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白ゆき姫殺人事件

今日も映画の感想です。

白ゆき姫殺人事件
白ゆき姫殺人事件

2014年3月29日公開。
湊かなえのサスペンス小説を井上真央、綾野剛主演で映画化。

人里離れた山中で10か所以上を刺され、焼かれた死体が発見される。殺害されたのは典子(菜々緒)で、容疑者は化粧品会社のOL城野美姫(井上真央)。テレビディレクターの赤星雄治(綾野剛)は、美姫の同僚、家族、幼なじみなどに取材。典子が美姫の同期入社で、美人で評判だった一方、美姫は地味で目立たない存在だったことが報道され……。(シネマトゥデイより)



日本映画の感想を書くのは約一カ月ぶりです。
先月初めに2本観たのですが、どちらも駄作だったことに辟易し、
「今月は実写の日本映画をこれ以上観ることはない」と書きましたが、
実際に先月中は観に行きませんでした。
駄作率が高すぎる日本映画への不信感は根強いので、
まだ暫くはボイコットし続けるつもりですが、
それでもどうしても観たいと思わされる日本映画も稀にあり、
そのひとつが本作です。

本作を観たいと思わせてくれるポイントは主に3つあります。
ひとつは原作者が『告白』の湊かなえということでしょう。
これは本作の宣伝でも最もプッシュされているセールスポイントで、
彼女の書く小説への信頼感は相当なもので、
映像化された作品もだいたい面白く、本作のお客さんの多くも、
そこに期待して観に行っていると思われます。
もうひとつは、本作の製作にテレビ局が絡んでないことでしょうね。
今の日本映画の体たらくは、本業も振るわないテレビ局が、
活路を求めてテレビの延長線上で映画製作しているのが原因ですが、
無能なテレビ局さえ口を挟まなければ、日本映画も面白いものが作れます。
『告白』の時も内容の過激さにテレビ局が二の足を踏んだことで、
とても面白い作品に仕上がってましたよね。
本作は『告白』ほど過激なではないが、放送の在り方を揶揄する内容なため、
批判される側のテレビ局は本作に関われなかったのでしょう。
それだけテレビでは放送できないシニカルで興味深い内容だとも言えます。

最後のひとつは、中村義洋監督が撮っているということです。
ボウは中村監督が今現在の日本で最も才能のある映画監督だと思っているので、
どんなに日本映画が観たくなくても、彼の作品だけは見逃せません。
本作は原作の時点でも面白いミステリーなのだろうと思いますが、
その原作は登場人物の証言から構成される『藪の中』的な形式で、
ドラマとして映像化するのは困難な小説だと思われるのですが、
中村監督は見事に映像化してしまいました。
湊かなえらしさを残しながらも、ただ原作に忠実に映像化するのではなく、
映像作品として面白くなるように、展開や設定を絶妙に改変しています。
その最たるものが主人公のひとり、綾野剛演じる赤星雄治の職業の変更です。
原作では週刊誌のライターだった彼ですが、
本作では番組制作会社のディレクターに変更されており、
原作では彼が書いた雑誌記事を再現したページがありますが、
本作ではその記事を彼が手掛けた報道番組に変更してます。
これは映像作品だからこそ味わえる演出ですよね。
つまりテレビ局が本作に関わらなかったのも、その変更の功績です。

まぁ雑誌では記者の推論だけで書かれた飛ばし記事はよくあるけど、
今のご時世、さすがにテレビ番組ではここまで不確かな情報は流せないので、
リアリティという点では原作より落ちると思います。
でも全体としては、原作を超える出来に仕上がっているとも思います。
湊かなえの小説は「読んだ後に嫌な気分になるミステリー」として有名ですが、
本作は中村監督の意向で、原作にはないあるシーンを入れることで、
とても鑑賞後感がよくなっています。
それはヒロインの城野美姫と、その幼馴染の谷村夕子の、
『赤毛のアン』にまつわる終盤のシーンなのですが、これがとても感動的で、
なんだかとても救われたような気持ちになるんですよね。
原作小説がそのままでも傑作だからと胡坐をかかず、
映画として面白いものに昇華させる中村監督は本当に天才です。
あ、ちなみにボクは原作小説は読んでませんけど。

でも映像化に際しての問題が全くないわけでもないかな。
特にキャスティングに関しては、あまりよくなかったと思います。
個人的に出演作の駄作率が高い綾野剛のことは全く評価していないので、
彼が主演のひとりなのは気に入らなかったけど、
本作ではダメ人間を好演していたので、まぁいいでしょう。
問題はもう一人の主演、ヒロイン城野美姫を演じる井上真央です。
端的に言えば、彼女は城野美姫役をするには可愛すぎます。
化粧品会社の美人OL三木典子が殺された殺人事件の、
容疑者として浮上する城野美姫ですが、その憶測される動機は、
美人すぎる同僚の典子に対する劣等感ということなので、
彼女は会社の中でも地味で目立たない同僚でなければなりません。
しかしその役が井上真央では、典子を演じる菜々緒に比肩しちゃってます。
…いや、典子はたしかに美人だし、スタイルはいいけど、
ケバいくらいに派手なので、城野美姫の方が男ウケはよさそうです。
彼女は「城の美しいお姫様」的な名前にコンプレックスを持つほど、
名前負けした容姿じゃないといけないのに、
井上真央だと「城野美姫」でも全然おかしくないですもんね。
まぁこれは読み手が人物像を想像できる小説の映像化の難しいところだし、
本当に地味なキャストをヒロインにしたら興行的に厳しくなるので、
ある程度は仕方がないけど、本作くらい内容で魅せられる作品であれば、
思い切ったキャスティングしても大丈夫だったかもしれません。
前述のように、本作の最大のセールスポイントは原作者なんだし。

化粧品会社の美人OL三木典子が殺された通称「白ゆき姫殺人事件」ですが、
本作の目的はその事件の犯人当てではなく、
さも事実であるように報道するマスコミの推論に乗せられる世論や、
関係者の主観による証言、SNSなどネット上の無責任な発言で、
犯人像や事実が歪曲して作り上げられてしまう現代社会を皮肉った、
サイコスリラーだと思います。

誰でもわかることですが、もちろん容疑者・城野美姫は犯人ではありません。
番組ディレクターの赤星は、被害者・典子の後輩社員の狩野里沙子から、
城野美姫が疑わしいと聞き、完全に彼女が犯人だと思い込んで取材します。
たしかに事件以降、城野美姫は出社しておらず、かなり疑わしいです。
そんな中、彼女についてマスコミから取材を受ければ、
同僚たちも誰だって彼女が犯人ではないかと思い込むし、
その思い込みを前提に証言しちゃうので、彼女に不利な証言ばかりになります。
そんな証言を聞けば、赤星の間違った思い込みを裏付けるようなもので、
更に彼女が犯人だと確信し、その証言をもとに番組を制作し、
あたかも城野美姫が犯人だと示唆するような報道をしてしまうのです。
そんな報道を見た視聴者も、それを真に受けてしまい、
その後の城野美姫を過去を調べる取材でも、彼女を知る人々から、
彼女が犯人だと断定するような不利な人物像が語られます。
なんと彼女の両親までもが、娘が罪を犯したと思い込んでしまうのです。
そこまで酷い状況になるかはわかりませんが、やはりマスコミの影響力は大きく、
ボクも新聞やテレビの情報は鵜呑みにしてしまうことが多々あります。
タブロイド紙や週刊誌の記事は全て鵜呑みにはしませんけど、
自分にとって都合のいい情報なら、真に受けるかもしれません。

実際にワイドショーなんかでも、殺人事件の容疑者の人物像として、
職場の同僚の証言や容疑者の生い立ちを放送したりしますが、
その内容には今回の事件と何か関係あるのか、と思うようなことも多いです。
(女児誘拐の犯人が少女漫画を持っていた、とかね。)
まぁ企業倫理の観点から、今のワイドショーや報道番組は、
起訴前の容疑者について、それほど不利な情報を流したりはしませんけどね。
生い立ちを調べられた城野美姫も、小学生時代の過ちまで掘り返され、
そんな昔のことまで今回の殺人事件の動機に結び付けられるのです。
劇中でも言及されますが、誰だって過去に大なり小なり過ちを犯しているものだし、
それが動機になるなら誰だって殺人犯予備軍になってしまいます。
ボクも過去には後ろ暗いことも多々あったので、もし事件でも起こそうものなら、
それらが掘り返されるのではないかと、おちおち人も殺せませんよ。
まぁ城野美姫の小学生時代の過ちは、誰もが経験するような、
そんな小さな過ちではなかったですけど…。
過ちがネガティブに受け取られることは仕方がない部分もありますが、
彼女の場合は過去に良かれと思ってしたことまでネガティブに受け取られ、
全く意図しなかった自分の歪んだ人物像が報道されることになり、
ついには「私は、私がわからなくなった」と自殺を図るほど困惑します。

そんな報道の在り方は、主にマスコミへの皮肉なわけで、
視聴者として意識しておく必要はあるものの、マスコミの問題です。
むしろ一般人としてちゃんと考えるべきは、本作のもうひとつの皮肉である、
無責任なネットの在り方でしょうね。
赤星は取材で得た城野美姫に関する情報を勝手にツイッター(?)に投稿します。
彼はマスコミ関係者なので厳密には一般人とは言えませんが、
匿名で無責任な情報を投稿する行為は一般人と大差ありません。
むしろマスコミとして彼にプロ意識があるなら、
無償で情報を垂れ流すようなことはしないはずなので、限りなく素人です。
ただ世間から注目されたいというだけの自己顕示欲で投稿しています。
基本的にSNSなんてのは自己顕示欲を満たす場で、
それを利用する人は、潜在的に赤星のようになる可能性を秘めています。
ボクはツイッターなどのSNSには手を出していませんが、
やはりこうしてブログをやっているのも自己顕示欲の表われの部分は否めません。
正直、書いている内容も無責任なものなので、本作の皮肉に対しても、
他人事ではなく身につまされるところは多々あります。
もし殺人事件の犯人の情報が自分だけにもたらされるようなことがあれば、
ボクも我慢できずにここに示唆してしまう可能性は否めません。

ただ、情報を発信する側はそれなりにリスクを負います。
今のご時世、いくら匿名で投稿しても、簡単に特定されますからね。
赤星も簡単に素性が暴かれ、非難されて職を失います。
まぁ彼の場合は特に素性を隠すつもりもなかったみたいですが、
城野美姫を犯人扱いしたことのツケは、それなりに取らされているかと。
なので最も無責任なのは、赤星のSNSを見て騒いでいたやつらでしょう。
彼らは赤星の憶測を鵜呑みにして城野美姫を犯人と決め付け、
赤星を正義のヒーローのように祭り上げますが、
真犯人が判明した途端に手のひらを返し、赤星を非難します。
一時は赤星と一緒に城野美姫を叩いていたくせに、
彼らは赤星と違って全く代償を追わず、反省もしません。
かなり性質が悪いけど、ネットにはこんなやつらが五万といますからね。
ボク自身も人のことはいえないけどね。

ネタバレになりますが、結局「白ゆき姫殺人事件」の真犯人は、
はじめに赤星に城野美姫が疑わしいと伝えた同僚・狩野里沙子です。
ボクはけっこう意外な犯人だと思ったのですが、
言われてみれば確かに、彼女以外には考えられないような気も…。
ただしこの犯行が実際に彼女に可能かといえば、ちょっと難しいです。
里沙子は城野美姫に罪を着せるために赤星を利用したのですが、
そのためには赤星が思い通りに動く必要があります。
結局その後も赤星は城野美姫を疑っている同僚にばかり取材に行ったので、
里沙子の思惑通りになったわけだけど、
例えば城野美姫の元教育係だった先輩社員を取材していれば、
彼の城野美姫や被害者・典子に対する印象も変わってしまったかもしれません。
赤星は、典子が美人な上に性格もいい人気者という前提で、
真逆の城野美姫が彼女を妬んで犯行に及んだと憶測していたので、
性格の悪い典子の本性を知れば、そんな憶測にはならなかったはずですからね。
赤星が被害者・典子についても取材してしまえば、
里沙子の計画は台無しになってしまいます。

まぁ赤星は単純バカなので、彼を操るのは簡単だったかもしれません。
しかし、この犯行には罪を着せる城野美姫の行動も完全に操る必要があります。
城野美姫は事件の翌日から欠勤し、姿を消してしまうから疑われるのですが、
もし翌日も普通に出社していれば、疑われることもなかったはずですし、
彼女自身がちゃんと証言すれば、真犯人が誰かもすぐわかる話だったので。
なので里沙子は彼女に出てきてもらっては困るはずですが、
なぜか彼女を行方不明にするための策は何も講じていないのです。
事件の夜に東京へ行った城野美姫は、たまたまある出来事に巻き込まれ、
そのために姿をくらますのですが、その出来事に里沙子は全く関係してはおらず、
城野美姫が行方不明になったのは里沙子も意図しない完全な偶然だったのです。
幾重にも重なる偶然の上に成り立っている犯行で、少し無理がある気がします。
他にも車の鍵のこととか、説明のつかない展開が散見されます。
結局、里沙子は窃盗で別件逮捕され、殺人事件の関与も供述したことで、
城野美姫への疑いは晴れるのですが、なぜ窃盗がバレたのかも描かれず…。
里沙子が典子を殺した動機も、窃盗を告発されそうになったからですが、
典子がなぜ彼女の窃盗に気付いたのかもわかりませんし、
殺人を犯す動機としては弱すぎる気がします。

巧妙なようでいて、実際はまずあり得ない事件だったわけですが、
前述のように、本作の主眼は謎解きではなく、
過熱報道、ネット炎上、無責任な噂、職場や学校でのイジメといった、
現代社会の闇を描いたサイコスリラーなので、十分面白い作品でした。
もちろん事件自体の出来がもっといいに越したことはないですが…。
あと、ポスターやチラシの画像に、真犯人・里沙子を演じる狩野里沙子は
載せない方がいいと思います。
勘がいい人だと、観る前から真犯人に気付いちゃうかもしれないので。

コメント

良い作品でした。

感想を拝見して観に行きました。ありがとうございました。
井上真央さんは相変わらずいいですねえ。
本作とは関係ありませんが、永作博美さんもいいけど。

  • 2014/04/12(土) 09:14:32 |
  • URL |
  • 通りすがり #-
  • [ 編集 ]

Re: 良い作品でした。

いえいえ、お礼を言われることなんて何もありません。
中村義洋監督の作品はほぼ良い作品になることは決まっているので、
彼が撮ったものなら、作品の評判なんて気にしなくても、
とりあえず観に行っても間違いないと思います。
ただ過去に1本だけ悲惨な作品があったので、
100%信頼できるわけじゃないのが残念ですが…。

  • 2014/04/12(土) 21:30:21 |
  • URL |
  • BLRPN #-
  • [ 編集 ]

私も見ました。

伏線やトリックなど、難しい事を考えなくても、楽しめる作品でした。
身近な話題だったし非常に良かったです。

  • 2014/04/27(日) 21:01:21 |
  • URL |
  • 花井 #SIhu28D2
  • [ 編集 ]

Re: 私も見ました。

たしかに身近なテーマで、社会派作品としてはとても面白かったですが、
ミステリーとして、トリックなども頑張ってもらえると更によかったです。

  • 2014/04/29(火) 00:33:36 |
  • URL |
  • BLRPN #-
  • [ 編集 ]

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