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はじまりのみち

先月末、自民・公明・維新の3党が「児童ポルノ禁止法改正案」を国会に提出しましたね。
(現在は規制されていない)児童ポルノの単純所持まで禁止しようという案で、
もし通れば冤罪が頻発しそうな懸念があるけど、単純所持禁止には賛成です。
しかし漫画やアニメまで規制の対象にするための調査研究については、
反対はしないものの、かなり慎重にしてほしいと思います。
有識者や関係団体曰く、漫画やアニメ映画の「表現の自由」の規制に繋がるとのこと。
それによって面白くなくなるのであれば、アニメ映画好きなボクとしても勘弁です。

改正案提出前から性的表現の自粛ムードはすでに広がっているように思います。
例えば公開中の『映画クレヨンしんちゃん バカうまっ!B級グルメサバイバル!!』でも、
温泉で5歳児しんのすけが全裸になるシーンでは、股間に葉っぱが描かれていました。
数年前ならモロ出しだったはずですが、そうやって隠すことで逆に卑猥に映ります。
それで話が面白くなくなったってことはないけど、不自然なのは否めないです。
児童ポルノ禁止法に抵触するかどうかは別としても、こんな自粛ムードが強まれば、
アニメからクリエーター離れ、ファン離れが起きる可能性はないとも言えないし、
日本が世界に誇るアニメ文化を衰退させかねない悪法にもなりかねないかな。

ただそう思う反面、児童ポルノにかなり厳しいアメリカのハリウッドで、
日本のアニメ映画を遥かに凌駕する傑作アニメ映画が作られているのも事実なので、
規制強化はそれほど懸念することでもない気もします。
むしろ日本のアニメがもっと世界に認められる、絶好の機会なのかも?

ということで、今日は『映画クレヨンしんちゃん』シリーズ出身のアニメ畑の監督が、
初めて撮った実写映画の感想です。
彼はアニメの規制強化を恐れて実写映画に転向したわけではないですが、
今後は実写に逃げる映像クリエーターも増えてくるかもしれませんね。

はじまりのみち
はじまりのみち

2013年6月1日公開。
原恵一監督の初実写映画となるヒューマンドラマ。

戦時中、監督作『陸軍』が戦意高揚映画でないと軍部からマークされてしまった木下恵介(加瀬亮)は、次回作の製作が中止となってしまう。そんな状況にうんざりした彼は松竹に辞表を出し、脳溢血で倒れた母たま(田中裕子)が治療を行っている浜松へと向かう。戦況はますます悪化し山間地へと疎開すると決めた恵介は、体の不自由な母をリヤカーに乗せ17時間に及ぶ山越えをする。(シネマトゥデイより)



日本のアニメ映画の中で、ボクが最も好きかもしれない作品が、
『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』です。
その監督である原恵一が初めて撮った実写映画が本作です。
彼は『映画クレヨンしんちゃん』シリーズで最も人気がある
『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』の監督でもあり、
その後に撮られた『河童のクゥと夏休み』や『カラフル』もかなりの傑作だったため、
ボクは彼のことを日本一のアニメ映画監督だと思っています。

そんな彼が実写映画を撮ると聞いた時は、正直ゾッとしました。
あんなにアニメ映画の才能があるのに、実写映画界に流出してしまうなんて勿体ないと。
しかも一流のアニメ映画監督だからといって、実写映画で成功するとは限りません。
その顕著な最悪の事例が昨年公開された『ジョン・カーター』でしょう。
その監督アンドリュー・スタントンは『ファインディング・ニモ』や『WALL・E』など、
傑作アニメ映画を生みだした超一流のアニメ映画監督ですが、
実写に初挑戦した『ジョン・カーター』は記録的な超駄作で、
映画史上最悪の興行赤字を叩き出したのはまだ記憶に新しいですね。
そんな折に日本一のアニメ監督が実写映画を撮るという話を聞けば、
途轍もない懸念を感じてしまうのは無理からぬことです。
原恵一監督のことは、五指に入る好きな日本人監督であることは間違いないので、
本作も期待はしていたものの、やはり不安の方が強かったです。

更にその内容が、太平洋戦争中に病気の母を疎開させるというもので、
なんともシリアスそうな反戦映画じゃないですか。
しかも実話を基にした物語で、主人公は木下惠介という実在した映画監督。
その木下惠介監督の生誕100年プロジェクトのひとつという位置付けの作品だけど、
そんな昔の監督、映画歴の浅いボクが知ってるはずもありません。
あの黒澤明と同期デビューで終生のライバルだった凄い映画監督らしいのですが、
黒澤映画はいくつか観たけど、木下映画は一本も観たことがなく、
木下惠介監督に対しては思い入れが微塵もなく、(てか、存在すら知らず、)
そんな人物の伝記映画を果たして楽しめるのかどうか…。
主演も地味さが売りの演技派俳優である加瀬亮だし、退屈な映画だったら嫌だなと…。

なんて考えながら、ちょっと重い足取りで映画館に行ったのですが、
いざ観てみると、なにこれ、超面白いじゃないですか!
感動作であろうことは予想していましたが、感動する以上に笑える作品で、
しかも戦時中だし難病人を抱える重たい設定なのに、全く悲壮感のない爽やかな物語。
それでいてちゃんと反戦のメッセージ性も含まれる、実によく出来た映画でした。
原恵一監督の前作であるアニメ映画『カラフル』を観た時に、
「この作品は実写の方が向いてるのでは?」と感じたのを思い出しました。
原恵一監督は実写でも全然行けちゃうタイプの人だったみたいですね。
むしろ細部まで計算し尽くして描かれるアニメ映画出身なのが功を奏し、
実写に移ってもかなり計算された出来のいい映画が撮れるのでしょうね。

太平洋戦争の最中、『花咲く港』で映画監督デビューした木下恵介こと木下正吉。
しかし時代は彼に自由に映画を撮ることを許さず、
陸軍情報局は彼に戦意高揚のための国策映画を撮らせます。
ところが出来あがった映画『陸軍』を観た陸軍情報局は、
「最後の息子の出征を見送る母親の姿が女々しい」と文句を付け、次回作の企画を中止。
「親子の情を描くことが何故いけない」と憤慨した正吉は、
映画監督を辞め、松竹の撮影所を飛び出し、浜松の実家に帰ってしまいます。
彼の実家は立派な食料品店でしたが、彼が帰って暫らくして浜松大空襲があり、
一家全員で山間地にある勝坂の知人のもとに疎開することになります。
しかし昨年の東京大空襲の折に、母親が脳溢血で倒れ寝たきりになっており、
その母親を山道を走るバスに乗せることに抵抗を感じた正吉は、
勝坂行きのトロッコが出ている気田まで、兄と一緒に母親をリアカーに乗せて運ぶ。

…というような物語ですが、こんな粗筋だけだと何だか重たい印象ですよね。
気田までの50~60キロの道のりも、きつい山道の斜面や雨に降られたりするものの、
そう大したアクシデントがあるわけでもなく、展開としては平坦な話です。
それなのにこれほど笑える楽しい話になているのは、道中辛い映像ばかりではないから。
加瀬亮演じる気難しい正吉と違って、ユースケ・サンタマリア演じる兄が
比較的明るい性格なのも楽しい雰囲気になるのに一役買っていますが、
何よりもこの疎開に同行することになった濱田岳演じる便利屋の存在が大きいです。
お調子者な便利屋の場違いなほどの明るさが、本作をとても爽やかな作品にしています。
木下恵介が母親をリアカーに乗せて疎開したのは事実のようですが、
この便利屋のことは名前もわからないことから記録には残ってないのでしょう。
なのでたぶん本作のオリジナルキャラでしょうが、
このキャラを入れたことで本作がかなり観易いものになっていると思います。
中盤までは雰囲気を明るくするためだけの役どころだろうと思っていた便利屋ですが、
正吉が映画監督に戻ろうと思うキッカケを作ったのも彼で、実は超重要な役でした。
単なる道化役と思っていただけに驚きましたし、感動してしまう上手い展開です。
「ちんぷりかく」とか意味がよくわからない方言が多用されているのも面白いです。

懸念していた、ボクが木下恵介を全く知らないという問題ですが、
それもあまり問題にはなりませんでした。
序盤では物語のキッカケとなった映画『陸軍』くらいは、
観てから本作に挑むべきだったかと後悔しましたが、
中盤でその『陸軍』の件のラストシーンが、驚くほどの長尺で挿入され、
未視聴者にもどんな映画なのか重要なポイントはわかるようになっています。
また本作の最後には、監督復帰した木下恵介のその後の変遷とでも言うべき、
監督作の映像集がこれまたタップリ流されます。
興味ない監督のフィルモグラフィーなんて、普通は退屈なだけですが、
本作では全く退屈しなかったのは、そこで流される後の監督作の内容の数々が、
本作の物語の内容にリンクしているからでしょう。
疎開する道中での出来事の数々が、後の作品に影響を与えたと思えるように演出され、
「あー、この作品はあの出来事が元ネタか」と楽しみながら変遷を楽しめます。
例えば、気田で見かけた小学校の先生は『二十四の瞳』に、
終盤で正吉が母に話した映画の構想は『わが恋せし乙女』や『カルメン故郷に帰る』に、
母を運んで山道を旅する経験そのものは『楢山節考』に繋がるんだなという具合に。

しかし本当にその疎開経験が、木下恵介の作品に多大な影響を与えたのかは不明です。
つまり本作は、彼の作品から逆算してこの疎開のエピソードを構成しているのです。
便利屋の性格も、木下恵介のコメディ映画のキャラのものを流用しているんですね。
そんなことができることに原恵一監督の木下恵介への理解の高さを感じ取れるし、
それを木下恵介を知らない観客にも自然に伝えることができていることに感心します。
ただ本作を観て、木下恵介本人、或いは木下映画に興味が湧いたかと言えば微妙かな。
本作は木下映画を凝縮したような作品だと感じたから、
本作を観ればそれで十分じゃないかと思っちゃったので…。

ちょっと褒めすぎちゃったので一個だけダメ出しを。
あのよく出来た母親が、息子の負担になる疎開方法に同意するとは思えません。
事実としてその方法で疎開が行われたので仕方ないのかもしれませんが、
正吉が母親に同意を求める一言だけは余計だったと思います。

実写映画としてかなり佳作だと思う本作だけど、原恵一監督のアニメ映画は傑作なので、
そんな傑作アニメ映画と比較してしまうと印象が弱い感は否めず、
彼には実写映画を撮れる才能があることがわかったものの、
やはりアニメ映画にも戻ってきてほしいと思う気持ちも…。
ただ本作のような人間ドラマは人間が演じてナンボだと思うので、
本作はたぶんアニメ化しても本作ほど面白くはないはず。
彼には題材によってアニメか実写か表現手段を使い分けることで、
完全にアニメから足を洗おうなんて思わないでほしいです。

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カラフル

コメント

観る気は全くなかったのですが、観る気満々になりました。
大感謝。

Re: タイトルなし

そんな、滅相もないです。
たぶん楽しんでいただけるとは思いますが、
もし合わない作品だったら申し訳ないです。

  • 2013/06/10(月) 20:05:33 |
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