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殿、利息でござる!

実写邦画の感想を書くのは今年二本目、三か月半ぶりです。
その三か月半前に感想を書いた実写邦画は『残穢』でしたが、
今から感想を書く作品と同じ、中村義洋監督の作品でした。
私も昔は洋邦、半々くらいで観ていたのですが、
(アニメ映画を除き)邦画にハズレが多すぎ、昨今は洋画九割です。
正直、邦画なんて劇場で観る価値ない、ビデオで十分だと思ってますが、
そんな期待薄な邦画でも、中村義洋監督作は別です。
彼の監督作にはハズレがないという信頼感があるので、
劇場に足を運ぶだけの価値はあると確信しています。
彼ほどではないが信頼感のある日本人監督も何人かいて、
是枝裕和監督や園子温監督などがそうですね。
奇しくも両名の監督作も今月公開されるので、
今月は今年初めて、邦画を二本以上観に行く月になりそうです。
来月監督作が公開される白石晃士監督も好きなので、
暫くは邦画の感想を書く機会も多いかもしれません。

殿、利息でござる!
殿、利息でござる!

二千十六年五月十四日公開。

ホラー、サスペンスからコメディ、ヒューマンドラマまで、
どんなジャンルでも見事に撮る中村義洋監督ですが、
本作でついに時代劇にも挑戦です。
丁髷モノとしては傑作『ちょんまげぷりん』がありますが、
あれは侍が主人公なだけのSF現代劇ですからね。
邦画嫌いの私ですが、(狭義の)時代劇は洋画にはないため、
数少ない邦画で観る価値のあるジャンルでもありますね。
ただでさえ観る価値のある中村義洋監督作ですが、
さらに時代劇とあっては、是が非でも観るべきで期待していました。
そしてその期待を裏切らない傑作時代劇だったと思います。
『武士の家計簿』の歴史学者・磯田道史の短編小説が原作なので、
普通の時代劇と違いチャンバラはありませんが、
この物語が実話を基にしているというのも興味深いです。
以下、ネタバレ注意です。

明和三年(一七七六年)、仙台藩黒川郡吉岡宿では、
お上の物資を隣の宿場まで運ぶ「伝馬役」を課せられており、
その費用は町が負担することになっていましたが、
寂れた宿場町の吉岡宿では、伝馬役が重い負担になっていて、
夜逃げする者が後を絶たず、町の存続の危機でした。
伝馬役は一種の税みたいなものでしょうが、なかなか酷いシステムですね。
そんなの他の宿場町も困っているのではないかと思ったけど、
どうやら他の宿場町には伝馬役への助成金があったようですが、
吉岡宿は仙台藩の直轄領ではなかったので助成金がないみたいで…。

伝馬役の軽減を代官に直訴しようとするほど町の現状を憂う
造り酒屋の穀田屋は、切れ者の茶師・菅原屋に相談。
菅原屋は仙台藩主・伊達重村に一千両を貸し、
毎年払われる利子・百両を伝馬の費用に充てることを思い付きます。
藩に金を貸すわけだから、一種の公債みたいなものかなと思いましたが、
日本国債なんて年何厘の世界なのに、年一割なんて超高利率ですね。
仙台藩主・伊達重村は官位「従四位上・左近衛権中将」がどうしても欲しく、
そのために多額の賄賂(?)を払っているので、財政難だそうです。
その齢二十五歳の藩主をフィギュア選手・羽生結弦が演じています。
彼は仙台出身という縁で出演したみたいだけど、
現役のスポーツ選手を役者に起用するのはあまり感心しません。
今後成績が落ちようものなら、「副業なんてしてるからだ」と叩かれかねず、
起用した本作も批判されてしまうかもしれません。
面白い作品なのにそんなことで評価を下げては勿体ないです。

