ブログデンティティー

blog-dentity since 2013

大統領の執事の涙

オリンピック開催中のロシア南部ソチで、
ロシア当局への抗議行動をした活動家が警察に拘束されたそうです。
オリンピック施設やインフラ整備で環境破壊されたことで
地元の環境保護団体のメンバーが抗議したことは理解できるけど、
ロシアの同性愛宣伝禁止法に反対する人権活動家には賛同しかねます。
(余談ですがt.A.T.u.の再解散も同法の影響かと思ったら、ただの不仲でした。)
別に同性愛の是非はどうでもいいけど、エリア内での政治的な政治活動は
五輪憲章に違反するので、どんな理由でもルール違反はダメです。
次の冬季オリンピックの開催国であるあの国の選手も、
「独島は我が領土」なんて書かれたキャリーバッグをソチに持ってきたそうだが、
オリンピックはスポーツの祭典なんだから、政治を持ち込まないでほしいです。
オバマ大統領ら欧米の首脳も、同性愛宣伝禁止法に抗議するため、
開会式などに参加しないことを決めたそうですが、政治的なことは棚上げし、
自国の選手を応援するためだけでも参加するべきです。
我が国の首相も、プーチン大統領との会談が目的で参加したようですが…。
まぁオリンピックなんて、開催地の選考の時点から政治まみれですけどね。

ということで、今日はアメリカの人権活動家を描いた物語の感想です。

大統領の執事の涙
Lee Daniels The Butler

2014年2月15日日本公開。
実在したホワイトハウスの黒人執事の人生をモデルにしたドラマ。

綿花畑で働く奴隷の息子に生まれた黒人、セシル・ゲインズ(フォレスト・ウィテカー)。ホテルのボーイとなって懸命に働き、ホワイトハウスの執事へと抜てきされる。アイゼンハワー、ケネディ、ジョンソン、フォードなど、歴代の大統領に仕えながら、キューバ危機、ケネディ暗殺、ベトナム戦争といったアメリカの国家的大局を目の当たりにしてきたセシル。その一方で、白人の従者である父親を恥じる長男との衝突をはじめ、彼とその家族もさまざまな荒波にもまれる。(シネマトゥデイより)



全米3週連続ナンバー1を獲得した本作。
あの黒人少女の絶望を描いた『プレシャス』のリー・ダニエルズ監督の作品で、
実在の黒人執事の実話で、黒人差別を描き、公民権運動が主題となれば、
オスカー候補間違いないと思ったけど、なぜか1部門にもノミネートされず…。
2年前は黒人メイドを描いた『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』なんて、
4部門でノミネートされ、1部門を受賞している大健闘だったのに、
黒人メイドと黒人執事で、この扱いの差は何だろうと思ってしまいます。
ただ、オスカー候補には何故だか黒人枠みたいなものがあって、
本年度はその枠を『それでも夜は明ける』に譲ったような気がするんですよね。
(昨年度の黒人枠は『ジャンゴ』…じゃなくて『リンカーン』かな。)
どのようにしてオスカー候補が決まるのか厳密には知りませんが、
数少ないと言われる黒人会員が、黒人映画同士で票を食い合わないように、
裏で示し合わせてるんじゃないかとも思ってしまいます。
つまり本作はアカデミー候補になっても全くおかしくないような、
とても素晴らしい作品だったということです。

邦題からして涙なくしては観れない感動作のように宣伝されていますが、
正直、全く感動はしませんでした。
やはり良くも悪くもアフロアメリカ向け作品で、
当事者の黒人客でもない限り、泣けるほど感動できないんじゃないかな?
特にほぼ単一民族国家で人種差別とはあまり縁のない日本人では、
どこか他人事で、実感が湧きにくい内容なのかもしれません。
でも感動はしなかったものの、歴史ドラマとしてはとても興味深く、
アメリカの公民権運動の歴史を、2人の黒人の視点から描く切り口で、
とてもわかりやすく、とてもドラマチックに描けています。
『ヘルプ』にしても『リンカーン』にしても、白人主導で撮られた作品で、
やはりどこか白人のエゴのようなものを感じましたが、
リー・ダニエルズ監督は黒人なのでその心配もなく、
逆に黒人監督が公民権運動を描けば、黒人側に偏った内容になりそうだけど、
本作は不思議とフェアに描かれていると思いました。
そうなったのも、白人に仕える執事の父セシルと、
公民権運動に参加する長男ルイスの、全く正反対な2つの視点で描くことで、
絶妙にバランスを取っているのだと思います。
まぁ加害者側である白人客は、そう思わないかもしれませんが…。

本作は実在の黒人執事を主人公にしてはいるものの、
あくまで実話から着想を得ただけで、歴史的な出来事以外、
黒人執事のパーソナルな部分については、ほぼフィクションのようです。
本作の黒人執事はセシル・ゲインズという名前ですが、
彼のモデルになったのはユージン・アレンという黒人執事らしく、
本作ではルイスという名の彼の息子も、公民権運動に参加したかはわからないが、
本作で描かれているような急進的な活動家ではなかったようです。
まぁ本作のルイスの経歴は、どう考えても普通じゃないですからね。
フリーダム・ライダーズから始まり、キング牧師に師事し、マルコムXと出会い、
ブラックパンサー党を立ち上げ、更には選挙にまで出ちゃうという、
まるで公民権運動の歴史を体現するかのような激動の経歴で、
そんな人物がいたら、それこそキング牧師並の歴史的偉人になってますよ。
それにそんな活動家が息子なら、セシルもホワイトハウスでは働けないです。
たしかに事実を歪曲しており、そこが批判されているのも仕方がないけど、
これは公民権運動の歴史をどんな切り口で描くかの手段の問題であり、
本作はその手段が功を奏し、わかりやすく面白くなっているので、
フィクションかどうかなんて大した問題ではないでしょう。
むしろよく纏まった歴史フィクションとして評価されるべきです。
以下、ネタバレ注意です。

1926年、黒人差別の特に悲惨だったアメリカ南部で、
両親と共に綿花農園で働く幼いセシルですが、
ある日、白人である農園所有者のバカ息子がセシルの母をレイプし、
そのことを抗議した父は撃ち殺されてしまいます。
当時は白人が黒人を殺しても罪には問われなかったそうで、
全く悲惨な話ですが、実際にこれはちょっと悲惨すぎます。
その後も黒人差別の様子が描かれる本作ですが、冒頭がこんな強烈な逸話だと、
そこがピークになっちゃって、後に息子ルイスが受ける差別なんかは、
なんだか生易しく感じてしまいます。
さすがにセシルを気の毒に思った農園の奥様が、彼を野良作業から、
少し楽なハウスニガー(家働きの下男)に召し上げてくれるのです。
そこでセシルは給仕の仕事を学びます。

十代になったセシルは、この屋敷にいてはいずれ自分も殺されると感じ、
母を農園に残し、ひとり街に出ることにします。
街にやってきたセシルは、ホテルのペストリーショップに侵入し、
食べ物を盗んでいるところを黒人従業員に発見され、彼に頼み込み、
そのホテルでボーイとして働かせてもらいます。
数年後、誘いを受けてワシントンD.C.のホテルで働くようになりますが、
そのホテルは政府高官も利用する立派なホテルで、
たまたま給仕したホワイトハウスのウォーナー事務主任の目に留まり、
1957年に大統領の執事としてスカウトされるのです。
でもウォーナーは別にセシルを気に入ったわけではないみたいで、
レイシストである彼は、アイゼンハワー大統領の人種統合教育に反対でしたが、
それに対し意見を求められたセシルが「私は政治には興味がない」と答え、
コイツなら公民権運動はしないだろうと、執事に取り立てたのでしょう。
実際にホワイトハウスで働き始めたセシルですが、
給仕長から「白人の話は見ざる聞かざるを貫け」と教育されます。
それにしてもアイゼンハワー大統領って、公民権運動のイメージないけど、
意外にもけっこう人種統合教育には力を入れてたみたいで、
リトルロック高校事件なんかも彼の任期中だったんですね。
一方、白人に殺された黒人少年の母親メイミー・ティルの演説を聞き、
ショックを受けたセシルの長男ルイスが、公民権運動に目覚め、
運動をするために、わざわざ差別の酷い南部のテネシー大学に入学します。

1961年にはケネディが大統領になります。
みんな大好きケネディは黒人執事に対してもとてもフレンドリー。
まだ幼い現駐日米大使のキャロラインも登場し、
セシルは彼女に絵本を読んであげたりもします。
そのころ、大学で非暴力の公民権運動をするSCLCの団体に入った長男ルイス。
当時はジム・クロウ法によりダイナーの席やバスの座席などは、
白人席と非白人席に分かれていたのですが、それに不服なルイスは、
仲間とダイナーへ行き、白人席に座り込み非暴力の抗議を行います。
彼らは白人から強制的につまみ出され、逮捕され、30日間拘留されることに。
ルイスは釈放後、今度はフリーダム・ライダーズに入ります。
フリーダム・ライダーズは白人と黒人の混成グループが、
座席の分離を無視したバスで南部を旅行する抗議運動ですが、
彼の乗ったバスは白人至上主義団体KKKから襲撃を受け大炎上。
ルイスは無事でしたが、また逮捕され、3カ月間も拘留されます。
そんな息子が心配なセシルの妻グロリアは、アルコール依存症になり…。
ルイスの活動のような、いわゆるバーミングハム運動に心を痛めたケネディは、
公共の場所での座席の分離を禁止し、その流れはのちに公民権法へとなります。
本作の展開だと、ケネディがセシルの家族を心配して動いてくれたように映り、
まるで執事と大統領の友情が世界を動かしたようで、ちょっと心温まりますね。
そんなみんな大好きケネディですが、1963年暗殺されます。
これも本作の展開だけ見ると、ケネディの公民権運動に反対する犯人に
狙撃されたような印象を受けますが、実際は犯人の動機は未だ不明です。
でも人種差別主義者の犯行というのは、あながちない話でもないかも、
と思わされてしまう、巧みな構成になっていますね。

1964年、ケネディの後を引き継ぎ大統領になったジョンソンは、
公民権法を成立させたことで有名ですが、
黒人の別称である「ニガー」を連呼したりと、ちょっと印象悪いかも。
というか、あまり悪気もないみたいで、ちょっと変わり者なのかも。
一方、長男ルイスはマルコムXの講演会にも参加しますが、
攻撃的なマルコムXの公民権運動には肌が合わなかったようで…。
マルコムXは黒人が白人に仕えることにも否定的だったので、
父親が大統領の執事をしている彼は、それも引っ掛かったのでしょう。
その後ルイスはセルマでの公民権運動デモに参加しますが、
そこで血の日曜日事件に巻き込まれることになります。
またしても無事だったみたいですが、
ルイスは全ての公民権運動に参加してるんじゃないかと思っちゃいますね。

ベトナム戦争への批判も強まる1968年。
ルイスはキング牧師に師事していますが、白人に仕える父を恥じる彼に、
キング牧師は「執事は紋切り型の黒人像を壊そうとする戦士だ」と言い、
ルイスもその言葉に感銘を受け、父セシルを少し見直すのです。
たしかに黒人ってちょっと怖いですもんね。
白人が黒人を恐れて差別してしまう気持ちもわかる気がしますが、
柔和な態度でその黒人像を壊し、白人の誤解を解く執事の仕事も、
キング牧師の提唱する非暴力な公民権運動と言えるのかもしれません。
しかし、そんなキング牧師が暗殺されたことにより、
公民権運動はどんどん暴力的になります。
ルイスもマルコムXの流れを汲む急進派組織ブラックパンサー党に入ります。
威圧的な格好でアフロの彼女を連れて7年ぶりに里帰りしたルイスに、
父セシルは大激怒し、勘当同然で追い出すのです。
キング牧師の助言も忘れ、紋切り型の黒人になっちゃったわけですね。
その夜、ルイスは白人警官を殴り、またしても逮捕されてしまいます。
1969年、ニクソン政権ではブラックパンサー党はテロリストとして、
徹底排除の方針が打ち出され、ブラックパンサー党もそれに対抗し、
各地で銃撃戦が起こり死者が出る泥沼状態に…。

そんな中、次男チャーリーは「兄貴は国と戦うが、僕は国のために戦う」と、
軍隊に入り、ベトナム戦争に行ってしまいます。
ベトナム戦争は初めて黒人部隊が編成された戦争として有名ですが、
黒人兵士は最前線に駆り出されるので、とても危険な決断で、
案の定、チャーリーは戦死してしまうのです。
しかしルイスは弟の葬式にすら出席せず、父子の亀裂は更に広がります。
でもどうやらブラックパンサー党の武力による黒人解放運動は、
ルイスの本意ではないらしく、彼は大学に戻り、政治学の修士号を取得し、
下院議員選挙に立候補すますが、落選してしまいます。
みんな大嫌いニクソン大統領もウォーターゲート事件により失脚します。
ニクソンはアイゼンハワー政権の副大統領時代に、
セシルたちに黒人執事の賃上げを約束していましたが、
彼のことだからそれも忘れてるのでしょうね。

黒人執事の賃金は白人執事より4割も低かったそうで、
セシルは自分でウォーナー事務主任に、賃上げと昇進を直談判します。
でも事務主任は聞く耳を持たず、「嫌なら辞めれば?」と一蹴。
ところが後に大統領になったレーガンの鶴の一声で、
黒人執事の待遇の改善が決定します。
南アメリカのアパルトヘイトの経済制裁に反対したレーガンなのに、
本作でのこの扱いは意外ですよね。
他にもセシルを妻同伴で晩餐会に招待したりもして、
なんとも黒人執事に対してフレンドリーな大統領です。
ところが晩餐会で、同僚の黒人執事から白人のように給仕されたセシルは、
自分は「本当の客ではない」と感じ、急に虚しさがこみ上げます。
更に長男ルイスの活動を英雄的に紹介している出版物を読んだりするうちに、
あれほど誇りに思っていた執事の仕事に身が入らなくなり…。
ちょっとセシルのこの心境の変化を理解するのは難しかったですが、
たぶん南アのことで、アメリカは外国の歴史にはアレコレ言うくせに、
自国の歴史の暗部には目を背けていると感じ、
それは白人に差別された綿花農園時代を顧みず、
白人に仕えている自分も同じだなと思ったのかも。
白人と戦っている長男ルイスの方が正しいと思ったのでしょう。
そして彼は、レーガンから惜しまれながらも執事を引退し、
アパルトヘイト反対運動をするルイスの応援に行くのです。

なんだか、こんな展開になると、ルイスの急進的公民権運動が正しく、
白人に仕えることで黒人への誤解を解いてきたセシルの人生は
間違いだったというメッセージにも取れてしまいますが、
むしろこれは、少しネガティブに描かれていたルイスの運動に、
セシルが理解を示し歩み寄ることで、セシルの人生はもちろん、
どんな公民権運動も意味があったと伝えたいんだと思います。

ルイスと和解し、家族で穏やかな生活を送るセシル。
時は経ち、2008年、ついに黒人初の大統領が誕生するのです。
それが言わずと知れたバラク・オバマ大統領です。
ボクはオバマが大統領になった時、それほど凄いこととも思わなかったけど、
セシルの人生と公民権運動の歴史を重ねた物語を観た後だと、
それがどんな偉業だったか、ちょっと理解できたような気がします。
なにしろセシルが子供の頃は、黒人は犬畜生同然の扱いだったわけで、
人ひとりの人生の間で、そんな黒人が大統領になるまでになるなんて、
ほんの数十年前は誰も考えもしなかったことでしょうからね。
セシルはオバマ大統領に招かれ、ホワイトハウスに行きます。
そこでは黒人の事務主任がセシルを出迎えてくれるのですが、
彼が事務主任になれたもの、レーガン時代にセシルが
黒人執事の昇進を直談判したからなのでしょうね。
セシルはオバマ大統領と面会し、本作は幕を閉じます。
本作にはオバマ大統領が「目に涙あふれた」とコメントをしており、
それが宣伝でも大々的に使われているのですが、
自分の偉業を描いている映画に、そんなコメントを贈ったと思うと、
なんだか自画自賛のようで、ちょっと興醒めしちゃいますね…。

セシルは7人の大統領に仕えたはずですが、
ニクソンから急にレーガンの時代に飛んだため、
フォードとカーターについては全く描かれませんでしたね。
まぁ公民権運動的には空白の時代だったのでしょうけど。
とはいえ、あまり馴染みのなかった公民権運動について、
出来事の時系列や各大統領の黒人差別問題への取り組みなど、
サクッとわかりやすく学べる興味深い作品で、本作で得た知識は、
今後の黒人映画を観る上でとても役に立つと思います。

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://blrpn.blog.fc2.com/tb.php/1235-57feb11a
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad