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あなたを抱きしめる日まで

今日感想を書く作品で、第86回アカデミー賞作品賞ノミネート作品を、
8本鑑賞し終えたことになり、残るはあと1本になりました。
最後のノミネート作『her/世界でひとつの彼女』は、
6月28日に日本公開となりますが、アカデミー賞関連作は、
なるべく授賞式前か直後くらいのタイムリーな時期に公開してほしいです。
まぁ今年は3月中旬までに9本中8本も公開されたので、
例年に比べればいいスケジュールかもしれません。

ボクは毎年、作品賞のノミネート作は全て観ると決めていますが、
ちょっとノミネート作の数が多すぎる気がしますね。
昔は作品賞候補は5本と決まってましたが、
第82回アカデミー賞から5本から10本選出されることになりました。
(毎年、平均で9本くらいノミネートされます。)
本数が増えると、全て観ると決めているボクの負担になるのは、
ボクの勝手なルールのせいなので構わないけど、
投票するアカデミー会員の負担になっているのは問題です。
投票権を得るには、その部門のノミネートを全て観る必要があるのですが、
9本も観るのは大変なので、嘘の申告をする会員もいるという噂があります。
今回もオスカーを受賞した『それでも夜は明ける』を、
実際には観てもいないのに投票した会員がけっこういたとか…。
なんだかシリアスで疲れそうな作品だから観たくないけど、
社会派でオスカーに相応しそうだから空気読んで投票した、みたいな…。
もしそんな投票行動が影響してオスカーを受賞したのであれば残念です。
そんな横着なアカデミー会員でも、ノミネート作が5本程度なら、
ちゃんと観てくれると思うんですよね。
どうせ何本ノミネートされたところで、実際にオスカーの可能性があるのは、
2本か3本なんだから、5本でも多いくらいです。

ということで、今日はアカデミー作品賞ノミネート作の感想です。

あなたを抱きしめる日まで
Philomena.jpg

2014年3月15日日本公開。
イギリスでベストセラーとなったノンフィクションを映画化。

1952年アイルランド、未婚の母フィロミナは強引に修道院に入れられた上に、息子の行方を追わないことを誓約させられてしまう。その後、息子をアメリカに養子に出されてしまった。それから50年、イギリスで娘と暮らしながら常に手離した息子のことを案じ、ひそかにその消息を捜していたフィロミナ(ジュディ・デンチ)は、娘の知り合いのジャーナリスト、マーティン(スティーヴ・クーガン)と共にアメリカに旅出つが……。(シネマトゥデイより)



序文でも書いたように、本作は第86回アカデミー賞の作品賞候補でした。
候補の中でも最も地味な印象で、ボクも本作の受賞はないと踏んでましたが、
第70回ヴェネツィアでは脚本賞を受賞しているので、
アカデミー脚色賞の受賞の可能性はあるかなと思ったのですが、
結局作品賞同様、候補止まりでしたね。
他にも作曲賞と主演女優賞の計4部門にノミネートされるも無冠でした。
ボクの予想では、主演女優賞は脚色賞以上に高確率で受賞すると思ったけど…。
主演のジュディ・デンチは、今までに4度も主演女優賞候補になるも、
オスカー受賞には至っていない無冠の名優なので、
5度目の今度こそは受賞しそうだと予想したのですが…。
(でも彼女は助演女優賞は受賞したことがあります。)
今回彼女を破り、主演女優賞を受賞したのはケイト・ブランシェットですが、
その作品『ブルージャスミン』の日本公開はまだ先(5月予定)なので、
それと比べることはできないけど、本作のジュディ・デンチの演技は素晴らしく、
鑑賞後は是非彼女に受賞してほしかったと口惜しく思えます。

というのも、とても面白い本作ですが、その魅力の大部分は、
デンチ演じる主人公フィロミナのキャラに所以すると思うからです。
原題がそのものズバリ『フィロミナ』なのもそのためじゃないかな。
とてもチャーミングなお婆さんで、ちょっと変わり者なところもあるけど、
なんだか「こんな人いるよね」と思えて親しみを感じます。
すぐに他人のことを「100万人に1人の親切な人」と褒める感激屋で、
そんな極端で大袈裟なところがコミカルで笑えます。
とても素敵な女性ですが、フィロミナをそうしたらしめているのは、
デンチの好演あってこそなので、彼女の演技は評価されるべきです。
もちろんちゃんと評価されているとは思いますけどね。