当時、金貨一千両は銭で五千貫文、現代の貨幣価値で約三億円だそうで、
菅原屋は五千貫文なんて用意できないし夢物語だと安易に提案しましたが、
穀田屋は一人で五千貫文は無理でも同志を十人集めれば、
一口五百貫文で出資してもらい五千貫文用意できると考え、
まず味噌屋を営む叔父を仲間に引き入れます。
いつの間にか菅原屋も頭数に数えられており、これで同志三人、
三口千五百貫文になり、残り三千五百貫文です。
穀田屋ら一介の町人が藩と交渉することは不可能(直訴になる)ので、
村役人の肝煎、更にその上の大肝煎にお伺いを立てると、
肝煎も大肝煎も彼らの町を想う気持ちにいたく感動し、同志に加わり、
同士五人、五口二千五百貫文集まり、残り半分二千五百貫文です。
更に両替屋の寿内が儲け話と勘違いして二口出資しますが、
勘違いだとわかり一度降りるも、見栄から再び同志に。
ただし今度は一口しか出資せず、これで六口三千貫文集まります。
雑穀屋を営む早坂屋も見栄から同志になるのですが、
彼は吉岡宿指折りの大店(おおだな)にも関わらず出資は三百貫文だけ。
趣味の温泉掘りに浪費しているので、出し渋っているみたいです。
ケチな奴だと思ってしまうけど、三百貫文でも千八百万円相当ですから、
それを町のために出すなんてすごいですよね。
寿内もですが見栄のためとはいえ、「やらぬ善よりやる偽善」です。
台所事情の厳しい小間物屋の穀田屋(親戚?)も二百貫文出してくれ、
これで計三千五百貫文集まり、残り千五百貫文です。
たったの八人で約二億円以上集めてしまうなんて凄すぎます。
吉岡宿は寂れた宿場町のはずですが、意外と儲かっているのかも?
まぁ家財売ったり土地売ったり、無理して捻出しているようでしたが。

残り千五百貫文ですが、これ以上同志を見つけることが困難に。
儲かっててもケチだったり、彼らを偽善者扱いする町民も少なからずいて…。
しかし造り酒屋と質屋を営む吉岡宿最大の大店、浅野屋が一口出資、
更に一口、一口と増やし、計三口千五百貫文も出してくれるのです。
浅野屋は守銭奴と評判だったので皆ビックリします。
特に穀田屋は驚愕するのですが、実は彼は浅野屋の実兄ですが、
七歳で同じ造り酒屋の穀田屋に養子に出されていて、
死んだ父と自分の代わりに後を継いだ弟に不信感を持っていたのです。
どうもこの藩に金を貸す計画も、吉岡宿のためだけではなく、
浅野屋の弟を見返してやりたいという気持ちがあったようです。

何の目的で守銭奴の浅野屋が三口も出すのか不思議ですが、
どうも純粋に吉岡宿のためのような感じで…。
町最大の大店としての見栄のためかと思いましたが、
彼ら同志たちは、自分たちが町を救ったと鼻に掛けないように、
出資したことや出資額を一切口外せず、態度も慎むこと、
という「慎みの掟」を子々孫々まで守ることを決めるのです。
道の端を歩け、上座に座るな、というのはやりすぎな気もしますが、
とても尊い、素晴らしい掟だと思います。
ただこの物語が映画になっている時点で口外されているわけですが…。
穀田屋は平成の今でもまだ仙台で酒屋を営んでいると
本作の最後で店の写真付きで紹介されるのですが、
穀田屋の子孫が「慎みの掟」を厳守しているなら、
本作に対して店の写真の使用許可も認めないはずですけどね。

浅野屋の巨額出資のおかげで、ようやく五千貫文集まり、
大肝煎が同志を代表して代官に嘆願します。
嘆願書の内容だと、藩に年一割で金を貸すっていうよりも、
五千貫文差し上げるので伝馬役を助成金ください、って感じですね。
その嘆願書は代官から郡奉行、そして藩の財政担当・出入司に届けられるが、
得取勝手(やった者勝ち)と考えた出入司はそれを却下するのです。
重税を逃れたい民の単なる思い付きと切り捨てたわけです。
まぁ長期的に考えれば、藩にとって損な話だし、却下するのも当然か。

そんなある日、ひょんなことから浅野屋が千五百貫文も出資した
真意が明らかになります。
なんでも守銭奴と評判だった先代浅野屋(穀田屋の実父)は、
吉岡宿が錆びれることを憂い、ケチって貯め込んだ銭を、
いつか町のために役立てようと考えていましたが、志半ばに亡くなり、
その意志を次男(穀田屋の弟、現・浅野屋)が継いでいたのです。
だから彼は無私の心で町のために出資できるのですね。
父と弟を守銭奴だと軽蔑していた穀田屋はまたしても驚愕します。
さらに弟ではなく自分が養子に出されたのも、弟が目を患っていて、
父が病人を養子に出すのは申し訳ないと考えたためとわかり、
穀田屋と浅野屋は和解するのです。
この兄弟愛というか家族愛には無性に感動しました。
この辺りのことは、たぶん原作にはないオリジナル展開だと思いますが、
中村監督のコメディはいつも感動できるところがあるのが素晴らしいです。

その話を聞いた大肝煎は感銘を受け再び代官に嘆願。
代官も浅野屋親子の話を聞き、「決して得取勝手な嘆願ではない」と考え、
郡奉行を飛び越し、出入司に直接嘆願してくれ、事情を説明。
出入司もそれならばと許可することになります。
ただし五千貫文ではなく、一千両で納めるように命令するのです。
しかし一千両の相場は、この計画を立てた明和三年では五千貫文でしたが、
嘆願が通った明和九年では五千八百貫文で、あと八百貫文足りません。
その間に藩がどんどん銭を鋳造したため、銭も価値が下がっていたのです。
穀田屋の息子が仙台の大店・三浦屋に奉公に出て、
十年分の給金を前借したりして、なんとか三百貫文を用立て、
残り五百貫文は浅野屋が更に出してくれることになりますが、
浅野屋だけで計二千貫文(約一億二千万円)も捻出しており、
これではさすがに店が傾くだろと思いきや、実際に既に潰れており…。
浅野屋は吉岡宿のために全財産をなげうっていたのでした。
先代もそこまでの無私の心は求めてなかったと思うけど、
ここまでくると奇特というか、ちょっと狂気を感じますよね。

安永二年、ついに一千両用意でき、藩に上納し、町は救われます。
穀田屋ら篤志者は出入司に呼び出され、
褒美として各二両二分もらい、浅野屋だけ三両三分もらいます。
穀田屋らは浅野屋を復興する足しになればと、全員分の褒美を渡そうとするが、
浅野屋はそれも町のために使ってほしいと受け取りを拒否。
ところがそこに藩主・伊達重村がやって来て、彼らに感謝の意を表し、
「これで店が潰れたら藩の面目が立たぬ、店を潰すことはまかりならぬ」と言い、
造り酒屋の浅野屋に「春風」「霜夜」「寒月」という酒銘を与えます。
殿様が命名した酒は大ヒットし、浅野屋は復興を果たし、めでたしめでたし。
でも前述のように現在も残っているのは穀田屋だけのようなので、
浅野屋はこの二百五十年ほどの間に潰れたんでしょうね。

突拍子もない方法で故郷を救うという痛快な物語を軸に、
家族愛や無私の教訓が描かれていて、とても面白い作品でした。
中村義洋監督の次回作も楽しみです。

コメント

浅野屋

浅野屋がどうなったかは、以下のブログに出ていますよ。
http://ameblo.jp/momopi28/entry-12161115587.html

  • 2016/11/01(火) 23:47:08 |
  • URL |
  • 大旦那 #6urEx/7U
  • [ 編集 ]

Re: 浅野屋

なるほど。
火事で潰れたのですか…。

  • 2016/11/05(土) 19:03:21 |
  • URL |
  • BLRPN #-
  • [ 編集 ]

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