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サプライズ

映画には金曜日に公開になるものと土曜日に公開になるものがありますよね。
金曜日である本日も『悪の法則』と『マラヴィータ』のハリウッド映画2本の公開日ですが、
金曜日に公開される映画はハリウッド映画が多いのが特徴です。
なぜハリウッド映画は金曜日に公開されるのに、逆になぜ日本映画は公開されないのか。
それは日本の全国週末興行成績ランキングは土日分しか集計されないので、
ランキングの上位を狙うなら、動員数が多くなる初日を土曜日にした方が有利だからです。
おそらくハリウッドメジャーにとっては、日本の映画ランキングなんてどうでもいいし、
最終的にいくら儲けたかが重要なので、晩から遊ぶ人も多い花の金曜日に公開を前倒し、
少しでも多く稼ぎたいのでしょう。「名を捨てて実を取る」って感じでしょうか。
全米ボックスオフィスは金土日で集計しているし、日本もそれを真似して、
洋邦問わず全て金曜日を初日にすれば、わかりやすいしフェアだと思います。
映画館も土~木用と金曜日用の2種類のスケジュールを作らなくても済むしね。

ということで、今日はイレギュラーな木曜日公開の映画の感想です。
公開日の昨日、14日木曜日はTOHOシネマズデイ(1000円均一)だったので、
そこでの集客を期待し、名を捨てて実を取ったのでしょうか。

サプライズ
Youre Next

2013年11月14日日本公開。
新鋭アダム・ウィンガード監督によるシチュエーション・スリラー。

両親の結婚35周年をみんなで祝福するため、息子のクリスピアン(AJ・ボーウェン)と恋人エリン(シャーニ・ヴィンソン)をはじめ、久しぶりに家族が顔を合わせる。だが、彼らの一家団らんの時間は、ヒツジやキツネやトラのマスクをかぶった集団が押し入ったことにより突如終わりを告げることになる。いきなりの襲撃に誰もがパニック状態に陥るが……。(シネマトゥデイより)



全米初登場は6位で、それほどヒットしたとは言えない本作ですが、
あの映画批評サイト「Rotten Tomatoes」で、92%のfresh(好評)を獲得しました。
先週末のランキング1位『マイティ・ソー ダーク・ワールド』でも65%だし、
あのひねくれた批評家どもから9割以上の好評を得たのは大したものです。
そのことは日本公開に当たっての宣伝でも高らかに謳われており、
ボクもその宣伝の影響で本作の公開が更に楽しみになったのは間違いないです。
ところが、この92%という数字にはトリックがあります。
それを謳っているチラシにも小さく「(0821現在)」と書かれてますが、
これは8月21日の時点では92%だったということだけど、本作の全米公開は8月23日。
つまり全米公開前の評価なのです。
公開前に試写会などに招待されて観た批評家の評価なので、優越感補正がかかるのか、
それとも宣伝でも請け負っているのか、公開前の作品の評価は総じて高いものです。
実際に全米公開となり、自腹で観た批評家たちも投票した結果、
現時点での評価は75%にまで下がっています。

75%でも悪い数字ではないけど、宣伝に使えるほどのいい数字でもありません。
まるで初打席でヒットを打ったバッターが「打率10割だった」というようなもので、
こんな数字を宣伝に利用するのは不誠実、…いや、詐欺まがいだと思います。
現在、公式サイトでは「満足度96%」と更に高い数字が謳われてますが、
これは日本の批評サイト「COCO」が行った試写会での評価を集計したもので、
タダで観た客の評価だし、やはり公開前補正がかかっているのは間違いないです。
(COCOのサイトでは92%と書いてるけど、公式の96%は今流行りの誤標示か?)

誤認を招く宣伝方法は大いに問題があるとは思うけど、
本作の評判がいいのは他の事例からも間違いなさそうです。
特に信頼できるものとしては、第32回トロント国際映画祭で、
ミッドナイト・マッドネス部門の観客賞で次点だったという実績です。
まぁたかだか候補10作品の中で、2位だったというだけのことですが、
少なくとも候補のひとつ、石井克人監督の『スマグラー』よりは高評価です。

本作が高評価を受けるのも理解できるんですよね。
『You're Next』という原題に、わざわざ『サプライズ』なんて邦題を付けていますが、
たしかに変わった展開を見せる物語で、ある意味驚きのある作品でした。
エポックメイキングとまではいかないが、この手のホラーの先入観を逆手に取る内容で、
試写会や映画祭に行くほどのホラー映画ファンや映画批評家であれば、
その裏をかいた展開に、驚きと斬新さを感じやすいかもしれません。
ボクも映画ファンなので、その意図は汲めるし、面白いことをやってるとは思うけど、
本作は宣伝の時点で、その意外な展開を発表しちゃってるんですよね。
その展開が本作も一番の魅力なので、集客のためにそれを伝えたいのはわかるけど、
そんなネタバレを伝えられた客はサプライズできなくなっちゃいますよ。
そのせいで、ボクも端からホラーの先入観を捨てて観てしまいましたが、
その結果、これはホラーの皮を被ったアクション映画だと気付き、
アクション映画として観れば、特に意外性のない平凡な作品だと感じました。

以下、ネタバレ注意です。
といっても、公式に宣伝されているネタバレですが…。

作品の冒頭、ある一軒家で不倫カップルが、家に侵入してきた殺人鬼に殺されます。
セックス後に殺されるのは『13日の金曜日』などでもお馴染みの、
「イチャイチャしているカップルは真っ先に殺される」というホラーのお決まりです。
現場には血文字で「You're Next」と書かれ、それを見た人物が次に殺されますが、
これも「ラストサマー」などでお馴染みのホラーの王道の展開です。
こんなベタな演出をすることで、本作が殺人鬼ホラーであると観客に印象付け、
殺人鬼ホラーの先入観で本作を観てもらえるように仕向けるのです。
これはなかなか自然で上手い方法だと感心しましたが、宣伝のせいでボクには通じません。
そのカップルが殺された翌日、隣の家に年配の夫婦が引越して来て、
彼らの結婚35周年を祝うための晩餐に、4人の子供たちが各々恋人を連れて集まります。
その晩餐中に、例の殺人鬼が家に侵入し、彼ら10人を次々と襲うのです。
一軒家を舞台に、正体不明の殺人鬼にひとりずつ殺されていくというのも、
殺人鬼ホラーやシチュエーション・スリラーでは王道の展開ですが、
そのジャンルとして本作が型破りなのは、殺人鬼の方も苛烈な反撃を受け、
恐るべき被害者から、逆に追い詰められはじめるということです。

まぁ大抵の殺人鬼ホラーも、殺人鬼は終盤に追い詰められた主人公の反撃に会い、
命を落とすこともあるけど、基本的には被害者は最後まで逃げ回るのが普通。
本作のように比較的序盤から、積極的に反撃してくる被害者は珍しいです。
本作のヒロイン(主人公)は次男の恋人エリンですが、
彼女は普段は普通の大学生だけど、特殊な家庭環境だったため、
サバイバル術を心得ており、非常事態になると性格が急変し、
恐怖に慄く恋人の家族たちを尻目に、積極的に生き残るための行動をします。
反撃も殺人鬼の猟奇的な殺し方を超えるほどの残虐な方法で、
殺人鬼よりも彼女の方がサイコじゃないかと思えるほどです。
こんなヒロインは、ホラー映画としては意表を付く斬新な設定です。
しかし、本作が殺人鬼ホラーだという先入観で観なければどうでしょうか。
侵入してきた敵に知恵と勇気で果敢に立ち向かうヒーローのようなもので、
脱出(救出)もののアクション映画では全く珍しくない主人公に成り下がります。
だから本作は、殺人鬼ホラーの先入観を持って観ないと、平凡な作品に感じるのです。
なのでホラーの常識を覆し、反撃に転じることを示唆する宣伝なんて言語道断ですよ。
特に、主人公一人が反撃に出ると、ますますヒーロー的で当たり前になってしまうので、
反撃するならば家族全員で反撃に転じる方が、まだ意外な展開になった気がします。

更に以下、宣伝でも伏せられていたネタバレを含む感想です。

殺人鬼は3人乗り、それぞれキツネ、トラ、ヒツジのお面を被っています。
はじめ、彼らが襲ってきた理由は不明ですが、この家の主が軍事産業に勤めていたそうで、
その絡みで何か彼に恨みを持つ者たちが襲撃を企てたのだと思いました。
しかし真相はもっと単純で、彼らは単に雇われた殺し屋だったのです。
そして彼らの雇い主は、被害者10人の中に紛れ込み、内部から手招きしていたのです。
普通なら「意外な展開だ!」と思うかもしれませんが、
10人の中にこれ見よがしに怪しい人物がひとりいるんですよね…。
それは三男の恋人ジーですが、名前の珍しさもさることながら、
こんな家族の晩餐には似つかわしくないゴスっぽい格好で、明らかに只者ではないです。
逆に怪しすぎて怪しくないんじゃないかと思えるほどでしたが、
やっぱり彼女は殺人鬼の仲間で、予想通りの展開でした。
彼女が怪しく思えると、彼女の恋人フィリックスも当然怪しく思えます。
彼はジーとは違って本作の男性の中では最も地味で目立たない存在なので、
首謀者としては最も意外性を感じそうな人物だけど、
恋人があれではそのミスディレクションも台無しです。
三男が家族殺しに加担しているとなると、その目的は遺産相続に違いない、
…と思ったら、その予想は全て的中してしまい、全然サプライズがありません。
ただ、10人の中に更にもうひとり共犯者がいたことまでは予想していませんでした。
10人中2人でも十分なのに、まさか3人もいるなんて思いませんでしたから。
それが誰なのかは、一応伏せておこうかな。

それにしても遺産相続が動機だとして、隣の家の不倫カップルを殺す理由があるのか。
まぁ好意的に考えれば、助けを求められないようにってことでしょうが…。
しかし動物のお面の殺し屋たちも、得物が鉈とか斧とかボーガンとか原始的で、
本当に殺しを請け負うなら拳銃のひとつでも持ってくればいいのにね。
悠長に斧なんかで襲いかかれば、そりゃ反撃にも遭いますよ。
ホラーだから銃殺よりも鉈で頭かち割る方がショッキングではあるけど、
ショッキングさを求めるなら、もっと奇抜な殺し方も見せてほしかったものです。
足の速さが自慢の長女が走って助けを呼びに行こうと家を飛び出した時に、
軒先に張ってあったワイヤーで首を切られて死んでしまいますが、
そこは殺し方として面白かったし、そんな仕掛けをもっと施してほしかったです。
得物による直接攻撃ばかりでは、面白味に欠けます。
あ、ヒロインの電動ミキサーによる脳天シェイクはよかったかな。

動物のお面の造形なんかも不気味でよかったし、ヒロインも魅力的だったので、
ビジュアル的にはなかなか健闘しており、雰囲気だけなら最高の映画でした。
宣伝の失敗がなければ、物語ももっと楽しめたのは間違いないし、惜しいです。
こんなタイプのホラーは、口コミで評判が広がるものだし、
宣伝でネタバレしてまで期待を煽る必要はないと思います。

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