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奇跡のリンゴ

クドカン脚本、阿部サダヲ主演の映画『謝罪の王様』に、
公開前にもかかわらずパクリ疑惑が浮上したみたいですね。
なんでも『どげせん』とかいう漫画の作者がTwitterで、
「パクられた」「まんまどげせんじゃん」「会ったら殴りたい」と発言をしたそうです。
その漫画家は『謝罪の王様』のポスターを見ただけでパクリと断定したそうです。
どちらも土下座で様々な問題を解決する男の物語のようだけど、
よくその程度のことでパクリだなんて騒げるものだと、その図太さに驚きます。
ヤンキー漫画雑誌の連載漫画を、クドカンが読んでいて当然とでも思っているのか。
「土下座で問題を解決」という題材が、そんなに独創的だと思っているのか。
ボクは『謝罪の王様』の予告編を初めて観た時に、
『笑う犬の生活』の人気コント「関東土下座組」を思い出しました。
『謝罪の王様』をパクリ扱いするなら、『どげせん』も「関東土下座組」のパクリです。
彼は配給会社に電凸し、逆に諭されて自分の早とちりに気付かされたみたいで、
発言を削除し謝罪したようですが、彼の失態は土下座しても解決しません。
パクリ疑惑は自分で言い出したらカッコ悪いので、第三者に指摘してもらわないとね。

ということで、今日は『謝罪の王様』の主演でもある阿部サダヲの主演作の感想です

奇跡のリンゴ
奇跡のリンゴ

2013年6月8日公開。
阿部サダヲと菅野美穂共演で実話を映画化した感動のドラマ。

1975年、秋則(阿部サダヲ)は青森県弘前市で妻の美栄子(菅野美穂)と共にリンゴを栽培していた。彼は、年に十数回にわたり散布する農薬が原因で皮膚に異常をきたしてしまい、寝込むこともある妻の体を心配して無農薬でリンゴを育てることを心に誓う。だが、農薬を使わないリンゴ栽培はその当時「神の領域」ともいわれ、実現するのは絶対無理だと思われており……。(シネマトゥデイより)



かなり面白かった『みなさん、さようなら』から約半年、
早くも中村義洋監督の最新作が公開になりました。
ボクは中村監督が日本人監督の中では最も好きですが、
昨年は中編を一本公開しただけだったので、今年は2本も公開されて嬉しいです。
中村監督はホントにハズレなしの素晴らしい監督だと思います。
いや、厳密には一昨年の『怪物くん』だけは、彼の作品とは認めたくないですが、
子ども向けテレビドラマの劇場版で、素材が酷かっただけに、どう料理しても無理です。
ジャニーズ事務所の希望だったので彼も断れなかったのでしょう。
そんな不幸な例外を除けば、彼の作品は面白いものばかりです。
本作は実話を基にした物語で、鑑賞前はいつもと傾向が異なる作品だと思いましたが、
蓋を開けてみたらシリアスとコメディが混在するヒューマンドラマで、
ちゃんと中村節を味わえるし、今回もハズレではなかったと思います。
まぁアタリかと問われると、いつもほど大アタリではない気はしますが…。

ボクは農業経験者で、スーパーのお野菜コーナーでのバイト経験もあるので、
本作のような農業をテーマにした物語はとても興味があります。
といっても昨年も『人生、いろどり』くらいで、年に1本あるかないかです。
刑事とか教師とかもいいけど、もっと農家の職業ドラマも撮ってほしいなぁ。
農業人口って、建設業に次いで国内第二位の就業者数なんですよ。
だから農家の物語は需要があるはずです。
とはいえ、農村に映画館があるかどうかが問題ですが…。

…いや、農業関係者じゃなくても農業映画は面白いはずです。
日本の農業は世界に誇れるところが沢山あると思うし、
本作で描かれている世界初の無農薬リンゴ栽培もそのひとつでしょう。
ボクはリンゴが無農薬ではないといけないとは思っていません。
貧乏人のボクが買えるリンゴなんて1玉88円とかの安い品なので、
たぶん無農薬のリンゴなんて食べたことないと思いますが、
これは僻みではなく、安い農薬育ちのリンゴの方が美味しいはずです。
品質も収穫量も一定で流通も整っているから、廉価で安定的に食べられます。
そうじゃないと消費者もお野菜コーナーも困りますよね。
でも不可能に挑戦することや世界初になることは意義があるし、
その挑戦の過程には、農業のみならず様々な物事に通じる「もの作り」の精神があり、
誰でも興味深く観られると思います。

青森のリンゴ農家の次男坊・秋則(阿部サダヲ)はリンゴの栽培よりも機械いじりに夢中で、
高校卒業後、関東の大手電機メーカー(富士電機?)に就職します。
しかし実家のリンゴ畑が台風で壊滅的な被害を受け帰郷することに…。
そんな折、リンゴ農家の娘とお見合いし、彼は婿養子になり、
奥さんの実家のリンゴ農家を継ぐことになります。
実家のリンゴ農家が嫌で関東の電機メーカーに就職したのに、
他のリンゴ農家を継ぐことになるなんて、数奇な運命ですね。
でも機械が好きで就職したメーカーでも、配属は原価管理課だったし、
その仕事にもあまり未練はなかったのかもしれませんね。

彼の妻となった美栄子(菅野美穂)は農薬過敏症で、
農薬散布作業をすると体調を崩し、酷い時は一カ月寝込むそうで…。
そんな妻を気の毒に思った秋則は「農薬について考える青年会」を発足し、
年16回ほど行う農薬散布回数を減らす減農薬に取り組みます。
それによって収穫高は減るが、農薬のコストも減り儲かるそうです。
ある日、本屋で福岡正信の著作『自然農法』に出会い、彼は感銘を受けます。
そこには農薬を全く使わない「何もしない農法」について書かれており、
彼は無農薬リンゴ栽培に挑戦しようと思い立ったのです。
しかし、農薬を使うのが常識である周辺のリンゴ農家は、
彼の挑戦を「組合にケンカを売る行為」だと非難しますが、
それでも無農薬栽培を諦めない彼は、家族ごと村八分状態になってしまいます。

村の人の彼に対する態度は酷過ぎると思いますが、出る杭は打たれるということかな。
別に迷惑かけてないんだし、温かく見守ってあげたらいいのにね。
ただ、村人が自分たちの伝統的な農法を否定されたように感じるのはわかるかも…。
本作の在り方でもそうですが、無農薬栽培という偉業を賛美するあまり、
農薬を使っている農家、或いは農薬自体をまるで悪者のように描いてしまっています。
でも、本作でも申し訳程度に言及されていますが、
農薬を使用したリンゴを食べても、人体に悪影響はありません。
散布時に農薬を浴びることが体にあまりよくないだけのことで、
いわば無農薬は生産者の健康のための農法なのです。
つまり農薬を使うリンゴ農家は誰からも責められる理由はないわけですが、
それを否とする本作の撮り方や秋則の姿勢は、他のリンゴ農家にしてみれば不愉快かも。
実際の木村秋則さんも、NHKのドキュメンタリーで取り上げたり、
彼の自伝がこうして映画化されたり舞台化されたりして、かなり人気者ですが、
その中で半ば悪者扱いされた近所のリンゴ農家は面白くないでしょうね。

でも一番酷いと思ったのは村の人達ではなく、秋則の実家です。
リンゴ農家である彼の父や兄も、彼が無農薬栽培をするのに反対なのはわかるけど、
まったく協力してあげないなんて酷すぎます。
両親がバカ息子の勝手な行動を無視するのは仕方ないと思うけど、
秋則には幼い娘が3人もいて、その子たちは孫じゃないですか。
無農薬栽培に失敗し、収入ゼロの極貧生活をしている孫を可哀想とは思わないかな?
当時のリンゴ農家は冬の出稼ぎも必要なくなるほど儲かったらしいから、
3人の孫が不自由しない程度の金銭的援助は出来たはずなのに。
婿養子に出た息子の子は、外孫だからどうでもいいんですかね。

というか、秋則自身も自分勝手な愚か者で、かなり酷い男だと思います。
結果的に無農薬栽培が成功したから美談になっているものの、
そうじゃなかったら笑い話にもならない悲劇で、非難されても仕方ないです。
妻の実家の4つある畑のうちの1つで、実験的に無農薬栽培をするうちはいいけど、
「実験場が足りない」と4つ全部で無農薬栽培実験をするのは愚の骨頂です。
どの畑でも失敗して収入ゼロになっちゃって、税金滞納で2つ差し押さえられるし、
それならはじめから2つだけで実験するべきでした。
まぁそんなことは結果論なわけですが、秋則は電機メーカーの原価管理課で培った能力で、
コスパや財務管理に長けた人物として描かれていたので、その後先考えない、
まさに「かまど消し(極潰し)」な行動には違和感を覚えます。
そもそも無農薬栽培を思い立ったのは、妻が農薬に過敏だからですが、
妻に農薬散布を手伝ってもらわなければいいだけの話では?
結局、無農薬栽培として農薬がわりにワサビやお酢を散布する時は、
秋則ひとりでやってたような感じだったしね。
とにかく彼や妻よりも、健康保険にも入れてもらえない3人の子が不憫で…。

無農薬栽培挑戦から7年目、なかなか上手くいかず焦る秋則は全然笑わなくなります。
地獄に落ちるの白昼夢を見たり、虫への警告文を貼り出したりと、かなりヤバい状態。
畑を2つ手放した8年目には、リンゴの木と会話しだすほど完全に心が壊れ、
妻に離婚を切り出し、首吊り自殺をするために山に入るのです。
このあたりのシリアスさは観ているだけで辛いものがありましたが、
ホームレス狩りからの公衆電話のシークエンスなんて、辛くて泣きそうです。
でもその重い時間がラストのカタルシスに繋がるわけで、中村監督らしい展開です。

自殺に入った山中で、秋則は自生するクルミの木を見つけます。
当然農薬も使われてないのに実を付けているクルミの木を見て、
彼は無農薬栽培の重大なヒントを得るのです。
結果それが無農薬栽培の成功に繋がるので、そのヒントはココでは伏せますが、
実はそのヒントは初めから提示されていたんですよね。
福岡正信の著作『自然農法』の「何もしない農法」こそがまさにそれですが、
2年目に義父(妻の父)が話してくれた、戦時中にラバウルで体験談なんて、
完全に無農薬栽培の答えそのものでした。
こんな明確に提示してあるのに、劇中の秋則どころか、観客のボクも気付かないなんて、
なんとも絶妙な伏線で、「やられた!」と思いました。
しかも発想の逆転というか、本当にまさかの方法だったので感心しました。
そこからは重い展開からは一転、サクセスストーリーが始まりますが、
ひとつ残念、というか悲しかったのは、無農薬栽培成功前に義父が痴呆症になったこと。
しかも成功後すぐに他界するのですが、義父は実父以上に秋則に協力的な親なので、
無農薬栽培の成功を家族と一緒に喜んでほしかったなと…。

その無農薬栽培で10年目には小さな実を付けたリンゴ。
翌年には数もそこそこ成ったようで、秋則自ら東京駅前で路上販売してましたが、
やっぱり無農薬リンゴなんて不安定なものは、農協では扱わないみたいですね。
ボクの最寄り駅の前でも、たまに果物を路上販売している人がいますが、
正規ルートで売れないモノは、当然それなりのワケがあるので、ボクは絶対買いません。
木村秋則さんの無農薬リンゴが怪しい品だとは思いませんが、
農薬代もかからず手間もかかってないリンゴが、普通のリンゴの何倍もの値段なんて…。

ちょっとネガティブな部分も多い感想になりましたが、
それは主に本作の基になった実話に対する部分で、
映画としての本作はかなりよくできていると思います。
たぶん木村秋則さんの著書やドキュメンタリー番組だったら、
ボクにとってはそれほど面白くはなかったはずですが、
中村監督の力で、ここまで興味深いヒューマンドラマになったのだと思います。
彼の次回作が楽しみです。

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映画 怪物くん
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