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オーガストウォーズ

8月15日は「終戦の日」ですが、それを前にしたこの時期は戦争映画の公開が増えます。
今年も『風立ちぬ』『終戦のエンペラー』、先週末は『少年H』の公開も始まりました。
太平洋戦争だけでなく、他の戦争を題材にした戦争映画も公開されやすい時期ですが、
「終戦の日」の直前である先週末に公開された戦争映画は、『少年H』だけでなく、
ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を題材にした『最愛の大地』、
そしてロシア・グルジア戦争を題材にした『オーガストウォーズ』があります。
フィクション、ノンフィクションに限らず、戦争という極限に緊迫した状況は、
良きに悪しきに感動の人間ドラマが生まれやすいので、戦争映画は大好きです。
『ワールド・ウォーZ』は世界大戦が題材かと思ったらゾンビ映画でガッカリでした…。

ということで、今日は数年前の実際の戦争を題材にした戦争映画の感想です。

オーガストウォーズ
Avgust Vosmogo

2013年8月10日日本公開。
実際の戦争を題材にしたロシア製SF戦闘スペクタクル。

2008年8月8日。5歳のチョーマ(アルチョム・ファディエフ)は、別居中の父親に会うため単身モスクワから南オセチアを訪れていた。久々の対面もつかの間、突然侵攻してきたグルジア軍の攻撃により父親は亡くなってしまう。一方、母のクセーニア(スヴェトラーナ・イワノーワ)は、チョーマが戦闘の最中に一人取り残されたことを知り、南オセチアへと向かう。(シネマトゥデイより)



巨大ロボット映画『パシフィック・リム』が絶賛公開中ですが、
それに合わせるかのように、翌日に日本公開が始まった巨大ロボット映画が本作です。
なんとロシア映画だそうで、ロシアでこんなSF超大作が製作されるなんて意外でした。
実際にロシアで巨大ロボット映画が作られたのも初めてだったらしいです。
でもロシアで本作を配給したのはハリウッド・メジャーの20世紀フォックスなので、
日本映画『カラスの親指』と同じように、20世紀フォックスのローカルプロダクツかな?

本作のVFXはハリウッドのSFアクション映画『ウォンテッド』の制作にも参加した
ロシアのスタジオ「メイン・ロードポスト社」が手掛けており、
並のハリウッド映画にも引けを取らない映像クオリティを実現しています。
しかし映像の見どころは、巨大ロボットのVFXより、むしろミリタリーアクションで、
ロシア軍の全面協力を受け、スホーイ25戦闘機、T-72戦車、Mi-24ハインド攻撃ヘリ、
AK-74Mアサルトライフル、PK機関銃、ドラグノフ狙撃銃など、
ロシア軍の本物の武器が大量投入され、1000人規模のロシア兵も参加しており、
戦闘シーンのリアリティ、臨場感は半端なく、ミリタリー映画ファン必見です。

なぜロシア軍が、こんな巨大ロボットが登場する娯楽映画なんかに全面協力するのかが、
本作を鑑賞する上での重要なポイントではないかとボクは考えます。
自衛隊も『ゴジラ』や『ガメラ』など怪獣映画の撮影に協力することもありますが、
本作のような大規模な協力はしていなかったはずです。
感覚としてはアメリカ海軍の特殊部隊SEALsが全面協力したハリウッド映画
『ネイビーシールズ』以上に協力的で、本作とロシア軍の蜜月関係が窺えます。
自衛隊や米軍など軍隊が映画に協力するのは、組織の広報が主な目的ですが、
本作の場合は広報的な目的の他に、政治的なプロパガンダを感じます。

本作は2008年の8月に南オセチアで勃発したロシアとグルジアの紛争、
通称「8月戦争(オーガストウォー)」を物語の舞台にしています。
南オセチアはグルジアの自治州であり、自治政府は独立を主張していますが、
独立を許さないグルジアと軍事衝突したのです。
グルジア軍と南オセチア共和国の戦争で、グルジアの内紛とも言えますが、
そこにロシアが介入し、グルジア軍とロシア軍が南オセチア内で戦争することになります。
グルジアは旧ソビエト連邦で、ソ連崩壊時に独立しましたが、
ロシアは南オセチアを独立させ、ロシア連邦に加入させたいと思っています。
(北オセチア共和国はすでにロシア連邦のひとつです。)
つまりロシアがグルジアの内紛に乗じて南オセチアを奪おうとする侵略戦争であり、
本作は8月戦争にロシアが介入したことの正当性を国内外に知らしめるのが目的です。
あまりに露骨なプロパガンダ映画だと相手にされないので、
巨大ロボットが大暴れする娯楽大作にカモフラージュしたのでしょう。

南オセチア政府はグリジアから独立したがってるんだし、
ロシアがそれを支援することに義を感じるかは観る人次第ですが、
太平洋戦争に乗じて北方領土をロシアに侵略された日本人としては、
グルジアの肩を持ちたくなるのが人情ではないでしょうか。
グルジア軍は南オセチアに侵攻したのが戦争の発端ですが、
グルジア側は「南オセチア軍が先に攻撃した」と主張しています。
その真偽は定かではないが、同年にセルビアからコソボが独立したこともあり、
グリジアが南オセチアも独立するのではと懸念したのは想像に難くなく、
南オセチア自治州の境界に軍を配備し、一触即発だったのは間違いないようですが、
当事者以外にどちらが先に攻撃したかを知る術はないです。
しかし本作では、明らかにグルジア軍から攻撃が始まっています。
しかもグルジア軍は無差別爆撃で、民間人だろうと構わず皆殺しにするのです。
実際その戦闘がどんな状況だったのかはわかりませんが、
本作では明らかにグルジア軍を血も涙もない悪者として描いています。
(最後に申し訳程度に一人だけ人情味のあるグルジア兵が登場しますが。)
あくまでロシア軍の介入は、鬼畜グルジア軍から南オセチア市民を守るためであり、
ロシア軍は救いのヒーローであるというスタンスです。
(実際はロシア軍の空爆でも民間人が犠牲になっています。)

ちなみに本作ではロシア軍が勝利したかのように描かれていますが、
実際は戦争勃発から数日後にEU議長国フランスの仲介で停戦しています。
その後、ロシアは勝手に南オセチア共和国の独立を承認し、
南オセチア政府も独立を主張しますが、それを承認しているのはロシア連邦の国々だけで、
EU各国やアメリカ、日本も含め、国際的な認識として南オセチアは、
今もグルジアの自治州であるとのするのが常識です。
まぁ西側諸国が南オセチアの独立を承認しないのだって、
「ロシアに義がない」なんて理由ではなく、自国の利益のために決まってます。
グルジアにはアメリカが建設して石油パイプラインがあり、
アメリカはグルジア領がロシアに奪われるのは困るのです。
劇中でもロシア政府は「ワシントンがグルジア軍を支援している」と言及し、
この戦争は冷戦の縮図で、南オセチアをロシア軍が支援することの正当化をしています。
でも実際にアメリカがグルジアを支援していたとは思えないかな。

EUが停戦しなければ、ロシアは南オセチアのみならずグルジアにも侵攻する気で、
そのことがちゃんと劇中でも言及されていたのはフェアだと思いました。
休暇先でグルジア軍の南オセチア侵攻の報を受けたメドヴェージェフ大統領は、
急いで政府関係者を集めて対策会議を開きます。
出席者のほとんどは「すぐに南オセチアにロシア大隊を送るべきだ」と主張しますが、
「そんなことをすれば国際社会から侵略者だと思われる」と反対する人物1人がおり、
メドヴェージェフ大統領は悩みますが、結局ロシア大隊の侵攻を指示します。
大統領は反対した人物に「あなたはもう古い」と言って退席させるのですが、
あの人物ってゴルバチョフ元書記長だったんですかね?

そんなプロパガンダ映画ですが、そのカモフラージュが実によく出来ており、
ミリタリーアクション映画として、とても面白いものに仕上がっています。
「8月戦争を題材にした巨大ロボット映画」と聞いた時には、
8月戦争に兵器として巨大ロボットが投入されていたという設定の、
歴史改変SFのような印象を受けましたが、実際はそうではなく、
ロボットが登場するのは、7歳のロシア人少年チョーマの空想部分だけです。
彼は闇の帝王と戦う少年ヒーロー劇「コスモボーイ」が好きで、
日頃から自分がコスモボーイになる空想をして遊んでいるのですが、
南グルジアの父の実家にひとりで遊びに来た際に、8月戦争が勃発し、
その恐怖から現実逃避し、「コスモボーイ」の空想に閉じこもってしまうのです。
彼の目にはグルジア軍の戦車や装甲車が、悪の帝王の邪悪な巨大ロボットに見え、
コスモボーイの相棒である優しいアンドロイドが、自分を助けに来ると信じています。
本作の主人公はチョーマではなく、彼を捜す母親クセーニアなので、
彼の出番はそれほど多くなく、必然的に彼の空想シーンも少ないため、
巨大ロボットの登場シーンも予想外に少ないです。
ロシア版『パシフィック・リム』だと思って観たら拍子抜けするかも。
ただ少ないながらもT-72戦車が巨大ロボットにトランスフォームするシーンなど、
『トランスフォーマー』に負けない完成度の高いVFXが使用され、目を見張ります。
でも相棒の優しいアンドロイドのクオリティの低さは何でしょうね?
映像の完成度というよりも、デザインの時代錯誤がなんだか残念です。

つまり本作はちょっとだけSF要素を含んだ(ロシア視点の)実録戦争映画です。
しかし8月戦争はあくまで舞台であり、メインプロットは戦争の顛末ではなく、
戦場で命懸けで息子を捜すシングルマザーの活躍を描いたフィクションであり、
母親の我が子に対する愛を描いた感動のドラマとなっています。
母親クセーニアは、ロシアの平和維持軍の隊員ザウールと結婚し、
息子チョーマを授かりますが、離婚し息子とモスクアの実家で生活しています。
彼女は恋人エゴールとソチに旅行するために、チョーマを暫らくザウールに預けようと、
彼の赴任先であり、彼の実家もある南オセチアに息子をひとりで行かせます。
南オセチアは1991年にも紛争があった危険な場所ですが、
ザウールが「もう20年も平和だよ」というので安心しきってました。
ところが息子を行かせたたと、ネットでグルジアとの間に緊張感が高まっていると知り、
慌てて連れ戻しに向かうのですが、北オセチアからツヒンヴァール行きのバスに乗り、
ロキトンネルを抜けて南オセチアに入国した途端、バスがグルジア軍からATGM攻撃を受け、
8月戦争が勃発してしまいます。
なぜグルジア軍が民間バスを攻撃するのかわかりませんが、運良く生き残った彼女は、
通りかかったロシアの平和維持部隊に拾われ、首都ツヒンヴァールに到着します。

しかしツヒンヴァールはグルジア軍による一掃作戦により、
BM-21によるミサイルによる攻撃がはじまり、市街地はカオスと化します。
これは無差別攻撃ですが、ミサイルはケータイの電波を感知しているようで、
ケータイを使用するとミサイルの標的になるみたいですが、そんな兵器があるんですね。
そこでもギリギリ難を逃れたクセーニアは、一度難民キャンプに送られますが、
チョーマのいるシダモンタ村に行くために、報道関係者を偽りロシア軍分隊に同行。
しかしその隊列はグルジア軍にRPG砲撃されてしまい…。
その戦闘で意識を失った彼女ですが、ロシア軍の斥候部隊のリョーハに救助され、
敵狙撃兵だらけの市街地から難民を救出する作戦に同行することになります。
その作戦後に、シダモンタ村に送ってくれる約束でしたが、難民の数が予想以上で、
彼女一人でグルジア軍を避けて5km先の村まで行くことになり…。

何とか息子チョーマを発見した彼女ですが、負傷した息子を運ぶために、
グルジア軍の軍用車両を盗んだのがバレて、グルジア軍の車両から追いかけられます。
森の中で激しいカーチェイスが始まるのですが、彼女のドライビングテクニックは一体…。
車両の盗難も手慣れているし、単なる一般人だとは思えませんね。
カーチェイスの途中で、グルジア大隊と出くわしてしまい、戦車の大群に追われますが、
メドヴェージェフ大統領の指示で進軍してきたスホーイ25戦闘機が戦車を空爆し、
なんとか生還することができました。
彼女はグルジアの軍用車両に乗ってたんだから、戦闘機の標的にされそうなものですが…。
つくづく運のいい女性ですが、これも母親の愛の力が成せる業ですかね。

ロシアのプロパガンダによる洗脳にさえ気を付ければ、
なかなか面白いミリタリーアクション映画で楽しめました。
ロシア映画って文学的で退屈なイメージがあったけど、
こんな娯楽超大作も製作するなんて意外な発見でした。
まぁだからといって、日本でロシア映画を観られる機会なんてなかなかありませんが…。

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