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キャプテン・フィリップス

今日も映画の感想です。

キャプテン・フィリップス
Captain Phillips

2013年11月29日日本公開。
実際の海賊事件をトム・ハンクス主演で映画化。

2009年4月、ソマリア海域を航海中のコンテナ船、マークス・アラバマ号を海賊が襲撃。武器を所持していた4人の海賊に、武装していなかったアラバマ号はあっという間に占拠されてしまう。船長のリチャード・フィリップス(トム・ハンクス)は、20人の乗組員を自由にしてもらう代わりに自らが海賊の人質となり……。(シネマトゥデイより)



全米公開時から、映画批評家に高く評価され、
アカデミー賞候補になるのではという声も多い本作。
オスカー最有力候補の呼び声高い『ゼロ・グラビティ』に続く、
全米2位デビューで、かなりヒットしたみたいです。
もうアカデミー賞の話題が出てくる季節なのですね。
ボクはここ数年、日本で公開される全てのオスカー候補を観ているので、
候補が噂される本作も見逃すわけにはいきません。
成績も評判も上々の作品で、かなり期待できるので、
オスカー候補の噂がなかったとしても観に行ったのは確実です。
ところがいざ観てみると、「こんなものか」って感じでした…。

2009年にソマリア海域で起こった海賊船による貨物船人質事件、
通称「マースク・アラバマ号事件」を映画化した本作ですが、
乗組員の代わりに人質になったフィリップス船長の活躍を、
ただ美談として描いているだけで、テーマ性に乏しい気がします。
ソマリア沖の海賊を題材にするのであれば、もっと社会派なテーマも描くべき。
船長の立派さや米軍の頼もしさなど、アメリカ人の素晴らしさだけを強調するのではなく、
ソマリア人が海賊行為をしなくてはならなくなった経済的な背景など、
アフリカの角における国際的な問題についても、もっとしっかり描いてほしかったです。
海賊たちの背景も少しは描かれているのですが、ほんとに少しなので、
やっぱり単なる凶悪なテロリストにしか見えないんですよね。
日本の海運会社もソマリア沖の海賊には幾度か被害に遭っており、
ボクも海賊行為は腹立たしいし、海賊なんて全員死ねばいいと思いますが、
劇中で、人質になった船長に「海賊にならなくても他に道があっただろ」と言われ、
海賊は「アメリカならな」と答えますが、元漁師だった彼ら海賊が、
なぜ海賊になってしまったのかはとても重要なことだと思います。
その原因にアメリカや日本などはどう関係しているのかなど、
もっと詳しく描いてほしかったですが、本作ではあまり踏み込まれず、
ただ憎むべきテロリスト、殺されて当然の凶悪犯として描かれるだけです。

海賊たちは何かにつけて「我々はアルカイダではない」と言います。
彼らにしてみれば、あんなテロリストと一緒にするなと言いたいわけだけど、
目くそ鼻くそを笑うようなものだと思う反面、たしかにソマリアの海賊は、
イスラムの原理主義組織とは違って、人質に危害を加えたり殺したりしません。
彼らは宗教や異教徒への恨みで動いているわけではなく、単純にカネ目的なので、
金蔓の人質を殺したりしないし、たぶん殺人も極力したくはないんだと思います。
しかし本作の海賊は、結果的に誰も殺しませんでしたが、
別に殺しても構わないような行動を取っていて、たまたま誰も殺さずに済んだだけ。
船に乗り込もうとする時も、人影に対して発砲していたし、
隠れた船員たちを誘い出す時も、本気で1分間にひとりずつ殺す気だったと思います。
特に乗り込んだ4人の海賊の中のひとり、ナジェはかなりの狂犬野郎で、
リーダーのムセの命令さえも無視し、船長に対しても殺す気で発砲します。
比較的冷静なムセでも、悪口を言われただけで仲間もひとり殺してますからね。
たぶん本当の海賊はこんなことはしなかったと思われますが、海賊を非人間的に描き、
海軍に撃ち殺されても仕方がないテロリストと観客に印象付けるための演出でしょう。

実際の事件では、海賊たちは10代の少年でしたが、本作では一周りほど上の俳優を起用。
大人の俳優を使わねばならないキャスティング上の都合もあるでしょうが、
いくら海賊とはいえ10代の少年を米海軍が撃ち殺すようなシーンは、
イメージが悪いから避けたいという意図もあるような気がします。
本来ならちゃんと10代の俳優をキャスティングして、
子供なのに海賊をしなくてはいけないソマリアの現状を伝えるべきです。
なお、劇中でも少しだけ語られますが、ソマリアの漁師が海賊行為に走ったのは、
欧米の漁船がソマリア沖で操業して、魚を根こそぎ捕っていくからだそうです。
ちなみに彼らは海賊で稼いでも、ほとんど組織に上納させられるみたいです。
そういう部分を、もっと描いてくれたらいいと思うんですけどね。

とはいえ海賊に襲われるなんて、なかなか経験できることじゃないし、
『パイレーツ・オブ・カリビアン』など中世の海賊を描いた映画はよく観るけど、
現代の海賊がどんな方法でコンテナ船を襲うのかは、報道でも気になっていたので、
コンテナ船での攻防が描かれる前半はなかなか興味深い展開でした。
海賊は小型ボートで襲撃しますが、コンテナ船はかなりの高さの乾舷があるのに、
どうやって乗り込むつもりなんだろうと思ったら、普通にハシゴを掛けるんですね。
そんな簡単な方法で乗り込めちゃうことに驚きです。
コンテナ船も小型ボートの接近を防ごうとしますが、ただホースで水を噴射するだけ。
それでは当然簡単に接近を許し、ハシゴを掛けられてしまいます。
乗り込まれたら最後、銃火器を持ってない船員たちはただ隠れるしかないのです。
海賊が多発している海域を航海するのに、武器はホースの水鉄砲だけって…。
米海軍や海上自衛隊の駆逐艦はパトロールしてますが、
コンテナ船も自衛のために最低限の武装してもいいんじゃないのかな?
武装しただけの4人の少年に、船員20人の船がまたたく間に制圧されるなんて、
そんなに楽勝なら少年たちも「漁師やめて海賊しようかな」とも思っちゃいますよ。

大きな動力を持つコンテナ船が、小さなエンジンのボートに簡単に追いつかれるのも、
ちょっと意外な展開でしたが、コンテナ船ってあんなに遅いものなの?
それにあんな小さなボートじゃ、コンテナ船の荷物なんて奪っても運べません。
「積み荷はテレビか自動車か?」と言ってたけど、自動車だったらどうやって盗むのか。
…と思ったけど、もともと人質の身代金や積み荷の保険金が目当てなんでしょうね。
海賊は船長を拉致し、1000万ドルの身代金を要求しますが、
たかが一般人に誰がそんな高額な身代金を払うのかと思ったけど、
前年にギリシャのコンテナ船を襲った時は600万ドルも稼いだそうなので、
アメリカ人船長だったら1000万ドルくらいにはなるのかな?

中盤、船員に思わぬ反撃を受けた海賊は、船長を人質にして救命艇で脱出します。
前半のコンテナ船での攻防は面白かったけど、後半の救命艇の攻防は退屈です。
とにかくテンポが悪くて、冗長的に感じられます。
海軍の駆逐艦ベインブリッジが救命艇の船長を助けるためにやってきて、
さらにSEALも合流し、もうどう足掻いても海賊たちに勝ち目がないのはわかってるのに、
救命艇内での船長と海賊たちの小競り合いがダラダラと続くんですよね…。
船長もあとは海軍に助けてもらうのを待てばいいのに、なぜか海賊に無用な挑発をしたりと、
家族に会いたがるわりには、無駄死にしたいのかと思える意味不明な言動です。
それというのも、あとはただ海軍に助けられるだけでは、
映画のラストとして、全く盛り上がらないと考えたためでしょう。
それまで大人しく座っていた船長が、救命艇内で海賊相手に急に暴れまわったりもします。
海軍から救出作戦のために「座席に座っていろ」と言われているにも関わらず、
これでは助かりたいどころか、海軍の救出の邪魔をしているようなものです。
無理やりクライマックスに持っていこうと、アクションシーンを作った意図が見えますが、
全く不条理な行動なので、違和感しかなく全く盛り上がりません。
演技に定評のあるトム・ハンクスですが、これほど矛盾した役柄だと、
彼の演技力をもってしても説得力には繋がりません。
その結果ボクには船長が、船員を守った英雄ではなく、自殺願望の愚か者に見えました。
当然感動もできず、何がしたかったのかわからない作品という印象だけが残りました。

何が評価されているのかはわかりませんが、批評家のウケは上々なので、
おそらくアカデミー賞作品賞の候補にはなるでしょうが、受賞は無理かな。
船長演じるトム・ハンクスの主演男優賞もせいぜい候補どまりだと思います。
でも海賊のリーダーのムセを演じたバーカッド・アブディは、
もしかしたら助演男優賞でいい線まで行けるかもしれません。
演技がどうだったかはよくわかりませんが、ソマリア出身なので話題性があるので、
候補に残れば注目されて、そのままオスカーなんてこともあり得るかも?

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