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映画 謎解きはディナーのあとで

テレビドラマ『半沢直樹』がすごい人気ですね。
回を重ねるごとに視聴率が上昇し、昨日の回は平均視聴率27.6%だったとか。
ボクは上戸彩が超苦手なのでこのドラマを見るのは断念していたのですが、
放送前からそこそこヒットするであろうことは予想していました。
しかしまさかこれほど大ヒットするとは予想外で、
そんなに面白いドラマなら見ればよかったと後悔しています。
映画ファンであるボクのドラマ選びの基準は「劇場版になるか否か」ですが、
こんなに人気があるならテレビ局が映画化を考えないはずはないでしょう。
いずれ公開されるであろう劇場版を楽しむためにも、
遅ればせながらでも見始めようかとも思うのですが、
それだと流行りものに飛び付いたようで何だか癪なので、
ここは敢えて放送終了まで見ないでおこうかと思っています。
劇場版が公開される折には再放送もあるだろうし、その時にでも見ればいいです。
いや、むしろドラマ版は見ないまま、劇場版だけを鑑賞するのも一興かな。

ということで、今日はテレビドラマの劇場版の感想です。

映画 謎解きはディナーのあとで
謎解きはディナーのあとで

2013年8月3日公開。
東川篤哉のミステリー小説を映像化した人気テレビドラマの劇場版。

財閥の令嬢で新人刑事の宝生麗子(北川景子)と執事の影山(櫻井翔)は、久しぶりの休暇を楽しむためシンガポール行きの豪華客船に乗り込む。しかし、出航後ほどなくして船内で殺人事件が発生。乗員乗客3,000人を乗せた船が目的地に到着するまでの5日間に犯人を捕らえ、事件を解明しようとする麗子と影山だったが、次々と事件が発生してしまい……。(シネマトゥデイより)



東川篤哉による原作小説は、本屋大賞も受賞したベストセラー小説です。
本屋大賞の受賞作の映画化といえば、『ゴールデンスランバー』『告白』『天地明察』、
そして今年公開された『舟を編む』など、その年を代表する傑作ばかりで、
普段読書なんてしないボクも、本屋大賞作品の映画化には並々ならぬ期待をしています。
なので当然のように本作にも大きな期待をかけていたのですが、本作は全然面白くない、
…ってほどのこともないけど、正直かなりの凡作だったと思います。
本屋大賞作品映画化の輝かしい歴史に泥を塗られた気がして残念です。
でもそれもそのはず、本作は東川篤哉の同名原作小説の映画化ではなく、
あくまで東川篤哉の同名原作小説を映像化したテレビドラマの劇場版なんですよね。
本作のストーリーも原作者である東川篤哉が書いたものではなく、
フジテレビの構成作家が書いた劇場版オリジナルストーリーです。
言ってしまえば二次創作物であり、今世間を賑わしているどこぞの舞台監督と違って、
ちゃんと原作者の承諾は得ているでしょうが、原作小説の映画化とは言えません。
というか本屋大賞の名誉のためも、別物であると考えてほしいです。

二次創作物だから悪いということはなく、かなり稀ではありますが、
原作を超えるような二次創作物だってあると思います。
しかし本作の場合は、原作小説には遥かに及ばない出来でしょう。
それどころか、二次創作物としてもあるまじきルール違反を犯していると思います。
原作は本格ミステリーですが、本作のミステリーの出来はあまりにも杜撰で、
完全に主演・櫻井翔の人気に頼ったアイドル映画に成り下がっています。
櫻井翔が演じる宝生家の執事・影山は、刑事である宝生麗子から事件のあらましを聞き、
彼女の話だけで推理して事件の真相を言い当てるという、云わば安楽椅子探偵です。
しかし本作では、影山自身も事件現場に立ち会い、自分で直接行動して推理しており、
安楽椅子探偵ではなく、単なる探偵になってしまっています。
これでは原作の最大の特徴であるミステリー形式をぶち壊しており、
二次創作物として感心できない原作蹂躙行為だと思います。
そんな展開にしたのにはもちろん狙いがあってのことだと思われますが、
たぶん櫻井翔演じる影山の出番や活躍シーンを増やすためでしょう。
話を聞いて推理するだけの安楽椅子探偵では、あまり動きがないし、
推理を披露するシーンくらいしか出番もなくなりますからね。
櫻井翔の人気頼みの劇場版だから、彼の活躍を増やしたい気持ちはわかるし、
観客の多くもそれを望んでいるでしょうが、やはり原作の形式は踏襲すべきです。
それが出来ないなら、櫻井翔主演のオリジナル探偵映画を一から作ればいいです。

百歩譲って普通の探偵映画であることを受け入れたとしても、
トリックの出来があまりに荒唐無稽で、ミステリーとして成立していません。
原作が本格ミステリーなだけに、この落差は酷過ぎると思います。
本作のマナーCMで、影山が「映画のネタバレも絶対禁止でございます」と言っているし、
なるべくネタバレしないように感想を書こうかと思いましたが、
このトリックの酷さは突っ込まずにはいられません。
犯人が誰だったかは伏せますが、ちょっとそのトリックについて書いてしまいます。
まだ未鑑賞で、謎解きも楽しむつもりの方は、これ以上読まないでください。
もっともこんな杜撰なトリックでは謎解きなんて出来るはずもないですが…。

3000人の乗員乗客を乗せた大型豪華客船スーパースター・ヴァーゴ。
シンガポールまでの航海の途中、衆人の目前である乗客が海へ転落します。
船を止めて救助するのですが、その乗客はすでに死んでおり、
どうやら何者かに銃殺された後、海へ落とされたらしいのです。
乗客が転落する瞬間は、影山と麗子も見ていたのですが、
実は犯人も彼らと一緒にその様子を見ており、それはアリバイ工作で、
犯人はある時限式の仕掛けを用いて、被害者の死体を落下させたのです。
犯人の第一の目的は殺人ではなく、麗子の客室に置いてある「セイレーンの涙」という
50億円相当のブルーダイヤの原石を盗み出すことでした。
セイレーンの涙は暗証番号式のロックと赤外線警報機で厳重に管理されており、
犯人はその二重の電子セキュリティを破るため、船を停電させようと考えます。
船が停止するには、一度エンジンを切る必要があるようで、
エンジンが切れると、その動力で発電する船は予備電源に切り替わるまで停電します。
死体を海に落とし、救助のためにエンジンを停止させ、船全体が停電した隙をついて、
セイレーンの涙を盗み出そうとしたわけです。

停電程度で止まってしまうセキュリティというのもあり得ないと思いますが、
何よりあり得ないのは、停電から復旧までの時間が45秒しかないということです。
そんな短い時間でセイレーンの涙を盗み出すなんて計画は絶対に不可能です。
仮に犯人が麗子の客室の前で停電するのを待っていたならば、
速攻で部屋に侵入して掻っ攫うだけなのでできるかもしれませんが、
犯人はアリバイ工作のため、停電の瞬間も麗子たちと一緒に行動しています。
その場所から麗子の客室まで移動して盗み出すなんて、45秒ではとても無理です。
もし客室がかなり近い場所にあったとしても、停電の瞬間に姿を消せば、
アリバイ工作の方が成立しなくなります。
これはあまりに酷い机上の空論、…いや、机上でも空論だと気付くレベルのトリックです。
復旧までを45秒なんかにせず、10分とかにすればいいだけの話なのですが、
なんでも船舶設備規定で45秒以内に復旧するものと定められているようで、
そんなどうでもいいリアリティを優先するために、トリックの実現性を捨てるなんて…。
まぁ結局麗子の客室の前に人がいたため、その計画は失敗するのですが、
人がいなくても成功するはずがない計画でした。
つまり犯人には絶対できないトリックなので、犯人のアリバイは完璧であり、
推理でアリバイを崩せるはずはなく、この空論はミステリーとしてアンフェアです。
本格ミステリーでアンフェアは御法度です。

乗客の死体を落下させる時限式トリックも実現性はかなり低いでしょう。
その後で犯人がセイレーンの涙を盗み出すのに成功した時の展開だって、
船内にたまたまコソ泥がいたとか、不確定要素だらけの計画だったし…。
とにかく犯人の行動は、徹頭徹尾で合理性に欠けるんですよね。
中でも最も合理的じゃない行動は、麗子を拉致したことです。
邪魔者を排除する意図があるのだと思いますが、それなら殺せばいいです。
もうすでに2人も殺してるんだから、3人殺すも4人殺すも同じだし、
結局彼女を生かしたままにしたために、彼女らに真相を暴かれたわけだしね。
まぁ犯人が私怨のない麗子を殺すのは忍びないと考えたとも取れますが、
殺さなくても大海原に置き去りにするんだから、そんな情があるとは思えません。
麗子が拉致される展開は、影山が大切な女性を体を張って助けるという、
櫻井翔が大活躍する映画的な展開がほしかっただけなのでしょう。
たしかに影山が必死に身代金を用意する展開とか盛り上がりましたけどね。

捜査の過程で、容疑者として世界的な怪盗「ファントム・ソロス」が浮上します。
もちろん一連の事件はファントム・ソロスの犯行ではありません。
ただ本当にファントム・ソロスはその船に乗っていたことが、事件解決後に判明します。
その正体は驚くべき人物だった、…と言いたいところですが、あまりに露骨すぎます。
乗客の中にどう考えても怪しい人物がひとりいるんですよね。
ボクは最初、その人物が犯人ではないかと思ったほど場違いに浮いており、
簡単に言えばあり得ないキャスティングの人物です。
もうネタバレしちゃいますが、宮沢りえが演じる乗客がファントム・ソロスの正体です。
彼女はニコニコ恵比寿通り商店街の福引で乗船券が当たった乗客という設定で、
いわば豪華客船には身分不相応な庶民のオバチャンですが、演じるのが宮沢りえですよ。
どう見ても庶民とは思えないオーラを発しており、そんな端役なわけがないです。
端から隠す気なんてないのかもしれないけど、完全にミスキャストだと思います。

ミスキャストといえば、テレビドラマから続投する風祭警部演じる椎名桔平ですが、
道化的な役で名物キャラだけど、ドラマ版をチラッとしか見ていないボクには、
椎名桔平がキャラじゃないのにかなり無理して演じているように感じてしまいました。
演技が板に付いていないというか、時折必死さが垣間見える気がします。
それとアンジャッシュ児島が演じたダワネル王国皇太子って一体何なの?
物語と全然関係ないし、かなり滑ってるんですけど。
竹中直人と大倉孝二が演じるコーエン兄弟ならぬ高円寺兄弟はちょっと笑えたかな。

ミステリーとしては三流以下、コメディとしてもそこそこで、
出演者のファンでもない限り、特に見る価値のない作品でした。
まぁそんな映画もあっていいと思うけど、本屋大賞映画化作品の連続安打記録が、
本作で止まってしまったことが重ね重ね悔やまれます。

コメント

そんなに微妙だったんですね
でも原作でも影山が事件現場にいることもあるし、原作も本格ミステリーではない気がします。
原作は初心者とか女の子にもとっつきやすいように書かれてるそうですので。かなり軽いし、そんなに凄い原作じゃないと思いました、個人的には、ですが。ゴールデンスランバーの原作とかと比にならないです。なぜ売れてるのか分からないですね。

  • 2013/08/08(木) 04:58:48 |
  • URL |
  • かわい #-
  • [ 編集 ]

> でも原作でも影山が事件現場にいることもあるし、

安楽椅子探偵形式のイメージがあったので、それは全く知りませんでした。
そうですか、原作はあまり面白くないんですね…。

人によって定義が違うかもしれないのですが、ボクは「本格ミステリー」とは、
推理に専門的な知識を必要としたり、叙述トリックなどアンフェアな禁じ手を使わない、
読者がちゃんと推理できるフェアなミステリーのことで、内容の軽さや面白さは関係ないです。
安楽椅子探偵は性質上必ずフェアなミステリーになるはずなので、
原作も(ボクの定義による)本格ミステリーのはずだと思い込んでました。

  • 2013/08/08(木) 13:32:18 |
  • URL |
  • BLRPN #-
  • [ 編集 ]

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