とはいえ、デンチ演じるフィロミナの魅力だけの作品ではありません。
ヴェネツィアで脚本賞を受賞した脚本も、とてもよく出来ています。
少なくともアカデミー脚色賞で本作を降しオスカーを受賞した
『それでも夜は明ける』よりは、面白い脚本になっていると思われます。
悲劇を悲劇としてしか描かず、鑑賞後も重い気持ちを引きずる
『それでも夜は明ける』とは違い、本作には悲劇的な展開もあるし、
あまり報われないラストだったけど、それでも鑑賞後は温かい気持ちが残る、
とても心地の良いコメディ・ドラマに仕上がっていると思います。
本作は事実を基に脚色された物語ですが、その元ネタも興味深く、
本当にそんなことがあるなんてと驚かされるほど、奇跡的な実話です。
といっても、どの程度脚色されているかはボクにはわかりませんが…。
以下、ネタバレ注意です。

舞台はイギリス、元BBCのジャーナリスト、マーティン・シックススミスは、
ある女性から「是非私の母の話を記事にしてほしい」と依頼されます。
その話とは、50年前に生き別れた息子を探してほしいというもので、
当初そんな三面記事は書きたくないと思ったマーティンですが、
BBCをクビになり無職で背に腹は代えられず依頼を受けます。
マーティンは政府広報担当だったみたいですが、何かをやらかしたか、
何か誤解があったみたいで、BBCを解雇されたわけですが、
そのあたりの背景が掴みきれず、ボクは序盤で挫折しそうになりました。
まぁ結果的に彼の解雇された経緯は本筋とは大して関係なかったので、
ちゃんと把握する必要もなかったため、助かりましたが。
マーティン・シックススミスは実在のジャーナリストで、
彼が書いたノーフィクションこそが本作の原作です。
たぶんイギリスでは有名な人なので、イギリス本国の客なら、
彼のBBC解雇に至る経緯も端から知っているのかもしれませんね。

その依頼した女性の母親フィロミナの話によると、
彼女は50余年前にお祭で若いイケメンにナンパされ、関係を持ち、
妊娠してしまいますが、厳粛なカトリックの父に激怒され、
ロスクレア聖心修道院に預けられてしまいます。
そこで彼女は奴隷のように扱き使われるのです。
彼女は息子アンソニーを出産しますが、シスターにその子を取り上げられ、
勝手に養子に出されてしまい、それ以来一度も息子には会っていません。
その息子を一緒に探してほしいと、マーティンに依頼しますが、
何の手がかりもなく、とりあえず2人で修道院に話を聞きに行きますが、
その時のシスターの対応に不信感を覚えたマーティンは、
「これは何かある」とスキャンダルの臭いを嗅ぎ付けるのです。
未婚の母親たちに奴隷まがいの強制労働させるだけでも十分人権侵害ですが、
なんとその修道院は、預かった彼女たちから赤ちゃんを取り上げ、
アメリカ人のカトリックの里親に1000ポンドで販売していたのです。
養子という建前の列記とした人身売買じゃないですか。
アイルランドの修道院で本当にそんなことがあったなんて驚きです。

婚前交渉は罪と考えるカトリックでは、未婚の母なんてとんでもない罪人ですが、
だからといってこんな非人道的な行為が神の家で行われていたとは…。
ボクはもともと宗教全般嫌いですが、カトリックへの猜疑心が更に深まりました。
マーティンもカトリックは嫌いなようなので、
カトリックの修道会のスキャンダルを暴けそうなことが、
この依頼を受けた最大の動機かもしれません。
本作はカトリックのスキャンダルを描いた作品なので、
必然的にカトリックに対して否定的な内容を含みますが、
そのせいで本作はカトリックの人々から批判を受けることもあるみたいです。
でも実話なんだから非があるのはカトリックの方で、批判は謂れなきこと。
ちょっと大袈裟に描かれている部分もあるかもしれませんが、
火のないところに煙は立ちませんから、自業自得ですよ。
それに本作の主人公フィロミナも、あんなに酷い目に遭わされたのに、
自身も敬虔なカトリックですが、彼女はとても素敵な人で、
シスターたちと違い、イエスの教えである博愛精神を持った人として描かれ、
一方的にカトリックを悪く描いた作品ではないと思います。
カトリックにも善人もいれば悪人もいるという当たり前のことを描いただけです。
ただ、その悪人がこともあろうに聖職者というのが、
かなりカトリックのイメージを貶めちゃってますけどね。

フィロミナの息子アンソニーがアメリカ人の養子になったとわかり、
彼女はマーティンと一緒にとりあえず渡米します。
マーティンはBBCワシントン支局時代の伝手で、移民局の情報を取り寄せ、
アンソニーがヘス夫妻の養子になり、マイケルという名前になったと判明。
なんとマイケル・ヘスは弁護士で、レーガン政権やパパブッシュ政権で、
主席法律顧問を務めていた人物であるとわかるのです。
まさかフィロミナの息子が、アメリカ史に名前が残る超大物だったとは、
なんだか出来すぎな気がしますが、実話だっていうんだから驚きです。
しかし出来すぎな展開もそうは続きません。
母子が50年ぶりに感動の再会してハッピーエンドなんて展開にはならず、
残念ながらアンソニーことマイケルは8年前に他界していたようで…。
それを知ったフィロミナは悲しみに暮れます。
まさか息子さんが死んでいたとはボクも予想外でした。
なにしろ邦題が『あなたを抱きしめる日まで』ですから、
息子を抱きしめないと終わらないと思い込んでいたので…。
こんな中盤でその目がないとわかるなら、こんな邦題は付けちゃダメでしょ。

失意のうちに一度は帰国しようとしたフィロミナですが、
せめて息子のことを知りたいと、息子の知人に会いに行くことに。
まずホワイトハウスの同僚だった女性に会うのですが、
そこで衝撃的な事実を聞かされます。
なんとアンソニーはゲイだったのです。
うわー、肉親としてはそんな情報知りたくなかっただろうな、
…と思いきや、フィロミナは全く動じる気配もなく「予想していた」と…。
せいぜい2歳くらいまでの息子のことしか知らないはずなのに、
なぜそんな予想ができるのか不思議ですが、それも母の愛がなせる業かな?
ヘス夫妻に引き取られた時のアンソニーは、
同じ境遇の女の子メアリーと一緒に引き取られるのですが、
メアリーにチュッチュしてたので、まさかゲイとは思いませんでした。
8年前に死んだなら、享年は40代前半のはずで早すぎる死だと思ったけど、
死因は不明でしたが、フィロミナは「エイズが死因ね」とすぐ気付きます。
ゲイの病気といえば、言われてみればたしかにエイズが思い当たるけど、
彼女の勘のよさには感心します。

次に義理の妹メアリーに会いに行きます。
彼女から兄がアイルランドの話題は全くしないという話や、
養父が厳しい人で子供時代は幸せではなかったという話を聞き、
フィロミナはアンソニーが自分を憎んでいるのではないかと思い、
もう記事も中止にして、帰国したいと言うフィロミナですが、
マーティンがアンソニーの法律顧問時の写真の胸元に、
アイルランドの象徴「ケルティックハープ」のバッチが付いているのを発見し、
「彼がアイルランドを嫌いなはずない」と彼女を説得し、
とりあえずアンソニーの恋人だった男ピートに会いに行くことにします。
ピートからアンソニーのメモリアルビデオを見せてもらうと、
その中にロスクレア聖心修道院を訪れる彼の姿が記録されており、
実は彼も、フィロミナを憎んでいたどころか、
アイルランドまで彼女を探し来たこともあるのだと判明します。

それを知って激怒したマーティンはすぐ帰国し、フィロミナを連れて、
アンソニーの訪問を意図的に隠していた修道院に怒鳴り込むのです。
当時から修道院にいたシスター・ヒルデガードを問い詰めると、
シスターは「姦淫の罪を犯した彼女が息子を失うのは当然の報い」と逆ギレ。
更に「私はこの歳まで禁欲の誓いを守った」と言うのですが、
もう宗教云々ではなく、男性経験のないババアが、フィロミナに嫉妬して、
腹いせに息子のことを隠していたとしか思えない印象です。
この聖職者のくせに微塵の寛容さもないクソババアは裁きを受けるべきですが、
フィロミナはシスターを非難するマーティンを制止し、
シスターに向かって「あなたを赦します」と告げるのです。
そのフィロミナの神のような寛容さに心を打たれましたが、
そんな素晴らしい彼女を苦しめた老いぼれシスターには更に怒りが込み上げます。
意外すぎるフィロミナの言葉に、ババアも悔恨を滲ませていたように見えたので、
ただ非難するだけより、ダメージがあったのかもしれませんね。
それにフィロミナが本当にシスターを赦していたかも微妙です。
修道院を出た後、マーティンがフィロミナに気を使って
「私的なことだから記事にしない」と言うけど、彼女は「記事にしてほしい」と…。
これはシスターや修道院を告発したいという気持ちもあったのかもしれません。
その後、記事が出版された後、この修道院がどうなったのか気になりますね。
シスター・ヒルデガードには何かしらの裁きがあればいいのですが、
あの歳では、出版前にすでに他界していてもおかしくないかな。
まぁいくら聖職者でも、こんな性悪ババアが天国に行くはずはないし、
禁欲の誓いも無駄だったと考えれば、いい気味です。

日本公開済みのアカデミー作品賞候補8作の中では、
『ゼロ・グラビティ』『ダラス・バイヤーズクラブ』『ネブラスカ』に次ぎ、
4番目によかったと感じた作品でした。

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