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柘榴坂の仇討

先週末『るろうに剣心 伝説の最期編』が二週連続一位となり、
早くも累計興収20億円を突破しています。
先月公開された前編『るろうに剣心 京都大火編』と合わせると
累計70億円を突破する大ヒットです。
この分だと、前後編累計100億円なんてすぐに突破できそうだけど、
前編が50億円未満なので、後編がそれ以上になるはずはなく、
ギリギリ届かないかもしれませんね。
まぁ前編も続映中で、先週末もまだ8位に留まっているので、
前編がまだ粘れば、なんとか100億円に届くかもしれません。
現時点で前編が今年の実写邦画暫定首位の成績ですが、
これで時代劇映画がまた活気づくと嬉しいです。
『るろ剣』を時代劇として観ている人はそれほど多くないかもしれませんが…。

ということで、今日は先週末4位だった時代劇映画の感想です。

柘榴坂の仇討
柘榴坂の仇討

2014年9月20日公開。
中井貴一、阿部寛共演の時代劇。

安政7年、彦根藩士・志村金吾(中井貴一)は主君である大老・井伊直弼(中村吉右衛門)に仕えていたが、登城途中の桜田門外で井伊は暗殺されてしまう。その後、あだ討ちの密命を受けた金吾は敵を捜し続けて13年が経過する。明治6年、時代が移り変わり時の政府があだ討ちを禁止する状況で、最後の敵である佐橋十兵衛(阿部寛)を捜し出し……。(シネマトゥデイより)



浅田次郎の短編集『五郎治殿御始末』に収められている一編を長編映画化した本作。
原作は幕末維新ものの短編で、武士という身分を失った侍たちの物語だったようです。
本作は元彦根藩士と元水戸藩士の物語で、桜田門外の変に敵味方で関わった2人が、
新時代を迎えて、どのように生きているかが描かれます。
幕末に起きた暗殺事件である桜田門外の変が題材ではありますが、
この2人の元武士は架空の人物みたいですね。

ボクは桜田門外の変(桜田騒動)については日本史で習った知識しかありませんが、
4年前に吉村昭原作の映画『桜田門外ノ変』を観たので、その時の印象が強いです。
『桜田門外ノ変』では襲撃した側の水戸藩士・関鉄之介(実在)が主人公で、
大老・井伊直弼暗殺に至る経緯と、襲撃した側のその後の悲惨な運命が描かれました。
本作は逆に襲撃された側の水戸藩士・志村金吾(架空)が主人公なので立場が逆。
そのため暗殺された井伊直弼の人物像も真逆になっていますが、
どうもそこに違和感を覚えてしまいます。
『桜田門外ノ変』に限らず、安政の大獄をした井伊直弼は悪役として描かれることが多く、
暗殺されて当然な人物という印象があるが、本作は素晴らしい人物として描かれ…。
たしかに彼の開国論は結果的に間違っていなかったと思うけど、
桜田騒動は開国論による安政五カ国条約が直接の引き金ではなく、
そこから派生した安政の大獄に対する水戸藩士の憤りが原因だと思われますが、
本作は安政の大獄のことは意図的に触れられていません。
井伊直弼をいい人として描くには、安政の大獄は都合が悪すぎたのでしょうが、
歴史ものとしてはちょっと首をかしげたくなる演出です。

主人公・志村金吾は水戸藩主でもある井伊直弼の御駕籠回り近習(護衛)で、
事件後、襲撃者の生き残りを探して、主君の仇討するという物語なのですが、
彼が井伊直弼をそこまで崇拝する根拠が弱すぎると思うんですよね。
武士として近習なのに守れなかったことの汚名返上のためならまだわかるが、
どうもそうではないようで、彼曰く「掃部様(井伊直弼)が好きだった」という理由です。
それなら井伊直弼が彼から好かれるような人物であるというエピソードがほしいですが、
井伊直弼をいい人として描くのは難しく、ただ「好きだった」と曖昧にしたのでしょう。
志村金吾は井伊直弼の風流さに惹かれているというような描写もあるが、
井伊直弼が「茶歌凡」と呼ばれるほど風流な人物だったのは事実のようだけど、
剣一筋に生きた金吾が風流さに惹かれるというのはちょっと考えにくいです。
とりあえずわかったのは、井伊直弼をいい人として描くのは無理ということですね。
以下、ネタバレ注意です。

安政七年春、彦根藩士・志村金吾はその剣の腕が認められ、
彦根藩江戸上屋敷に呼ばれ、藩主で大老の井伊直弼の近習に取り立てられます。
しかし同年三月三日、井伊直弼が上巳の節句で登城する折に、
水戸藩士ら18名から襲撃を受け、井伊直弼は暗殺されてしまうのです。(桜田騒動)
近習として登城に同行していた金吾は老中から責任を問われることになります。
でもこれは井伊直弼の過信が招いた自業自得な事件だと思います。
桜田騒動の前に、彦根藩邸に襲撃を知らせる密書が届いていたのに、
登城予定も変えないばかりか、護衛の数も増やさなかったんですからね。
とはいえ彦根藩の駕籠の行列は60名もいたので、18人の刺客に負けるはずないが、
その日は雪が降っていたので、老中の命令で皆動きにくい雨合羽を着て、
刀には束袋まで付けさせられたため、襲撃されてもすぐに抜刀できなかったのです。
襲撃を知らせる密書が届いているんだから、いつも以上に警戒するべきで、
アホな指示を出した老中に責任があると思うんですよね。
老中の指示かどうかは定かではないが、密書と雨合羽と束袋は史実だったみたいで、
実際の桜田騒動も警戒を怠った井伊直弼の自業自得だった気がします。
あまりに嫌われ者すぎて、襲撃の密書なんて日常茶飯事だったのかもね。

まぁ金吾に全く過失がなかったかといえばそんなことはなく、
彼は襲撃の際にあり得ない行動を取っています。
襲撃はまず行列の前に水戸藩士・佐橋十兵衛が直訴のふりをして飛び出し、
行列が油断したところを他の刺客17人が一斉に斬りかかるという感じでしたが、
金吾は井伊直弼を護衛しなければいけないのに、逃げた十兵衛を追って、
駕籠のそばを離れてしまうんですよね。
たぶん十兵衛が大切な徳川の槍を奪ったから、それを取り返そうと考えたのでしょうが、
この期に及んでそんな槍なんてどうでもいいと思いませんか。
十兵衛に追いついた金吾は、一騎打ちの末に彼に手傷を負わすのですが、
駕籠の方から銃声が聞こえて慌てて戻ってみれば、駕籠が黒ひげ危機一髪状態で…。
彦根藩一の剣客という設定の金吾が駕籠を離れていなければ、
そう簡単に井伊直弼を暗殺されることもなかった気がします。
…いや、鉄砲使われたら、どのみち刀では抵抗する術はないかな?
そういえば槍を奪って逃げた十兵衛の行動も意味不明ですね。
金吾と善戦できるくらい強いんだから、彼こそ井伊直弼の暗殺に加わるべきでは?

老中から責任を問われた金吾は切腹を望みますが、彼の両親が自害したため、
なぜか彼は切腹を許されず、代わりに井伊直弼の仇討を仰せつかります。
襲撃してきた18人のうち、十兵衛を含む5人が逃亡したらしく、
そのうちのひとりの首を上げてこいと命じられるのです。
ボクなんかにしてみれば、切腹を命じられるより優しい条件な気がしますが、
金吾としては、武士として誇りある切腹で償いたかったみたいです。
死にたければ勝手に腹切って死ねばいいと思うんだけど、武士って面倒だね。

家禄も預かりとなり、収入ゼロの中、必死に逃亡者5人を探すのですが、
ひとり、またひとりと逃亡者の死の知らせが届き、
明治元年には残る逃亡者は十兵衛だけになってしまいます。
それでも諦めずに十兵衛を探し続ける金吾ですが、廃藩置県も行われ、
彦根藩もなくなったにも関わらず、彼は十兵衛探しをやめません。
もう老中の命令なんて守る必要もないのに、そんなに井伊直弼が好きなの?
断髪令も出て、洋装の人も増えた中、月代を剃り、袴姿で帯刀している金吾は、
時代遅れだと後ろ指を指されることもありますが、
武士としての誇りなのか、彼はその恰好をやめません。
こだわるのはいいけど、そんな恰好だと金が掛かりそうですよね。
収入もないのに見栄だけ張ってどうするんだと思ってしまいます。
いや、収入は妻が働いているので多少はあるのかな。
そんな紐状態では、武士の前に男としてみっともないと思うのですが…。
それに別に汚い格好でも、仕事をしていても、仇討はできますよね。

そういえば妻の職場(居酒屋?)に、やたら現代っ子丸出しの女性従業員がいて、
時代劇としては浮きまくってましたが、どうやらAKBの子が演じているみたいで…。
エンドロールに秋元康の名前があったので、ゴリ押しでブッキングしたんでしょうね。
その子から妻はミサンガを貰うんですが、明治五年にミサンガって…。
他にもケミストリーとかD-BOYSとか、時代劇としては「え?」と思うキャストが…。
中井貴一、阿部寛など主要キャストはちゃんとしているので問題はないのですが…。

ある日、かつて道場で剣の腕を競った元幕臣で警官内藤新之助に出会います。
金吾が13年も桜田騒動の刺客・十兵衛を探していると聞いた新之助は、
上司である元評定所御止め役の司法省警部の秋元和衛に相談します。
秋元は十兵衛の居所を調べ、金吾を自宅に呼び出します。
別に仇討に協力したいわけではなく、無駄なことはやめろと説得するつもりでしたが、
金吾の意思は固く、諦めて十兵衛の居所を教えてしまうのです。
しかし同日、太政官布告により仇討禁止令も出されており、
仇討が違法行為になりましたが、金吾は意に介していないみたいで…。
まぁ仇討が済めば、自害して大好きな井伊直弼のものに行こうと思っているので、
彼にとっては今更法律なんて知ったことではないでしょうが、
「"仇討ヲ禁ズ" その日、運命が動いた」というキャッチコピーだったので、
仇討禁止令に対する葛藤が描かれると期待していたし、
そこが面白そうだと思って観に行っただけに、ちょっと拍子抜けしました。
金吾は仇討禁止令なんて関係ないけど、秋元は幇助になるのでは?

十兵衛は直吉と名を変え、新橋駅で俥引き(人力車)の仕事をしていました。
慎ましく、とても真面目に働いており、金吾とは大違いです。
長屋住まいですが、ご近所の幼い女の子オチョボちゃんとの交流が微笑ましく、
単純に暗殺に加担した悪者としては描かれていません。
まぁ歴史的に言っても、悪大老・井伊直弼を殺した水戸藩士たちは、
十八烈士なんて呼ばれたりもする英雄ですから、悪く描かれることはないです。
むしろそんな十兵衛を無意味で違法な仇討しようという金吾の方がどうかしており、
やはり十兵衛の方に肩入れして見てしまいます。
単純に金吾演じる中井貴一より、十兵衛演じる阿部寛の方が好きというのもあるけど。

秋元から十兵衛の居場所を聞いた金吾は、雪の降る夜、
新橋駅で彼を見つけ、彼の人力車に乗るのです。
十兵衛もその客が桜田騒動の時の彦根藩士だと気が付きますが逃げません。
むしろ彼は桜田騒動で死にそびれたことを後悔しており、
仇討されることを望んでいるみたいです。
金吾を乗せた人力車を引く十兵衛ですが、この2人のやり取りは緊迫感があります。
なんでも中井貴一と阿部寛も、この役のために現場ではほとんど口を利かなかったとか。
その甲斐があったと思える緊張感のある演技でした。
ただ、その会話の中で十兵衛までが井伊直弼を褒め出したのは違和感が…。
彼の偽名「直吉」も井伊直弼から一字頂戴したらしいのですが、
仮にも水戸藩士が井伊直弼に理解を示すなんてあり得ないでしょう。
やはり開国論について評価しているみたいですが、
水戸藩に大打撃を与えた安政の大獄についてどう考えているのか…。
まぁ暗殺自体については「間違いじゃなかった」と言っているのが救いですが、
井伊直弼は正しかったのに、暗殺して正解だったというのは意味不明です。
十兵衛は井伊直弼の月命日に菩提寺(?)にお参りしているのですが、
それは金吾も欠かしたことがなく、13年間、毎月ニアミスしていたことになります。
金吾は十兵衛の人相書きを持っているので、顔は知っているはずですが、
100回以上ニアミスしていて、今まで出会わなかったのは奇跡、というか都合良すぎ。

金吾を人力車に乗せた十兵衛は柘榴坂に向かいます。
そこは十兵衛が桜田騒動の後、自刃しようとして死にきれなかった場所で、
そこで金吾に仇討されたいと思って連れていったのでしょう。
十兵衛は金吾を降ろし、「存分に本懐を遂げられよ」と観念するのです。
しかし十兵衛が立ち会おうとしなかったため、
金吾は彼に自分の刀を貸し、自分は脇差で相手をすることに。
刀を受け取った十兵衛は、金吾に斬りかかり、決闘が始まります。
十兵衛は金吾を殺す気はないと思いますが、金吾も十兵衛を殺さず脇差を寸止め。
すると十兵衛は自刃しようとしますが、金吾が止めるのです。

おそらく新橋駅で会うまでは金吾も仇討する気満々だったと思いますが、
柘榴坂に向かう途中で会話するうちに、十兵衛の境遇を聞いて共感を覚え、
彼に生きてほしいと思うようになったのだと思われます。
桜田騒動の時に、十兵衛が直訴状を持って飛び出してきた際、
井伊直弼が「仮初にも命を懸けたる者の訴えを疎かにするな」と言ったことを
思い出した金吾は、「水戸者は命を懸けたのだ」と納得しますが、
直訴は暗殺のための狂言なので、ちょっと論点がズレている気が…。
それ以前に井伊直弼がそんな殊勝なことを言うはずないです。
結局2人ともこれからも新時代を生きることになり、めでたしめでたしですが、
ラストでどうしても気に入らない展開が…。

仇討を断念した金吾が帰宅すると、妻のミサンガが切れており、
仇討に勝っても負けても死ぬつもりだった彼が無事に帰って来たのは、
まるでミサンガの願掛けが利いたからのような展開です。
この時代にミサンガなんて時代錯誤のものが登場することだけでもどうかと思うのに、
それのお蔭でハッピーエンドを迎えたような展開には閉口してしまいます。
原作もそんなオチなら仕方がないが、もし映画オリジナルの展開だったなら、
こんな脚色をした奴は相当なバカですね。
短編小説を長編映画化するにはある程度の水増しが必要ですが、
ミサンガなんかを水増しに使ったとすれば、頭がおかしいとしか考えられません。

コメント

浅田次郎の原作は、短編であろうが長編であろうが、とても佳い作品だと思っています。
ところが、これが映像になると、原作を超える作品にはお目にかかれません。
でも、ながやす巧の漫画は相当よいと思います。特に「ラブレター」

  • 2014/10/09(木) 22:01:05 |
  • URL |
  • とおりすがり #-
  • [ 編集 ]

浅田次郎の小説は1冊も読んだことがないのですが、
映画化作品は『壬生義士伝』『憑神』『日輪の遺産』を観ました。
どれもそれなりに楽しめたと記憶しているのですが、
原作はもっと面白いってことですね。
コミカライズまでされていたとは全く知りませんでしたが、
今度、漫画喫茶に行ったときにでも探してみます。

  • 2014/10/10(金) 20:06:04 |
  • URL |
  • BLRPN #-
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