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サンドラの週末

先達て第68回カンヌ国際映画祭の授賞式が行われましたが、
今年もいつものことながら、あまり話題になりませんでしたね。
コンペ部門に出品された是枝裕和の『海街diary』が、
パルムドールとまではいかなくても何か受賞していたら、
もっと報道でも取り上げられたかもしれませんが。
彼の前作『そして父になる』なんて、たかが審査員賞だったのに、
めちゃめちゃ報道されたし、そのお蔭で大ヒットしましたからね。
かく言うボクも大して注目はしてなかったので、授賞式の結果を見て、
監督賞の台湾映画『黒衣の刺客』に妻夫木聡が出演していたと知ったのですが。
ちなみにパルムドールはフランス映画『Dheepan』でしたが、
どうも重そうな印象なのであまり観たい気はしないけど、
映画ファンとしては三大映画祭の頂点くらいは観ておかないと…。

ということで、今日は昨年パルムドールを争ったフランス映画の感想です。

サンドラの週末
Two Days, One Night

2015年5月23日日本公開。
マリオン・コティヤール主演のヒューマンドラマ。

体調が思わしくなく休職していたサンドラ(マリオン・コティヤール)は、復帰のめどが立った矢先の金曜日、ボーナス支給のため一人のクビを切らなくてはならないと解雇を通告される。ところが、同僚の計らいで週明けに職員たちが投票を行い、サンドラのためボーナス返上を受け入れる者が半分以上になればクビを回避できるという。その週末、月曜日の投票に向けサンドラは同僚たちの説得するため奔走するが……。(シネマトゥデイより)



本作はパルムドールも2度受賞したカンヌ国際映画祭コンペ部門の常連
ベルギーの監督ダルデンヌ兄弟の最新作で、
昨年のカンヌで当然のようにコンペ部門にノミネートされました。
6作連続のノミネートだったらしいですが、全5作は主要賞を貰ってますが、
本作は無冠だったみたいで、受賞記録は5作で止まってしまいました。
とはいえ、6作連続でノミネートされるってだけでも凄まじいですね。
しかしカンヌのノミネートなんかより何気に凄いと思うのは、
アカデミー主演女優賞にノミネートされたことです。
本作はフランス語映画なので、英語映画が中心のアカデミー賞では
かなり不利を受けるはずなのに、このノミネートは驚きでした。
主演女優はもちろんフランス語で演技していますが、
そんな外国語での演技がアメリカで認められたなんて意外です。
まぁその主演女優はハリウッドでも活躍しているマリオン・コティヤールなので、
知名度では他の候補と遜色ありませんし、たしか彼女は
過去にもフランス語映画でオスカー受賞していたように思います。
言葉の壁を乗り越えて評価されるなんて、どんな素晴らしい演技かと思いきや、
たしかに好演だけど、彼女はいつもこのくらいの演技はしている気がするので、
今回に限って特別素晴らしかったという印象はないかも。

ボクはカンヌ映画祭コンペ部門出品くらいでは観に行きませんが、
アカデミー賞主要部門候補は全て観ると決めているので本作も観に行きました。
でも本当はあまり観たいとは思わないというか、
なるべくなら観たくないと思っていた作品なんですよね…。
ある会社が業績不振で社員にボーナスが払えないため、
休職中の女性社員を解雇して他の社員にボーナスを出すか、
全員ボーナスを諦めて彼女の復職を認めるかを、社員の投票で決めることになり、
彼女は復職のために同僚一人一人を説得して回る、という物語ですが、
この物語はボクのような弱い立場の労働者にとってかなり不愉快で、
こんな映画を心穏やかに観れる自信がありませんでした。
それにこんな投票、どう考えたって結果は決まってるし、
きっと報われない話に違いないと思うと観るのが億劫で…。
オスカー候補じゃなかったら絶対スルーしていたはずです。

重い足取りで観に行き、いざ観始めてみると、
やはり序盤は穏やかな気持ちで観られず、かなりイライラしましたが、
徐々にその感情も和らぎはじめ、意外にもどんどん面白く感じて…。
なんでしょうね、彼女の会社があまりにブラックだし、お先真っ暗な業態なので、
こんな会社なら解雇されても構わないんじゃないかと感じ、
投票の結果には拘らずに観られるようになるんですよね。
まるで『LIAR GAME』というか『清須会議』のような、
如何に多数派工作するかという試合を観ているような気持になります。
結果はわかりきってると思っていた投票も、意外と接戦の様相を呈し、
どちらに転ぶかわからなくなるのもドキドキして楽しいです。
どちらに転んでも、解雇に決まればブラック会社を辞めれてラッキーだし、
復職に決まれば彼女を辞めさせたかった会社に一矢報いれて痛快です。
なので気楽に成り行きを楽しめました。
以下、ネタバレですが、結果わかった上で観たら楽しさ半減なので、
今後観る予定の人は「Alt」と「←」を同時押し。

ソーラー電池を製造するソルワル社に勤めているサンドラは、
体調不良でしばらく休職しますが、ようやく体調も回復し、
来週から復職しようとした矢先の金曜日、会社から解雇を告げられます。
なんでもアジア勢に押されて業績が思わしくないみたいで、
社員のボーナスを無くすか、サンドラを解雇しないと厳しいらしく、
先達てボーナスを取るか同僚の復帰を取るか、社員16人で投票し、
14票対2票でボーナスを取ることに決まったというのです。
しかしどうやら主任ジャン=マルクが社員数人に圧力をかけたらしく、
復職に投票したジュリエットがディモン社長に抗議し、
社長は渋々月曜日に再投票を行うことを承諾するのです。
サンドラは週末の2日間で、自分の復職に投票してくれるように、
同僚を説得して回ることになります。

ある意味投票は民主的ですが、こんな解雇方法、日本では認められないでしょうね。
いや、公になればフランスでも問題になるような気がします。
ボクなら同僚の復職のためにボーナスを返上するなんて考えられないし、
ボクが解雇される場合でも、復職に投票してくれる人なんているかどうか…。
2人も復職に投票してもらえたサンドラはかなり恵まれている気がしますが、
2対14から巻き返すのはかなり大変そうです。
いや、すでに2票あるから14人中6人説得するだけで済むと考えれば有利なのか。

復職に投票してくれた同僚はジュリエットとロベールの2人。
2人は再投票でも味方になってくれそうなので、他の14人を週末中に説得します。
ロベールからカデールの電話番号を教えてもらり、まず彼を電話で説得することに。
カデールはボーナスはもちろん欲しいけど、サンドラの復職も反対したくないので、
棄権したいと言いますが、サンドラが必死に食い下がり、復職投票に同意します。
1人目から説得成功なんて幸先いいですね。
でも驚いたのが、会話の中で出てきたボーナスの額です。
たったの1000ユーロで、数十万円貰える日本のボーナスとは違いますね。
ボクも数十万と同僚の復職なら絶対に数十万円を選ぶけど、
十数万円となら、仲のいい同僚だったら復職に投票するかも。

土曜日、幸先よく3票確保したサンドラは意気揚々とミレイユの説得に。
しかしミレイユは留守で、先にウィリーの家を訪れます。
ウィリーはサンドラに同情するも、娘が大学に入学して入用なのに、
妻も最近失業してしまいボーナスがどうしても必要で…。
この街の失業率はよほど高いのでしょうね。
そんなことを言われたらサンドラも強引に説得できるはずもなく…。
本作は復職反対の人もそんなに悪く描いていません。
ウィリーもせめても協力と、他の人の住所を教えてくれますが、
普段は優しい同僚なんでしょうね。
そんな人にこんな残酷な選択を迫る会社はホントに酷いです。
どんな結果になっても同僚同士で職場に遺恨が残りそうで、
こんなことをしていたら業務に支障が出る気がします。

さっき留守だったミレイユの家に行くと、ちょうど帰ってきたところでした。
彼女は離婚したばかりで、新しい恋人との新生活のために
ボーナスで家電を買いたいと断言し、復職には投票してくれません。
てっきりサンドラが訪ねてくると知っていて、居留守でも使ってたのかと思ったけど、
ホントに普通に外出していただけみたいですね。
しかし次にナディーヌ訪ねると、インターホンに娘が出て「ママはいません」と。
でも後ろで「いないって言って」という彼女の声が聞こえて…。
どうやら居留守していたようですが、ナディーヌとは仲が良かったので幻滅します。
女の友情なんて所詮そんなものなのかなと思っちゃいますね。
期待していたナディーヌにまで裏切られて三連敗、サンドラも自信喪失です。

重い気持ちのままティムールを訪ねますが、
彼はサンドラの説得を聞き、涙ながらに「もちろんそうする」と答えます。
どうやら前回の投票でボーナスを選んだことに罪悪感があったようですが、
なんでも以前に自分の仕事のミスをサンドラに被ってもらったことがあり、
恩を感じていたみたいで、まさに「情けは人の為ならず」ですね。
少し希望が見え、次のイシャムを訪ねますが、彼は家におらず…。
しかし飲み物を買いに立ち寄った店で偶然会います。
彼は週末はこの店で働いているみたいですが、光熱費も滞納し、
Wワークしないと生活できないほど困窮しているみたいです。
彼の妻がアラビア語を話していたし、どうも彼は中東からの移民のようで、
きっと他の人よりも低賃金で働いているのでしょう。
もちろんボーナスに投票するつもりですが、サンドラもそれを責められず…。
でも誰か解雇するなら外国人労働者なんて真っ先に切られそうなのに、
自国民のサンドラを切るなんて、意外とフェアな会社かも。
彼は立場的に弱いためか、主任に圧力をかけられた一人のようで、
主任から「病み上がりは使えない」と言われたみたいです。

続いてウィリーから聞いたイヴォンの家に行きます。
イヴォンの息子ジェロームも同じ会社で働いていますが、
父子ともにボーナスに投票するつもりです。
特にジェロームは、説得しに来たサンドラに対し「ボーナスは働いた分だ」
「お前は金を奪う気か」と突き飛ばすのです。
たしかに賃金の一部であるボーナスを受け取る権利を主張するのは当然ですね。
まぁボーナスを払わないのは会社で、サンドラには非はありませんが、
例え自分が反対しても、多数決で復職が決まれば彼もボーナス無しだし、
彼女が皆を説得して回るのに焦りを感じるのもわかります。
イヴォンはサンドラを突き飛ばした息子ジェロームを止めようとしますが、
息子はそんな父をぶん殴り、去ってしまいます。
サンドラは殴り倒されたイヴォンを介抱しますが、彼女に優しくされたためか、
それとも息子の行為を申し訳なく思ったのか、復職に賛成してくれることに。
当初は父子ともに反対だったので、ちょっと痛い目にはあったけど、
1票獲得できて「災い転じて福となす」ですね。
ただサンドラはジェロームの「金を奪う気か」が相当堪えたみたいで、
この日はもう他の同僚を訪ねる気にもならず帰宅。
ジュリエットから「ミゲルが味方する」という電話を貰ったのに、不貞寝します。

日曜日、ナディーヌと同じくらい仲の良かったアンヌを訪ねますが、
彼女は夫がボーナスを家のリフォーム代にするつもりなので、
夫に相談してから連絡すると約束。
サンドラは期待せずに待ちながら、先にジュリアンの家を訪ねますが、
彼の妻からエホバの証人と間違えられたのは笑えました。
あの教団は世界中で急に他人の家に押しかけて迷惑かけてるんですね。
ジュリアン本人からは「誰が賛成している?」と聞かれますが、
サンドラは「無記名投票だから」と答えません。
あれ?昨日までは誰が賛成か説得する時に言ってたのに?
ジェロームの件を受けて職場の人間関係を心配しちゃったのかな?
ジュリアンは復職反対で「仕事は16人で足りてる」とまで言います。
「17人になれば残業がなくなり、残業代がなくなって困る」と…。
その言い分はわかるけど、この会社が残業代なんて払うはずがなく、
どうやらサンドラの心を折るための方便だったみたいで、
彼もジェロームと同じでサンドラの説得行脚が目障りなようです。
まんまと心を折られたサンドラは再びアンヌの家に行くと、
彼女の夫が出てきて「面倒を持ち込むな」と怒られ、完全に戦意喪失です。

それどころか、もう生きる気力も失ったのか、
帰宅後、精神安定剤を一箱丸ごと飲んでベッドに…。
その直後、アンネが訪ねてきて、復職に賛成すると言ってくれますが、
サンドラは病院に担ぎ込まれて…。
すぐに治療を受け、その日のうちに退院できましたが、下手すれば死んでました。
もし本当に彼女が死ねば、こんな解雇を行った会社も大問題になったでしょうね。
彼女が助かって、会社も助かっちゃった感じで、良かったやら惜しいやら…。
でも彼女が何の病気で休職していたのかは明言されてないけど、
同僚に会う度に精神安定剤を何錠も飲んでるし、ホントに回復してるのかな?
こんな状態なら主任の言うように「病み上がりは使えない」んじゃない?
それにしても、アンネの精神状態もちょっと疑ってしまいます。
なんと彼女は復職に賛成するために反対する夫と離婚したのです。
ボーナスどころか家族まで捨てて同僚の復職を望むなんて異常でしょ。
しかもまだ復職が可決する保証はなく、下手したら離婚損です。

退院したサンドラは夜のうちに残る3人を説得することに。
まずドミニクを訪ねますが、彼はサンドラに復職してほしい気持ちはあるが、
家の働き手は自分だけなので、ボーナスがないと生活が苦しくなるため反対。
続いてシャルルを訪ねますが、彼は留守で当日説得することに。
最後にアルフォンスを訪ねますが、彼は黒人で、たぶん移民でしょうね。
彼は敬虔なクリスチャンらしく「主は隣人を助けよと言っている」と、
サンドラを助けたい気持ちはあるみたいです。
彼は臨時雇いなのでボーナスも僅かなため金の問題で反対してはいないが、
やはり移民で臨時雇いのイシャム同様、立場がかなり弱いみたいで、
主任から「同僚とモメるぞ」と脅されて、前回はボーナスに投票したそうです。
でも再投票では勇気を出して復職に投票してくれると言います。
いやー、エホバの証人以外のクリスチャンには奇特な人もいたものです。

そしていよいよ再投票当日の月曜日。
まず昨日会えなかったシャルルを説得しますが、彼は「どうかな」と明言を避けます。
この答えでは十中八九、復職には投票してくれないでしょうね。
この時点でのボクの票読みでも半数に届いている気がするので、
票読み通りの結果になれば接戦が予想されますが、
復職賛成を約束した人が、全員本当に復職に投票するとは思えません。
投票も無記名で、誰が反対したかなんてわからないんだしね。
ボクも創価学会の知人に、選挙のたび「公明党候補に投票して」とお願いされるけど、
「わかった」と言いつつ別の党の候補に投票しますからね。
まぁ知人は気づいたのか、最近は疎遠にされちゃってますが、
サンドラの場合は解雇が決まれば二度と会わない人なので裏切りやすいです。
なので予想としては4対12、…いや前回同様2対14で負けもあり得ると思いました。

ところが、なんと投票結果は8対8のイーブン。
ジュリエット、ロベール、カデール、ティムール、イヴォン、ミゲル、
アンヌ、アルフォンス、復職に投票を約束した全員が本当に約束を守りました。
これは意外な結果でしたが、人間は捨てたものじゃないなと感動しました。
しかし復職の条件は半数の賛成票ではなく、過半数の賛成票だったので、
イーブンではサンドラの復職は否決されてしまいます。
ところがこの接戦は社長も予想外だったみたいで、彼も感動したのか、
「半数も説得するとはお見事、皆にボーナスも払い、君も復職させる」と。
予定調和な気もするくらいの一発逆転です。
ただ「16人で足りるので、9月の契約更新で臨時雇いを切ってから復職」と…。
それでは賛成票を投じてくれたアルフォンスが自分の代わりに職を失うので、
サンドラは「誰か切るなら願い下げよ」と言い放ち、会社を去ります。
社長は「信じられない」といった面持ちでしたが、なんかスカッとしました。
まぁ社長よりも主任を凹ましてやりたかったですけどね。

会社を出たサンドラは、夫マニュに電話で敗戦を告げ、
「これから少し生活が大変になるわね」と言いますが、その顔はとても晴れやかです。
そもそも彼女の家庭は、同僚の何人かの家庭に比べても裕福な方です。
共働きなので、妻が失業しても収入が全くなくなるわけでもないし、
序盤で夫が「ボクの稼ぎだけじゃ家賃にもならない」と言ってましたが、
家賃に収入の半分以上使うなんて贅沢しすぎです。(家はかなり立派です。)
そんな生活を改めれば余裕で暮らしていけるでしょう。
どうせソルワル社に勤め続けても、あんな社員を大切にしない企業は泥船で、
数年のうちに倒産するに決まってるし、少しでも早く職探しできてラッキーです。
あんな無茶な投票で半数を取れた根気があれば、いい仕事も見つかります。
サンドラは美人だからオスカー女優にでもなったらいいです。

さてさて、第87回アカデミー主演女優賞候補作も残り2本。
オスカー受賞したジュリアン・ムーアの『アリスのままで』が来月公開。
最後の1本、リース・ウィザースプーン主演の『わたしに会うまでの1600キロ』は
8月公開になので、まだまだ先になりますね。

第87回アカデミー主演女優賞候補作の感想
ゴーン・ガール
博士と彼女のセオリー

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