ブログデンティティー

blog-dentity since 2013

フォックスキャッチャー

第65回ベルリン国際映画祭も、いつの間にか終わってた感じです。
世界三大映画祭のひとつなのにこれだけ注目されないのは、
やっぱりアカデミー賞を控えた時期に開催するからでしょうね。
金熊賞の結果よりも、米脚本家組合賞や米監督組合賞など、
アカデミー賞の前哨戦の結果の方が気になりますもんね。
でも昨年は黒木華が銀熊賞を受賞したことで、少し注目されましたが、
やっぱり日本映画が受賞に絡めば関心も高まるのかな。
今年はSABU監督の『天の茶助』がコンペに出品されていましたが、
誰も受賞すると思ってないからか、出品されていたことも話題にならず…。
在仏日本人監督の短編がアウディ短編映画賞を受賞したらしいけど、
聞いたこともないその賞にどれほどの価値があるのかもわからないし、
そもそも日本映画じゃなくて日本人が撮ったフランス映画だと思うので、
これでは日本で注目されないのも仕方がないです。

金熊賞はイランの『タクシー』でしたが、なんでもジャファル・パナヒ監督は、
反政府活動を支持したため国内軟禁され、授賞式にも出られませんでしたが、
そんな彼の作品が受賞すると、同情票のような印象を受けてしまい、
作品は本当に素晴らしいのだろうか?…と思ってしまいます。
でも銀熊賞(審査員グランプリ)のチリ映画『The Club』は、
カトリック教会を批判する内容らしくてちょっと面白そうです。
ぜひ日本でも公開してほしいですね。

ということで、今日は三大映画祭のひとつで監督賞を受賞した作品の感想です。

フォックスキャッチャー
Foxcatcher.jpg

2015年2月14日日本公開。
ベネット・ミラー監督が、1996年にアメリカで起こった事件を映画化。

大学のレスリングコーチを務めていたオリンピックメダリストのマーク(チャニング・テイタム)は、給料が払えないと告げられて学校を解雇される。失意に暮れる中、デュポン財閥の御曹司である大富豪ジョン・デュポン(スティーヴ・カレル)から、ソウルオリンピックに向けたレスリングチーム結成プロジェクトに勧誘される。同じくメダリストである兄デイヴ(マーク・ラファロ)と共にソウルオリンピックを目指して張り切るが、次第にデュポンの秘めた狂気を目にするようになる。(シネマトゥデイより)



本作は本年度アカデミー賞に5部門ノミネートされている作品です。
オスカー候補はなるべく観ることにしているので、本作も例外ではないですが、
正直、オスカーに輝くとは思っていません。
ボクはオスカーの本命は『アメリカン・スナイパー』ではないかと思っているので、
今週末公開の『アメリカン・スナイパー』に気持ちが向いてしまっていて、
その前週(先週末)公開の本作のことはあまり注目してなくて、
とりあえずオスカー候補だから観ておこうと、映画ファンとしての義務感というか、
強迫観念で観に行っただけでした。
本作は権威あるカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞しているので、
実績としては申し分ない作品ですが、カンヌ絡みは退屈な作品が多いので、
その受賞歴はボクにとってマイナスで、正直あまり期待してなかったです。

そのため本作のことはノーマークで、何の予備知識もなく観に行ったのですが、
結果的にこれが功を奏したような気がします。
けっこう楽しめましたが、「期待してなかった割によかった」ということではなく、
どんな展開になるか全く知らずに観れたことがよかったです。
実話を基にした作品で、宣伝や映画サイトの紹介文などに
「デュポン財閥の御曹司によるレスリング五輪金メダリスト射殺事件を映画化」
と言及されていますが、ボクはそれすら知らないままに観たので、
デュポンがどういう男なのかも探り探りだったし、彼が殺人を犯すことも知らないので、
最後の凶行は本当に衝撃的だったし、予想外だったのでとても楽しめました。
「デュポンがデイヴを殺す経緯を描いた作品」と意識して観ていたら、
こんな驚きは得られなかったし、たぶんこれほど楽しめなかったでしょう。
宣伝や紹介で殺人事件や射殺事件なんて明言しないで、
「実際の事件を映画化」くらいに留めておいた方がよかったんじゃないかな?
まぁこれだけ衝撃的な事件だから、日本でも報道されただろうし、
実際の事件のことを全く知らない人は少数派なのかもしれませんが…。
以下、ネタバレ注意です。

ロス五輪のレスリング競技で、共に金メダルを獲ったシュルツ兄弟ですが、
レスニング協会がコーチの依頼をしたりと高く評価されるのは兄デイヴばかりで、
弟マークはいつも兄の陰に隠れていることを悩んでいました。
公演の依頼も兄デイヴの代理ばかりだったみたいです。
同じ金メダリストなのに、この扱いの差は少し不思議です。
同時に金メダルということは兄弟で階級が違うってことだと思いますが、
見た目から弟マークの方が重量級なのは間違いないけど、
イメージ的には何となく重量級の方が評価が高そうな気がするんだけど…。
これが持って生まれたスター性ってやつなんですかね?
なんか兄デイヴの方は妻子もいて幸せそうだけど、弟マークの方は独り身だし、
なぜか貧しそうで、兄弟なのにずいぶん性格も生き方も違うものですね。

そんな弟マークに、軍需企業デュポン財閥の御曹司ジョン・E・デュポンから、
「ペンシルベニアのフォックスキャッチャー牧場まで来てほしい」と電話があり、
行ってみるとデュポンから「君のコーチをしたい」と申し出が。
と言っても、デュポンにはレスリング経験はほとんどなく、
若い頃にレスリング選手になりたかったが母に「下品な競技だ」と反対され、
選手になれないなら自分で最高の選手を育てたいと思っている
下手の横好きのオッサンですが、とにかくカネだけは腐るほどあり、
最高の設備や住居、更に2万5000ドルの年棒まで出してくれるそうで、
コーチというかタニマチみたいなものですね。
選手を育てたいと言っても、金メダリストをスカウトするなんてお手軽ですが、
もちろんデュポンが本当に欲しい選手も兄デイヴの方で、
弟マークを懐柔すれば兄弟揃って来るだろうと思ったみたいです。
ところがデイブはマークから「兄貴も一緒にやろう」と誘われますが、
「カネよりも今の生活が大切」と誘いを一蹴するのです。
本命デイヴを逃したデュポンですが、さすがにマークだけなら要らないとは言えず、
マークのコーチとして2か月後の世界大会を目指すことになります。

そしてクレルモンフェラン世界大会に出場しますが、
これまでの厚遇に報いるためにも絶対優勝しなきゃいけないし、
たぶんここで負ければデュポンからも見限られるだろうし、
マークのプレッシャーは半端ないでしょうね。
大会にはデイヴも参加していましたが、決勝では彼がコーナーに付いてくれ、
彼からの的確なアドバイスもあり、激戦を制して金メダルを獲ることが出来ます。
デュポンも大喜びで、上機嫌で1万ドルのボーナスまで出してくれますが、
やはりマークの勝利はコーナーに入ったデイヴの手柄だと思ったのか、
彼のデイヴへの評価は更に高まるのです。

マークはデュポン主催の「愛国者の基金パーティ」に同行し、
デュポンを紹介するスピーチをすることになります。
道中のヘリの中でスピーチを練習するのですが、
「愛国者で鳥類学者で切手蒐集家」という台詞をどうしても噛んでしまい…。
特に「切手蒐集家(Philatelist)」という単語が苦手で、変えてほしいと頼むのですが、
デュポンはそこは絶対に譲れないみたいで…。
別に切手蒐集家なんて自慢できる肩書でもないのに変な人だと思いましたが、
なんでもこのシーンはデュポン演じるスティーブ・カレルと
マーク演じるチェニング・テイタムのアドリブだったそうです。
たぶんテイタムが台詞を噛んでしまって、普通ならNGになるところを、
カレルの絶妙なアドリブでより面白いシーンに変えちゃったんでしょうね。
だとしたらオスカー主演男優賞候補も納得の見事な演技力です。
そのヘリの中でデュポンはコカインを吸引するのですが、
なんとそれをマークにも勧めるのです。
仮にもコーチのくせにアスリートに薬物勧めるなんて…。
ジム内でピストル発砲した時もヤバいと思ったけど、
徐々に本当にヤバい人かもしれないという雰囲気になってきます。

パーティでデュポンは自身もシニア大会に出場することを宣言し、
コーチのくせにマークからコーチを受けてシニア大会に挑み、なんと優勝します。
…が、その大会はデュポンが後援する大会で、彼の優勝は八百長でした。
まぁデュポン自身はガチンコだと思っていますが、秘書やマークが気を利かし、
試合相手にカネを掴ませて負けてもらっているようです。
まぁカネ貰わなくても、参加者も出資者相手には空気読んじゃいますよね。
デュポンはそんな自分後援の大会でも優勝したら嬉しいみたいで、
母に金メダルを自慢するのですが、母から全く褒めてもらえず落ち込みます。
レスリングに反対した母を、レスリングで成功して見返したかったというか、
いい大人なのにマザコンで、母にいいところを見せて認めてほしいみたいです。

母に褒めてもらえず、優勝の喜びから一転、不機嫌になったデュポンは、
マークが午前の練習に出てこなかったことに激怒します。
もともとその日の予定は午後の練習だけだったみたいですが、
そのスケジュールもマークが決めているので、午前はサボろうと思っていたのかも。
コカインの味まで覚えてしまったマークが自堕落になるのは当たり前で、
元はと言えばデュポンがコカインや酒を与えるが問題なのに…。
デュポンはマークに「どうやら選ぶ選手を間違えたようだ」と吐き捨てます。
暗に「やはり兄デイヴの方がよかった」と言っているわけですが、
マークは完全にヘソを曲げ、自室に引き籠るようになります。
デュポンはデイヴを再びスカウトし、今度はデイヴも応じ、
デュポンのフォックスキャッチャー牧場のジムに所属します。
当初はあれだけ頑なに拒んだのに、よほど大金積まれたのでしょうね。
なんだか結局カネで動いたデイヴをちょっとだけ見損ないました。

でもデイヴは選手としてというよりは、デュポンのお抱え選手たちのコーチ役で、
名目上コーチはデュポンなので、副コーチとして雇われたみたいです。
彼のコーチング技術は高く、フォックスキャッチャーのジムは活気づきます。
しかしヘソを曲げているマークは兄の指導は受けず、自主練に励みます。
マークの好成績はデイヴのお蔭なんて囁かれていましたが、
実際にそうだったみたいで、兄から離れて挑んだソウル五輪の国内予選では、
なんと初戦敗北してしまうのです。
残り二戦頑張ればまだ代表になれるチャンスはあるのですが、マークは絶望し、
ホテルの部屋で大暴れし、ルームサービスをヤケ食いし始めます。
大暴れした時に鏡を頭突きで割り、額から出血しちゃいますが、
なんとこれはテイタムのアドリブで、鏡も本物なのでリアル出血だったとか。
いやー、ここまで役に入り込めるなんて凄いですが、
本作はカレルやデイヴ役のマーク・ラファロの演技ばかり評価され、
テイタムの演技はあまり評価されず、彼はオスカー候補にもなってません。
血まで流したのにちょっと気の毒ですね…。

マークとしては頭から出血したことよりも、ヤケ食いした方が重症で、
兄デイヴに叱咤激励され、再び残り二戦を頑張る気になりますが、
ヤケ食いのせいで軽量で重量オーバーに…。
次の試合に出るには制限時間以内に減量しなければなりませんが、
デイブの適切な指導のお蔭で、なんとか計量をパスし、
残りの試合も勝利してソウル五輪のアメリカ代表になれるのです。
やっぱりマークの成功は全てデイヴのお蔭なんですね。

マークは兄デイヴとの関係は元通りになりましたが、
まだデュポンとは険悪な関係が続きます。
デュポンの母が亡くなってもお悔やみも言わないほどなので相当ですが、
でも仮にも金銭面で世話になってるんだから、
マークのデュポンを無視したり毛嫌いする態度は恩知らずすぎますよね。
そんな弟を見てか、デイヴもデュポンに対して懐疑的になり始め…。
そんな折、デュポンは協会に50万ドル寄付し、自身のファクスキャッチャーを
ナショナルチームの公式練習場にしてしまいます。
マークはフォックスキャッチャーを離れたいとデイヴに相談しますが、
デイヴも弟の気持ちを汲み、デュポンに交渉を持ち掛けます。
「自分はここに残るから弟は解放してやってほしい」と…。
デュポンとしても公式練習場になるのに優秀なコーチを失うわけにはいきませんが、
「自分がここに残る限り弟にも給料を払い続けてほしい」というデイヴの要求は、
所属してない選手にまでカネを出せなんて、ちょっと厚かましすぎる気がしますね。
デュポンは自分がソウル五輪でマークのコーナーに付くことを条件に承諾します。

デュポンとしては金メダリストの名コーチとして尊敬されることが重要なので、
どうしてもコーチとしてソウル五輪のコーナーに立ちたかったのでしょう。
デュポンは富は十分すぎるほどあるから、欲しいのは名声で、
人々から敬意を持たれたいと思っていますが、なかなか難しいみたいです。
そりゃ成功した実業家というのであれば尊敬できるところもあるけど、
彼は財閥の御曹司なので、そんな親の七光りの坊ちゃんは尊敬されないよね。
しかも軍需産業の財閥なんて、死の商人みたいなものだし。
だからこそ名声や尊敬に固執するんでしょうが、なんだか可哀想な人です。
いくら大金持ちでもあまり羨ましくないです。

ところがデュポンが名コーチとして名声を得るはずのソウル五輪で、
マークは敗退を喫し、金どころかメダルも取れないまさかの結果に…。
いや、フォックスキャッチャーを離れデイヴの指導を受けてないので当然の結果か。
マークは牧場も出て行きますが、約束通りデイヴは残ります。
デュポンはソウル五輪を目指すフォックスキャッチャーに密着した
自作のドキュメンタリー映画を見て、何か思い立ち、休暇中のデイヴに会いに行き、
なんとデイヴ目掛けて拳銃を三発発砲し、彼を殺害するのです。
前述のように、ボクは事件のことを知らなかったので、まさかの展開で驚きました。
デュポンの様子は完全におかしく、まともな精神状態でないのは間違いないけど、
マークを恨んで射殺するならまだ理解もできなくもないけど、なぜデイヴを?
「私に不満か?」と言いながら発砲していたし、
ドキュメンタリー映画のデイヴのインタビューで、デュポンに不信感を持つ彼が
歯に物が詰まったような感じで「コーチは人生の師」と言っていた癪に障ったのかな?
市井の人間にしてみたら、人を殺すほどの動機でもないけど、
敬意以外なんでも手に入るデュポンのような金持ちにしてみたら、
不敬な態度は何よりも我慢できないことなのかもしれません。
金持ちに生まれた不幸ってやつですね…。
まぁ不幸な金持ちに殺された方はもっと不幸ですけどね。

デュポンは警察とも蜜月なので、便宜を図られるかと思いきや、
普通に逮捕され、二十余年後に獄中死するのです。
一方の弟マークはレスリングを引退し、総合格闘技に転向します。
世界大会優勝後の練習をさぼってた時に、総合格闘技のテレビ中継で、
元レスリング選手の格闘家を見て「こうはなりたくないな」と言ってたのに、
自分も総合格闘技に出場することになるとは皮肉なものです。
ただ、モスクワ出身の柔術ファイターとのリングなんかでは、
客から五輪でも受けなかったくらいの「U・S・A!」コールを受けていて、
兄の陰に隠れていたレスリング時代よりも幸せだったかもしれませんね。

サクセスしないスポーツ映画でちょっと重たい気もしましたが、
予想外になかなか面白くて満足です。
監督賞は絶対的本命がいるので無理でしょうが、
もしかしたら、主演男優賞でならオスカーに届くかも?

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://blrpn.blog.fc2.com/tb.php/1480-add2ab11
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad