが正しい思想なら貫くのは崇高なことですが、
今や共産主義が失敗する思想なのは子どもでも知ってることなので、
無価値な信念を守り無駄に足掻いただけの人物という印象になります。

まぁ共産主義が失敗することは当時まだわからなかったことなので、
トランボが正しいと思い込んでしまったのも仕方ないかもしれませんが、
素晴らしい脚本を書けるほど頭がよく、金持ちの彼が、
なぜ正しくない共産主義なんかに傾倒するのか不思議です。
物語はトランボがすでに有名な脚本家で、共産党員である状態から始まるが、
なぜ彼が共産党員になったのかから描き始めてくれないと、
なぜ彼が共産主義に固執するのかもわからないため同情できません。
まぁ結局は同情できるような理由なんてなかったということなのかも。
たぶん「反戦=共産主義」という安易な考えで共産党員になったのでしょう。
以下、ネタバレ注意です。

人気脚本家だったダルトン・トランボでしたが、アメリカ共産党員だったため、
女性コラムニストのホッパーや俳優ジョン・ウェインら
「アメリカの理想を守る映画連盟」から軽蔑・批判されていました。
どうも大物のようですがホッパーというコラムニストは知りませんが、
西部劇の大スターのジョン・ウェインがそんな政治活動をしていたとはね。
そんな批判もあり、1947年、反共のための下院非米活動委員会は
共産党員の疑いのある10人の映画関係者を召喚し、証言させます。
この10人を「ハリウッド・テン」と呼ぶそうで、そのひとりがトランボです。
「ハリウッド・テン」なんて言葉の響きはカッコいいけどね。
委員会で「君は共産党員か」と尋ねられたトランボは「証拠を出せ」とゴネます。
共産主義が正しいという信念があるなら正直に認めそうなものだけど、
やっぱり後ろ暗いところがあるのかもしれませんね。
ゴネて証言拒否した10人は議会侮辱罪で逮捕されることに。
別に共産党員であること自体は何の違法性もないので認めたらいいのに。
まぁ認めたら映画会社から仕事が貰えなくなってしまうけど、
疑われた時点で仕事が貰えなくなるんだから逮捕されないだけマシなのに。
10人はリベラルな判事のいる最高裁に上告しますが、
運悪くリベラルな判事が他界してしまい敗訴、実刑判決を受け刑務所に…。
まぁたかが議会侮辱罪なので、11カ月の禁固刑で済みますが、
憲法で認められている証言拒否をしただけで豚箱に入れられるなんて、
赤狩りって無茶苦茶ですね。

服役中、共産党員仲間だった俳優エディ・ロビンソンが委員会に召喚されるが、
彼は保身のために仲間を売り、トランボらを共産党員だと告白するのです。
トランボの裁判中は所蔵するゴッホの『タンギー爺さん』を売って、
裁判費用を工面してくれたり、いい人かと思ったけど、
さすがはギャング役俳優だけあって、正真正銘の悪者でしたね。
ロビンソンの裏切りでトランボは共産党員と完全に特定されてしまい、
共産党員の映画関係者である「ハリウッド・ブラックリスト」に列記され、
出所しても仕事が全く貰えない状況になります。
トランボは自分の名前では脚本が売れないと考え、
まだ疑いが掛かっていない仲間の脚本家イアン・マクレラン・ハンターに
新作映画の脚本を渡し、彼の名義で発表してもらうことにするのです。
それがなんとあの名作『ローマの休日』の脚本だったのです。
『ローマの休日』ってそんな名義貸しが行われてたんですね。
もっともそのタイトル(Roman Holiday)はイアンが付けたものらしく、
トランボの付けた仮題は「王女と小作農(The Princess and the Peasant)」で、
その仮題ではヒットしてないかもしれませんね。
イアンはギャラの3割を受け取る契約ですが、労せず儲けられて羨ましいです。
いや、『ローマの休日』がアカデミー原案賞なんて受賞してしまうから、
オスカー脚本家として期待されることになり、プレッシャーで押し潰されるかも。

『ローマの休日』のギャラだけではまだ生活が維持できないトランボは、
B級映画製作会社キング・ブラザーズで、B級映画の脚本を書くことに。
一応偽名で書くものの、同社は儲かれば共産党員でもお構いなしで、
一流脚本家が格安で脚本を量産してくれることを歓迎します。
社長は「アメリカの理想を守る映画連盟」が脅迫同然の警告に来ても
バットを振り回して追い返してしまうので痛快です。
ギャラが格安と言っても、一本1200ドルくらい貰えるし、
たかがB級映画なので有能なトランボにとっては3日で書けるので、
日給400ドルならけっこういい稼ぎかもしれませんね。
全て一から書くわけじゃなくて、別の脚本家が書いた駄作の手直しが多いし。

トランボはブラックリスト入りして仕事がない仲間の脚本家にも声を掛け、
みんなで様々な偽名を使ってB級映画を量産して稼ぎます。
ただ、仲間のひとりアーレンはB級映画の脚本なんてプライドが許さないようで、
脚本の手直しを拒否して脱退してしまうのです。
まぁB級エロSF映画『エイリアンと農婦』の脚本なんて不本意だろうね。
アーレンはその映画に共産主義的思想を込めようとしますが、
トランボに「そんなの会社も客も求めてない」と説教されるのです。
逆にトランボは生活を賭けてまで共産主義に傾倒しているのに、
自分の作品には思想を込めたいとは思わないのでしょうか。
映画なんて絶好のプロパガンダのツールなのに使わないと勿体ないです。
だから非米活動委員会も共産党員の映画関係者を警戒するわけですが。
まぁ求められているものを作るのが一流のプロってものかな。

B級映画を量産する傍ら、トランボは長年構想を練っていた脚本も執筆。
それをB級専門のキング・ブラザーズ社から映画化するなんて、
なんか勿体ない気がしてしまうのですが、なんとその作品『黒い雄牛』が
またしてもアカデミー原案賞を受賞してしまうのです。
連盟に加盟する大手にしか受賞させないクソな日本アカデミー賞と違って、
本家アカデミー賞は出来次第で弱小映画会社にもチャンスがあるんですね。
もちろんトランボ名義では受賞は無理だったでしょうが、
ロバート・リッチという偽名を使い、授賞式も代役を立てます。
『黒い雄牛』は未鑑賞ですが、オスカー取るくらいだから傑作なのでしょうね。

世間は謎の脚本家リッチの話題で持ち切りとなりますが、
わかる人にはわかるみたいで、俳優カーク・ダグラスは自身の主演作
『スパルタカス』の脚本の手直しをトランボに依頼するのです。
撮影前に『スパルタカス』の脚本をどこかで読んだオットー・プレミンジャー監督も
トランボに新作映画『栄光への脱出』の脚本を依頼します。
やっぱりいい映画なら共産党員でも関係ないと思っている人もいるのですね。
『スパルタカス』公開前、その脚本を書いたのがトランボだと気付いた
「アメリカの理想を守る映画連盟」は不買運動を呼びかけます。
トランボはテレビに出演し、謎のオスカー脚本家は自分であると公表し、
「私のオスカー受賞でブラックリストは有名無実化した」と宣言。
それを受けてプレミンジャー監督は『栄光への脱出』の脚本が
トランボであることを発表し、カーク・ダグラスも追随し、
『スパルタカス』でトランボをクレジットすることを決めるのです。
さらに『スパルタカス』を見たジョン・F・ケネディ大統領が大絶賛し、
ブラックリストは完全に意味を為さなくなるのです。
いやはや、さすがはケネディ大統領、やることが粋だね。
ただ、この『スパルタカス』ですが、確かに面白い作品ではあるけど、
脚本に関してはドタバタがあったことが有名で、キューブリック監督が
トランボの脚本が気に入らず書き直したりしてるんですよね。
クレジットはトランボになったけど、彼の脚本と呼べるかどうか…。

トランボは実名でハリウッドに復帰を果たし、
1970年、脚本家組合からローレル賞(功労賞みたいなもの?)が贈られます。
他人名義の『ローマの休日』や偽名の『黒い雄牛』のオスカー像も
改めて受け取ったらしく、めでたしめでたしです。
でも共産主義なんかに傾倒していなければ、端から正当に評価され、
服役やB級映画の執筆に時間を割かれることもなく、
もっと沢山の名作映画を世に送り出せていたかもしれないです。
オスカー像もあと2、3本取れていたかもしれず勿体ない人生です。
まぁそんな弾圧の中でオスカーを取ったことは確かに凄いし、
だからこそこうして伝記映画が作られたわけですが。
天才脚本家の人生自体、面白い脚本のようだったわけですね。

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