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青天の霹靂

先達て、アンジェリーナ・ジョリーが、監督業に専念するため、
女優業を引退すると示唆しましたが、早まったことをしない方がいいです。
出演作は悉くヒットさせている彼女ですが、昨年日本公開された初監督作品は、
正直あまり面白くなく、全くヒットできませんでした。
初監督作1作で、彼女の監督業の才能を判断することは早計ですが、
せめて女優も続けながら映画を撮って、監督作を1本ヒットさせてからでも、
監督業専念宣言は遅くないと思うんですよね。
女優としての人気はあるんだから、自分の主演作を撮ればヒットしそうですが、
女優引退を宣言したら、それもできなくなってしまいます。
まぁボクは兼業監督はあまりよく思ってないので、
すっぱり女優業をやめて専業監督になるのは潔いとも思うけど、
明らかに間違った道に進む人を見ているのは心苦しいものですね。
とりあえず現在制作中の監督第二作『アンブロークン』を見守りたいですが、
どう考えても主演作『マレフィセント』や『ソルト2』の方が楽しみですもん。

ということで、今日は兼業監督の初監督作品の感想です。

青天の霹靂
青天の霹靂

2014年5月23日公開。
劇団ひとり監督・原作・出演のコメディドラマ。

場末のマジックバーで働く、さえないマジシャンの轟晴夫(大泉洋)。ある日、彼は10年以上も関係を絶っていた父親・正太郎(劇団ひとり)がホームレスになった果てに死んだのを知る。父が住んでいたダンボールハウスを訪れ、惨めな日々を生きる自分との姿を重ね合わせて涙する晴夫。すると、突如として青空を割って光る稲妻が彼を直撃する。目を覚ますや、40年前にタイムスリップしたことにがくぜんとする晴夫。さまよった果てに足を踏み入れた浅草ホールで、マジシャンだった父と助手を務める母(柴咲コウ)と出会い……。(シネマトゥデイより)



昨年公開された松本人志の『R100』が昨年屈指のクソ映画だったため、
やはり芸人風情にメガホン持たせてもロクなことにならないなと痛感し、
その前に公開された内村光良の『ボクたちの交換日記』も微妙だったし、
もう芸人の監督作なんて二度と観るまいと心に決めました。
現に先月、映画に誘った子に「『サンブンノイチ』がいい」と言われましたが、
お願いして別の映画に変えてもらいました。
(『サンブンノイチ』は品川祐の監督作です。)
なので劇団ひとりの初監督作である本作も、それに倣えば観ません。
劇団ひとり原作の『陰日向に咲く』はそれほど悪い作品でもなかったので、
彼に文才があることは認めるし、原作者としてなら抵抗はないけど、
メガホンまで取られると、ちょっと警戒してしまいます。
それでも観ようと思ったのは、予告編が思わず笑っちゃうほど面白かったのと、
本作の事前の評判がすこぶるよかったため、芸人監督作でも、
松本人志の二の舞にはなっていないだろうと思えたからです。
(あと、柴咲コウが出演しているのも惹かれたかな。)

で、多少の不安も抱きながらいざ観てみると、驚くほどちゃんとした映画で。
初監督でこれほどクオリティの高い作品を撮れるのはすごいです。
もちろん本職の映画スタッフの協力もあってこそでしょうが、
芸人の初監督作品としては、北野武も含めて過去最高の出来だと思います。
4作も撮って、未だにロクな作品が作れない松本人志よりも、
劇団ひとりの方が映画監督としての才能があるのは明白ですね。
いや、芸人監督作品なんかと比べなくても、実写邦画として今年屈指の出来で、
ボクの今年観た実写邦画の中では、暫定2位の佳作だと思います。
本職監督が撮った『陰日向に咲く』よりも確実に出来がいいです。
「芸人の監督作なんて…」と色眼鏡で避けられてしまうのは勿体ないので、
別名義(例えば川島省吾)で監督する方がよかったのではないかと思うほどです。
以下、ネタバレ注意です。

20年もマジックバーで働く売れないマジシャンの轟晴夫は、
いつまでも底辺の自分の人生に諦めを感じています。
彼は自分の両親がロクでもない親だったから、そんな親から生まれた自分も
ロクでもない人生でも当たり前だと、両親のことを恨んでいます。
彼の母は、父の浮気が原因で生まれたばかりの息子を捨て家を出てしまい、
父はラブホテルの清掃員をしながら、ひとりで息子を育てましたが、
家庭環境は悪く、晴夫は高校卒業時に家を出て、それ以来音信不通です。
ある日晴夫は、警察からホームレスの父が脳溢血で亡くなり、
遺体が河原の高架下から発見されたと連絡を受け、遺骨を引き取ります。
その後、晴夫は父が住んでいた高架下のテントを訪れ、
そこで幼い自分と若い父のツーショット写真を発見。
最期までロクな人生じゃなかった父を想い、自分の人生も悲観して、
「なんで俺なんか生きてるんだよ」と絶望しますが、その瞬間落雷が…。

…というのが本作のアバンタイトル部分になるのですが、
なんとも鬱屈した重苦しい展開で、ボクは観に来たことを後悔しました。
なにしろ予告編で思わず笑っちゃったから観に来たわけだし、
「笑いと、たぶん一粒の涙の物語」というキャッチコピーだったし、
お笑い芸人の監督作だから、もっと笑い主体のコメディだと思っていたので、
そのギャップは凄まじく、やはり芸人の映画なんて避けるべきだったと…。
しかし落雷があり、タイトルが流れてからは、展開が上向きます。
まぁそれでもコメディ映画と言えるほど、笑いが多いわけでもないけど、
鬱屈した雰囲気はひとまず収まり、サクセスストーリーが始まります。

落雷で気絶した晴夫が目覚めると、昭和48年にタイムスリップしており…。
とんだ青天の霹靂ですが、彼は意外なほど動揺しません。
どうせロクでもない人生だし…、と思っているからでしょうね。
仕事と宿を得るために浅草の演芸ホールを訪れた晴夫は、
支配人にスプーン曲げを披露し、舞台に立つことを許されます。
スプーン曲げなんて現代では珍しくも何ともないマジックですが、
晴夫がタイムスリップした時期は、ユリ・ゲラー来日直前で、
スプーン曲げも全く知られていなかったので、
春夫のスプーン曲げを見た支配人も、とても気に入りました。
舞台でも彼のスプーン曲げは大うけで、一躍浅草の人気者になります。
現在の技術を過去に持ち込んで注目されるというのは、
『JIN-仁-』など、タイムスリップものでは鉄板の盛り上がる展開です。

なぜ他にもマジックをできる晴夫がスプーン曲げを披露したかといえば、
その時はカードなど何もマジックの道具を持っておらず、
支配人がたまたまカレーを食べていたので、その時できるマジックとして、
カレーのスプーンを借りて、スプーン曲げをしただけです。
ただ、この展開には少々無理があると思うんですよね。
一般的なスプーン曲げのトリックは、スプーンに細工してあるか、
てこの原理で力技で曲げるか、曲がったスプーンにすり替えるかなので、
借りたスプーンで出来るのは、せいぜい力技で曲げることくらいで、
晴夫のように一回転するほどスプーンを捩じるのはまず不可能です。
もしそれができるなら、彼が売れないマジシャンなはずありません。

晴夫のスプーン曲げを気に入った支配人ですが、
浅草の舞台では笑いを取るのが重要だけど、晴夫が致命的に口下手なので、
支配人が笑いを取れる台本を書き、謎のインド人・ペペとして売り出すことに。
そして口下手な彼のフォローのために女性アシスタント悦子を付けます。
いくらなんでもインド人は無理があるだろうと思いましたが、
芸名を付けたのは、展開上ちゃんと理由があってのことで、
この時代の人が誰も晴夫の本名を知らないようにしてあるんですね。
悦子はもともと謎の中国人マジシャン・チンのアシスタントで、
チンと交際していましたが、チンは3週間前に家を出て行ったそうで…。

ある日、チンが捕まったと連絡を受け、体調不良の悦子の代わりに、
晴夫が身元引き受けに警察に出頭します。
なんでもチンは警官相手に1000円札を500円札に変えるマジックをして、
500円をだまし取ったとして捕まったそうですが、
「警察が騙されてちゃ世話ない」と悪びれる様子もなく…。
そんなチンと面会した晴夫はビックリ、チンは若い時の父親だったのです。
警察を騙して捕まるなんて、やはりロクでもない親父だと思い、
晴夫はチンを侮辱し、ケンカになって2人は険悪になりますが、
悦子が体調不良のため、支配人は2人をコンビにして舞台に上げることに。
舞台上でガチでケンカするマジックショーがうけて、コンビは大人気になります。

父親と交際中の悦子は、春夫の母親なわけですが、
彼女が体調不良は妊娠が原因で、すでに晴夫を身籠っています。
生まれてくる子供のためにも、舞台を頑張るようになったチンに、
ロクでもない親父だと思っていた晴夫も態度を軟化させ、
2人は一緒にネタ作りをしたりしながら、どんどん人気を得て、
晴夫はついにコンビでテレビに挑戦しようと考え、オーディションを受けます。
晴夫はあまりテレビには興味ないのかと思ってましたがそうでもないんですね。
後輩の偽おねぇマジシャンのことも、馬鹿にする反面、羨ましかったのか…。

そんな折、悦子が倒れ、病院に担ぎ込まれます。
どうやら早期胎盤剥離になってしまったそうで、チンは医師から、
「母親は子供を生んだら死ぬかもしれない」と宣告され、悦子にも話します。
しかし悦子はどうしても生みたいと言い…。
胎盤剥離くらいなら、今ならそれほど危険なこともなさそうだけど、
40年前は命懸けの出産だったのかな?
チンはテレビの最終オーディションを前に、コンビを解消し、
その理由を晴夫に追い詰められ、彼にも悦子の状況を告白します。
母に捨てられたと思っていた晴夫は、実は母が出産で死んだと悟り、
自分はロクでもない両親のせいで惨めな人生のはずなのに、
子供を守るため死ぬような母親じゃ辻褄が合わないとショックを受け、
「おろせ、どうせロクなガキじゃない」と泣いてチンに懇願します。
自分の人生の不遇を両親のせいにすることで逃げてきた晴夫が、
自分自身である赤ちゃんをおろせと迫る心境は、
なんとも筆舌に尽くしがたい複雑なもので、泣けましたね。

しかし、チンは効く耳を持たず、コンビをやめ、ラブホ清掃員に転職します。
チンは身重の妻や生まれてくる子のために、身を固めようと、
芸人をやめる決心をしたわけですが、ラブホ清掃員よりも、
人気マジシャンの方が収入は安定しそうなのに不思議でしたが、
これも、もし妻が死に、ひとりで子育てする時に、
少しでも時間の融通が利く職業の方がいいと考えてのことで、
晴夫が馬鹿にしていた父の仕事も、実は自分のためだったわけです。
そこまで緻密に設定されていたとは、感心してしまいました。

ユリ・ゲラーによるスプーン曲げブームや、巨人のV9を示唆した晴夫を、
予言ができると思っている悦子は、お見舞いに来た彼に、
自分の子供の未来を見てほしいとお願いします。
ロクな人生じゃなかった晴夫ですが、一番嬉しかった経験を話してあげます。
すると次は、自分は子供にとってどんな母親かを聞かれます。
まさか出産で死ぬなんて言えなくて困る晴夫ですが、
考えた末に答えた台詞が本当に感動的でした。
ここでその台詞まで書くような野暮なことはしませんが、
本当に見事な返しで、劇団ひとりの才能の片鱗を見た気がしました。
意外にも、悦子もチンも、晴夫が息子だとは最後まで気付かないんですね。
いや、なんとなく悦子は気付いていたかもしれませんが、
晴夫は意識して行動しているわけじゃないのに、
全く歴史に干渉しなかったのも、SFとしてよく出来ていたと思います。
もし歴史が変わって、母が死ななかったなんて展開になったら、
ハッピーエンドかもしれないけど興醒めです。

いや、全く歴史に干渉しなかったのはちょっとおかしいかも。
自分が生まれる日に、ひとりでテレビの最終オーディションを受けますが、
その最中に落雷があり、現代に戻るのです。
オーディション会場にいた観客は、晴夫が忽然と消えたのを目の当たりにし、
素晴らしい消失マジックだと喝采しますが、その後誰も晴夫を心配しないのは
不自然だし、普通マジック中に行方不明になったらニュースになるよね…。
それに晴夫がひとりで行ったマジックは、現代でもそれなりのものだし、
たとえ口下手でもあれほどの腕なら、もっと売れててもおかしくないです。

現代に戻った晴夫に再び警察から連絡があり、遺骨を返してほしいと言われます。
なんでも他人の遺骨だったそうで、遺体を発見したホームレスに騙されて、
遺体の身元を間違えたそうなのです。
その警察を騙したホームレスが晴夫の前に現れますが、なんと彼は父で…。
実は父は死んでおらず、息子に会うために警察を騙したそうなのです。
誤解したまま死んでしまったはず父と再会できて、ハッピーエンドですが、
それはいくらなんでも都合がよすぎる展開だろうと思ってしまいましたが、
父の「警察が騙されてちゃ世話ないよな」という台詞を聞いて、
ちゃんとこの展開にも伏線が張ってあったんだなと感心しました。
台詞ひとつとっても、無駄なところがほとんどない、本当によくできた物語です。

笑いがもう少しあれば尚よかったけど、とても出来のいい感動的なドラマでした。
とはいえ、劇団ひとりはまだ一本しか撮っていないので、
まぐれということもあるから、これだけでは彼の監督の才能を判断できません。
勝負は監督二作目ですが、他の芸人監督作品は今後も観るつもりはないが、
劇団ひとりの次回作は期待したいと思います。

コメント

とても良い映画でした。

観終わったあとが、「いま、会いにゆきます」と似たような感覚でした。
とても良い映画でした。
管理人さまの感想にハズレ無しと再確認。

  • 2014/06/02(月) 21:55:30 |
  • URL |
  • 通りすがり #-
  • [ 編集 ]

Re: とても良い映画でした。

そう言っていただけると嬉しいです。
『いま、会いにゆきます』は未鑑賞なのですが、
本作に似た印象なのであれば、きっといい映画なのでしょうね。

  • 2014/06/02(月) 23:41:57 |
  • URL |
  • BLRPN #-
  • [ 編集 ]

舞台袖で叫んでいる晴夫が自分と重なりました。
まだ,思いっ切り叫べてないのが私の課題かな。

  • 2015/01/18(日) 04:36:55 |
  • URL |
  • ぱぴこ #-
  • [ 編集 ]

Re: タイトルなし

ボクも序盤の晴夫の姿が自分の境遇と重なりました。
人生を考える機会も与えてくれる素晴らしい映画でしたが、
こんな傑作が日本アカデミー賞にノミネートされないなんて、
それが日本映画界の課題かな。

  • 2015/01/19(月) 00:03:47 |
  • URL |
  • BLRPN #-
  • [ 編集 ]

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[邦画] いい映画を観た。「青天の霹靂」

映画を観るのは6日ぶりである。ずいぶん久しぶりのような気がしてしまうのだから、僕も変わったものだ。ここのところいろいろな事情で時間が取れずにいたのだが、この映画だけは観たかった(それもなるべく早く)ので、無理に時間調整をして出かけた。……いい映画を観た。

  • 2014/05/30(金) 12:40:37 |
  • 窓の向こうに

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