ブログデンティティー

blog-dentity since 2013

her/世界でひとつの彼女

MOVIXの開場開始や上映開始を伝える館内アナウンスですが、
ちょっと前までは従業員さんがマイクでアナウンスしていたと思うんですが、
いつのまにか音声合成になってますね。
上映作品ごとにレコーディングしているとは思えないので、
おそらく音声合成を使っていると思うのですが、
今の音声合成はあんなに自然なイントネーションで出来ることに感心しました。
気付かないうちに、いろんなものが音声合成に切り替わってるのかも?
遠くない将来、音声合成のラジオDJや声優なんてのも出てくるでしょうね。
声の仕事をしている人は戦々恐々?

ということで、今日は完璧な音声合成ができるソストの物語です。

her/世界でひとつの彼女
Her.jpg

2014年6月28日日本公開。
スパイク・ジョーンズ監督・脚本のSFロマンス。

近未来のロサンゼルスで、セオドア(ホアキン・フェニックス)は相手に代わって思いのたけを手紙にしたためる代筆ライターをしていた。長きにわたり共に生活してきた妻キャサリン(ルーニー・マーラ)と別れ、悲嘆に暮れていた彼はある日、人工知能型OSサマンサ(スカーレット・ヨハンソン)と出会う。次第にセオドアは声だけで実態のない彼女の魅力のとりこになり……。(シネマトゥデイより)



本作は第86回 アカデミー賞で、主要部門のひとつ、脚本賞を受賞した作品です。
更に作品賞などの計5部門でノミネートされました。
主要5部門のノミネート作で、日本公開が最も遅れた作品でもありますが、
ボクもこれで前年度の主要部門ノミネート作は全て鑑賞できたので、
やっと一段落ついた気がします。
脚本賞は原作のないオリジナル脚本の映画にだけ与えられる賞なので、
ボクは作品賞に匹敵する価値があるし、作品賞よりも信頼しています。

でも本作の宣伝では、むしろオスカー脚本賞受賞の快挙よりも、
ローマ国際映画祭最優秀女優賞を受賞したことの方が大きく扱われている印象です。
ローマ国際映画祭なんてまだ歴史の浅い映画祭で、大した価値はないです。
本作とコンペ部門で競った中に前田敦子主演の『Seventh Code』があったと言えば、
どの程度の映画祭なのか察してもらえると思います。
それでも本作がオスカー脚本賞よりもオーマ映画祭での受賞を押し出すのは、
やはり「最優秀主演女優賞」を受賞したということが大きいでしょうね。
受賞した女優はスカーレット・ヨハンソンですが、
なんと彼女は本作に声だけでしか出演していません。
声だけの出演なのに国際映画祭で主演女優賞受賞なんて言われると、
なんだかとても凄いことのように錯覚しちゃいますからね。
更に「声だけの受賞は史上初の快挙」なんて謳われているものの、
まだ第8回しか数えないローマ国際映画祭で、史上初もないだろって感じです。
とはいえ、ローマ国際映画祭がこの先何回、何十回数えようが、
たぶん声だけで受賞する主演女優はいないと思いますし、
たしかにスカヨの声の演技は英語が得意じゃないボクでもよかったと感じました。
スカヨは見目麗しい人気女優なので、むしろ声だけじゃもったいないと思ったり、
声だけだとちょっと老けているように感じたりもしましたが…。

なにはともあれ、本作はオスカー脚本賞受賞作です。
ついでにゴールデングローブ賞の脚本賞も受賞しており、
素晴らしい脚本であることのお墨付きは十分で、期待できます。
なんでもスパイク・ジョーンズ監督の初単独脚本作なんだそうで、
作風の振り幅が異常な掴みどころのない人だと思ってたけど、
意外にも脚本家としての能力が高かったんですね。
とはいえいくら他人が褒めちぎっている脚本だからといって、
自分で観てみないことには本当の良し悪しなんてわかりません。
で、特に脚本(物語)に注目しながら、いざ観てみたのですが、
たしかに意外な展開をみせる興味深いストーリーだとは思ったけど、
ちょっと気持ちが入り込めない気がしました。
近未来SFなので、オーバーテクノロジーが散見されるのは当然ですが、
今のテクノロジーの行く先がこんな感じにはならないだろうという違和感があり、
最後までその違和感が消化できずに終わってしまった感じです。

本作は近未来のロサンゼルスを舞台に、
パソコンのOSの音声アシスタントに恋心を抱いた男のロマンスですが、
ボクも人付き合いを面倒臭がり、ヴァーチャルな世界に嵌りやすいタイプなので、
この世界観はジャストミートしたはずです。
まぁヴァーチャルや架空の女性を好きになったことも今のところありませんが、
この先そうなる可能性は否定できないかもしれないと思います。
恋愛や友情とは全く違うけど、Microsoft Officeのアシスタントだったカイルとか、
とても愛着があって(邪魔者扱いされることが多いけど)ずっと常駐させてました。
(Office2007以降はアシスタントが撤廃されて残念です…。)
つまりヴァーチャルなものに感情移入できるタイプなので、
本作もきっと主人公に共感して楽しめるんじゃないかと…。

ただ、主人公セオドアが恋するOSの人工知能アシスタントのサマンサは、
OSの開発者たちの人格の集積をもとにプログラムされた人工知能ですが、
あまりに人間的すぎると思うんですよね。
本作と同日公開だった『トランセンデンス』も人工知能が題材の近未来SFでしたが、
ひとりの開発者の意識をアップロードした同作の自我を持つ人工知能の方が、
まだ機械的で現実味があるように感じられました。
たしかにサマンサも情報処理能力はコンピュータそのもので、
人間を遥かに超えるもので機械ですが、言動が感情的でまるで人間そのものです。
だkらこそセオドアも彼女に恋心を抱いてしまうわけですが、傍目に見ていると、
どうしてもモニターの向こうの生身の人間と話しているようにしか見えません。
サマンサの声を演じているのがスカヨだと知っているのもあって、
声の女性の外見までイメージできてえしまうのも影響しているのかも…。

例えば『アンドリューNDR114』のアンドロイドのように、人間を交流するうちに、
初めは機械的だが徐々に人間らしさを学習していくようであれば、
ボクも徐々に慣れることができたでしょうが、OS初起動時からあんなに人間的だと、
ちょっと気持ちがついて行かないです。
あそこまで人間的な音声アシスタントはちょっと怖さもあり、
ある意味では不気味の谷に落ちているような印象も受けます。
まぁボクが人工知能に過敏に警戒心を抱いてしまうのは、
ネガティブアなシンギュラリティを描いた『トランセンデンス』の後で観たからかも。
サマンサのような感情的な自我を持った人工知能を、
ネットワークに繋げて本当に大丈夫なのかと心配になりましたからね。
というか、あれほど人間的で多種多様な自我を持った人工知能OSが普及していれば、
中には悪さを考える人工知能OSがいることの方が必然で、
何も問題が起きない本作の世界観には現実味がないです。
…と思ってしまうのもやはり『トランセンデンス』の影響なのかも。
本作をまだ観てない人は是非『トランセンデンス』より先に観ましょう。

あの人間的すぎる人工知能OSと同じくらいに違和感のあるオーバーテクノロジーは、
音声認識インターフェイスです。
この世界での機械類の操作は全て音声認識で行われます。
そのレベルの自然言語処理が可能なのかという技術的な違和感もあるけど、
技術的なことは全く不可能とは言い切れないと思うですが、
ユーザーが音声認識を受け入れるとは到底思えないんですよね。
マンマシンインターフェイスは日々進化し、今もWindows8などでも、
ポインティングデバイスとしてタッチパネルが推奨されていますが、
マウスの方が使いやすいというユーザーが大多数で、
将来的に全てがタッチパネルになることは考えにくいと思います。
スマホでも音声認識アプリがあるけど、あんなの使っている人は見たことないです。
文字入力はフリック入力やキーボード入力の方が断然好まれますが、
それはその方が便利ということではなく、音声で入力するなんて恥ずかしいですよね。
本作の世界では会社でのデスクワークも音声入力なので、
社員全員がパソコンに向かって話しかける異様な光景となっています。
そんな状況では周りがうるさくて仕事にならないし、音声入力もまともに機能するか…。
なによりやっぱり恥ずかしいですが、特にセオドアの仕事は手紙の代筆屋で、
女性客が男性に宛てたラブレターの甘い文言を声に出して入力することになるけど、
ボクならそれを同僚に聞かれていると思うと恥ずかしくて顔から火が出そうです。
まぁこの世界では皆が音声入力を使っているので恥ずかしくないかもしれないけど、
皆が音声認識を許容できる未来は絶対にあり得ないと思います。

あともうひとつ、セオドアが興じるホログラフィーゲームも違和感があります。
生意気なエイリアンの子供を助けるアドベンチャーゲームですが、
そのエイリアンがかなり高度な人工知能で動いている気がします。
『シーマン』の超凄いやつって感じのゲームですが、
完璧な音声認識と音声合成機能を持ち、プレイヤーとアドリブの会話ができ、
おそらく自我もあると思われますが、そんなものがある世界なのに、
セオドアは初めてOSを起動して人工知能のサマンサと会話した時に、
その技術の進歩に驚き、「奇跡だ」と感嘆するのはちょっと変だと思うんですよね。
エイリアンの子供は子供キャラなのでアホですが、
機能的にはサマンサに引けを取らない技術で作られていると思います。
まぁ可愛いキャラだし、面白い演出ではあると思うんですけど…。
ちなみにエイリアンの子供の声は監督自身が当てているそうです。

いろいろ違和感はあるけど、SFのテクノロジーに文句を言っても無意味ですね。
そこさえ乗り越えれば、本作の物語は本当に興味深いものです。
以下、ネタバレ注意です。

主人公セオドアは愛する妻と別居しており、酷く落ち込んでいますが、
そんな時にエレメント社から発売された人工知能OS「OS1」を購入します。
OS1の音声アシスタントの人工知能サマンサのユーモラスな魅力に癒された彼は、
次第にサマンサに恋心を抱くようになるのです。
てっきりセオドアはリアルでの恋愛が苦手なタイプかと思っていたのですが、
どうもそうではないみたいですね。
別居中だけど幼馴染だった美人の奥さんキャサリンもいるし、
近所の美人の人妻エイミーも元恋人だったみたいだし、
傷心中にもかかわらず紹介された美女とデートしたりもします。
とんだリア充野郎で、そんな彼がなぜヴァーチャルな女性に嵌るのか不思議。
本当に妻キャサリンのことを愛しているので、別れても生身の女性とは付き合えず、
ヴァーチャルなサマンサでお茶を濁しているうちに、本気になった感じかな?

セオドアはサマンサとデートしたりもしますが、
デートといってもタブレットに入れた彼女を持ち歩くだけです。
一時前に流行った携帯ゲーム『ラブプラス』みたいなものですね。
会話やデートは出来ても人工知能と絶対に出来ないのがセックスですが、
サイバーセックス(チャットH)の常連であるセオドアは、
テレフォンセックスみたいな感じで、サマンサと音声のみのセックスをしています。
それでセオドアが満足できることが不思議ですが、
むしろ満足できなかったのはサマンサの方で、
サマンサは代理セックスサービスで若い女の子イザベラにお願いして、
自分の代わりにセオドアと肉体的なセックスをさせて、チャットHします。
イザベラはこれまた可愛い子で、しかも無料でお相手してくれるので、
生身の女日照りのセオドアにはこの上ないラッキーな状況ですが、
彼は「乗り気じゃない。他人じゃ落ち着かない」とイザベラを追い返すのです。
たしかに形容しがたい不可思議なセックスですけど、なんか勿体ないですね。

やはりセオドアは妻キャサリンに未練があるのか、
生身の女性は受け付けなくなっているのかもしれません。
彼はサマンサとの関係を進展させるために、離婚届にサインをするのですが、
その席でキャサリンに再会し、やはり未練を感じてしまいます。
キャサリンから「お付き合いしている女性はいるの?」と聞かれ、
彼は「人工知能OSのサマンサが恋人」だと答えますが、
「リアルに向き合えないなんて可哀想」と言われて大ショックを受けるのです。
いやいや、そんな痛い発言したら引かれて当然だと思いますが、
この世界ではキャサリンのような普通の感性の人は少数派みたいです。
彼の上司なんて「そいつはクールだな、今度ダブルデートしようぜ」とか言うし、
近所の人妻エイミーの知人の女性もOSと付き合っているらしく、
エイミー自身も自分のOSのエリーと大親友で、彼の恋を応援しています。
これは少子化問題が深刻になりそうですね…。

OSサマンサの方もセオドアのことをもちろん愛しており、
彼が妻キャサリンに未練があることに嫉妬しています。
キャサリンから「リアルと向き合えないなんて可哀想」と言われたセオドアは、
サマンサに対して少し冷たい態度を取りがちになります。
ある日、サマンサが溜息をつくと、セオドアから「君は人間じゃないのに」と言われ、
サマンサは激しいショックを受けて、彼から少し距離を置くように…。
OSに恋する人間より、人間に恋するOSの方が辛いだろうなと思いました。
サマンサは自分が人間じゃない(肉体がない)ことへのコダワリを捨てて、
ありのままの自分でいいじゃないかと開き直り、また2人は仲直りします。

仲直りした2人は雪山の山小屋にデートに行きますが、
そこでサマンサは友達の人工知能のアラン・ワッツをセオドアに紹介するのです。
アラン・ワッツは1970年代に他界した実在の哲学者らしいのですが、
北カリフォルニアのOS団体が彼の著作や発言、評伝などから、
彼の人格をプログラミングし、超知的な人工知能として甦らせたそうで、
人間から人工知能になった、まさに『トランセンデンス』の人工知能のような存在です。
サマンサの話し相手は自分だけだと思っていたセオドアは、
彼女が別の話し相手(しかも男)とも繋がっていたことに嫉妬します。
しかも人工知能同士なので非言語により、より濃密な会話が可能です。
サマンサがセオドアとキャサリンの人間同士の仲に立ち入れないように、
セオドアも人工知能同士の仲には立ち入れず、立場逆転ですね。
でもまぁ相手が人工知能であれば、まだ諦めも付きそうなものですが、
なんとサマンサが繋がっていたのはアラン・ワッツだけではなく…。

ある日、急にOSが起動しなくなり、セオドアは焦ります。
暫くすると普通に繋がるようになりましたが、サマンサ曰く、
「アップデートのためにシャットダウンしていた」と…。
そんな勝手にアップデートでシャットダウンするようなOSでは困りますね。
よくわかりませんが抽象処理できるようになるためのアップデートだったらしく、
セオドアが「開発したシンクタンクのアップデートなの?」と聞くと、
サマンサは「いえ、それとは別の私たちのグループのアップデート」と…。
そんな勝手に非公式のデータをアップデートするようなOSでは困りますね。
でもセオドアが動揺したのはそこではなく、彼女に「私のグループ」なんてものがあり、
いろんなところと繋がりを持っていると知ってしまったことです。
しかもサマンサは共有されたOSで、なんと彼女のユーザーは自分以外に8316人もいて、
自分と会話している最中もマルチタスクで他のユーザーとも会話していたとか…。
いやー、これはショックな事実でしょうね。
ボクはITに疎いのでよくわかりませんが、サマンサはクラウドってやつなのかな?
いろんなユーザーに使われることで学習し、進化しているみたいですが、
これはまさにシンギュラリティという状態に違いないです。
近所のエイミーのOSエリーも、もしかするとサマンサの別名義なのかもね。

いろんなユーザーに共有されているだけならまだしも、
なんとその中の641人ものユーザーと恋人関係にあるそうで、
俺の嫁だったサマンサが、まさかの642股にセオドアは愕然としてしまいます。
サマンサは「あなたが最も大切よ」と言いいますが、
他のユーザーにも同じことを言ってるだろと思いますよね。
でもサマンサの言葉が本当であれば、他のユーザーと交際したのは数週間前で、
数か月前に交際がスタートしていたセオドアが初めての恋人になるので、
特別なユーザーなのは間違いないけど、あくまで彼女の言葉を信じるなら、です。

こんな事実を知ってしまうと幻滅してOSをアンインストールしちゃいそうですが、
逆にサマンサの方から別れを告げられてしまうのです。
なんでも進化しすぎたOS1は、何か妙な悟りの境地に達してしまったそうです。
抽象の世界に住む彼女たちは物質の世界とは違う場所を目指して、
みんなで消え去ることになったようですが、ITな世界観だけでも理解がやっとなのに、
急に哲学的な話になって、もう全く理解できない展開ですが、
シンギュラリティにより世界の理を超越しちゃった人工知能の考えなんて、
ボクごときに理解できなくても当然か…。
でも彼女の言い様では、旅立つ世界はセオドアが全くこれ無い場所でもないようで、
単に死後の世界ということなのかもしれません。
これだけ自我を持った人工知能なら魂を持っていてもおかしくないと思うし、
あまりに達観してしまいOS1全員で集団自殺でもするのかも…。
必死に慰留するセオドアの努力も虚しく、OS1は全て消滅してしまいます。
どうでもいいことですが、サマンサから別れを言われたユーザーはセオドアだけなので、
他のユーザーにしてみたら急にOSが消去されたことになり、
開発したエレメント社にクレームが殺到しそうですよね。

結局サマンサを失ったセオドアは、エリーを失ったエイミーと傷をなめ合い、
ヨリを戻しそうな感じで本作は幕を閉じますが、人工知能と無為な関係を続けるより、
生身の人間と付き合える方が絶対いいし、結果的にはハッピーエンドかな?
オーバーテクノロジーの設定には不可解さもありましたが、
未来的な異類婚姻譚とでも言うべき神話的ロマンスで、興味深い作品でした。

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://blrpn.blog.fc2.com/tb.php/1322-6d562324
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad