ブログデンティティー

blog-dentity since 2013

リンカーン

18日に第66回カンヌ国際映画祭コンペ部門のラインナップが発表になりました。
日本映画からも(19作品中)2作品が選ばれ、大変嬉しく思っているのですが、
そのことはまた後日書きたいと思います。

カンヌのコンペ部門ラインナップが発表されてしまうと、
アカデミー賞の余韻も一気に吹き飛んでしまいますね。
アカデミー賞で盛り上がるのはノミネート作発表から授賞式までの約2ヶ月なので、
(公開済み以外の)ノミネート作品はその間に上映するのが注目度が一番高いです。
例外的に作品賞のオスカーはいつ公開されても注目され続けると思いますが、
受賞を逃した作品なんて、興味は右肩下がりになる一方なので、
最悪でも授賞式から1カ月以内に公開した方がいいと思います。

その点ではカンヌのラインナップ発表の翌日に公開日を迎えた『リンカーン』は、
完全に遅きに逸した感は否めません。
それでも初登場3位になったのは大したものだと思いますが、
作品賞最有力だっただけに、もし受賞式直前に公開されていれば、
初登場1位で、興行成績も数倍になっていたような気がします。

ということで、今日は今更感すら覚える『リンカーン』の感想です。
ちなみに今回のカンヌの審査委員長は、本作の監督スピルバーグです。

リンカーン
Lincoln.jpg

2013年4月19日日本公開。
スティーヴン・スピルバーグ監督によるエイブラハム・リンカーンの伝記ドラマ。

エイブラハム・リンカーン(ダニエル・デイ=ルイス)が、大統領に再選された1865年。アメリカを内戦状態に追い込んだ南北戦争は4年目に突入したが、彼は奴隷制度を永遠に葬り去る合衆国憲法修正第13条を下院議会で批准させるまでは戦いを終わらせないという強い決意があった。そのためにも、国務長官ウィリアム・スワード(デヴィッド・ストラザーン)らと共に憲法修正に必要な票を獲得するための議会工作に乗り出す。そんな中、学生だった長男ロバート(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)が北軍へと入隊し……。(シネマトゥデイより)



第85回アカデミー賞、作品賞の最有力されていた本作ですが、
結果はご存じのように『アルゴ』が作品賞オスカーに輝きました。
本作は作品賞ほか最多12部門にノミネートされていたにも関わらず、
主演男優賞とどうでもいい美術賞のみのオスカー受賞に留まりました。
ボクは作品賞の候補の中でも、本作と『愛、アムール』だけはどうも期待できず、
あまり受賞しないでほしいと心底願っていたので、
たったの二冠という結果にはそれなりに満足しています。
主要部門である主演男優賞も逃してくれたら、言うことなしだったのですが…。
そこまで嫌いな作品だから、ぶっちゃけ観に行きたくもなかったのですが、
「作品賞候補は全て観る」のは映画ファンとしての義務と考えているので、
嫌々ながらちゃんと観に行きました。
いざ観てみると、『愛、アムール』を観た時ほどの苦痛は感じなかったですが、
やっぱり嫌いだと思える作品で、作品賞を逃したのもいい気味だと思います。

『愛、アムール』は完全に駄作でしたが、本作は別に駄作というほどでもなく、
観る人が観ればオスカーを受賞してもおかしくない佳作かもしれません。
ただボクは、とにかく第16代米国大統領リンカーンが嫌いなんですよ。
「最も愛された大統領」とか称されてるけど、ボクにとっては最も嫌いな大統領かも。
何か実害を受けたわけでもないけど、とにかく彼の評価が高すぎるのが気に入らない。
「奴隷解放の父」とか称され、平等主義者のように祀り上げられてるけどとんでもなく、
有名な話ですが、彼はネイティブ・アメリカンに対しては容赦ない迫害を主導しており、
人権擁護者の皮を被った、まぎれもないレイシストです。
ネイティブ・アメリカンは日本人と同じ黄色人種ですからね。
解放された黒人や、彼と同じ白人が彼を祀り上げるのはわかるが、
我々黄色人種がこんなレイシストを賛美するのは愚の骨頂です。
リンカーンが大統領の頃は、日本はまだ幕末でしたが、
当時の欧米諸国の態度を鑑みれば、彼も日本人をどう思っていたも想像に難くないです。

リンカーンが黄色人種を終生差別し続けていたとしても、
黒人奴隷を解放したことは、一定の評価をするべきかもしれませんが、
そんなことは彼がやらなくても、いずれ誰かがやったことです。
それどころか、彼の奴隷解放の仕方が拙かったから、
アメリカで未だに黒人差別が根強く残っているんだと思います。
言ってしまえば彼はただ黒人奴隷を解放しただけです。
公民権を与えたわけでもないし、差別を解消したわけでもない。
まぁ南北戦争終了後、すぐに暗殺されたわけだから、
アフターケアはやりたくても出来なかったのかもしれないけど、
解放後のことを考えて事前にもっと準備することはできたわけで、
奴隷解放という成果を急ぐあまり、ベストなタイミングではなかった気がします。

特に本作では、リンカーンが黒人奴隷解放を急いだ理由がかなり酷いです。
本作は伝記映画ですが、リンカーンの最期の数カ月に絞って描かれており、
南北戦争の4年目から話が始まるので、奴隷解放宣言に至った経緯などは描かれず、
彼がなぜ黒人奴隷の解放を目指したのか、その根本的な動機は説明されません。
彼は奴隷に興味があるわけではなく、南部と戦うための政局の具として、
奴隷解放を謳っただけというのがボクの見解です。
まぁそんな動機は置いといて、本作における奴隷解放を急いだ理由は、
息子が北軍に入隊したがってるから、入隊する前に奴隷解放して戦争を終結させ、
息子が戦争で死なないようにしようという、完全に個人的なものです。
自分の起こした戦争で、何十万という若い国民を戦死させたくせに、
自分の息子だけは戦死しないようにするなんて、最高司令官の風上にも置けません。
国のために命を掛けて戦おうという彼の息子の方が何倍も立派な男です。
あ、立派な息子は長男のロバートだけです。
四男のタッドの方は、ホワイトハウスの廊下をロバの馬車で駆け回るバカ息子で、
奴隷のガラス写真をコレクションする悪趣味なクソガキです。

奴隷解放宣言はしたものの、ちゃんと法律にしないと何の拘束力もありません。
リンカーンは奴隷解放のために、憲法第13条の修正法案を議会に提出します。
野党の民主党は反対しますが、彼らは野党だから反対しているわけではありません。
もちろん黒人が嫌いな民主党議員もいますが、民主党議員の多くは、
「南部連合の黒人奴隷制は反対だが、今解放するのは準備不足だ」という判断です。
それは「黒人が自由になれば、白人の生活が脅かされるから」という考えですが、
この考え方は間違ってないし、ボクも共感します。
奴隷が解放され、いずれ公民権が付与されることになるという意味では、
奴隷解放は日本で言うところの外国人参政権の問題に近いですよね。
外国人労働者の受け入れ問題の側面もあるかな。
ボクは日本人として、どちらにも反対なので、民主党の懸念は理解できます。

憲法第13条は上院は通過したものの、下院では憲法修正に必要な2/3の賛成には
共和党の議席だけでは20議席ほど足りず、このままでは否決になります。
そこで彼は、ロビイストを使い、野党の民衆党議員を20人ほど懐柔しようと考えます。
どのように懐柔するかと言えば、次の選挙で落選するであろう民主党議員に、
落選後の就職先として、税務局や郵便局などの役職を用意するのです。
お金は使わないので買収ではないと強調されますが、
今で言うところの天下りの斡旋で、なんとも汚い票稼ぎですよね。
憲法をそんな穢れた票で修正しようなんて、法治国家としてどうなんですかね?

共和党も一枚岩ではありません。
法案への反対や離脱を匂わせる急進派がいます。
急進派も奴隷解放に反対しているわけではありません。
むしろ「リンカーンの法案では生ぬるい」と考えている共和党議員たちで、
法律なんて関係なく、戦争で南部連合を徹底的にぶっ潰して解放しようと考えています。
ただ奴隷解放するだけで、その後の黒人差別なんて知ったことではないリンカーンと違い、
急進派は公民権も含めた完全な平等を目指しているようです。
例えば彼らのリーダーであるスティーブンスが大統領で、
彼が黒人奴隷の解放をしていれば、現在の黒人差別はもっと少なかったかも。
黒人大統領の誕生も、何十年も早かったかもしれません。
まぁスティーブンスが過激な黒人解放論者なのは、彼が黒人家政婦とデキていたからで、
彼とて道徳心から黒人の解放を望んでいたわけではないみたいですが…。

奴隷を使用していた南部の白人にとっては、憲法修正第13条は大問題ですが、
北部の白人にとっても、黒人の解放に何かメリットがあるわけでもなく、
実際はそれほど人種問題に関心があるわけでもないように思います。
ただ彼らが懸念するのは、南北戦争の長期化で、国民の戦死者が増えることです。
戦争さえ集結すれば、他はどうでもいいというのが本音でしょう。
ある時、南部連合から和平のために使節団がやって来ることになりますが、
和平してしまえば懸念が無くなり、修正案は通らなくなるので、
リンカーンは使節団のことを隠してしまうのです。
結果的に修正案は成立したのでよかったけど、もし成立しなければ、
ただ和平の時期を先延ばしにしただけで、その間も多くの戦死者が出たはず。
それに成立したからといって、南部連合が簡単に批准するはずもなく、
南部連合の軍司令官リー将軍が降伏するまで戦争は続きます。
結局、南北戦争はアメリカ史上最悪の戦死者を出した戦争になりますが、
それを起こした大統領が、偉人として語り継がれているのって、やっぱり変ですよね。
戦死者4000人のイラク戦争を開戦したブッシュはあれだけ叩かれるのに…。

天下り斡旋の汚い工作により、民主党から造反者を出させたリンカーンですが、
それでも法案成立させることができるかどうかギリギリの票読みで、決議の日を迎えます。
法案に賛成するはずの民主党議員が土壇場で反対したり棄権したりと、
成立が難しそうな展開になりますが、そこは有名な史実ですからね。
成立するのは公然の事実で、どんなに際どい演出がされても全くドキドキしません。
結果、棄権8・反対56・賛成119で、2票差の僅差ですがやっぱり成立します。
最後に普段は投票しないはずの議長が賛成票を投じるなんて展開もありますが、
その票が無くても1票差で成立していたので、全く意味のないシーンでしたね。
まぁ議長の票で決まるようなことがあれば、キャスティングボードで決まったみたいで、
なんか釈然としないものがあったでしょうが…。

リンカーンが偉人であることを前提に、彼がやることすべてを好意的に捉えれば、
本作は偉人による偉業を称えた感動的な名作になると思います。
しかし彼を全く評価していない、或いは興味がない人にとっては、
全く感動も共感もできない凡作で、面白くも何ともないはずです。
特にボクみたいに主義思想が反目する場合は不愉快さしか感じないでしょう。
この感覚は『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』の時にも感じましたが、
本作はその作品よりも盲目的に賛美しているので尚更受け入れ難いです。

最後にリンカーンを演じオスカーを受賞したダニエル・デイ=ルイスについてですが、
やっぱり嫌いな人物を演じていることもあってか、好印象は受けませんでした。
実在の人物を演じているとはいえ、150年前の人物なので似てるかもわからないし、
なんか笑えないジョークばかり言って威厳の欠片も感じないし、
ねちっこい喋り方で癪に障るし、これなら主演男優賞で彼のライバルだった、
『世界にひとつのプレイブック』のブラッドリー・クーパーの方が何倍もよかったです。
これで3度目のオスカー受賞だなんて、もう棄権して他に譲れよ。

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://blrpn.blog.fc2.com/tb.php/1011-24fd38c3
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad