なんでも「3億冊突破キャンペーン」と称して購入者に特典が付くそうで、
ボクは本屋ではなくコンビニで買ったので何も貰えませんでしたが、
聞いた話によると、特典のひとつに「オリジナルJC10冊収納BOX」というものがあり、
それは『ONE PIECE』を10冊まとめて買わないと貰えないのだとか…。
店舗によっては2冊からでも貰えるそうですが、複数買いを煽るなんて、
ファン心理を逆手に取った卑劣な商売だと思っちゃいました。
ファンならこそ既刊はすでに所有しているはずなので、
複数買いしたら否応なくダブることになりますよね。
そんなことで販売部数増やせば、AKB商法と同様で、
3億冊突破という大記録も、誰も真っ当な記録だとは思ってもらえませんよ。
ボクは数年前までは『ONE PIECE』が大好きでしたが、
今は惰性で買い続けているだけなので、特典なんて気にしませんが、
数年前なら収納BOX欲しさに複数買いしたかもしれません。
なぜ興味を失ったかと言えば、内容がつまらなくなったのもさることながら、
キャラ数が増えすぎて、もうついていけなくなりました。
この漫画は無駄なキャラが多すぎますが、その目的は明白で、
キャラを増やせば、それだけキャラグッツが作れるからに相違ないです。
作者のレパートリーがなくなり、芸能人を模したキャラを作らねばならない状況でも、
更にキャラを増やし続けるんだから、その商魂の逞しさには感心しますが、
キャラの洪水で読みにくくなって、作品の質が落ちるんだから本末転倒です。
ということで、今日はキャラが多すぎて混乱する映画の感想です。
グランド・ブダペスト・ホテル

2014年6月6日日本公開。
ウェス・アンダーソン監督による群像ミステリー。
1932年、品格が漂うグランド・ブダペスト・ホテルを仕切る名コンシェルジュのグスタヴ・H(レイフ・ファインズ)は、究極のおもてなしを信条に大勢の顧客たちをもてなしていた。しかし、常連客のマダムD(ティルダ・スウィントン)が殺されたことでばく大な遺産争いに巻き込まれてしまう。グスタヴは信頼するベルボーイのゼロ(トニー・レヴォロリ)と一緒にホテルの威信を維持すべく、ヨーロッパ中を駆け巡り……。(シネマトゥデイより)
第64回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞するなど、
映画評論家や映画通から、異常なほど支持を集めている本作。
本作について語られる時には、必ず監督云々の話になります。
なぜなら本作はウェス・アンダーソン監督の作品であることが最も重要であり、
アンダーソン監督ありきの作品であるからです。
つまりアンダーソン監督に関心がない人には何の価値もない、
もっと率直に言えば面白くも何ともない、人を選ぶ作品なのです。
ボクは彼の監督作はそれなりに観てきましたが、監督自身に関心がないため、
残念ながら選ばれていませんでした。
なぜ本作はこんなにも高評価なのか。
それは評論家や映画通が、表層である本作の内容なんて度外視し、
本作を論じるふりをして、監督自身を論じているからです。
アンダーソン監督は天才監督として、評論家から高く評価される若手監督ですが、
逆に彼の良さがわからないようでは評論家として駄目だという風潮もあり、
評論家かどうかを見極める一種のリトマス紙のような存在になってます。
つまり裏を返せば、彼の作品の批評さえ高評価にしておけば、
評論家や映画通としての面目が守れるわけです。
監督云々は棚上げし、作品の内容だけで評論することを「表層評論」といいますが、
本作を表層評論できる評論家や映画通はいません。
なぜならそんなことをしてしまえば、本作は駄作としてしか論じられないからです。
なにしろテーマも物語も薄っぺらいので、監督を通して語らないと、
何も褒めるところなんてない作品ですからね。
いや、何も褒めるところがないというのは言いすぎですね。
映像は牧歌的で幻想的で、とてもお洒落だと思います。
まるで絵画や箱庭を見ているような、独特のセンスを感じる映像美です。
しかしボクは絵画や箱庭を見に映画館に行っているわけではありませんし、
お洒落な気分に浸りたいわけでもありません。
映画である以上、やはり最も重要なのは物語ですよ。
面白い物語があって、それにお洒落さも付随しているなら最高ですが、
お洒落なだけで物語がつまらなければ、駄作だと言わざるを得ません。
そして本作を高く評価する評論家や映画通の中には、
本作の物語について具体的に言及しているものは皆無と言ってよく、
予告編見ただけで書けそうな評論ばかりです。
ただ、安牌として本作を褒めている評論家や映画通ばかりではなく、
監督を敬愛するが故、心底本作を高く評価している人も当然います。
しかしそんな人たちの感性は、ボクら一般人とは全く違うのもです。
本作は4層(3層?)の入れ子構造となっていて、
現在、1985年、1968年、1932年のことが描かれます。
冒頭は現代のシーンで、墓地を訪れたある女性が、
ある作家の石碑の前で、その作家の著書を読みはじめます。
するとその作家が1985年に自分の著書について語るシーンとなり、
著書に書かれた内容はある人物から聞いたものだと話し、
その人物と出会った1968年の回想がはじまるのです。
若き日の作家は、あるホテルのオーナーであり元コンシュルジュの男から、
そのホテルを手に入れた経緯を聞き、その男の回想がはじまります。
それが本作の大部分を占める1932年の物語です。
いわば回想中の回想中の回想中の回想が本作のメインストーリーなのですが、
普通は回想中の回想でも禁じ手なのに、そんな演出は悪い意味で前代未聞です。
現在や1968年の物語は特に何も展開がなく、入れ子構造は本当に無意味なため、
普通なら1932年の物語を描くだけで十分なはずですが、
それを悪ふざけと捉えるか、アンダーソン監督の遊び心と捉えられるか。
監督に好意を持っていれば後者でしょうが、そうでもないなら前者になるはずです。
前者は本作とは感性が合わないので観に行かない方がいいです。
あと時代毎に画面アスペクト比が変わる演出もされているのですが、
(現代はビスタサイズ、1968年はスコープサイズ、1932年はスタンダードサイズ。)
そんな専門的なネタは評論家か映画通じゃないとわかりませんよね。
つまりその程度のこともわからないような客はお断りってことで、
そんなところが映画通の優越感を刺激し、高評価に繋がっているのでしょう。
本作はタイトル通り、(似非)グランドホテル方式で、登場人物が沢山登場します。
前述のように、本当に沢山登場するので、観客は混乱するかもしれません。
豪華キャストを謳っていますが、実際はそうでもなく、いつものアンダーソン組+αです。
演技派俳優ばかりですが、得てして演技派俳優というのは地味なもので、
人気俳優とイコールでもないので、これが豪華キャストと言えるかどうか…。
ボクもどこかでみたことあるキャストは多いけど、半分は名前も知らず、
そんなキャストがこんなに沢山登場してしまうと、
キャラを見分けることもままならなくなってしまいます。
「あれ?この殺人鬼、序盤で見た気がするけど誰だっけ?」みたいな…。
それに役名がグスタヴ・HとかマダムC.V.D.u.Tとか、馴染みのないものなので、
顔と役名が一致せず、更に混乱してしまいます。
しかもコメディなのでコミカルな芝居が求められるわけで、
折角の演技派俳優の実力も活かせているのかどうか…。
本作の物語は本当につまらなく、以下ネタバレですが、だいたいこんな感じです。
1932年、大富豪のマダムDが何者かに殺されます。
彼女の莫大な遺産は息子ドミトリーが相続されるのですが、
彼女は亡くなる直前に書いた遺言書を代理人に渡しており、
そこには馴染みのホテルのコンセルジュであるグスタフに、
計り知れない価値の名画「少年と林檎」を相続させると書かれていました。
その後、グスタヴはマダムD殺害容疑で警察に逮捕されるのです。
もちろん本作の主人公であるグスタヴはマダムDを殺害していません。
一体誰がマダムDを殺したのか、なぜ自分に容疑がかかったのか、
グスタフが弟子のゼロと一緒にその謎を解く、ミステリーです。
…が、謎も何も、誰がどう考えたって、犯人はあいつしかいません。
そう、マダムDの息子ドミトリーです。
真相のわかり切ったミステリーなんて退屈なだけです。
逆にもっと予想だにしない真相でもあるのかと期待してしまったくらいですが、
その期待は見事に裏切られ、予想通りの真相でガッカリしました。
とはいえ本作は、真っ当なミステリーのつもりで作られたわけではなく、
あくまでコメディなので、謎解きはどうでもいいのでしょう。
(日本ではミステリー映画のような宣伝がなされてますが…。)
中盤のグスタヴが刑務所から脱獄するシーンなんて荒唐無稽もいいところで、
こんな世界観ではどう頑張っても本格ミステリーになりようがないです。
しかしコメディとしても、面白いかどうかはかなり微妙です。
公開初日でかなりお客さんは入ってましたが、誰ひとり笑ってません。
そもそもセリフのやたら多い会話劇的なところがある作品ですが、
言葉遊びや言い回しの面白さは字幕では伝わりません。
視覚的なネタもあり、ここが笑い所だろうというのはわかるのですが、
ナンセンスすぎて滑っているように感じてしまいます。
たぶん裏笑いを狙っているのだろうと思うけど、それが理解できて楽しめるのは、
アンダーソン監督に好意的な映画通だけだと思われます。
それに本作は、いつもの監督作よりもブラックジョークがきついです。
マダムDの息子ドミトリーが部下を使って邪魔者を排除するのですが、
指が千切れたり、首が斬り落とされたりとグロ描写が多いです。
お洒落でファンシーな映像だけに、そのギャップが激しすぎます。
ギャップが大きいのは、そんな切り株描写だけではありません。
グスタヴがマダムDの屋敷の壁に掛けてある名画「少年と林檎」を持ち出しますが、
その代わりに掛けた別の絵画がかなり強烈で、エゴンシーレ風の裸婦画ですが、
レズカップルが手マンしている絵で、エロいを通り越してグロいです。
そんなエログロ描写もあるため、全米公開時はR指定を受けてますが、
日本ではまさかのG指定で、映倫はホントに頭がおかしいです。
どうせ子供が好き好んで観るような作品じゃないので倫理的には問題ないけど、
R指定が付けば大人の客もエログロを覚悟して観ることができるのに…。
予期せぬエログロは、映画通なら監督の遊び心として受け止められますが、
一般客には不愉快な嫌がらせのようなものです。
グスタヴは絵画「少年と林檎」を闇市場で売ろうと考え、弟子に協力を求め、
その見返りとして彼を自分の単独相続人にするのです。
その後、マダムDの2通目の遺言書により、彼女の全資産を相続したグスタヴですが、
その中にホテルの所有権も含まれていました。
更にその後、グスタヴが死んだので、その全てを弟子が相続しますが、
その弟子こそが1968年時のホテルのオーナーで、
これが作家に話したホテルを手に入れた経緯となるわけです。
グスタヴが雇って一カ月の若造を単独相続人にするのも納得できませんが、
グスタヴが死んだ原因はもっと納得できません。
彼は国境で軍の暗殺部隊に殺されるのですが、その背景が全く見えないためです。
本作の舞台はヨーロッパの東端にあるとされる架空の国ズブロフスカ共和国で、
戦争がはじまり占領されたみたいですが、その時代背景が不明瞭なため、
なぜグスタヴが殺されたのかよくわからないんですよね…。
弟子がホテルを手に入れる経緯が本作で最も重要なポイントだったのに、
そこがこんな曖昧にしか描かれないなんて、ちょっとあり得ないです。
こんな出来の悪い物語の本作が高評価を受けるなんて、全く納得できません。
本作は全米公開時に歴代9位のオープニング成績を記録したと宣伝されてますが、
それは劇場アベレージであり、本作のオープニング上映館数はたったの4館で、
これは何も誇れることではなく、公開館数を少なく見積もり過ぎただけで、
アンダーソン監督を崇拝する評論家や映画通が4館に集中すれば、
それくらいの記録は樹立できて当然だと思えます。
こんな人を選ぶ作品なら、日本でも全国4館で公開すれば十分だったのに、
おそらくアンダーソン監督作史上最大規模で公開されてしまってますね。
今はまだネット上にも試写会や公開初日に観るような映画通のレビューが多いので、
好意的なものばかりですが、特にアンダーソン監督に思い入れがない人は、
それに釣られないように注意しましょう。