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白鯨との闘い

アカデミー賞の俳優部門のノミネートが白人のみとなったことで、
スパイク・リー監督など黒人セレブが授賞式欠席を宣言するなど、
主催する映画芸術科学アカデミーに対する批判が強まっていますが、
暗に「黒人枠を設けろ」とでも言わんばかりのこの批判は
ちょっと違うんじゃないかと思ってしまいます。
まるで候補を人種で選んでいるみたいな言いがかりですが、
逆に黒人枠なんて設ける方が人種で選ぶことになるし、
俳優部門は純粋に演技で選ばれるべきで、
その結果が白人ばかりになったなら仕方のないことです。

もちろん投票するアカデミー会員は9割が白人なので、
選考段階で黒人が不利なのは間違いないけど、
そもそもアメリカの黒人の割合は1割強ですからね。
二年連続ノミネートされなかった黒人なんてマシな方で、
アジア系なんて2006年にノミネートされた菊地凛子以来、
十年以上連続でノミネートされてないけど、誰も文句言わないよ。
黒人は何でもすぐに人種差別とか言いすぎな気がします。

ということで、今日も白人俳優が主役の映画の感想です。
黒人キャラもいますが、まさかあんな役回りとは…。

白鯨との闘い
In the Heart of the Sea

2016年1月16日日本公開。

本作はハーマン・メルヴィルが書いた海洋小説『白鯨』の映画化、
…ではなく、『白鯨』の物語のモデルとなった1820年に起こった
捕鯨船エセックス号の沈没事故について書かれた
ノンフィクション本『復讐する海 捕鯨船エセックス号の悲劇』の映画化です。
簡単に言えば『白鯨』のモデルとなった物語ですね。
『白鯨』は超有名な小説なので、当然私もよく知っている、
…と言いたいところですが、私は読んだことがなく、
これまで何度も映像化された作品も、ひとつも見てません。
なんというか、鯨漁の物語なので、捕鯨問題が頭を過ぎって、
イライラしちゃう気がするので見る気にならないんですよね。
私は捕鯨に賛成も反対もしないけど、反捕鯨には反対で、
特に外国からの日本の捕鯨を批判されるのは不愉快。
別に私自身は鯨なんて不味いもの食べたくないけど、
日本の伝統文化に口出しするな、って思います。
そもそも鯨が減って捕鯨を規制しなくてはならなくなったのは、
19世紀から主にアメリカやオーストラリアが鯨油目的で乱獲したのが原因。
『白鯨』はそんなアメリカの捕鯨を描いた物語なので、
心穏やかに見れる(読める)気がしません。

それは『白鯨』のモデルとなった物語である本作でも同じですが、
それでも観ようと思ったのは、全米初登場2位のヒット作だったことと、
かなり面白かった一昨年の映画『ラッシュ プライドと友情』の
ロン・ハワード監督と主演クリス・ヘムズワースの再タッグだからです。
その期待感が捕鯨問題への不快感を上回ったので観に行きました。
そして期待通り、満足いく内容でした。
まぁちょっと捕鯨の描き方に気に入らないところはありますが…。
以下、ネタバレ注意です。

1850年、売れない小説家メルヴィルは、次の小説の題材にするため、
30年前に沈没した捕鯨船エセックス号の生き残りニーカソンから、
沈没の真相を聞こうと彼が営む宿屋を訪ねます。
文豪ホーソーンに憧れるメルヴィルでしたが、処女作『タイピー』以降、
全く鳴かず飛ばずで、次回作で起死回生をはかっていたので、
全財産を渡して、エセックス号沈没の真相を話してもらおうとしますが、
ニーカソンは「ただ座礁した」の一点張りで、話を頑なに拒否されます。
しかしニーカソンも沈没の辛い経験のせいか飲んだくれていて、
宿屋の経営が厳しく、彼の妻は話すように夫を説得します。
この導入のシーンは、本作の物語が『白鯨』のモデルになっていると
説明するためのものでしょうが、ニーカソンの経験談として観ると、
けっこう辻褄が合わないところが出てくるため、あまりよくないかも。
回想録にしないで、単なる伝記映画にした方がよかった気もします。

鯨油の需要が高かく捕鯨産業が儲かった1820年。
世界有数の捕鯨港ナンタケット島から捕鯨船エセックス号が出港します。
その船に14歳の少年ニカーソンは新米船員として乗ります。
船主は捕鯨未経験だが名家の息子ポラードを船長に抜擢するが、
今回の航海で船長を任されるはずだったベテランの一等航海士チェイスは
家柄だけで選ばれた新米船長に不満を持ちます。
出港時も括帆索が開かないトラブルに見舞われるが、
経験不足のポラードがアタフタする中、チェイスが華麗に解決します。
ポラードにとっても船員の人望が厚い敏腕チェイスは目障りな存在です。
『白鯨』の人望の厚いエイハブ船長とは全く違う人物像のようですね。

その後、ポラードは自分もいいところを見せようと、
スピードを上げるため補助帆を張るように指示します。
チェイスは強風が吹いているので、補助帆は必要ないと懸念しますが、
その懸念は的中し、船は全速力で嵐の中に突っ込んでしまうのです。
チェイスが船長の指示を無視して帆を切り離し、沈没は免れますが、
ポラードはチェイスに命令無視の責任を取って辞表を書けと言い、
更に船の修理のために帰港すると言い出します。
チェイスは鯨油2000樽持ちかえれば次は船長にしてもらうことを
船主と約束しているので、このまま帰るわけにはいきません。
チェイスは「鯨油も持たずに帰ればポラードの名に傷が付く」と説得。
ポラードも納得し、お互いの思惑が一致し航海を続けることになります。
ここからはチェイスとポラードが揉めることはほとんどありません。
この2人の対立を軸に物語が進むと思っていたので、
鯨が一頭も現れないうちに和解(?)しちゃったのは意外でした。

出港から3カ月、南大西洋でついにマッコウクジラの親子を発見。
小舟を出して鯨に近づき、チェイスが銛綱を投げ刺して仕留めます。
昔の捕鯨ってこうやってしてたんですね。
もっと驚いたのは鯨油の採取方法で、船上で煮込んで絞り出すんですね。
てっきり鯨本体ごと持ち帰るのかと思っていたので意外でした。
脳油という特に高級な鯨油は激臭の体内に入って汲み出すみたいです。
食用にもする日本と違い鯨油だけが目当てだから、
鯨油だけ絞って肉は海に投棄しちゃうみたいです。
この大きな鯨一頭で47樽分の鯨油が取れたみたいですが、
2000樽も持ち帰るつもりなんて、一船で何十頭の鯨を捕る気なのか…。
そりゃ鯨が減少して当たり前ですよ。

実際に大西洋では鯨油目的の乱獲によって鯨が減っており、
エセックス号は太平洋まで遠出するしかなくなります。
船倉が空なので補給のためにエクアドルのアタカメス港に寄港すると、
そこでスペインの捕鯨船サンタマリア号の船長と会い、話を聞きます。
彼の船は白い鯨に襲われて沈没し、彼自身も片腕を失ってました。
しかし船が襲われた遠海漁場には100頭以上の鯨がいると聞き、
ポラードとチェイスは未知の海域である遠海漁場に行くことを決めます。
思惑も一致して、すっかり仲良しな感じですね。
『白鯨』だと白鯨の発見場所は日本の沖らしいけど、
遠海漁場って具体的に太平洋のどの辺りなんでしょうね?

出港から14カ月、遠海漁場に到着しますが、隻腕船長の言った通り、
何十、何百もの鯨の群れに遭遇します。
ポラードとチェイスは喜び勇んで捕まえるため小舟を出しますが、
そこに巨大な白っぽい鯨が現れ、尾ひれでチェイスの小舟を転覆させ、
本船エセックス号に体当たりし始めるのです。
チェイスは急いで本船に戻り、最大の銛綱を白鯨に撃ち込むが、
白鯨が銛綱の刺さったまま急速に潜水したから大変。
マストが折れたり、鯨油に引火したりと船体が大打撃を受け沈没し始めます。
船員も二名死亡しますが、生き残った船員はエセックス号を捨て、
3隻の小舟に乗り込んで脱出するのです。
白鯨に襲撃されるシーンはかなりの迫力で興奮しました。
本当に怪獣に襲われているような感じでしたね。

ポラードやチェイスらは3隻の小舟で漂流することになります。
イースター島を目指しているのですが、計器もないので難しく…。
そんな折、嵐に見舞われてチェイスの親友マシューが頭に怪我をします。
この嵐の最中、チェイスは水面に白鯨の姿を見るのですが、
その時はこれは現実なのか錯覚なのかわかりませんでした。
しかし漂流34日目、ついに陸地を発見した直後、再び白鯨に襲撃され…。
白鯨はずっとポラードたちの小舟の後を尾いてきていたみたいです。
嵐の時に見たのも錯覚ではなかったのでしょうが、
一カ月以上も鯨が尾けて来るなんて、ちょっとリアリティがないですよね。
白鯨は遠海漁場の鯨の群れを守っていたのかと思ったのに…。
しかも丸一カ月以上手を出さずに、島を発見した途端に襲ってくるなんて、
まるで喜びの絶頂から絶望に叩き落そうとしているみたいです。
結局、彼らは襲われながらも陸地に漂着します。

しかしそこはデューシー島という無人島で…。
そこの洞窟には漂流者と思われる人骨が転がっており、
ここで救助を待っていても無駄だという結論に達し、
ポラードとチェイスは再び漂流することにします。
しかし怪我人マシューと他3人は島に残ることにします。
私も島に残る方が生き残れる確率は高いと思いましたが、
ほとんどの船員は漂流することを選ぶんですよね。
そんなことをしたら、また白鯨に襲われるかもしれないのに…。

漂流48日目、ポラードの小舟とチェイスの小舟が一時逸れてしまいます。
そんな中、チェイスの小舟に同乗していた船員が衰弱死します。
別の船員が水葬しようとすると、チェイスは「貴重な物は捨てない」と、
死んだ船員を解体し、食料にするのです。
その小舟にはニーカソンも乗っていて、彼も已む得ず食べたのですが、
それを恥じてメルヴィルに話すまでずっと黙っていたみたいです。
たしかに食人はゾッとしないことだけど、この場合は仕方ないですよね。
といってもやっぱり人に知られたくない経験ではあるかな。
一方漂流71日目、ポラードの小舟でも食料が尽きて食人することになるが、
こちらは誰も死んでないので、クジ引きで食料になる人を選ぶことに。
これは死人を食べるよりも罪が重いことのように思えますが、
ポラードも含めての平等なクジなのが救いかな。
そしてなんとポラードがハズレを引いてしまうのです。
ところが船長が死んだら困ると言うことで、ポラードの従弟コフィンが自殺。
コフィンが食料になるのですが、彼の自己犠牲は尊いとも思うけど、
従兄を食べるより死んだ方がマシと思っただけかもね。
このポラードの小舟での出来事を、その場にいなかったニーカソンが
回想するのはおかしいと思うんですよね。
他にもこの物語にはニーカソンが知り得ないところが多く、
彼の回想録にすると辻褄が合わなくなると思うんですよ。

その後、2隻は合流しますが、そこに再三白鯨が現れるのです。
まだ尾けてきていたとは本当に執念深い怪物です。
ポラードはチェイスに白鯨をヤスで突き殺すように命令しますが、
チェイスは白鯨と目が合い、突き刺すのを思い留まるのです。
憎い相手なのに、その眼差しに神聖なものを感じ取って躊躇った感じです。
やはり鯨は殺してはいけない神聖なものとして描いているのかも。
なんだか反捕鯨思想を感じるので、ちょっと不愉快な展開でしたが、
そうしないと反捕鯨国で観てもらえなくなるから配慮したのかも。
まぁ好意的に考えれば、ここでまた白鯨を攻撃したら、
手痛い反撃を食らうので、スルーすることにしたのかも。
実際、白鯨は小舟に致命傷を負わせることもなく去ります。

漂流87日目、とある船がポラードの小舟を発見し救助します。
漂流90日目、依然漂流中のチェイスの小舟の上空に海鳥が現れます。
海鳥がいるのは陸地が近い証拠で、間もなく小舟はチリの港に漂着します。
生存者たちはナンタケットに帰郷しますが、エセックス号の船主は、
鯨に襲われたことや食人したことは捕鯨産業のイメージダウンになるので、
真実を隠して沈没の原因は座礁したことにしろと彼らに命令。
しかしポラードは審問会で、沈没は白鯨が原因だと発言するのです。
ここで暴露してるなら、わざわざメルヴィスがニーカソンを訪ねなくても、
エセックス号沈没の真実は知れ渡ってそうな気もするのですが…。
親友マシューを救出するために無人島に行くチェイスに
ニーカソンは最後の別れの挨拶をするのですが、
「あなたと一緒に航海できて光栄でした」とか言ってるし、
1820年の彼はこの経験を恥じてる様子でもないので、
1850年の飲んだくれの彼になるとは考えにくい気がするんですよね。

ニーカソンから真相を聞いたメルヴィルは、
「私が書きたいのは危険な漁場に足を踏み入れる勇気だ」といい、
その話をモデルにフィクションとして『白鯨』を執筆します。
過激なノンフィクションより海洋冒険もの小説の方が売れるだろうし、
食人のエピソードは伏せているため、ニーカソンへの配慮もあるでしょう。
メルヴィルの『白鯨』は文豪ホーソーンからも絶賛され、めでたしめでたし。
でも実際には『白鯨』はメルヴィルの存命中、あまり売れなかったようです。
ニーカソンに全財産渡しちゃって、彼は大丈夫だったのでしょうか?

構成に疑問は残るものの、白鯨の登場シーンは大迫力だったし、
鯨油目的の捕鯨がどういうものだったか知れて興味深かったので、
なかなか楽しめた作品でした。

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